【ねこまたぎ通信】

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SARS対策でASEAN首脳会議開催へ

共通防疫・予防態勢の確立などが議題

打撃受ける観光・航空部門対策も協議

22/04/2003

 「重症急性呼吸器症候群」(SARS)と呼ばれる新型肺炎東南アジア諸国連合ASEAN)域内を襲っている。人の移動が感染拡大につながるため、域内には中国や香港など「感染重症国・地域」との出入国を制限する措置を取る国も出ている。その結果、打撃を受けているのが観光部門や航空会社などで、タイではホテルへの予約キャンセルが相次いでいる。このためASEAN首脳たちが近く緊急会議を開き、窮状の打開策とSARSへの共通対応策などを話し合うことになった。
 【バンコクIPS(マーワン・マカン・マーカー記者)】東南アジア諸国連合ASEAN)は今月29日バンコクで、緊急首脳会議を開き、域内で拡大している急性肺炎(重要急性呼吸器症候群=SARS)問題に関し、防疫態勢や予防対策での協力および経済への影響阻止などで意見交換するとともに、各加盟国民に対し冷静な対応を呼び掛ける。

 今回の首脳会議はシンガポールのゴー・チョクトン首相がこのほど、タイのタクシン首相と電話会談した際に提案し、開催が決まった。タイのスダラット保健相は同会議では、SARSによる経済打撃への対応策が主要議題のひとつになると述べた。

 また、18日付のタイの英語紙ネーションは、ASEANの緊急首脳会議が開かれるのは1978年12月にベトナム軍がカンボジアに軍事侵攻した時以来、約25年ぶりとする記事を掲載、ASEAN首脳が今回のSARS問題を極めて深刻に受けとめている表れだと指摘した。

シンガポールベトナムが“重症”

 中国を“震源”とし、今年3月初めから猛威を振るい出したSARSで最も大きな打撃を受けているASEAN加盟国はシンガポールベトナムだ。4月17日現在の報告によると、シンガポールでは162人のSARS感染者が判明、85人は回復したが、13人が死亡した。ベトナムでの感染者数は63人で、46人が回復したが、5人が死亡した。

 他の加盟諸国―タイ、フィリピン、インドネシア、マレーシア、ブルネイラオスカンボジアビルマミャンマー)―への拡大は、今のところ比較的低く抑えられている。このうちタイで8人、マレーシア5人、フィリピン1人の感染者が報告されている。

 こうした被害とは別に、関係者たちが懸念しているのはSARSが域内経済の健康を徐々に弱めさせていることだ。中でも打撃が最も心配されているのが観光と金融両部門で、SARSの拡大により域内外の観光客の出足が既に止まり始めている。

 「短、中期的に見て、SARSに最も影響されるのは小売り業、飲食産業、ホテル業界それに運輸関係など消費部門だ。打撃はホテルの予約状況や航空便の削減などに現れている」と指摘するのはアジア開発銀行(ADB)の域内経済監視部門の責任者プラドゥムナ・ラナ氏。

▽入国者半減のシンガポール

 こうした懸念が既に現実化しており、SARS感染者が多数出ている香港とシンガポールから、外資系企業の駐在員や外国人たちが早くも「脱出」を開始している。報道によると、駐在員自身は残るとしても、その家族たちは本国に送り返しているという。

 SARSが伝染性のため、観光部門が経済の柱のひとつとなっているベトナムシンガポール、タイの3カ国は危機感を強めている。最近、ベトナムの首都ハノイで域内観光会議が開かれたが、観光客からの予約取り消しが約50%にも上っている現状が明らかになった。

 世界でも有数の人気を誇るシンガポール航空は、SARS問題が発生して以来、搭乗客の激減により、1週間当たりの就航便を199便も減らした。シンガポールへの観光客ら入国者数は今月に入り、昨年同期に比べて半減してしまった。また、タイのホテル業界関係者は客室の占有率が30―40%も低下したと頭を抱える。

 観光部門ASEAN経済を支える主要産業。世界銀行の統計によると、同部門は域内総生産の4―5%を占めている。タイへの観光客数は毎年、1000万人にも上っている。

▽成長率を軒並み下方修正

 国連の機関で、バンコクに本部を置くアジア太平洋経済社会委員会(ESCAP)はこのほど「アジア太平洋経済社会調査2003年版」を発表し、その中でSARSとイラク戦争の影響を考慮し、域内経済の予測成長率を下方修正させた。

 それによると、シンガポールの2003年の経済(国内総生産)成長率は当初、4.2%と予測されていたが、現在は3%に低下されている。マレーシアは同率が6.3%から4.5%に2ポイント近くも低くなっている。タイとベトナムの場合、それぞれ4.5%から4.2%、7.5%から7%へ、わずかとはいえ低くなっている。

 これに関しESCAP当局者は、「SARSの拡大とイラク戦争の影響を考え、成長率を下方修正した。今後の問題はSARSがどこまで拡大するかで、監視を強化する必要がある」と述べている。それでもアジア太平洋地域の経済成長は、世界の他の地域に比べれば、高水準となっている。

▽「97年金融危機とは異なる」

 ESCAPによると、2002年の域内経済成長率は平均で5.1%に達した。これは世界平均1.7%の3倍に相当し、米国の同率2.4%に比べれば、2倍以上となっている。域内経済を牽引しているのが中国で、昨年は7.9%という飛び抜けて高い経済成長率を達成した。今回のSARS問題ではその“震源”とされ、影響が懸念されているが、それを考慮しても同国の成長率は7.5%を維持するとESCAPは予測している。

 SARSによる経済打撃を「1997年アジア金融危機」のそれと比べてみようとする傾向もあるが、経済専門家は「問題が本質的に違う」としている。ラナ氏は「1997年金融危機は極めて深刻だった。域内の通貨が軒並み下落し、銀行の倒産を招き、ついには全面的な経済、社会危機となった」と指摘するとともに、1997年危機を引き合いに出してSARS問題を見るのは大げさだ、とくぎを刺している。

 さらにラナ氏は「SARSが経済危機をもたらすとしたら、それは感染の拡大が手におえなくなり、供給分野に影響が及んだ時だ。だが、そうした事態は起きないだろう」との見方を示している。

【メモ】重症急性呼吸器症候群(SARS、サーズ) インフルエンザに似た症状を示す感染症で、38度以上の発熱、せき、呼吸困難、肺炎などが起きる。潜伏期間は2−7日。感染後の発症率は10−20%。死亡率は約3%。今年2月に香港やベトナムで感染者が確認され、アジア、カナダ、欧州に拡大。“震源”は中国南部と見られている。中国・北京市が4月20日、感染者・死者数を大幅に訂正したため、死者数は200人を超えた。世界保健機関(WHO)が同16日、コロナウイルスの新種が原因と断定。現段階では対症療法しかなく、ワクチンは開発中。