【ねこまたぎ通信】

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民主躍進でも 自民苦戦でも 

 十一日の参院選で、国民は「小泉的政治手法」にノーの声を突き付けた。民主党の躍進で、二大政党制に近づいたという「仕組み」の変化への指摘はあった。が、肝心の中身はどうか。今回の選挙では集団的安全保障の是非である「憲法九条改正」「多国籍軍参加」など戦後政治の画期となる課題も問われたはずだ。これらに国民は明確に意思表示したのか。民意と今後を展望してみると−。

 「小泉首相の手法は戦前の一部政治家と同じだ。国民はこれを警戒した」

 十一日夜、民放の開票速報で民主党藤井裕久幹事長は自民敗退の一因をこう分析した。英BBC放送も参院選の結果について「小泉氏と国民の三年間の恋愛は終わった」と評した。
 国民が「小泉サプライズ」という手法に「侮るな」と回答した選挙結果だが、ことし三月の総選挙で政権が倒れたスペインとは中身が違いそうだ。スペインでは、対米追随のイラク派兵路線を推し進めたアスナール前政権への批判が政権交代を促した。いわば、米国の「テロとの戦い」にアンチを唱えた形だ。ただ、今回、「アンチ自民」の受け皿になった民主党イラク問題でも一枚岩ではない。

 同党から比例代表で初当選したミュージシャン喜納昌吉氏は十二日未明、「憲法九条は守る。私の改憲は平和改憲で、戦争改憲ではない」と那覇市の選挙事務所で快さいを叫んだ。

 選挙戦の政策担当者は「全国の遊説で日本には戦争は似合わない、憲法九条を守るという訴えに大勢が足を止め聞き入ってくれた。自衛隊イラクから撤退すべきだ」と言い切った。

 ただ、憲法問題で民主党は「憲法の条文を『守る』ことに汲々(きゅうきゅう)としない」という「創憲」の立場を示しており、喜納氏の主張とは必ずしも符合しない。

■首相の任期までもう機会なし?

 実際、東京選挙区で同党から初当選の蓮舫氏は憲法九条について「集団的自衛権を行使しない条項を明記した改正は行うべき」との立場だ。選挙戦では憲法問題はあえて問わず、「聞かれれば答える」(選挙事務所)という程度に抑えた。

 同じく同党から当選した経済通の浅尾慶一郎氏(神奈川選挙区)は「改憲には条件付きで賛成。戦争放棄の条項は必ず残すべきだが、自衛権の範囲の定義は必要」という。イラクへの自衛隊派遣には「首相の独断で多国籍軍参加を決めた手続きには問題があるが、一定の成果があった」(選挙事務所)と評価する。

 小泉首相集団的自衛権行使のために改憲すべき、とNHKの討論番組で強調したのは先月末。自民党憲法調査会も先月中に論点整理をまとめた。しかし、党内での議論は改正の中身まで煮詰まらず、参院選では憲法問題や多国籍軍参加問題については候補者らに任せざるを得なかった。

 公明党はどうか。埼玉選挙区で当選した西田実仁氏は「憲法改正は必要だが、憲法九条の平和主義原理は堅持すべきだ」としつつ、多国籍軍への参加については「賛成。国民の間に誤解があるので政府ともども説明に努めたい」という。

 今回の参院選では本来、「戦後日本の曲がり角」を示す改憲問題などが正面から問われるべきだった。というのも、二〇〇六年秋の小泉首相の任期いっぱいまで衆院の解散・総選挙がなければ、民意を問う新たな機会がないからだ。

 とはいえ、投票率は56・57%と前回(二〇〇一年)をわずかに0・13ポイント上回るにとどまった。

 慶応大学経済学部の金子勝教授(経済学)は「この選挙の意味を若い人らは甘く見ていて投票に行くのを怠った」と残念がる。その意味を同教授はこう説く。

 「実は小泉首相にとっては、憲法九条だって変える必要はない。骨抜きにすればいいだけだ。多国籍軍参加など、既成事実を積み重ねて現実と憲法のかい離を広げる。この政権の怖さは改憲とかではなく、議会制民主主義法治主義を無視しているところだ」

 金子教授は「小泉氏は自民党の最後のトリックスター(道化)で、実態と法律のかい離を広げる地ならし役だ。その後は当然、かい離を埋めろという議論しか出てこない。強烈なスターが出てくればファッショになる」と懸念する。

 東京管理職ユニオンの設楽清嗣書記長も、今回の選挙結果が必ずしも「タカ派」路線への阻止線たり得ない、とみる。

 「小泉がダメなら、次は明確にタカ派の石原(東京都知事)という選択が出てきても不思議ではない。それに対し、民主党が防波堤になれるかといえば、党内に石原応援団がいることをみても期待できない。その意味で、やせても枯れても共産党社民党という“抵抗勢力”は健全な民主主義に必要だったのだが…」

■公明「院政」で歯止め役に?

 ただ、与党間で自民党公明党に一段と依存体質を深めたことで、結果的に公明党が歯止め役になる可能性はないのだろうか。

 政治評論家の森田実氏は「(自民党政権の実態は)公明党院政という言葉も出てきている。公明は護憲の党ということになっている。公明の同意ができなければ、改憲の動きは鈍る」と予測する。ただ、設楽氏は「(支持母体の)創価学会が強く護憲に回る可能性はある。が、公明党自体は与党連立の魅力に勝てないだろう」と指摘する。

 結局、今回の選挙で「曲がり角」は問われたのだろうか。そして、現実に生まれた選挙結果により何が変わりうるのか。

 慶応大学法学部の小林良彰教授(政治学)は「何も変わらないだろう」と総括する。「今回の選挙は、今後をどうするかという政党の主張で有権者が選んだわけではない。三年前の選挙は小泉政権への期待で投票した。今回は年金問題など実績に対し、審判を下した。三年前の期待と、現実に手にした改革の成果とのギャップが大きければ、否定的な評価につながる」

 金子氏も「有権者自民党にお灸(きゅう)をすえたかったけど、大きな変化は求めないという、いつものパターンだ」とこれに同意する。

■「変化の兆し」肯定的評価も

 一方、森田氏は地方の一人区でも民主党が互角の戦いを演じたことに注目し、「小泉政治にストップをかけたという意味は大きい。地方の経済はすごく悪い。中央だけ、強い人間だけ、大企業だけが生き延びる弱肉強食の冷たい政治が、小泉政治だという意識が国民に浸透した」と語り、それだけでも「変化の兆し」とみて肯定的に評価する。

 中身の問いは不発でも、二大政党制の流れが強まったことが、逆に中身に変化を与えないだろうか。

 設楽氏は「二大政党制はあくまで疑似的だ。原因は民主党自らにある。年金は問えたが、安全保障など改憲がらみは問えない。ここで争点をつくると党がバラけるからだ」と懐疑的だ。小林氏は民意を民主党が受け止められるか、が同党の今後を占うかぎとみる。

 「今回、有権者は死に票にしたくないから共産、社民両党に入れなかった。民主党の躍進は、消費税問題で自民批判票が流れた一九八九年の社会党と一緒だ。民主党に今回入れた人たちと同党の間には、距離がある。党が歩み寄って埋めていかなければいけない。今回の選挙結果は自民党ではなく、むしろ民主党に課題を突きつけている」

東京