【ねこまたぎ通信】

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スーダンの石油をめぐる西側諸国の思惑 人道的軍事介入論の裏にドイツの経済権益

 21年にわたる内戦で150万人もの死者と数百万人の難民を生み出したスーダン。あらたに西部のダルフールで激化している紛争の犠牲者に対する人道支援の名の下に、ドイツや英国では軍事介入の必要性が論議されている。しかし、ドイツのユンゲベルト紙のユルゲン・エルゼッセール記者は派兵の背後にドイツの経済権益を指摘し、介入のモラルを問うている。(掲載許諾済み=日刊ベリタ
 米英軍によるイラク戦争が始まって以降、米政府や米経済界の代表がアルジェリア赤道ギニアアンゴラなどを訪問したことで、アフリカ諸国の石油に注目が集まっている。今年7月には国連安保理で、米国とEUの共同提案により、もうひとつの産油国であるスーダンに対する制裁を可能にする決議が討議された。

 スーダン西部のダルフール地方では紛争による飢餓が深刻化し、死者数はAFP通信によると7月15日時点で1万人といわれている。EUは7月下旬に、死者数は5万人と発表、スイスのノイエ・チューリッヒャー・ツァイトゥング紙は10万人と伝えているが、確証を得た数字はつかめておらず、おびただしい数の難民と餓死者の姿が今も伝えられているだけだ。そうした中で、軍事介入も含めた経済制裁が行われようとしていることに対しては、モラルが問われている。

 西側諸国の中では、ドイツと英国は軍事介入を促す発言を繰り返してきた。ブレア政権は7月下旬、イギリス・オーストラリア軍を派遣する意向を表明した。その1週間ほど前、スーダンのイズメール外相は「ダルフール問題では、ドイツは油断のならない国だ」としてドイツを批判していた。事実、ケルスティン・ミュラー外務副大臣緑の党)は昨年12月、すでに軍事介入を支持する声明を発表していた。また5月以来、ヴィックツォレック・ツォイル経済協力開発相(社会民主党)は、アフリカの軍人によって構成された軍隊にEUが資金援助し、その軍隊を派遣する意向を示している。そしてゲルハルト・バウム氏(自由民主党)は7月半ば、国際的軍事介入にドイツが参加することを支持する意向を表明した。

 米下院も、ブッシュ政権に対し「軍事介入について多国籍軍あるいは一国の軍で行うかを熟慮すべきである」ことを要請した。しかしホワイトハウスは、イラクアフガニスタンに派兵していることから、アフリカへの部隊派遣には消極的にならざるをえないのが実情だ。

■ドイツ企業と反政府勢力を結びつける石油の存在

 ドイツ政府は、このようにスーダンへの軍事介入に積極的な姿勢をみせているが、スーダン南部の反政府勢力、スーダン人民解放運動・軍(SPLM/SPLA)の責任については、これまでまったく言及してこなかった。スーダン政府を一方的に襲撃し、飢餓が深刻化した地域での人道的な危機を加速させたのは、SPLM/SPLAだったにもかかわらずである。これには理由がある。あるドイツ企業が反政府勢力から10億ドルもの委託金を受けていたためだ。

 その企業とはバート・オルデスローエ市の溶接技術会社、トルマーレン社で、同社は2002年、自社の技術でフランクフルトとケルン間を高速鉄道で結びつけたという実績がある。スーダンでのこの取引は、7月初めにケニアの首都ナイロビで完璧に遂行された。ミューラー外務副大臣がケニアを訪問した直後であった。

 トルマーレン社は、スーダン最南部エクアトリア州ジュバ市からウガンダ経由でケニアの首都ナイロビまでの鉄道を敷設する予定だ。スーダン南部の石油を積んだ輸送列車がケニアの港湾都市モンバサまでの2500キロの区間を走ることになる。

 このため、スーダンにおける資源の分配もこのドイツ企業が行っている。SPLM/SPLAの指導者コステロ・ガラン氏は「これは私たちの独立のための生命線だ」と述べ、この大規模な工事の契約を外国資本と締結したことを賞賛している。またケニア誌ザ・ネーションも、「鉄道によってスーダンとケニアの都市の間が結ばれれば、この大陸の地図は政治的にも地理的にも変化する」と同様の考えを示している。さらに、トルマーレン社の社長は「スーダン南部では、石油、金、ウランなどの豊富な地下資源を利用できる」と発言している。

■政府側のパイプライン計画は中国、ロシアなどが支援

 キリスト教アニミズムの信者が多い南部の反政府勢力は20年来、国民の多数を占めるイスラム教地域からの分離をめざして闘争を続けている。この残酷な内戦による死亡者数は合計で150万人にものぼる。昨年から、両者の和解交渉がはじまっているものの、西部地域のダルフールでは、南部の反政府勢力が一致団結した武装蜂起が続いている。このような挟撃状態に陥った結果、首都ハルトゥームのスーダン政府はついに2004年5月、一定の調整期間を経て、南部の反政府勢力が独立できる平和条約を締結することに同意した。

 これまでスーダンの石油は大部分が南部で採掘されていたが、輸出港には北部の紅海沿岸の港湾都市ポートスーダンのみが使われていた。スーダン経済は、ナイル川に沿った南北の軸をパイプラインによって結合させることで成り立ってきた。そのため、政府はパイプラインを拡大することを決定し、7月25日、ロシア、中国、マレーシア、アラブ首長国連邦、フランス、英国の企業と契約を交わした。

 スーダン政府は、これらの企業連合に対して合計17億ドルの委託金を支払った。しかしこれは、南部の鉄道敷設工事に投資された30億ドルに比べればその半額ちょっとでしかない。

 時間をかけた権益争いが展開されている。スーダンの安定化をもたらす北部のパイプライン敷設工事は中国の企業連合が行っているが、この工事が先に完了するのだろうか? または、ドイツが進めている南部方面の鉄道敷設工事が、このパイプラインを引き裂くことになるのだろうか? 西側諸国の介入によって現スーダン政府が不安定化すればするほど、後者の可能性が高くなることだろう。

(翻訳=日刊ベリタ・塩田智子/原文「ユンゲ・ベルト」2004年7月29日号)