【ねこまたぎ通信】

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イラク派遣: シーア派巡礼、「不測の事態」警戒も

 陸上自衛隊主力部隊が21日出発し、日本のイラク復興支援はいよいよ本格化する。主力部隊は3月下旬まで3回に分かれてイラク南部サマワに派遣され、陸自の総勢約550人が支援活動にあたる。だが、イラク国内では3月初めにピークを迎えるイスラム教シーア派の宗教行事「アシュラ」に合わせて数百万人規模の大移動が予想され、サマワの警察当局は「テロリストが入り込む可能性がある」と警戒。政府も「不測の事態」に神経をとがらせている。
 「今日はこれで32台目。明日からは1日100台以上は通るだろう」。サマワ南部のイラク警察検問所。アシュラを目前にした20日正午、サマワから北へ約200キロの聖地カルバラに向かう大型バスが、イラン人巡礼者らを満載して次々に走り去った。小銃を肩にかけた警官が顔写真入りの登録書類を一瞥(いちべつ)するが、本人の照合や人数の確認はなく、ものものしい雰囲気は今のところはない。書類なしで通過するバスも珍しくない。

 多数派シーア派の組織化を恐れるスンニ派主導の旧フセイン政権は、1980年代からアシュラの祭礼を禁止し、外国人巡礼者も制限してきた。昨年のアシュラは、イラク戦争バグダッドが陥落した後の4月後半にあたったが、今年はこれまで年配者に限られていた年齢制限を解かれたイラン人に加え、戦後の混乱が一段落した南部からのイラク人巡礼が大幅増する見込みで、空前の数百万人規模がカルバラに向けて大移動するとみられる。通過点の一つとなるサマワでは祭礼の飾り付けも盛んだ。

 3月にかけての時期は陸自主力部隊のサマワ入りと重なる。不特定多数の巡礼者が行き来するため、地元有力紙「アッサマワ」のユシフ・ジャビル編集次長(33)は「部族社会の住民相互監視態勢がゆるみ、テロリストが入り込みやすい。とくに、協力者なしで実行できる車載爆弾テロは要注意」と警告した。

 サマワの警察当局も警戒を強めているが、巡礼者用バスを運行する市内の旅行業者(27)は「警察の検問は形式だけ。国際テロ組織アルカイダの戦闘員が、アフガニスタンパキスタンからイラン経由で入り込むのもたやすい」と治安悪化を心配する。この業者は「書類を備えた合法的な巡礼バスのほかに、イランとの関係が深いシーア派政党などが組織する非合法バスも多い」と明かした。

 サマワ入りしている陸自佐藤正久・業務支援隊長は19日、「安全管理は続ける。大きな影響はない」と強調した上で「幹線道路が混雑する可能性はある。交通事故の危険にも注意しないと……」と懸念の一端をのぞかせた。移動中の陸自車両が渋滞で立ち往生した場合、テロ組織の襲撃が容易になる恐れも否定できない。【サマワ井上卓弥】

 ◇活動休止も検討

 防衛庁陸自主力部隊の派遣開始時期と「アシュラ」が重なることに警戒を強めているが、巡礼者にテロリストが紛れ込むのを防ぐ有効策はなく、最悪の場合は支援活動を休止し、宿営地内に閉じこもることも検討している。

 今月12日、サマワの市街地に迫撃弾が撃ち込まれた事件は政府に衝撃を与えた。石破茂防衛庁長官は記者会見で「自衛隊を狙ったものではない」ことを根拠に「自衛隊の活動に影響はない」と強調したが、自衛隊がテロの標的にされれば、政府が主張してきた治安安定の根拠も崩れる。福田康夫官房長官も「これが本当にテロ攻撃だとなれば、重く受け止めなければいけない」と述べた。

 政府はサマワの治安が安定している理由として、テロリストら不審者の侵入を発見、通報する部族社会の監視機能を挙げてきた。巡礼者の流入によってこの監視機能も働かなくなるため、「主力部隊が到着しても、しばらくは宿営地から一歩も出ず、宗教行事が終わるのを待つしかないかもしれない」(防衛庁幹部)との声も出ている。【宮下正己】

 ◆ことば◆アシュラ 680年、イラク中部カルバラでスンニ派に虐殺されたイマームフセインの殉教を悼むシーア派最大の宗教行事。預言者マホメットの孫、フセインを正統とするシーア派の起こりとなった。巡礼者がカルバラを詣で、悲劇を再現するため、自分の体を鎖のついた棒でたたいたり、泣き声を上げる風習がある。

 ◇あいまいな復興の中身、現場に懸念

 政府のサマワ復興に関する具体的な詰めの甘さから、「住民の期待を裏切れば、一転して敵意に変わりかねない」(防衛庁幹部)という懸念が派遣部隊に広がっている。

 政府がサマワの治安が比較的安定していると見る大きな根拠には、強い部族社会で成り立ち、テロリストが侵入しにくい点がある。逆に部族の反感を買えば、取り返しがつかない事態となる。

 このため陸自は地元住民との対応に気を使う。失業対策を熱望する声に応えて、さっそく派遣部隊は宿営地建設に地元の建設業者を雇用。さらにサマワ総合病院での医療支援を、体制が整っていないのを承知で19日から実施した。住民にヒツジ計50頭を贈ったところ「なぜうちはもらえないのか」と不満の声があがる経験もした。

 しかし雇用も1日500〜600人にとどまり、不満は解消されそうもない。派遣部隊の裁量だけでは限界が目に見えており、そのイライラは「すべて部隊の責任にされる」(防衛庁関係者)と外務省への不満にもつながっている。

 「検討しているでは信用できない。具体的な対策を引き出してこい」。昨年12月の陸自派遣決定後、防衛庁首脳は外務省との交渉役である幹部職員をしかりつけた。同庁は、陸自派遣に続いて政府の抜本的なサマワ復興策が打ち出されると信じていたが、具体策が示されなかった。ようやく外務省は具体的な復興策を探るため、1月16日に出発した陸自先遣隊と一緒に職員5人を派遣。しかし、テロ攻撃などの危険があり、5人が間借りしているオランダ軍の宿営地から単独で出るのは難しく、復興策に関する現地との交渉は派遣部隊が中心となっている。

 「本来の任務以外に外務省の仕事も押し付られ、負担が大きい」(防衛庁関係者)。「復興」の中身をあいまいにした付けが、派遣部隊に重くのしかかっている。【松尾良】

毎日新聞2月22日] ( 2004-02-22-08:58 )