【ねこまたぎ通信】

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こんなのめっけ.

紛糾する国際刑事裁判所問題 米兵らへの訴追免責案に猛反発

NGOが米政府の新提案を非難 安保理で支持工作強める米国

掲載日:2002年8月1日

 国連の平和維持活動(PKO)はこれまでに、カンボジアボスニア・エルツェゴビナ、東ティモールアフガニスタンなど長年の内戦に苦しんだ地域・国々で展開されてきた。いずれも政治体制や宗教、民族の違いが対立と抗争を広げ、その結果、大量虐殺、レイプ、破壊が繰り返された。こうした非人道的な戦争犯罪を裁くため設立されたのが国際刑事裁判所だが、これに横やりを入れたのが米政府。自国兵士が訴追対象となるのを恐れたためだが、これに対し世界の非政府組織が、国際的な公正は場で罪を裁く目的を無視するものとして強く反発している。東西冷戦後、唯一の超大国となった米国の勝手な行動との非難も出る中、訴追免責問題をめぐる国連安全保障理事会の行方が注目される。
 【ニューヨークIPS(サリフ・ディーン記者)】
 国際刑事裁判所(ICC)の設立条約発効をめぐり、米国が国連の場で、反対姿勢を取り続けている。ICCは虐殺や戦争犯罪など非人道的な行為をした個人を裁く初の常設国際裁判所だが、これに対し米国は「海外派遣米兵が戦犯として裁かれる恐れがある」との懸念を強め、設立条約の発効に反対している。
 そこで米政府が提出したのが「国連平和維持活動(PKO)に参加する米兵らをICCの訴追対象から外す」との案で、これには欧州諸国などが猛反対。その結果、米国は「PKO用員への捜査や訴追を1年間猶予し、これを更新する」との新提案を出し、妥協する姿勢を見せてきた。

▽当初は完全な訴追免責を要求

 しかし、世界の非政府組織(NGO)が集まり結成したICC連合(CICC)のウィリアム・ペース代表は、「米国は先週、米兵を全くの対象外とした“違法な提案” を出し、今回の新提案もそれをほんのわずかだけ修正したにすぎない」と述べ、ICCをめぐる米国の勝手な行動を厳しく批判した。さらに、ペースさんは「新提案の受け入れなど論外だ。米国は国連での指導力を最低水準にまで低下させた」とまで言い切った。
 CICCには世界のNGOから1000団体以上が参加し、ICC設立に向けて国際的な活動を続けている。それだけに、米国が今回、安保理で取った姿勢に対して強い懸念を抱いており、特にICC設立を決めた「ローマ国際刑事裁判所規程(1998年)」の修正を安保理の場で行おうとした米国に厳しい非難の矛先を向けている。
 米国は最初に出した修正案で、PKO参加の米兵に対する訴追を完全に外すよう主張、その後、同規程の第16条を盾に訴追の1年間猶予を求めてきた。当初、1年間の訴追期限は自動更新されるとしたため、結局、米兵は完全に訴追外に置かれることになる。しかし、新提案で米国は12カ月が過ぎた時点で毎回、訴追猶予に関する提案を安保理に出すとの内容に修正してきた。

国連憲章持ち出し、正当化図る

 米国は今回、国連憲章の第7条を引き合いに出し、安保理のICC問題への介入を正当化しようとした。第7条は、安保理は平和に対する脅威、平和を破る行為、そして侵略行為に対し行動を起す権限を持つ、と定めている。
 これに対しペースさんは、ICCが平和への脅威になるわけはなく、今回の問題で第7条を当てはめるのは不可能だ、と米国の主張に強く反論する。
 さらに、ペースさんは、「『ローマ刑事裁判所規程』の第16条は、安保理に猶予を認めているが、それは暫定的で、案件ごとにその都度対応するのを基本としている。しかし、今回の米提案は同16条内容の枠を逸脱し、訴追猶予を普遍化しようとしたものだ」と述べ、米国の意図を厳しく批判した。
 アムネスティ・インターナショナル国連代表であるイボンヌ・ターリンゲンさんは、米国の新提案を絶対に受け入れないとしたうえで、さらに、「修正された点があるとしても、米提案にはICCの活動を制限してしまう内容がまだ残されている」と指摘した。
 ターリンゲンさんは続けて、「今回の米国の姿勢は、安保理に国際協定の内容を修正できる権限を与えるもので、極めて悪い前例を残すことになる。われわれが懸念するのはその点である。国際正義を覆そうとする企みを、断固としてはねつける」と厳しい口調で、米国の姿勢を非難した。

安保理の良識に期待

 今回の米提案が安保理で採択されるには、拒否権が行使されず、9カ国の賛成が必要だ。国連外交官のひとりは「舞台裏では相当ひどい工作が行われている」と明かす。
 安保理常任理事国5カ国のうち、米国は英国、ロシア、中国から支持を得られそうだが、ロシアと中国はICC設立条約の署名国ではない。残ったフランスが米提案に反対し、拒否権を行使する権利を有しているが、実際に行使する可能性はなさそうだ。
 このため米国は、非常任理事国10カ国(シンガポールブルガリアアイルランド、メキシコ、ノルウェー、コロンビア、モーリシャス、ギニア、カメルーン、シリア)に対し外交攻勢を強め、支持取り付けに懸命だ。
 こうした外交工作を目の前にして、ペースさんは安保理が米国の軍門に降るようであれば、それは米国を国際法に勝る存在に押し上げてしまう行為にほかならない」と懸念を表明、同時に安保理が良識を働かせるよう訴えた。さらに、ペースさんは「米国の行為は、『ローマ刑事裁判所規程』の完全性、国連安保理への信託、国際法を覆そうとする企みだ」と糾弾した。

(注)国連安全保障理事会は7月12日、「国連平和維持活動(PKO)要員への捜査や訴追を1年間猶予する」を内容とした決議案を採択した。

【メモ】国際刑事裁判所
 大量虐殺やレイプなどの戦争犯罪を裁く初の常設国際裁判所。今年7月1日に設立条約が発効した。同日現在、138カ国が署名し、うち76カ国が批准している。米国はクリントン前政権が2000年末に同設立条約に署名したが、ブッシュ現政権が今年5月に署名を撤回。同6月、「米兵が政治的訴追対象になる恐れがある」などと主張、安保理にPKO要員の訴追免責を含める決議採択を求めていた。日本は設立条約に署名していない。