【ねこまたぎ通信】

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 反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/1(その2止)

反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/1(その2止)

 ◆軍事関与強める米

 ◇アフリカの角、サヘル地帯−−「テロとの戦い」最前線

 【ヨハネスブルク白戸圭一】紛争が多発し、政府の統治能力が低いアフリカについては、テロリストの活動拠点となりやすい可能性が以前から指摘されてきた。アフリカでの米軍の活動は一般にあまり知られてこなかったが、米国はアフリカ各地で軍事、非軍事の両分野で「対テロ戦争」を進めており、特に米同時多発テロ以降は軍事的関与を急速に強めている。

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 ◇基地増強、共同演習も

 米国は国連ソマリア活動(92〜94年)に軍を派遣したが、武装勢力の抵抗を受けて撤退。これを機にクリントン政権(当時)は対アフリカ軍事戦略を見直し、直接介入を控え、アフリカ各国の軍を訓練する方針を打ち出した。この任務遂行のために96年に創設されたのが、欧州軍(司令部ドイツ)指揮下にある「アフリカ危機対応部隊(ACRF)」だった。

 部隊は「アフリカ危機対応イニシアチブ(ACRI)」と名を変え、97〜00年にセネガルウガンダ、マリ、ガーナなど7カ国で訓練を実施。これらの国の兵士計8000人に地雷探知機、暗視装置などを供与した。ただ、当時の訓練目的は「平和維持と人道支援のため」とされ、供与される機器も「殺傷を目的としないもの」だった。

 これを劇的に変化させたのは、ブッシュ政権発足8カ月後に発生した同時多発テロだ。米国は(1)訓練内容の大幅見直し(2)アフリカへの米軍基地の新設・機能増強(3)米軍特殊部隊が各国軍を指導する形でのテロ組織摘発(4)米軍との共同演習−−などを本格的に始めた。

 米国はまず、02年春にACRIを「アフリカ緊急作戦訓練支援(ACOTA)」と改編し、従来の「平和維持と人道支援のための訓練」に「攻撃訓練」を加えた。各国に機関銃などが供与され、ナイジェリアに設立された訓練センターで使用訓練が行われている。これとは別に「国際軍事教育訓練プログラム」という制度もあり、02年にはアフリカ44カ国の将校1500人が参加した。

 さらに米国は、アフリカのイスラム過激派テロ対策の重要拠点として(1)ケニア、ソマリア、エチオピア、ジブチなどからなる大陸東部の「アフリカの角」(2)サハラ砂漠周辺部の「サヘル地帯」の二つを想定。「アフリカの角」は紅海に臨む戦略的重要性に加え、無政府状態のソマリアがテロリストの隠れ家になっている可能性が懸念された。イスラム教の国々が連なる「サヘル地帯」は、イスラム過激派が国境を超えて連携、展開する危険性が指摘された。

 この双方の「前線」で米軍は活動を活発化させている。03年10月、ジブチの米軍基地に特殊部隊員ら約1800人が派遣され、04年1月にはエチオピアに前線作戦基地が新設された。表向きの任務は「エチオピア軍の訓練」だが、実際は「アフリカの角」に潜むテロリストの摘発が目的だ。

 サヘル地帯に対しては02年春、対テロリスト総合対策「パン・サヘル計画」がスタートした。マリ、ニジェール、チャド、モーリタニアの4カ国の軍事訓練に、04年度だけで計650万ドルが投入された。03年11月にはセネガルガンビア両軍と米軍との共同演習も実施されている。

 昨年3月にはこの4カ国にモロッコ、セネガルアルジェリアチュニジアを加えた8カ国の軍参謀総長がドイツの米欧州軍司令部に初めて招かれた。米軍は同月、アルジェリア軍などを指導し、アルカイダとの関係が指摘される同国の武装集団「布教と聖戦のためのサラフ主義集団」の掃討作戦を支援している。

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 ◇米は各国の腐敗懸念−−ウイットウオーターズランド大・ロッジ教授に聞く

 米国とアフリカの関係全般について南アフリカ・ウイットウオーターズランド大学のトム・ロッジ教授(アフリカ政治研究)に聞いた。【聞き手・白戸圭一】

 クリントン政権後半から米政府がアフリカへの関心を高めてきた経緯はあるが、全体的にみれば、米政府がアフリカに高い関心を払っているとは思わない。貿易、援助、多国間及び2国間のさまざまな関係において、ワシントンでの対アフリカ外交の優先順位は大統領選期間を除いて低い。

 そうした中、米国がアフリカに例外的に高い関心を寄せているのが安全保障問題だ。特にソマリアを含む「アフリカの角」と呼ばれる地域、スーダンなどへの関心が高い。これらの地域には、過激なイスラム主義テロリストの隠れ家があると考えられているからだ。

 現在、アフリカ大陸には、こうした過激なイスラム主義テロリストに重要な支援を与えている国はない。リビアはテロへの関心を失ったし、アルジェリアチュニジア、モロッコ、エジプトもそれぞれの国内事情からイスラム原理主義の台頭を望んではいない。スーダンはかつて、イスラム主義者のネットワークを支援してきたが、現在の支援は過去のものほどではない。

 米国がアフリカで最も懸念しているのは、こうしたテロを支援する国家の存在ではなく、アフリカの国々の政府の腐敗である。腐敗は政府の統治能力低下につながり、政情を不安定化させ、ここにテロリストがアフリカを活動の場として使う可能性が生じるからだ。

 例えば、米国からの資金援助に依存してきた国としてケニアがある。米国は近年、援助の条件として、ケニア政府に対して腐敗の取り締まりなど「良き統治」を求めるようになった。この米国の姿勢の背景には、ケニアが「アフリカの角」に位置するという安全保障の問題がかかわっている。

 そのことは、同じように腐敗が深刻なアンゴラに対する米国の姿勢をみれば分かる。アンゴラ政府の腐敗ぶりは恐ろしいものだが、米国はアンゴラ政府に腐敗への取り組みを求めたりしない。南部アフリカのアンゴラには、安全保障上の懸念が存在しない。

 そういう意味では、米国がアフリカの国々に求める「良き統治」は二重基準(ダブルスタンダード)といえるかもしれないが、二重基準は米国だけのものではない。もし国家が理想と目標を掲げ、それが戦略的な利害にかかわるものであれば、すべての国は二重基準と呼ばれるようなことをする。政治には必ず「偽善」がつきまとうものだ。

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 ◇米大使館爆破テロとイスラエル系ホテル爆破テロ

 98年8月7日午前10時半ごろ、ケニアの首都ナイロビ中心部の米大使館にトラックが突入して自爆。死者は大使館職員44人のほか、通行人など巻き添えになった人が169人の計213人、負傷者は4000人を超えた。10分後、タンザニアダルエスサラームの米大使館でも爆発があり、11人が死亡、85人が負傷。米政府は13日後、ウサマ・ビンラディン容疑者のテロ組織の犯行と断定。活動拠点とみなしたアフガニスタンスーダンをミサイル攻撃した。

 ケニア東部の都市モンバサのイスラエル資本所有の「パラダイス・ホテル」爆破テロは02年11月28日に発生。テロリスト3人が自爆し、イスラエル人観光客とケニア人従業員の計13人が死亡した。同日、モンバサ空港を離陸したイスラエル旅客機に向けて地対空ミサイルが発射されたが、撃墜されずに済んだ。アルカイダ系組織の犯行とみられている。【ヨハネスブルク白戸圭一】

毎日新聞 2005年5月16日 東京朝刊