【ねこまたぎ通信】

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まともである.

愛媛新聞社説 2003.04.20(日)

アリ君の受難 寄り添う言葉、世界は知らない

 手術帽をかぶりベッドに横たわる少年がいる。その両の腕は付け根からない。真っ白い包帯がむなしく巻かれている。
 イラク戦争で米軍の空爆に遭ったアリ・イスマイル・アッバス君(12)である。顔は激痛のためか、ゆがんでいる。
 バグダッドにあるアリ君の自宅は夜間、ミサイル爆撃された。自分の両腕だけでなく、家族全員を一挙に失ってしまった。かつぎこまれた病院で「この腕が元通りにならないのなら、自殺したい」と担当医に漏らしたとも伝えられる。
 アリ君が被った受難はメディアを通じて世界に流された。今では、英国を中心に「アリ君を救え」という運動が世界じゅうに広まっている。激励のメッセージもアリ君のもとにたくさん届けられているという。
 しかし、どうであろうか。アリ君に寄り添う言葉など、そう簡単に見つかるはずもない。戦争が起きてしまった後の人道支援の難しさをあらためて思うのである。
 言葉を換えれば、戦争に賛同しておいて「人道支援」を口にすることが、いかにナンセンスか、という問題である。
 ただ、十年にわたる経済制裁と今回の戦争でイラク国民はどん底の苦しみの中にある。一方で、戦後復興をめぐる国際社会の不協和音も続いてもいる。
 そんななかで残念ながら、日本政府の姿勢からはイラク支援というよりも「対米支援」といった側面が色濃くにじむ。米国のイラク復興支援室(ORHA)に政府要員を派遣するというが、米国に対して存在感を発揮したい、イラクの戦後経済への影響力を担保しておきたい、との思惑も見え隠れする。
 これではいけない。要は、イラク国民のための人道支援をできることから始めることだ。バグダッド周辺では散発的な戦闘が続いているが、差し当たり、医療支援チームぐらいはいつでも派遣できる体制を整えておきたい。
 イラク戦争が始まって一カ月。一般市民の被害は相当数にのぼっている。誤爆などによる市民の犠牲者は約千八百人にのぼり、けがをした人は五千人を上回るとされる。
 病院といえば医療器具や医薬品が底を尽き、停電のため消毒タオルさえ不足している。このため、多くの患者は十分な処置がなされないまま待機させられているのが現実だ。
 腕をなくしたアリ君にしても最初運び込まれたバグダッド市内の病院は略奪被害のために必要な機材が整わなかった。このため、米軍機がクウェートの病院まで緊急転送した、と伝えられる。
 混乱の中にあってなお正確な数はつかめないが、市民の被害はますます増えそうである。劣化ウラン弾による白血病などの健康被害も広がる可能性がある。医療・疫学面で被爆国・日本らしい支援をきっちり果たしていきたい。
 英米の戦争を支持した日本政府は、多くのアリ君たちの受難に向き合う義務がある。