【ねこまたぎ通信】

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消えたフセイン氏 死亡、亡命、潜伏…謎深く

 今月9日にバグダッドがほぼ無抵抗のまま陥落したが、最大の謎はフセインイラク大統領の生死だ。18日にはアラブの衛星テレビが陥落当日に撮影したという「当人」のビデオを流した。米当局と亡命を裏取引したとの情報もある。「権力を手放した以上、生死は二の次」と米国は言うが、終戦の区切りもあいまいだ。

アブダビテレビ 18日に姿伝える

 アラブ首長国連邦(UAE)の衛星放送アブダビテレビは十八日、バグダッド市のアダミヤ地区を群衆と歩くフセイン大統領の姿を放映した。二男クサイ氏の姿もあった。四月に入り、同大統領とみられる人物の映像が放送されたのは四日に続き二回目。

 米ワシントン・ポスト紙は、十八日の映像について「撮影は九日にイラク国営テレビが行い、サハフ情報相の保証付きでビデオを渡された」とアブダビテレビスタッフの話を紹介した。それが事実なら、現場からわずか十六キロ南東のバグダッド市中

心部で自身の銅像が倒されていたときに、フセイン大統領は街を練り歩いていたことになる。

 「大統領登場」の意図は同大統領らイラクの高級幹部が集まっていたとされる同市マンスール地区の民家三戸が七日、地下十八メートルまで破壊する「バンカーバスター」爆弾による攻撃を受け、その後流された死亡説を否定するためと思われる。

■NYタイムズも住民の目撃証言

 しかし、十六日付の米ニューヨーク・タイムズ紙は、アダミヤ地区の寺院を礼拝に訪れた同大統領を住民たちが目撃したという証言を掲載した。

 同地区が十日未明に米海兵隊の急襲を受けたことなどからも、フセイン大統領は生きていたという説に傾いている。

 四日放映の映像については、米国の映像解析専門家が背景から「三月上旬の撮影」と断定。音声に農民が米軍ヘリを落としたくだりを入れているのも「事前に録音された複数のパターンの一つ」とみる。

 加えて、ロシア亡命説やロシア大使館が同大統領をかくまったとの説も流れたが、ロシア政府は「事実無根」と即座に否定した。

 一方、十五日付の仏ルモンド紙は、バグダッドの無血陥落について「共和国防衛隊のマーヘル・サフヤン司令官が自らの亡命と引き換えに降伏することで米軍と合意していた。防衛隊員は武器を捨て家に帰るよう指令を受け、同司令官バグダッド東のアルラシド基地から米軍ヘリで飛び立った」と取引説を報じた。現地の特派員電だが、情報源は匿名で、司令官の行き先は不明としている。

 これと似た報道では、ウサマ・ビンラディン氏の声明などを掲載してきたネットニュース「イスラムオンライン」が十六日、パリ駐在のイラク外交官の話として、フセイン大統領は米当局者と八時間に及ぶ秘密交渉の上、海外への亡命の保証を受ける代わりにバグダッドを明け渡した、と伝えた。

■「首都明け渡し開戦前決める」 

 外交官は「戦争が始まればバグダッドは早晩落ちる。首都明け渡しは開戦前からの既定方針だった。大統領は共和国防衛隊を信頼しておらず、徹底した抵抗は命令に従わない愛国者によって担われた」と話したという。

■米政府内の暗闘 取引説に真実味

 取引説をもっともらしくしているのが米政府内の暗闘だ。首都陥落前、南部から展開した米軍は補給線が延びきり苦境に陥った。この戦術を採用したのはラムズフェルド国防長官ら米政権内の新保守主義ネオコン)派。逆に保守中道派で元来「制服組」のパウエル国務長官は一気に巻き返しを図った。

 結果はその後、あえないバグダッド陥落となるが、「中道派を制するためにネオコンフセインとボス交渉を図ったのでは」との憶測がアラブ知識人の間ではまことしやかに流れた。

 識者はどうみるか。

 大野元裕中東調査会客員研究員は、十八日の映像について(1)戦争開始前に撮影された(2)四日に放映した映像と同時に収録された(3)九日に撮影された−と、三パターンを挙げる。

■テレビ映像に姿 影武者の可能性

 「戦前撮影の場合はフセイン大統領の生死に関係ない。四日か九日の映像が本人の場合、普段より警護が薄く、慌ただしく撮影したという印象を受ける。四日映像の場所はバグダッドマンスール地区で、九日は同市アダミヤ地区。両地区は数百メートルしか離れていない。両映像を比較すると、警護の人間は変わっているが、大統領個人秘書は両方に映っている」と類似性を指摘し、両映像が同時に撮影された可能性も示唆する。

 軍事評論家の松井茂氏は「私は少なくとも二人の影武者を知っている。本物の場合、握手する時には相手の手を消毒させるほどチェックは厳しい。大衆に接するのは偽者がほとんどだ」として映像は偽物とみる。

バース党幹部 別々に隠れる

 フセイン大統領の生死はどうか。

 大野氏は「反体制派の中では死亡説が主流。逃走している場合、バグダッドや出生地のティクリットにいないことは確か。国内の山中か国外に潜んでいるかだろう」と分析。松井氏は「計画的に地下潜行したと考えるのが妥当だ。フセイン氏らバース党幹部はバクーマなど北部の各都市に分かれて潜んでいる可能性が高い。監視衛星で見つかる国外逃亡はない」と言い切る。

 さらに松井氏は「米国主導の戦後処理では反米運動が激しく起こり、国内がまとまらないと踏んで地下に潜った。バース党要人らは地下活動経験者で、今も組織の八割は地下組織だ。アラブ人は性格的に玉砕しようとはしない。逃げることを恥とせず、最後に勝てばいいと考える。フセイン政権が復活すると考えているアラブ人は多い」という。

■米情報機関も 確証得られず

 取引説について、松井氏は「ラムズフェルド国防長官はフセイン氏と握手した最初の米高官だ。その関係からみてあり得ない話ではない。米軍が早々に撤退を始めたことも取引説をにおわせる」「大統領宮殿に米ドル新札七百八十七億円分を残していた事実も、同説を裏付ける。大金を残すのは不自然。金が米側に渡るように仕組んだのだろう」とみる。

 米情報機関もフセイン大統領の生死については確証を得ていない。英ガーディアン紙によると、英情報機関はフセイン大統領が「バグダッドに戦前から準備された複数の隠れ家に潜伏中」との見方をとっているという。クルド反政府派「クルド愛国同盟(PUK)」のタラバニ議長も、アルアラビーヤテレビに「バグダッド潜伏説」を語った。

 アフガン戦争から一年半以上が経過するが、米国はいまも戦争の動機となったビンラディン氏の身柄を確保するどころか、生死すら明らかにできない。同氏はそれにより「神格化」し、反米イスラム急進派の心の支えとなっているが、フセイン大統領が「第二のビンラディン」に化ける可能性も否定できない。