【ねこまたぎ通信】

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邦人外交官殺害 反米勢力の情報網は?街角に耳と目 密告ネット

 イラクでの日本人外交官殺害事件は、テロとの見方が強まっている。前後して、韓国民間人やスペイン情報機関員も相次ぎ犠牲となった。共通するのは、警備が薄い状況下で狙い撃ちにされていることだ。行動が読みとられていたともみられる。フセイン時代のイラクでは「密告ネット」が機能していた。今、反米勢力の情報網とは−。
 「彼は(身近に)テロの危険性があるということは日本の誰よりも知っていたと思います」。かつて外務省で、殺害された奥克彦参事官の上司だった森本敏拓殖大学教授は話す。

 「メールもよく来ていたし、一時帰国のときには訪ねてくれたが、彼はテロの危険性があると常に言っていた。ただ『断固戦う』という性格で、四輪駆動車も自分で運転していた。彼がどこにいつ行くかなどの日程は、彼と(一緒に殺害された書記官の)井ノ上君しか分からないはずだ。情報が漏れていたということは考えられないのだが…」

 しかし、前後してスペイン情報機関員、韓国民間人が同じような状況で殺害されており、反米勢力が、米国に協力する国の関係者の動きを把握している可能性はぬぐい切れない。

 元駐イラク日本大使館員で中東調査会客員研究員の大野元裕氏は「国連バグダッド事務所の爆破は、警備のイラク兵士に内通者がいたとか、内通者の存在をうかがわす話は確かに出ている。外国部隊にかかわるイラク人が必ずしも、その部隊を快く思っているわけではない。しかし一つ一つの事例があるからといって、それらが全部組織化されていると考えるのは時期尚早ではないか」と話す。

■“人民の海” 旧政権報復恐れ脅威増す

 「イラク国内には約四十の抵抗組織があると言われている。有名なのは、サダムの復帰を願うアウダ、シーア派ムハンマド軍などです。ほとんどの組織は国際的広がりがあるわけではない。一部現地紙にはアウダが二十万人規模の演習をしたという記事も出たが、あり得ない。いろんなうわさが肥大化する傾向がある」

 一方で大野氏は「(襲撃行為に)より組織性、計画性が出てきているのは事実だ」とも話す。奥参事官らの殺害と前後し、バグダッド北部でコロンビア人も襲撃を受けている。「コロンビア人が襲撃されたバラドは小さな町で、他の人が入ったら分かる。(襲撃グループを)見て見ぬふりをするという、消極的な協力はあっただろう」

 米紙ニューヨーク・タイムズによると、米国の情報機関筋は旧政権勢力の情報網について「ハイテクの駆使ではなく、街角に立つイラク民衆の情報が基になっている」と“人民の海”の脅威を指摘している。

 バグダッドのアルラシード・ホテルに十月二十六日、滞在中のウルフォウィッツ米国防副長官を狙い、複数のロケット弾が撃ち込まれた事件についても同筋は「ホテルは完全に透視されていた」と明かしている。

 “人民の海”はどのように生まれたのか。複数のアラブ紙は、数十年に及ぶフセイン政権の恐怖政治下で権力の動向に鋭敏なイラク民衆が「風向きの違いを感じ取った」と解説する。五月一日のイラク戦争終結宣言直後は「勝ち組」の米軍に傾いていた民衆だが、統治の先行きの不透明さやフセイン旧政権派による報復を恐れ、米軍離れの悪循環を起こしているという。

■死者は9700人にも 遺族ら協力者に

 民間団体「イラク・ボディー・カウント」の推計によると、今年に入ってから先月二十六日までのイラク人犠牲者数は、不衛生な環境での病死なども含め七千九百人から九千七百人。連合国側の犠牲者が増えているとはいえ、けたが違う。こうした犠牲者の遺族らが協力者の第一候補という。

 さらに反米感情の増幅が追い打ちをかける。十一月三十日のバグダッド北方サマラでの戦闘では民間人を含む四十六人のイラク人が死亡した。米軍による非協力者の家屋の破壊や、イラク人女性への男性米兵による身体検査まで、反米感情をかき立てる日常的な事例は事欠かないという。

 大野氏も「テロが継続しているのはスンニ・トライアングルと呼ばれる地帯と大都市です。旧政権と仲のいい部族や特権階級が住んでいる。米軍の標的になり政権崩壊後は職も失った。潜在的な反米意識が強い、これらの地域ではデモに発展する。それを米軍は力で封じ込めた。個別の不満が組織化され横のつながりも出始めている構図だろう」。

イラク人犠牲 嫌米“合言葉”に

 加えて「テロリスト」のみならず、親米的なエジプトの政府紙ですら「ブッシュ(米大統領)が中東政策に失敗したとすれば、われわれも失敗した。米国が信頼に足る国ではないのに信頼したからだ」(アルアクバル紙)と論評。こうした論調が、イラク民衆と連合国側との溝を一段と深くしている。

 ある中東研究者は「連合国はいつかは撤退する。可能性は低いが、旧政権復活は完全には否定できない」。

 日本人外交官が殺害された同日の、スペイン情報機関員殺害事件について、カタールの衛星放送「アルジャジーラ」は「群衆は現場の周りで踊り、遺体を足げにしてフセイン元大統領をたたえた」と報じている。

 これに対し、米軍側も民衆に「自らの命運をしっかりと握り、テロを未然に防止するためにも情報提供をしてほしい」(ニューヨーク・タイムズ紙)と呼びかけているが、フセイン元大統領の「イラク人の連合国側協力者は隊商に付きまとう(アラブ人が最も嫌う)犬である」(十一月十六日、アラブ首長国連邦の衛星放送「アルアラビーヤ」)というせりふがより重い響きを伴って伝わっている。

 こうした情勢下で日本人外交官も殺害された。前出の研究者は「八月以来、外交官ら外国人文民への襲撃があった。にもかかわらず護衛もなく、ナンバープレートを外し、一目で連合国側と分かる車両で最も危険なティクリットに出入りしたことは理解に苦しむ。強気な米軍情報に振り回されたのか。これまで無傷だったのが奇跡」といぶかる。

 アラブ各紙はこの日も「テロ」という言葉ではなく「スペイン、日本、韓国の連合国側に対する波状の抵抗」(レバノン紙「アッサフィール」)と報じた。アルジャジーラ小泉首相の「われわれは断固、責任を遂行するだろう」という言葉を伝えたが、少なくとも「歓迎」の論調はアラブ圏では見当たらない。

 今週中にも自衛隊派遣の基本計画を閣議決定するというタイミングまで計り、日本人外交官殺害を企てたかどうかは不明だが、前出の大野氏は断言する。

 「すぐ揺れ動く日本人を標的とすることで、米国が痛いという計算がある。あくまで主語は米国です」