【ねこまたぎ通信】

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サマワはNGOも視野の外 『軍隊』の人道支援に潜む危険

 イラク派遣で、注目される陸上自衛隊の任務は「医療、給水、学校などの復旧・整備」となっている。こうした人道支援は本来、制服を着ていない文民やNGO(非政府組織)の仕事だろう。今回、派遣される自衛隊は、兵器を携行する以上、明確な「軍隊」だ。イラク国内では安全な地域とされるサマワ周辺で、軍が人道支援する危うさは−。
■復興のニーズより派遣先の安全優先

 「自衛隊が派遣される予定のサマワイラクでも超のつく田舎です。発電施設などの整備が急務になっている都市部ならともかく、どうしてこんな場所にわざわざ行くのか」

 国際医療NGO「AMDA」から今年六月、支援調査のため同国入りした谷合正明さんは、今回の政府決定に首をかしげる。

 昨年九月から今年十月まで八回にわたりバグダッドを中心に地方都市で支援活動した「日本国際ボランティアセンター」(JVC)の佐藤真紀さんも「復興支援のニーズはイラク各地である。しかし、NGO同士の話し合いでも、サマワ地域は話題にもならない場所」と指摘する。

■インフラ不足は経済制裁が原因

 自衛隊が派遣されるサマワから西へ約七十キロ地点で給水や医療体制などを調査した谷合さんは「確かに農村部は川の水の浄水施設がないため、慢性的な伝染病に苦しめられている。しかし、これは一九九一年の湾岸戦争後の経済制裁でインフラ(社会基盤)が整備されていないから。今回の戦争が原因ではない。なぜ、大騒ぎして自衛隊が行くのかなというのが実感」と説明し、こう推測する。

 「日本の戦中だって疎開先の田舎は平和だった。今のサマワだって銃もない部族が点在するだけです。結局、復興よりも安全第一の視点で場所が選定されたのでは」。その結果、安全な地域に危険が持ち込まれることを危ぐする。

■「日本のNGOどう見られる」

 イラク北部のモスルで戦争からの避難民の援助活動を六月上旬から十月下旬まで行ったNGO「ワールド・ビジョン・ジャパン」の三好正規さんは「国際的には、戦時の人道支援はNGOと国連が主体となり中立的に行うのが常識。日本の顔として軍隊が入ってくれば、それが崩れることになる。外国人なら誰でもテロのターゲットになるといわれる昨今、日本のNGOは今後、どう見られるのか。活動への影響は避けられない」と首をかしげる。

 外務省邦人保護課によると、イラクで活動する日本のNGOは三月の戦争開始直前まで一、二団体の五、六人が滞在していた。ブッシュ米大統領が五月に行った戦闘終結宣言後は、ピースウィンズ・ジャパンやJVCなど五、六団体の約十人が常時駐在していた。

 しかし、十一月下旬のラマダン明けの騒乱を警戒してほとんどがイラクから脱出。同月二十九日に外交官が襲撃されて以降、日本人NGOはいない状態という。

■「占領軍と同じターゲットに」

 米軍のアフガン侵攻後、パキスタンの難民キャンプで救援活動の経験もある前出の谷合さんは「日本人は米国に占領された後、経済大国になったことを尊敬され活動しやすかった。それが今回、客観的に見れば軍隊として乗り込んでくる。米軍と同様の占領軍にしか見えずターゲットにされるだろう」と心配する。

 バグダッドの小学校復旧などに携わるNGO「JEN」の木山啓子事務局長も「軍服を着ているということが現地の人々に受け入れられるのか、分かりません」と疑問を投げかける。

 「NGOや他の国際機関は支援のプロですから、平和構築のために配慮しなければいけないことは、ほぼ確実にできる。女性への配慮や、高齢者や障害者など社会的弱者への配慮、部族間を公平にするといった配慮のもと進めていける。イラクの方々が支援を必要としている中、時間的、資金的にも無駄を出さないためにも、支援のプロがあたった方がいいと思う」

 元防衛庁局長の小池清彦・新潟県加茂市長は「日本はこれまで独自な路線でイラクとも仲良くしてきた。それが急に米国に加担し出かけていくことになった。人道支援の美名のもとブーツ・オン・ザ・グラウンドがしたいだけ。ゲリラ攻撃の標的に当然なりうる」と警告する。「給水、学校の補修といった基本計画の内容は、規模の大きいものではない。それに自衛隊を出して人の命をかけるのは正気のさたではない」

■雇用創出などは疑問

 自衛隊人道支援が、NGOなどと性質を異にするのは、医療、給水、学校など公共施設の復旧・整備といった工事、作業も自前で行えることだ。反面、地元住民への仕事を増やすことにはつながらない。前出の木山さんは強調する。

 「例えば道路補修をNGOが計画したら、現地の人と協力することで、雇用促進もできる。さまざまに配慮するという言葉の中にはそういう側面も含まれる。一つの支援で効果を最大限に上げることができる。そうでなければ、雇用創出を別プロジェクトでしなければいけなくなる」

 前出の谷合さんも「私たちは経済復興の意味も込め物資の現地調達、地元住民との連携を原則としている。しかし、自衛隊が資材を日本からすべて運び込み、トップレベルだけで方策を決めれば反発だけが起きる」と警告する。

■「しきたりなど対応できるか」

 三好さんも「復興活動は市民社会にベースを置くことが重要で、雇用契約やしきたりなどローカルの知識も不可欠。送り込まれる自衛隊員の個々人は、それだけの対応ができるのだろうか」と疑問視する。雇用問題は、治安の維持という観点からも重要だ。反米勢力が衰えない大きな原因の一つは、フセイン政権を支えてきた多くのバース党員や役人、軍人が職を失ったことといわれる。これらの人々が生活を支えるため、反米闘争に加わったためだ。

 谷合さんは自身の経験からこう警戒を呼び掛ける。「地元住民を雇用する場合でも短期間で解雇した場合、かえって恨みを買うこともある。ささいないさかいがきっかけになり、結果的にテロ事件につながる可能性もある。自衛隊の場合、地元住民を雇用するにしても短期だろう」

■『しっと招き新たな火種』

 さらに佐藤さんは、三百五十億円とされる自衛隊の派遣費用を挙げ「豊富な援助物資が特定地域に運ばれれば、イラク人同士で『どうしてあそこだけ恵まれているのだ』と部族間紛争の火種になりかねない」と危ぐしながらこう指摘する。

 「ここの主権者は当然、イラク人。占領軍の米軍への反発が日々強まる中、同盟国から来た軍隊が同列で見られるのは当たり前。そこで『日本軍は出ていけ』とデモ行進されたらどうするのか。その時点で、派遣の大義は失われる」

東京新聞