あらゆる犯罪は革命的である
ジャック・ロンドンの短編集『火を熾す』を読み終えたところなので、これを紹介しようかと思っていたところ、筒井康隆の笑犬楼大通りを読んで平岡正明が死んだことを初めて知り、ちょいとショックを受けたので、平岡正明のことを少し書く。
平岡正明を最初に読んだのは、『あらゆる犯罪は革命的である』だった。
犯罪に関する著作を読みあさっていた10代から20代にかけての私にとって、何の気なしに手にしたこの本には相当に触発された。筒井康隆という「現象」(これについてはそのうち書く)を通じて知らない人ではなかったのだが、平岡の著作を手にしたのはこれが初めてだった。そして、犯罪を扱う体系が国家と一体となることで個々の犯罪が国家と相対するものとなるという視点は、大島渚の『絞死刑』と通底するものがあった。この評論は私にかなりの興奮を与えるものであった。文章から溢れ出る彼の情念が、若い私のハートに火をつけたのである。
一方で、平岡の評論は、メタフィクションとして読める面白さがあった。
以後、論理よりも迸る激情で書かれた彼の評論を私は貪るように読み耽った。特に60年代から70年代の著作の面白さはずば抜けている。やがて、筒井康隆を「神」にまで高めた平岡は、名著『筒井康隆はこう読め』を世に送り出す。
『筒井康隆はこう読め』と断じる平岡は、追い打ちをかけるように『筒井康隆はこう読めの逆襲』『筒井康隆はこう読めの報復』と立て続けに筒井康隆論をものし、これを山下洋輔が平岡の「誤爆」は「直感による真実への接近」と褒めちぎり、「筒井康隆にかかわるものは、皆、筒井康隆を愛するか、研究するか、実践するかである」という筒井康隆三原則が実証されるに至って、ついに現実世界が筒井康隆という「現象」に飲み込まれて行く様を私たちは目の当たりにすることになるのである。
かくして、私たちのいる宇宙は虚と実の境界を失い、筒井康隆が生み出すドンドンやドンドコらの神々が地に出でて、森羅万象地に溢れ、メタフィクションの「神」を崇め奉ることで文学はますます面白くなるのである。
平岡正明の功績は、実に大なり。
冥福を祈ります。
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