【ねこまたぎ通信】

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 反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/1(その1)

反米・従米・親米・嫌米:第14部 ケニア・対テロ戦争の前線/1(その1)

 ◆市民の「巻き添え」も

 ケニアはこれまでに2度、国際テロ組織アルカイダが関与したとされる大規模な反米・反イスラエルテロの舞台となった。米大使館爆破(98年8月)、イスラエル系ホテル爆破と旅客機撃墜未遂(02年11月)。米国はケニアをアフリカにおける「対テロ戦争」の前線と位置づけ、ケニア政府との連携を強化している。東アフリカの観光立国で「対テロ戦争」を巡り何が起きているのか。【ケニア東部コースト州で白戸圭一】

 ◇テロリストに連座

 「何が何だか分からないうちに、私の家庭はめちゃめちゃになりました。今はアラーの神に祈るだけです」。インド洋に浮かぶケニア東部のパテ島。土壁の民家が建ち並ぶ静かな島で暮らす主婦ハムザさん(50歳代)は、力なくつぶやいた。

 02年11月28日、島の南西275キロのモンバサでイスラエル系リゾートホテルが爆破され、イスラエル旅客機撃墜未遂事件が起きた。ハムザさんは近所の人の話などを通じて事件を知ったが、3カ月後に自分に降りかかる事態については想像もできなかった。

 モンバサの教員養成学校で授業を受けていた長女スワハさんの元にFBI米連邦捜査局)捜査官がやって来たのは3カ月後の03年2月26日。捜査員は、スワハさんが妹の夫のアブドルカリム氏から無断拝借していた携帯電話を押収し言った。「君の携帯電話はプロのテロリストのものだ」

 スワハさんは電話の持ち主である「義弟アブドルカリム」の正体が、米大使館爆破テロで指名手配中のファズル・アブドゥラ・モハメッド容疑者(32)=コモロ国籍=と聞き、がく然とした。FBIは監視対象である電話がモンバサから発信されているのを傍受、スワハさんの元へやって来たのだった。同容疑者がホテル爆破テロにも関与したと断定していた。

 「携帯電話押収」の知らせを聞いた同容疑者はすぐさま逃亡。FBIの要請を受けたケニア警察は、ハムザさんの夫ムズィさん(60歳代)と長男モハメッドさん(38)がテロ攻撃を事前に知りながら同容疑者に活動拠点を提供したとして逮捕した。2人を含む住民ら計7人が起訴され、全員が無罪を主張している。

 同容疑者がハムザさんの二女と結婚したのはホテル爆破テロの5カ月前。モンバサ市内のイスラム神学校で同容疑者と知り合ったハムザさんの親類が、同容疑者のあつい信仰心に感銘して縁談をまとめた。同容疑者はハムザさん一家の信仰心に付け込んでモンバサに近いパテ島に住み込み、テロを準備した可能性が高い。ハムザさんは言った。「夫も息子も何も知らなかった。もう巻き添えにするのはやめて」

 ナイロビの大使館爆破テロの犠牲者213人のうち米国人は12人。モンバサのホテル爆破テロでは犠牲者13人のうち9人がイスラエル人宿泊客を歓迎するケニア人ダンサー。「巻き添え」のケニア人が犠牲者の圧倒的多数を占める中、加害者側では名もないケニア人が「共犯」として捕まり、主犯格とみられる外国人「アブドルカリム」の行方は杳(よう)として知れない。

 「米国とテロリストの戦争になぜ我々が巻き込まれなければならないのか」。ケニア人には多かれ少なかれ、そんな納得のいかない思いが渦巻いている。=つづく

毎日新聞 2005年5月16日 東京朝刊