【ねこまたぎ通信】

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バングラデシュ:貧しさ逃れマレーシアへ出稼ぎに 高額の費用払い、危険冒して越境 厳しい環境下のバングラデシュ労働者

02/12/2003

約1億4000万人の人口を抱える途上国バングラデシュでは、国民の多くが収入を得るため、海外での出稼ぎ労働を余儀なくされている。出稼ぎ先として選ばれているのが、イスラム教を同じく国教としているマレーシア。しかし、そこで働くバングラデシュ人の中には合法的に労働許可を取る者も入れば、同許可を得られず違法労働している者もいる。そこで両国政府は、海外労働者問題に関する覚書を交換することになった。しかし、覚書によりバングラデシュ人出稼ぎ者たちがマレーシアで安心して働ける環境が整うかどうかはまだ不透明だ。
ダッカIPS(クラトゥル・アイン・タミナ記者)】バングラデシュ北部のシラジガンジャ地区に住むモハマド・ルフル・アミンさんがマレーシアへ初めて出稼ぎに出たのは1995年のことだった。正規の労働許可を持っていなかったアミンさんは、仲介業者に連れられ、ビルマミャンマー)、さらにタイのジャングルを抜ける裏ルートを徒歩で進み、マレーシアに不法入国した。

アミンさんの住むこのシラジガンジャ地区は、マレーシアへの多くの出稼ぎ者を送り込んでおり、住民たちはマレーシアが夢をかなえてくれる国と思い込んでいる。

それだけに住民たちの間では「外国で働く」とは「マレーシアで働く」と同じ意味で、住民の多くが無許可のまま、マレーシアの製造工場、電子工場、そして建設現場などで働いた。アミンさんをはじめ出稼ぎ希望者は偽の書類を手に、まずはマレーシアを目指した。

▽不法労働者に厳しい措置

アミンさんの妻サハナさんによると、アミンさんは1996年に労働許可を取得した。マレーシア政府はその年の初めに、同国で働いていた違法労働者を対象に正規の労働許可を付与するとの決定を行ない、アミンさんもその恩恵を受けたのだ。と同時にマレーシア政府はその直後に、外国からの労働者受け入れを中止する措置を発表した。

その当時、マレーシアで合法的に働いていたバングラデシュ人は35万人に上っていた。これに対し労働許可なしに働いていたバングラデシュ人は、少なく見積もっても5万人から6万人はいた。外国で働くバングラデシュ人の数ではマレーシアが2番目に多い国となっていた。

マレーシア駐在のバングラデシュ政府当局者によると、他国の出稼ぎ斡旋業者たちも「労働許可付与政策」を利用しようと、違法労働者をマレーシアへ一斉に送り込み始め、この動きが外国人労働者受け入れ中止につながったという。

合法、違法を問わず、これまでインドネシアバングラデシュの2カ国が主にマレーシアへ労働者を送り込んでいた。マレーシア政府はその後間もなく、インドネシア人労働者の受け入れを再開した。

バングラデシュ人受け入れ中止は2000年に特別緩和され、同年から2001年にかけての受け入れ数は約2万2000人となった。

▽マレーシア人女性との結婚は厳禁

しかし、両国政府は今年10月、労働者問題で覚書を交換し、マレーシアの受け入れ中止措置が7年ぶりに全面解除されることになった。これに伴いマレーシア側が求めているのが、第1にバングラデシュ人労働者の送り出しに掛かる費用の引き下げ、第2がマレーシアの状況に適合した熟練労働者の派遣―の2点だ。

さらに、バングラデシュ政府当局者は「マレーシアで働くバングラデシュ人男性が以前には、マレーシア人女性と結婚するケースが見られたが、今回の覚書ではそれが禁じられている」と話す。

送り出し費用の引き下げのニュースは、シラジガンジ地区にいち早く伝わり、住民の中には早速、マレーシア行きの労働ビザ取得を検討する者たちが出始めているという。違法労働の罪でマレーシア警察に捕まり、拘留中に拷問などを受けて死亡したバングラデシュ人もいた。しかし、バングラデシュには働く機会がないため、住民の多くは「マレーシアで働けるのなら、いくら費用が掛かって構わないと思っている者のほうがずっと多い」と明かす。

▽危険承知でマレーシアへ

サハナさんの夫アミンさんはマレーシアで拘留された後、1998年に帰国し、小さな織物工場を始めたが、負債が重なるばかりで、結局、2002年に危険を承知で再びマレーシアへ働きに行った。その時に掛かった費用は1700ドル(約18万円)。「私たちには大変な金額で、借金などをして何とか捻出した」とサハナさんは打ち明ける。サハナさんの弟もマレーシアへ向かったが、仲介者らへ支払った手数料などは総額2500ドル(約27万円)にも上った。

バングラ政府当局者は「こうした費用は750ドル(約8万2000円)以下にすべきだ。そうでないと、マレーシア行きを希望する労働者たちは全財産を売り払うだけにとどまらず、借金まですることになる」と話している。

しかし、実情は厳しく、労働者を集める業者や仲介業者は金儲けをしようと、抜け目なく動き回っている。バングラデシュには登録済みだけでもこうした業者が約800あり、表向きは合法的な活動を行なっている。

▽雇用主が旅券を強制保管

マレーシアでは現在も、違法労働で捕まったバングラデシュ人労働者たちが相当数拘留されている。覚書のニュースを知った女性の1人は「夫は高額の費用を払って働きに行ったが、拘留されてしまった。覚書により、一日も早く自由にしてほしい」と願っている。

非政府組織(NGO)の関係者によると、マレーシアの雇用主たちはバングラデシュ人ら外国人労働者たちから旅券を取り上げてしまい、これが原因で労働者たちが労働許可を延長できず、不法就労に追い込まれるケースもあるという。

このためNGO関係者や出稼ぎ経験者たちは、マレーシア政府に対し最低賃金および各種手当ての基準を設定するよう求めている。バングラデシュ政府側は自国民保護のため、マレーシアにある工場などの労働条件などを厳しくチェックすることにしている。

政府当局者によると、マレーシアで賃金支払い問題などが起きると、同国の経営者たちは支払いをせずに、バングラデシュ人労働者らを本国に送り返してしまうという。

「原則的にはマレーシア人労働者へと同じ法律が外国人労働者にも適用されることになっているが、実際にはそれが守られていない。裁判に持ち込まれると、外国人労働者は決まって強制退去処分を言い渡される」と話すのはバングラデシュ政府当局者だ。

この当局者はさらに、「今回の覚書内容を厳しく実行し、その上で、自国民の利益を保護する。政府にとってもマレーシアへの労働者送り出しが重要だからだ」と指摘している。

マーシアで働いた経験を持つ者たちが覚書に最も期待しているのは、第1にマレーシア側雇用主が責任を持って労働許可を更新する、第2に、雇用主が旅券を保管する際には労働者の承諾書を得る―の2点だ。とはいえ、今回、バングラデシュとマレーシアの両政府が交わす覚書が、労働者たちの満足する内容となり、公平に実行されるかどうかは不透明だ。

あいぴーえす