【ねこまたぎ通信】

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子供たちの戦場:ウガンダ北部内戦/上 拉致され抵抗軍兵士に

 アフリカのウガンダ北部で「神の抵抗軍」(LRA)と名乗る武装カルト教団が、18年にわたって住民虐殺と子供の拉致を続けている。政府軍の攻撃で勢力は衰えつつあるといわれるが、子供たちが拉致におびえる暮らしは変わらない。国際社会からほとんど顧みられることのない危機の実態を報告する。【ウガンダ北部で白戸圭一、写真も】

 ◇脅迫受け虐殺も

 「殺されたと聞いていたので、帰ってきてくれてうれしい。でも……」。首都カンパラの北約300キロのパガク避難民キャンプで、40代の主婦アトオルエムさんはそう言ってうつむいた。

 息子のデニス君(15)が抵抗軍に拉致されたのは5月16日。自動小銃などで武装した抵抗軍の兵士百数十人が、約1万9000人が住むこのキャンプを襲撃し、27人の子供をさらった。デニス君は数日後、すきを見て逃げ出したが、彼のように親元へ戻れた子供は2人に過ぎず、残る25人は拉致されたままだった。襲撃で29人が殺害され、17人が重傷。544軒の家が燃やされ、真っ黒な土壁をさらしていた。

 暴力は、この世に生まれる前の「子供」にも及んだ。屋根を焼かれたためビニールシートで雨をしのいでいる家をのぞくと、身重のアチョラさん(23)が地べたに横たわり、「おなかが痛い」といって泣いていた。兵士の一人に腹部をけられたのだった。

 夫のシモンさん(30)は目の前で殺害された。「妊婦の腹をけり、夫を殺すなんて人間のやることじゃない」。アチョラさんの父親のつぶやきに、様子を見にきていた近所の人たちはかける言葉を失った。

 住民は90年代半ばに激化した襲撃のため、村を捨てキャンプへ移住してきた。だが、逃げても逃げても抵抗軍は追ってくる。避難民はウガンダ北部全体で50万人を超え、拉致された子供は2万人、うち少なくとも5500人は行方不明のままだ。

 キャンプではこの日、政府軍の護衛のなか世界食糧計画(WFP)による食糧配給が行われた。北部一帯の農業が壊滅し、配給は住民の唯一の生命線。だが、住民のリーダー、レモイさん(35)は「食糧を狙った襲撃があるかもしれない」とため息をついた。

 住民の中に、食糧が配給されたことを抵抗軍に内通する人がいるという。なぜ暴虐の限りを尽くす敵に情報を流すのか。レモイさんの答えにこの内戦の凄惨(せいさん)な現実が凝縮されていた。

 「抵抗軍を好きな住民なんかいない。でも、抵抗軍兵士の多くは拉致された子供で、幹部から『命令にそむけば殺す』と虐殺と拉致を強要されています。子供を見捨てることができる親がいるでしょうか」

 子供を拉致された親たちが、我が子にひもじい思いをさせたくないと襲撃を覚悟で配給の情報を流しているのだった。

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 ■ことば

 ◇神の抵抗軍

 「神の抵抗軍」の指導者はウガンダ北部出身のジョセフ・コニーと名乗る男だ。キリスト教の一派を自称するが、実態は「常識が通じない武装カルト教団」(国連関係者)。86年に北部で女性教祖が「聖なる魂の運動」という新興宗教を始め、89年に教団中枢をいとこのコニーが引き継いだ。

 同国では70年代に北部出身のアミン大統領が恐怖政治を実施。一方、ムセベニ現大統領(86年就任)は南部出身で、不信感を持つ南北の対立がある。抵抗軍には旧政府軍幹部も加入。

 さらにスーダンキリスト教反政府勢力を支援したウガンダへの対抗措置として、スーダン政府が抵抗軍を支援、武装化が進んだ。

毎日新聞 2004年8月3日 東京朝刊