【ねこまたぎ通信】

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アルジャジーラバグダッド支局、パレスチナホテル、相次ぐジャーナリストへの誤爆?

ジャーナリストも被害 政権内に異変?

 イラクの首都バグダッド制圧を目指す米英軍は7日午後(日本時間同日夜)、フセイン大統領らが潜伏中との情報があった同市内の施設に地中貫通型爆弾によるとみられる空爆を行った。大統領の生死は不明。また、米軍は8日、首都中心部にある共和国宮殿の占拠を続ける一方、チグリス川を渡って初めて市東側に進攻した。イラク側と激しい戦闘が続く中、カタールの衛星テレビ「アルジャジーラ」のバグダッド支局が米軍ミサイルに被弾、同テレビの記者1人が死亡したほか、多くの記者が滞在する「パレスチナホテル」に米軍戦車の砲弾が撃ち込まれ、ロイター通信などの記者5人が死傷した。イラク国営テレビとラジオは同日、放送を停止し、政権内に異変が生じたとの見方も出ている。
 【ワシントン佐藤千矢子】米英軍は7日、バグダッド市内にある施設で、フセイン大統領と長男ウダイ氏、二男クサイ氏らが出席した重要会議が開かれるとの有力情報を入手し、同日午後2時(日本時間同7時)ごろ、この施設への空爆を行った。地中貫通型爆弾が使われたとみられる。
 米メディアによると、B1爆撃機が2000ポンド(908キログラム)級の地中貫通型爆弾4発を投下した。米MSNBCテレビは米当局者の話として、フセイン大統領と2人の息子が死亡した可能性があると報じたが、根拠は示されていない。
 一方、マイヤーズ米統合参謀本部議長は7日、イラクの共和国防衛隊が保有していた戦車約800両は現在25両ほどに減ったとして、同防衛隊の戦力低下を指摘。ラムズフェルド国防長官は「(フセイン大統領は)もはやイラクのほとんどを支配していない」と述べ、政権崩壊が迫っていることを強調した。
 また、複数の報道によると、8日に米軍機がバグダッド中心部に空爆を加えた後、米軍の戦車がジュムフリヤ橋を渡ってチグリス川の東岸地域に初めて進入した。同橋の北側にあるシナク橋の西側にも米軍が進出し、対岸のイラク軍を攻撃しているとの報道もある。首都の東西地域を結ぶ橋を米軍が確保したことで、首都攻略作戦が急進展することも予想される。
 一方、AFP通信によると、アルジャジーラの支局にミサイルが命中した問題で、米軍スポークスマンは8日、意図的な攻撃だったとする同テレビ局側の主張を否定、「軍事施設を狙っただけだ」と述べた。
 また、米陸軍第3歩兵師団の司令官は同日、パレスチナホテルに米軍戦車が砲弾1発を撃ち込んだことを認めた。この砲撃でロイター通信のカメラマン1人が死亡したほか、同通信の記者など4人が負傷した。米軍はホテルの方からライフル銃などで攻撃を受けたため応戦したと主張しているが、同ホテルが記者団の滞在先であることは広く知られており、米軍の対応に批判が出ることは避けられない。
 ロイター通信によると、イラク国営テレビは8日、フセイン大統領をたたえる映像や愛国歌を流した後、放送を停止した。国営ラジオも放送を中止している。

◇バスラでは略奪も

 【アンマン小倉孝保】国営イラン通信によると、バグダッド市西部や南部で7日、フセイン政権に反発を抱く市民とイラク政権政党バース党員との間で激しい銃撃戦が起き、市民側に60人以上の死者が出た。バグダッドに残る同通信記者が伝えた。
 英BBC放送によると、南部ナシリヤ中心部では同日、フセイン大統領に忠誠を誓う武装組織メンバーと反フセイン勢力が銃撃戦を繰り広げた。また、イラクからの報道によると、南部バスラでも同日、バース党事務所やホテル、病院などに若者らが侵入し家具などを略奪した。

◇「大統領潜伏先」情報で攻撃決定

 「フセイン大統領ら政権幹部がバグダッド市内で会議をしている」という情報が米中央情報局(CIA)に入ったのは7日午前だった。情報源は不明だが、現地での密告、盗聴など3種類あったとされ、真偽が慎重に検討された結果、情報はカタールの米中東軍司令部に伝えられた。
 ワシントン・ポスト紙によると、ちょうどその時、B1爆撃機バグダッドに向け飛んでいた。司令部から爆撃機に爆撃命令が下された。4発がバグダッド西部のマンスール地区の住宅街に落とされたのは、CIAから中東軍に情報が渡ってからわずか45分後だったという。

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 米ワシントン・タイムズ紙によると、フセイン大統領らはレストランの地下、またはその近くで会合を持っていたという。米FOXテレビは米政府当局者の話として、フセイン大統領は長男ウダイ氏や次男クサイ氏、30人前後の情報当局者、バース党幹部らとともに「バグダッド脱出の方法を議論していた」と報じた。建物の地下には逃走用のトンネルがあったとの報道もある。
 米中東軍によると、B1爆撃機が投下したのは「JDAM」と呼ばれる精密誘導弾。JDAMにはいくつかの種類があるが、今回の攻撃には重さ約2000ポンド(約900キロ)のバンカーバスターと呼ばれる地中貫通型爆弾だった。貫通力が高く、地下施設を破壊できるタイプの爆弾だ。
 マンスール地区はバグダッド中央部の西側にある住宅地。同テレビによると、この攻撃で少なくとも3棟のビルが破壊され、中心部には深さ約18メートルの巨大な穴ができた。窓ガラスや壁の破片が約300メートルの範囲に飛び散り、がれきの山が残された。米CNNテレビによると、9人の死亡が確認された。
 標的となったビルは完全に破壊され、空爆後にイラク指導部とみられる人間の生存者は確認されていない。フセイン大統領死亡の可能性について、米FOXテレビは、米政府当局者が「大いに可能性がある」と語ったと報じた。その根拠は米当局が、確実にイラク指導部がビルに入ったのを確認、その後ビルを出た形跡が全くないためだという。
 だが、フセイン大統領が確実にビルに入った証拠はない。現場の捜索には数日を要する見通しだ。米中央軍のアプトン報道官は「非常に激しい打撃を与えたが、フセイン大統領の死は確認できない」と述べた。
 CIAの情報をもとに空爆するという形態は、イラク戦争が始まった3月20日(現地時間)と同じだ。「フセイン大統領がいる」との情報を受けたブッシュ大統領が「レッツゴー」と攻撃開始を告げ、JDAMが一斉投下された。米政府高官はこれを「首切り攻撃」と呼んだ。政権のトップを殺害すれば戦争は事実上、終わるからだ。激しい空爆と地上戦の陰で、特殊部隊員の情報などに基づき、これまで何回か直接、フセイン大統領の殺害を狙った「首切り攻撃」が水面下で行われ、失敗に終わったという。

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 アンマンの外交筋は「大統領の動向に関する米国の情報は信憑(しんぴょう)性が低く、大統領が死亡した可能性は低い」と分析する。米国は91年の湾岸戦争の際、バグダッド・アメリア地区のシェルターにフセイン大統領らが潜んでいるという情報を基に空爆。市民400人以上を殺害することになった。
 大統領は頑強な地下ごうに隠れている可能性が指摘されているほか、民家を転々としながら潜伏生活をしているとの情報もある。エジプトのシンクタンク「アハラム戦時戦略研究所」の軍事専門家、アハマド・イブラヒム研究員は「住民の中に親フセイン勢力があり、大統領が市街地に潜伏するのは簡単だ」と分析。大統領の生死について「大統領が死亡した場合、政権に相当の動揺があり隠し通さない。その兆候はない」と語る。
 一方、一部には、大統領がすでに北部モスルに移動したのではという情報があるが、この情報の信憑性も低い。モスルはバグダッドに比べ小さな町で、大統領が住民に隠れて潜伏するにはバグダッドが圧倒的に有利だ。また、大統領が危険を冒して北部への長距離移動することも考えにくい。
 「革命指導評議会(RCC)のメンバーや閣僚など政権幹部は政権崩壊後、戦犯から逃れられないと感じており、最後まで抵抗を続ける」(外交筋)可能性が強い。そのため、側近たちは大統領が死亡しても最後まで隠そうとするとみられる。
【ワシントン斗ケ沢秀俊、アンマン小倉孝保
毎日新聞4月8日]