【ねこまたぎ通信】

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 北東アジアのパイプライン建設競争

北東アジアのパイプライン建設競争

ラファエル・カンディヨティ(Rafael Kandiyoti)
ロンドン大学インペリアル・カレッジ化学工学教授
訳・佐藤健


 2005年4月13日、日本政府は、東シナ海ガス田試掘権を民間企業に許可する姿勢を示した。付近には、同国が尖閣諸島、そして中国が釣魚台と呼び、領有権を主張する諸島がある。この争いから、成長著しい国々の、石油・天然ガス資源確保をめぐる競争を見て取ることができる。こうした現状を認識し、大規模なパイプライン計画を推進しているのがロシアである。[フランス語版編集部]

原文 http://www.monde-diplomatique.fr/2005/05/KANDIYOTI/12220
 ロシア経済は、原油と天然ガスの輸出に依存している。同国の潜在的資源の価値は、東アジアの大企業の旺盛な活動によって高まっている。しかし、そうした企業の勢いに比べ、中央シベリア東部は開発が進んでいないため、地域情勢は不安定に見える。この地域に近接する中国には、あふれるほどの労働力と、大きな資金力がある。そうした意味で有利でもあり、不利でもある立場に置かれたロシアは、対北東アジア戦略をどう進めていくつもりだろうか。

 過去10年間で、中国は、日本や韓国と同規模の原油輸入国となり、そのうち50%近くは中東産である。日本と韓国の場合、中東依存率は80〜85%に近い。これらの原油の多くは、「潜在的な問題地帯」とされるホルムズ海峡マラッカ海峡経由で輸送されている。中東でさまざまな問題が噴出していること、石油タンカーが海峡で攻撃を受けかねないことは、現実的な脅威である。世界第2の石油消費国となった中国は、代わりとなる原油調達先と輸送ルートを至急見つけださなければならない。この点は、日本や韓国でも同様である。

 天然ガスは、大気汚染を減少させる方法として、北東アジアの多くの大都市が使用を望んでいる。すでに日本、韓国、そして台湾の輸入量だけで、世界全体の液化天然ガスLNG)貿易のほぼ80%に達している。中国の場合、LNGはコストの高さがネックとなっており、もっと経済的な手段を求めている。一方、中国にほど近いシベリアとサハリン島には大量の石油資源が埋蔵されている。中央シベリア東部高原地帯の、イルクーツク平原部の地下には、莫大な量の石油と天然ガスが埋蔵されているが、その全容はまだ明らかになっていない。将来試掘が進められれば、世界全体の埋蔵量は大幅に増えることになる。この地方の中心地で、イルクーツクに近接したアンガルスク付近の大型精製所でも、現時点では、西シベリアから原油を運び込んでいる状況だ。

 専門家は、これより北東にあるヤクーツクについても、まだ調査は終わっていないものの、大量の石油資源が埋蔵されていることを期待している。この土地で、石油・ガスを採掘して送り出すには、付近一帯の永久凍土を掘削しなければならない。これは技術的には実現可能であるが、コストが非常に高い。同様の地層に作られたアラスカ横断パイプラインには、80億ドルという巨額の費用がかかった(1975年当時)。西方クラスノヤルスク平原部の推定埋蔵量を加えれば、中央シベリア東部の天然資源は膨大な量になる。しかし、十分に調査し生産にこぎつけるまでに、どれだけの時間とコストがかかるかはまだ不明である。

 これに対して、サハリン島での開発ははるかに進んでいる。ここでは島内の資源の多くはすでに枯渇していて、沖合い、特に北東側の沖で、いくつもの石油・天然ガス計画が進められている(1)。これらの計画の一つであるサハリン・計画では、島を横断し、シベリア東端の石油輸出港デ・カストリへと至るパイプラインを建設しようとしている。原油はここで競売にかけられ、世界中から集まった買い手に競り落とされる(2)。同計画から得られる天然ガスの使い道として、南北朝鮮と日本に輸出することも考えられている。しかし、北朝鮮が政治的に孤立しているため、朝鮮半島の両国に関係するパイプライン建設は、近い将来では無理だと考えられる。

 サハリンII計画は、多国籍の企業連合によって行われ、シェル(55%)が主導している。複数の日本企業も参加している。1999年に第一段階が始まり、一日の平均生産量は7万バレルで、年間10億ドル以上をもたらしている。現在計画は第二段階に入っており、100億ドル以上の投資が必要とされている。これは現在ロシア連邦内で行われている、最大規模の外国投資である。ここで生産される原油と天然ガスは、サハリン南端までパイプラインを通して輸送される。島の南端にあるプリゴロドノエでは2つの港が建設中で、一つは原油、もう一つはLNG輸出用である。

 パイプラインが整備されている場合、トラックや鉄道は輸送方法としてほとんど使用されない。1993年の計算によると、4000キロにわたる距離を鉄道で輸送した場合、コストが原油1バレルあたり1.50〜2.00ドル多くかかってしまうからである(3)。パイプラインがないため、ロシアは鉄道を使って西シベリアから中国へ輸出する石油量を増やし、2006年までに1500万トンに引き上げるとの意向を最近も確言したが、この方法ではコストが高くついてしまう。


大慶か、ナホトカか
 欧米のアナリストには、ロシアが中国に石油を安く売ることを本当には望んでいないと捉える者も多い。両大国は最近国境問題を解決したとはいえ、中国はロシアの政治的ライバルとして、また産業・経済面でも競争相手として、急速に台頭した。エネルギー資源を渇望する中国は、2003年、カザフスタンから鉄道経由で約100万トンの原油を輸入した。鉄道は輸送力が低い上に、割高のコストがエネルギー産業や化学産業などの下流部門にはね返ってしまう。
 この問題を非常に懸念した中国は、アンガルスクから大慶まで2400キロに及ぶパイプラインを建設するため、ユコス・グループと契約した。石油は西シベリアの油田から送られることになっていた。しかし、2004年、ロシア政府は、まさに工事が始められようとしていた時、ユコスを攻撃した。政府の目的は、一大政治勢力となりつつあった同社を叩くとともに、エリツィン時代にまるで強奪のようにして民営化された石油産業の利権を取り戻すことだった。この攻勢は、民間の巨大複合企業の目標を、政府の目標に一致させるというプーチン大統領の方針にも即していた。

 アンガルスク=大慶間のパイプライン計画は、他の重要な要因の出現によって、雲行きが怪しくなった。これよりもコストはかかるが、もっと長い距離(3800キロ)にわたって1日100万バレルを輸送できるパイプラインの建設計画が、日本によって執拗に提案されたのである。このルートは、中国領土を迂回して走り、ウラジオストック近くのナホトカを終点とする。また、日本は50億ドルの融資をも提案した(パイプラインの建設費用は80億〜100億ドルと見積もられている)。ナホトカの港湾施設では、どの国のタンカーでもシベリア産石油の競売に参加できるようになる。この競売という手続きは、供給がタイトな時期には利ざやが大きい。

 現在、ロシアは石油販売の80%をヨーロッパ市場に依存している。ベラルーシウクライナ両国とロシアとの関係を疎遠にした最近の出来事、そして北大西洋条約機構NATO)の東方拡大は、ロシアの政策責任者に輸出先の多様化を進めさせるようになった。西シベリアの油田とバレンツ海沿岸の港を結ぶパイプライン計画への関心もその一つである。この北方ルートの方が、東シベリアの2つのパイプライン計画より短い。それだけでなく、バレンツ海のムルマンスク港からアメリカのテキサス州ヒューストン港の石油ターミナルへの距離は、ペルシャ湾からヒューストン港への距離のほぼ半分で済む。この計画は米ロ間のエネルギー協議にも適合している。この北方ルートは、ユコスの社長で、現在服役中のミハイル・ホドルコフスキーが率いる民間企業連合が、2000〜2001年にかけて提案したものだった。

 ロシア政府は、2004年12月末、シベリアのタイシェトからスコヴォロジノを経て太平洋岸のペレヴォズナヤに至るパイプライン建設について「大筋の決定」を発表した。しかしながら、日本はまだ自分たちの勝利を噛みしめることはできなかった。日ロ間の交渉がゆっくりとしか進んでいない中、ロシア政府は今や、大慶に石油を供給するために、パイプライン本線から支線を引くことをほのめかし始めたのである。スコヴォロジノから中国国境までは、50キロと短い距離しかないため、日本側の交渉担当者は気を抜けない状況にある。

 さらに、原油をどこから調達するかという問題が残っている。中央シベリア東部の生産力が潜在的には膨大であるとしても、現時点では、ナホトカ・パイプライン本線と大慶支線の両方に十分供給できるだけの生産力があるとは思えない。タイシェト=ナホトカ本線を満たすためだけでも、西シベリアで年間3000万トンを採掘することが必要で、その分、ヨーロッパ向けの輸出量が減らされるだろう。

 ロシア政府は、現在の生産量では、日本と大慶支線に8000万トンを供給することはできないと認めている(4)。中央シベリア東部の油田を開発する必要があるのはこのためである。現時点では、日本と中国への原油供給が2000万〜5000万トン不足すると考えられている。将来、油田開発とパイプライン建設の同時進行が肝要となることは明らかだ。


天然ガスの輸送ルート
 ナホトカ・パイプライン計画は、日ロ間に現在にいたるまで平和条約がないため複雑化している。ロシアは、第二次世界大戦末期にソ連軍が奪い取った千島列島の南部四島を今も手放さずにいる。以来、日本は時期によって強硬あるいは柔軟な姿勢を示しつつも、「北方領土問題」を片時も忘れたことはなかった(5)。東京ガスによるサハリン産ガスの購入は、柔軟さの一例である。これに続き、いくつもの日本企業がLNG購入に合意した。
 北東アジアは、北米やヨーロッパより天然ガスの使用率が低い。これは主に供給上の問題のためである。日本の本州では、安全基準が非常に厳しいため、また土地価格が高いため、全土にわたる天然ガスパイプライン網がない。それゆえ、日本が輸入しているLNGは、主に発電用に使われている。2003年5月、東京ガスサハリンII計画の下で、年間約110万トンの天然ガス購入に合意した。続いて、いくつかの日本企業、そしてアメリカ企業が、サハリンII計画に由来する天然ガスの購入契約を締結した(6)。

 日本とは対照的に、韓国には国内使用向けに、非常に発達したパイプライン網がある。海底パイプラインを通してデ・カストリへ輸送されたサハリンII計画の天然ガスを、さらに沿岸沿いに、北朝鮮を縦断して韓国に運ぶことは技術的には可能である。しかし、実際には南北関係が難航中のため、韓国は、中国を起点とする海底パイプラインの建設を考えざるをえなくなっている。中国を横断するパイプラインを経由してシベリアから天然ガスを輸入した方が、現在輸入しているLNGより25%コストが低くなると考えられているからだ。

 中国のすべての大都市は、公害を減らすため、至急天然ガスを必要としている。コスト的に可能ならば、上海地方と、天津・北京付近の大都市圏がLNGの供給先になるはずだった。しかし、中国政府は、国内を東西に横断するパイプラインで上海まで輸送される天然ガスに、かなり低い値段を強要した。このため、いくつもの多国籍企業は、中国内のパイプラインへの投資を中止し、浙江省の再ガス化ターミナル建設計画を凍結した模様である。

 また、中国は、年間300億立方メートルの天然ガスイルクーツク州コヴィクタのガス田から中国北東部へ運ぶパイプラインの建設を積極的に考えている。もう一つのルートは、モンゴル共和国の領土を通るもので、こちらの方が1500キロメートル短い。このルートは技術的に実現可能で、コストが安く済むのだが、1998年、ロシア、モンゴル、中国、韓国、日本の間で行われた交渉は失敗に終わった。ロシアは、ウランバートルの大気汚染を減らそうと躍起になっているモンゴルに天然ガスを売ろうとした。しかし、中国は、今でもモンゴルを自国の最北端の領土とみなす傾向があり、ロシアとの共謀の兆しがあれば何であれ疑念の目を向け、モンゴルに利益を与えまいとする。

 プーチン大統領は、2004年10月中旬に訪中したが、パイプライン問題について合意にこぎつけることはできなかった。中国はその後、原油・天然ガスの供給を増やすため、カザフスタンと交渉を重ねた。まだ完成には至っていないが、石油パイプラインの建設が着々と進んでおり、最西部のアティラウ=ケンキヤク区間はすでに稼動している。中央部分のケンキヤク=アタス区間は計画段階にあり、アタスと最東部のアラシャンコウ(阿拉山口)を結ぶ1240キロの区間についても、7億ドルで契約済みである。

 アラシャンコウからは鉄道を使って、新彊ウイグル自治区にある3つの精製所まで運ばれることになっている。カザフスタンからの石油パイプラインでは年間1000万トンが輸送される予定だが、その量はゆくゆく倍増される見込みである。この輸入は、中国の最西端に位置し、中国政府に反抗する可能性がある同自治区の経済発展のために、政治的に重要な意味を持つと考えられている。中国とカザフスタンは、天然ガスについても同様に、カザフスタン西部と新彊ウイグル自治区を結ぶパイプライン建設を検討している。両国は当然ながら、計画の実現にかかる巨額の費用を懸念しているものの、この計画は長期的な資源確保戦略の一環であると見てよいだろう。

(1) Strategic Geography, vol. XXI, 2003-2004.
(2) 開発可能な資源は、石油が23億バレル、天然ガスが4850億立方メートルと試算されている。
(3) J.L. Kennedy, Oil & Gas Pipeline Fundamentals, 2nd Ed., Pennwell, Tulsa, Oklahoma, 1993, p.2.
(4) Prime.Tass.com. 15 October 2004.
(5) Akira Miyamoto et al., in Natural Gas in Asia, Oxford University Press, 2002, pp.106-187.
(6) Cf. http://en.rian.ru/

(2005年5月号)
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