反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/2
反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/2
◇「逮捕も手当たり次第」−−軍事行動に不信感
ジェルーシャさん(51)は明るく気立てのいいケニア女性だ。ナイロビ駅近くで小さな食堂を切り盛りする。夫マシューさんは98年8月7日朝、子供4人を残して52歳で亡くなった。乗っていた路線バスがナイロビ中心部の米大使館前に差し掛かった時、猛烈な爆風とコンクリート片がバスを直撃した。米大使館爆破テロ。世界に衝撃を与えた自爆テロを決行したのはアルカイダだった。
だが、ジェルーシャさんは言う。「夫は米国の犠牲者だと思います」。ジェルーシャさんの知人で、米大使館の現地職員だった兄をテロで亡くしたナイロビのホテル従業員、オクムさん(34)もまた「兄を殺したのは米国」と言い切る。
「対テロ戦争」の同盟国で、テロ被害者の遺族までがなぜ米国を嫌うのか。「大半のケニア人は、対テロ戦争に強い不信感を抱いています」。最大野党・ケニア・アフリカ民族同盟の国会議員で「影の内閣」財務相のケロー議員が言った。
ケニアでは「警察に逮捕された容疑者がFBI(米連邦捜査局)捜査官と名乗る人物の取り調べを受けた」との報告が後を絶たない。ソマリア国境近くでは、米軍とみられるボートやヘリの目撃談が相次ぐ。
「政府はどのような条約や法律に基づいて米国官憲のケニアでの捜査や軍事行動を認めているのか」。ケロー議員は国会で何度も政府に質問したが、政府答弁は「国内で米国の官憲は活動していないはず」の一点張り。テロに関連して何人のケニア人が逮捕されたのかといった情報も一切明らかにされない。
毎日新聞はケニア国家警察本部に取材を申し込んだが、拒否された。ケニアのムワクウェレ外相は会見に応じ、「米国とは情報共有などで緊密な関係を持つ。それ以上は答えられない」と述べ、対テロ戦争での米国との関係に関する一切の質問を拒否した。
兄を亡くしたオクムさんは「米国は『自由』とか『人権』とか言いながら、他国では法律を守らず、手当たり次第に人を逮捕し、攻撃する。そしてすべて秘密で通す。自分で憎しみを集めてテロリストを作っているとしか思えない」と言う。
5月10日、ケニアの検察は大使館爆破テロの共犯で起訴していたケニア人3人の起訴を突如取り下げた。理由の説明はない。それを見た人々は「拘置するだけ拘置してまた全部秘密か」と、米国のいう「自由」と「民主主義」に静かに不信を募らせるのだ。【ナイロビで白戸圭一】=つづく
毎日新聞 2005年5月17日 東京朝刊