【ねこまたぎ通信】

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機密文書「地位協定の考え方」その4−1

琉球新報がスクープして掲載した外務省の機密文書、「地位協定の考え方」全文の「その4」をお送りします。
〔第十七条〕は、問題となっている犯罪者の裁判の問題です。果たして外務省は、この問題をどう解釈しているのか、じっくりとお読み下さい。また〔第十八条〕は騒音被害などの問題について外務省と米国側とのやりとりがどうなってるかが記述されている興味深い部分です。

TUP(平和をめざす翻訳者たち)配信係

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機密文書「地位協定の考え方」その4

〔第十七条〕

第十七条は刑事裁判権の分配等につき定めている。

一 米軍当局の裁判権

1 第十七条の規定に従うことを条件として、米国の軍当局は、米国の「軍法に服するすべての者」に対して、米国の法令により与えられたすべての刑事及び懲戒の裁判権を日本において行使する権利を有する(1項(a))。米軍法に服する者の範囲については、米政府が合同委員会を通じて日本政府に通知することになっており(第十七条1項(a)及び2項(a)に関する合意議事録)、これによれば、米国統一軍法第二条及び第三条に掲げられるすべての者が含まれることとなっている(合同委員会合意「刑事裁判管轄権に関する事項」)ので、具体的には、陸海空軍の軍人、召集を受けた者、軍の学生、生徒、予備員等の外、米国外に駐とんする米軍隊に勤務し、或いはこれに雇用され、又はこれに随伴する軍属・家族等がすべて含まれるものと解せられている。米軍公用船の乗組員については、米政府又はその機関とタイム・チャーター(期間用船契約)を結んでいる船舶のすべての乗組員は、右の軍属に含まれるが、単なる航海用船契約又は一部用船契約の船舶の乗組員は、含まれないとされている(合同委員会の右の合意)。
2 第十七条の規定は、ナト協定第七条の規定と実質的に同文であるが、これら協定の締結後、累次の米連邦最高裁の判決により軍属・家族に対する平時における米軍法会議の管轄権が否定されるに至った結果(注86)、ナト諸国の間では、現在、軍属・家族は、右の「軍法に服するすべての者」には該当しないと解されている模様である。

(注86) 軍属を平時に軍法会議に付することが違憲であるとの判決は、一九六〇年の Guagliardo case において示された(これ以前の Covert caseでは、死刑についてのみ違憲ということであったが、この事件で初めて死刑以外についても違憲とされた。)。
平時における家族に対する管轄権については、一九六〇年の Singlton caseで、死刑であると否とを問わず、軍法会議の管轄権は違憲とされた。
以上は、平時(in time of peace)のことであって、戦時には必ずしも当てはまらない(事実ヴィエトナムにおいては、軍法会議は、右よりも広い管轄権を行使していた。)。
わが国においては、建前上は軍属・家族も軍法に服する者に含まれるとの考え方が現在でもとられている。(軍属・家族に対する軍法会議の懲戒裁判権は現在でも否定されていないので、この点に着目して軍法に服するとの説明をすることとなろう。)刑事裁判権の実際の運用としては、軍属の犯罪について米軍当局は、米軍当局に第一次裁判権のある場合(3項)でも(例えば軍属の公務中の犯罪については公務証明を出さないとか第一次裁判権の不行使をわが方に通告して来るとかして)裁判権を行使しないのが現状である。従って、軍属・家族の犯罪には事実上わが国が専属的裁判権を行使している如き現象を呈している。

3 軍法に服する者については、国籍の如何が問われていないので日本国民との関係が問題となりうるが、この点につき、4項は、「前諸項の規定は、合衆国の軍当局が日本国民又は日本国に通常居住する者に対し裁判権を行使する権利を有することを意味するものではない。ただし、それらの者が合衆国軍隊の構成員であるときは、この限りでない。」旨規定し、この点につき合意議事録は、日米の二重国籍者で、米軍法に服しており、かつ、米国が日本に入れたものは、4項の適用上日本国民とみなさず、米国民とみなす旨規定している。従って、日本国民が軍法に服する者に該当する場合がたとえあったとしてもイその者が米軍人でない限り、又はロ米国籍も有し、かつ、米国が日本に入れたものでない限り、米軍当局の裁判権に服することはない。米国が日本に入れたものとは、心ずしも明らかではないが、米国の命令指示等により日本に入国した者と解されている。(注87)

(注87)津田実・古川健次郎「外国軍隊に対する刑事裁判権」十四頁。この点については、家族が右にいう米国が日本に入れたものに該当するのか否かが必ずしも明らかでない。第九条1項の規定からみる限り積極に解される。

4 1項aの規定は、軍法に服する者が日本の領域外で犯した罪につき日本国内で軍法会議に付することを排除していない(1項bの規定振りからしてこの点は明らかである。)。沖縄返還協定の合意議事録は、返還前の米軍人の犯罪につき米軍当局は、返還後もかかる犯罪につき裁判権を行使しうる旨規定しているが、これは、地位協定第十七条1項aからみれば当然のことを定めたものである(従って、単に合意議事録で処理した。)。
更に、1項aの規定自体としては、日本で犯した罪について日本国外に連れ出した上裁判することについては、何ら触れていないが、この点については、第十七条の他の規定上制約がある(後述)。

二 日本側の裁判権

1 日本の当局は、米軍人・軍属及びその家族に対して、日本の領域内で犯す罪で日本の法令で罰しうるものについて、裁判権を有する(1項b)。日本の領域内とは、安保条約第五条の「日本国の施政の下にある領域」と同義であって、従って、例えば返還前の沖縄は、含まれず、又、北方領土竹島は除かれる。(注88)(注89)

(注88)例えばわが国の領空を通過中の米軍機の事故から生ずる刑事責任の問題も1項bの範ちゅうに入りうるものであることは明らかである。

(注89)わが国の港に寄港中の米軍艦船内の犯罪が1項bにいう日本の領域内で犯す罪に該当するか否かの解釈につき、ナト協定の場合の考え方を英国に照会したところ、右の如き犯罪は、軍艦上の犯罪には旗国の裁判権が及ぶとの一般国際法上の確立した原則で律せられるべきものであり、地位協定は、かかる犯罪の処理まで意図したものではないとの回答があった経緯がある(なお、以上の点についての解釈は、未だ国会等で議論されたことはない模様)。

2 1項bの規定は、米軍人等の日本国外での犯罪についてのわが国の裁判権を排除している。従って、例えばこれら米軍人等が来日前に刑法第二条(本法ハ何人ヲ問ハス日本国外ニ於テ左ニ記載シタル罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス)に該当する罪(例えば偽造公文書行使、第二条五号)を犯したことがあっても、米軍人等としての身分で日本にある限り、日本側の裁判権はない。その限りで1項(b)は、刑法第二条を排除している訳である。(注90)沖縄返還協定の合意議事録は、返還前の米軍人の犯罪につき日本側は返還後裁判権を行使しない旨規定したが、これは、地位協定第十七条1項(b)からみれば、当然のことを規定したものである(従って、単に合意議事録で処理した。)。

注(90)津田実前掲書も同様の考えをとっている。十三頁。

以上、第十七条1項(a)及び(b)からすれば、例えば軍人が、公務中であるか否かを問わず、わが国において殺人を犯した場合、1項(a)によれば米軍当局が裁判権を有し(軍法第百十八条等)、1項(b)によればわが国が裁判権を有することとなる(刑法第一条1項は、「本法ハ何人ヲ問ハス日本国ニ於テ罪ヲ犯シタル者ニ之ヲ適用ス」と定める。前記の例の場合は、刑法第二十六章等の罪に該当する。)。これが、いわゆる裁判権の競合と称されるものであって、この競合の場合の問題を解決(日米のいずれが裁判権を行使するか)するのが第3項の規定である。

三 専属的裁判権

1 米国の軍当局は、米軍法に服する者に対し、米国の法令によって罰することができる罪で日本の法令によっては罰することができないもの(米国の安全に関する罪を含む。)について、専属的裁判権を行使する権利を有する(2項(a))右の罪は、米国法令違反の罪ではあっても、日本の法令に違反するものでなく、従って、日本の法益は何ら害されていないのであるから、かかる罪につき米軍当局が専属的裁判権を行使しても、わが国として何ら差支えない訳である。

2 逆に、日本の当局は、米軍人・軍属及びその家族に対し、日本の法令によって罰することができる罪で、米国の法令によっては罰することができないもの(日本国の安全に関する罪を含む。)について、専属的裁判権を行使する権利を有する(2項(b))。この点については、軍法第百三十四条との関係が、少くとも理論的には、問題となる。即ち、同条は、軍隊の秩序及び紀律を乱したり、軍隊の威信を害する性質の行為等を罰することとしているが、外国に駐留する場合、当該外国法令に違反する行為は、軍法の右規定により罰しうるのではないかとの考えがあるからである。この考え方に立てば、日本側が専属的裁判権を行使するケースはないことになる。しかし、実際にはかかる考え方は、米軍法会議自身によって否定されている模様である。(この点については、連邦高裁も軍法の右規定は憲法違反であるとの判断を昭和四八年三月行なっている。)(注91)

(注91)従って、実際には、例えば通常の交通違反(軍法では、酔払い運転、乱暴運転等については規定がある―第百十一条―のでその他の場合)については、日本側の専属的裁判権により処理されている。

3 2項及び3項の適用上、国の安全に関する罪には、(i)当該国に対する反逆、(ii)妨害行為(サボタージュ)、諜報行為又は当該国の公務上若しくは国防上の秘密に関する法令の違反が含まれる(2項(c))。この点につき合意議事録は、両政府は、2項(c)に掲げる安全に対するすべての罪に関する詳細及びそれぞれ自国の現行法の規定でそれらの罪を定めるものを相互に通報すべき旨定めている。米側からはこの通報はなされていない模様であるが、米国法令にいわゆる「反逆罪」、「エスピオネージ」というような罪がこれに当ると考えられる。(なお、米軍当局が専属的裁判権を有するものとしては、右のほか、「逃亡罪」、「抗命罪」、「上官侮辱罪」等軍規律に関する罪がある。)
日本当局からは、口頭で日本に対する反逆及び妨害行為(サボタージュ)諜報行為又は日本の公務上若しくは国防上の秘密に関する法令違反等なる旨通報している。具体的には、刑法上の内乱又は外患の罪、国家公務員法第百九条第十二号(公務上の秘密)、日米相互防衛援助協定等に伴う秘密保護法違反の罪が考えられる。

四 競合裁判権の分配

日米両当局の裁判権が競合する場合には、3項(a)(b)(c)の規定が適用される(3項頭書)。

1 米国の軍当局は、次の(i)及び(ii)の罪については、米軍人又は軍属に対して裁判権を行使する第一次の権利を有する(3項(a))。
(i)もっぱら米国の財産若しくは安全のみに対する罪又はもっぱら米軍隊の他の軍人・軍属若しくはそれらの者の家族の身体若しくは財産のみに対する罪
(ii)公務執行中の作為又は不作為から生ずる罪

2 もっぱら米国の財産のみに対する罪とは、例えば米軍の倉庫から軍用食糧を盗んだような場合を指す。しかし、盗んだものが日本の国有財産であったような場合は、これに該当しない。又施設・区域内における放火であっても、それが日本国又は日本国民の所有にかかる建造物を焼いた場合には、右に該当しないことは勿論、また仮に米軍所有の建造物を焼いただけであっても、具体的に公共の危険を生じたような場合には、右に該当しないと考えられる。
もっぱら米国の安全のみに対する罪とは、例えば施設・区域の中で米軍の機密を探知したような刑事特別法第六第に該当するような罪の場合を指す。
もっぱら軍人・軍属又はそれらの者の家族の身体若しくは財産のみに対する罪とは、例えば軍人相互の傷害暴行等を指す。軍人相互のこれらの行為が同時に日本人を傷つけたりする場合は、これに該当しない。ここにいう「家族」とは、地位協定第一条にいう家族である。日本人妻も含まれる(従って、軍人がその日本人妻に傷害を与えた場合には、米側が第一次裁判権を有する。)。(注92)

(注92)以上の点については、津田実前掲書に詳しい。

3 公務執行中とは、単に勤務時間中という意味ではなく、公務執行の過程においてという意味であると解されている。公務とは、法令、規則、上官の命令又は軍慣習によって要求され又は権限付けられるすべての任務若しくは役務を指す旨合意されている(合同委員会「刑事裁判管轄権に関する事項」。なお、合意の本文においては、具体的にいかなる行為が公務中の行為に該当するかにつきかなり詳細な了解が記録されている。)。

4 3項(a)(ii)については、公務か否かを誰が認定するかが最も重要な問題である。この点につき合意議事録は、「米軍人・軍属が起訴された場合において、その起訴された罪がもし被告人により犯されたとするならば、その罪が公務執行中の作為又は不作為から生じたものである旨を記載した証明書でその指揮官又は指揮官に代わるべき者が発行したものは、反証のない限り刑事手続のいかなる段階においてもその事実の十分な証拠となる」趣旨を定めている。このように公務の認定が一次的には指揮官に委ねられているのは、事件解決の迅速性という面からする要請を考慮したものであると考えられている。尤も、米側の公務証明書に反証がある場合は、日本側検事正は直ちに米側に通知し、それで解決しない時は合同委員会で結論を出すこととなっている(合同委員会の前記合意)。更に、3項(a)(ii)に関する前記合意議事録は、米側の公務証明書は、いかなる意味においても日本の刑訴第三百十八条(裁判官の自由心証を定める。)を害するものと解釈してはならない旨定めているが、これは、裁判において前記の公務証明書には法律上の推定の効果が与えられないことを意味するものと解されている。

5 日本側は、3項(a)の(i)及び(ii)以外の罪については第一次の裁判権を有する(3項b)。具体的に述べれば、日本側は、先ず、家族の犯した罪については常に第一次裁判権を持つ。家族が例えば米軍人の身体に対して犯した罪(3項(a)(i)の如き)についても同様である。(なお、第十四条契約者に対しても常に日本側が第一次裁判権を持つ。第十四条8項)更に、軍人・軍属の犯罪であっても3項(a)(i)及び(ii)に該当しない罪については、日本側が第一次裁判権を持つ。

6 第一次の裁判権の意味は、当該権利を有する側がその権利を行使しないか又は放棄した場合を除き他方の側は、裁判権を行使しえないことを意味する。第一次裁判権を有する側が裁判権を行使するともしないとも明らかにしないまま事件を放置しておくことは、協定の趣旨に反する。第一次裁判権を有する国は、その権利を行使しないと決定した時はできる限りすみやかに他方の側の当局にその旨を通告しなければならない(3項c第一文)。合同委員会は、かかる場合の運用につき細則を定め、例えば米側が第一次裁判権を有する事件(軍人の公務中の犯罪等)でも日本人が被害者である如きものについては、かかる犯罪についての通知から十日以内に米軍当局が裁判権を行使するか否かを日本側に通告してこないときは、日本側が裁判権を行使できること等を定めている(合同委員会の前記合意)。
第一次裁判権を有する側の当局は、他方の側がその権利の放棄を特に重要と認めた場合において、その他方の側の当局から要請があったときは、その要請に好意的考慮を払わなければならない(3項c第二文)。3項cに関する合意議事録は、裁判権放棄の手続は、合同委員会が決定すべき旨規定し(第1項)、合同委員会は詳細な手続を定めている。更に、合意議事録同第2項は、日本側が第一次裁判権を放棄した事件の裁判及びa(ii)に定める罪(公務中の犯罪)で日本国・日本国民に対して犯されたものにかかる事件の裁判は、別段の取極が相互に合意されない限り、日本において、犯罪が行なわれたと認められる場所から適当な距離内で直ちに行なわれなければならない旨、及び日本側当局の代表者は、その裁判に立ち会うことができる旨定める。このような事件には、日本側としても国民感情もあり重大な関心があるということを前提にした規定である。この規定により、米側は、このような事件については、被告を日本国外に連れ出した上例えば米本国で裁判することはできないこととなる。(注93)

(注93)公務遂行中の軍人・軍属の行為は、軍隊の機関としての行為であるから、かかる行為には日本法令は適用されない旨前述した(第十六条の項参照)が、かかる行為が犯罪を構成し、米側が裁判権を行使しないときは、日本側が裁判権を行使することができるが、これは、右の行為を日本法令によって評価することを前提とすること勿論である。この意味では、右の行為にも日本法令は、いわば潜在的には適用されている訳である。これを「右の行為には法令の適用はあるが米側が不行使を決定しない限り裁判権は及ばない」と表現するか否かは言葉の問題である。ちなみに、英語の jurisdiction とは、右の場合、裁判権・管轄権という意味に加え、法令の適用自体の意味も含まれている如くである。

五 逮捕・身柄引渡し等の相互協力

1 日本側当局及び米軍当局は、日本の領域内における米軍人・軍属及びその家族の逮捕及び4項までの規定に従って裁判権を行使すべき当局へのそれらの者の引渡しについて相互に協力しなければならない(5項(a))。この規定により日本側が協力するべき対象は、協定上日本側の裁判権の対象となる罪を犯した米軍人等に限られない。即ち、米側の専属的裁判権の対象となる罪を犯した米軍人等や日本国外で罪を犯し米側裁判権の対象となる米軍人等(これらの者が協定上の軍人・軍属及びその家族として入国したと観念される場合。なお、この点は、第一条の項で述べたところ参照。)のわが国における逮捕等についても日本側に協力義務がある。この点につき、刑事特別法第十八条は、米軍からの要請がある場合には、日本側当局は、日本の法令による罪に係る事件以外の刑事事件につき米軍人等を逮捕できるとの趣旨を定めている。なお、協定第十七条5項(a)の規定によれば、米軍当局が日本側の第一次裁判権の対象となる者を逮捕したときはその身柄を日本側に引き渡すべきこととなるが、5項(c)は、その例外を定めたものと解される。

2 日本側当局は、米軍人・軍属及びその家族を逮捕したときは、米軍当局にすみやかに通告しなければならない(5項(b))。この点については、日米友好通商航海条約第二条は、いずれかの国の領域内で他方の国民が抑留された場合には、その者の要求に基づき、もよりの地にあるその者の本国の領事官に直ちに通告されるべき旨定めているが、米軍人等については、地位協定上の通告を行なえば足りるものと解されている。
なお、米軍当局が日本側の第一次裁判権の対象となる事件につき米軍人等を逮捕したときは、直ちに日本側当局に通告して来ることになっている(第十七条5項に関する合意議事録第2項)。
以上の点に関する通告の手続等については、合同委員会の詳細な合意がある(「刑事裁判管轄権に関する事項」)。

3 日本側が裁判権を行使すべき米軍人・軍属(家族が含まれていないことに要注意)たる被疑者の拘禁は、その者の身柄が米側の手中にあるときは、日本により公訴が提起されるまでの間、米側が引き続き行なうこととなっている(5項(c))。米側の手中にあるときは、米側の刑事手続上米側に拘禁されている場合のみならず、より広い意味で身柄が米側により拘束されていれば足りるものと解される。又、日本側が裁判権を行使すべきとは、日本側が第一次裁判権を行使すべきの意である。日本側の裁判権にしか服さない者についての身柄拘束は、常に日本側が行なう(合同委員会の右合意)。家族については、日本側がこれを逮捕した場合と同様に取り扱われるべきものと解される。即ち、この点について5項に関する合意議事録第1項は、日本側が第一次裁判権を有する事件につき、日本側当局が米軍人・軍属及びその家族を逮捕したときは、その犯人を拘束する正当な理由及び必要があると思料する場合を除くほか、米軍当局による拘禁に委ねるべき旨規定している。(注94)

(注94)なお、同項ただし書は、日本側当局がその犯人を取り調べることができることをその釈放の条件とした場合には、日本側当局の要請があれば、いつでも取り調べることができるようにすべき旨及び日本側当局の要請があれば、日本側当局がその犯人を起訴したときにその身柄を日本側当局に引き渡すべき旨定めている。なお、又、米側が逮捕した場合でも、日本側が特に身柄を確保する必要があると認めて要請した際には日本側に身柄が引き渡されることになっている(合同委員会の合意)。
右において、正当な理由及び必要とは、証拠隠滅等のおそれのある場合等が該当するものと解される。
以上の規定により、日本側が第一次裁判権を有する事件であっても、米軍人・軍属及びその家族の公訴提起までの身柄の拘束は、日米いずれの側が逮捕したかに拘わりなく、一定の場合を除き、米側によって行なわれることとなるが、この点は、従来国会等において第十七条の規定中最も問題にされて来ている。ナト協定においては、協定本文には日米協定の第十七条5項(c)と同様の規定があるが、合意議事録に該当する規定はないので、比較上は日本の方がより制約されているが如く見えるが、実際には、米側は各国と別途の協定を締結する等を通じて日米協定とほぼ同様の権利を確保している。(注95)

(注95)イタリー、トルコ、イギリス、ギリシア等。

以上の点は、もっぱら米国との政治的妥協の産物であり(米議会において米国が第一次裁判権を放棄する範囲が広すぎるとの議論があり、これに対抗するためせめて身柄拘束に関しては米側権利を広くしようとしたこと)、説得力ある説明は必ずしも容易ではないが、少くとも(イ)食事・寝具等の風俗習慣等の違いから日本側としてもこれらの者を拘禁することは不必要な手数がかかること、(ロ)米側の拘禁に委ねても逃走のおそれなく、又取調べ上は支障なく、米側による身柄拘束は、いずれにしても日本側による提起までの間という暫定的なものにすぎないこと、(ハ)対象となる事件については米側にも第二次的には裁判権のあるものであり、第一次裁判権を有する側と第二次裁判権を有する側との間の均衡の問題として米軍人等を米側に暫定的に委ねても必ずしも不当とは考えられないこと(この点は、前述のとおり、日本側の裁判権にしか服さない者の身柄は常に日本側に引き渡されることになっていることからもいえよう。)等の理由によりある程度の説明は可能と考えられる。

4 日本側当局及び米軍当局は、犯罪についてのすべての必要な捜査の実施並びに証拠の収集及び提出(犯罪に関連する物件の押収及び相当な場合にはその引渡しを含む。)について、相互に援助する。ただし、それらの物件の引渡しは、引渡しを行う当局が定める期間内に還付されることを条件として行うことができる(6項(a))。双方の当局は、裁判権を行使する権利が競合するすべての事件の処理(の結果)について相互に通告する(6項(b))。これらの規定の実施についての細則は、合同委員会において合意されている(「刑事裁判管轄権に関する事項」)。

5 米軍当局は、日本においてその裁判の判決を執行することができるが、死刑については、日本の法制が同様の場合に死刑を規定していない場合には、日本国内で死刑を執行してはならない(7項(a))。また、日本側当局は、米軍当局が第十七条の規定に基づいて日本の領域内で言い渡した自由刑の執行について米軍当局から援助の要請があったときは、その要請に好意的考慮を払うことになっている(7項(b))。