東ティモール調査打ち切り 人権委が近く新聞発表
「今後は難民帰還支援」
「当事国が真相究明を」
国連人権高等弁務官事務所
一九九九年に起きた東ティモール騒乱事件のインドネシア国軍の人権侵害を調査してきた国連人権高等弁務官事務所(UNHCHR、本部・ジュネーブ、セルジオ・デメロ高等弁務官)の人権委員会(ハジャジ委員長、リビヤ出身の女性)はこのほど、インドネシア、東ティモール、欧州連合(EU)の三者代表会議を開き、来年以降、同事件を議題として取り上げることをやめ、今後はインドネシア領に残された難民帰還問題を支援していくことで原則的に合意した。この合意について、インドネシア外務省ジュネーブ代表部のラマダシャ・ハッサン書記官は二十一日、じゃかるた新聞に「合意の内容は一両日中に新聞発表する。三者合意はインドネシア政府にとって歓迎すべき内容だ」と語った。
二十一日付ジャカルタ・ポスト紙も、インドネシア外務省のジュネーブ代表から得た情報を基に、十七日に開いた三者会議で、今後の活動はインドネシア領に残る約三万人の東ティモール難民帰還に関し、東ティモール政府とUNHCHRの間の支援問題を取り上げる。人権問題については、今後、インドネシアと東ティモールが、それぞれの人権調査機関や司法機関によって究明するよう提案していると伝えた。
しかし、インドネシアで現在進行中の東ティモール特別人権裁判の一審や控訴審については、「公正な裁判」を行うため適切な措置を講じるよう求めており、インドネシア政府が人権侵害の真相を厳しく究明するよう勧告している。
同人権裁は、インドネシア国軍の人権侵害を解明するため国際法廷を設置するよう求める国際社会の圧力に応え、昨年三月から審理が開始された。
これまで、元東ティモール州知事アビリオ・ソアレス被告(控訴中)、元併合派民兵組織リーダー、エウリコ・グテレス被告(同)、元ウィラダルマ地域軍管区司令官ノエル・ムイス被告(同)ら五人に対し有罪判決を下したが、いずれも人権裁判法に規定された最低刑禁固十年を下回る禁固三−十年という軽い判決が出されている。
また、一九九九年八月末の住民投票後に起きた虐殺事件を指揮したとされる国軍幹部の多くが有罪を逃れたほか、当時の国軍司令官だったウィラント氏が不起訴となり、インドネシアの人権活動家の間からも国際法廷の設置を求める声が上がっていた。
インドネシア大学教授(国際法)のヒクマハント・ジュワナ氏は二十日、「東ティモールで起きた人権侵害を裁く機会を逃してしまうことになるだろう」と懸念を表明。UNHCHRが、異例の決定を出したことについて「人権侵害のような国際犯罪の裁判が議論を呼ぶのは、一般に力の弱い国や敗戦国が訴追の対象となるからだ。インドネシアもそうした弱い立場にあったが、米国のイラク侵略で状況が一変した。米国は世界秩序を破壊したが、国際裁判に持ち込まれることはない。今回のUNHCHRの決定で、国内での裁判を見直すことも可能となった」と、国内の人権裁判にも大きな影響を与えるとの見方を示した。