【ねこまたぎ通信】

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高まる反米、反英、反ユダヤ主義−フランス イラク攻撃で混乱深刻化

 最後まで対イラク武力行使に反対したフランスは、世界のピースメーカーの指導的国家のように言われる半面、国内の混乱は治安問題にも発展しそうな情勢だ。反米、反英運動は、日ごろ対立関係にある極右、アラブ系移民を巻き込み、さらには反ユダヤ主義の台頭も懸念されている。イラク問題が移民問題に飛び火する可能性も出てきて、仏政府は手を焼いている。
(パリ・安倍雅信)

複雑な国内事情反映移民問題に飛び火も

 南仏ニームイスラム教指導者が今月四日、イラク攻撃への抗議の声を上げた。ニームのモスクの指導者モハメド・カタリ師は、集まった約千人の参拝者に対し、「アメリカ製品を買ってはならない。一ユーロあるなら、それでイラク人民の命を救え」と訴えた。
 全国に欧州最大の約五百万人を超えるイスラム教徒を抱えるフランスでは、イラク問題は直接的な影響をもたらす。毎週末に行われるイラク攻撃への抗議デモでは、イラクアルジェリアパレスチナの旗が掲げられ、多くのアラブ系移民がデモに参加している。サダム・フセイン大統領やアラファト議長の写真を掲げ、アメリカや英国の旗を燃やし、気勢を上げる。
 一方、三月末、英仏海峡に近いノルマンディー地方の英国兵墓地で、記念碑に「サダム・フセインは勝利し、おまえたちは血を流す」「英国野郎 ゴー・ホーム」などと書かれた落書きが発見され、仏国内に衝撃を与えた。記念碑のもう一方には、ナチスかぎ十字と「ヤンキーに死を!」という言葉も書かれていた。
 仏大統領府は、この事実が発覚した先月二十七日、「わが国の解放のために犠牲になった英国兵の墓地を汚す行為に強いショックを受けている」と遺憾の意を表明、三日には、シラク大統領がエリザベス女王に書簡を送り、犯人追及を誓った。また、同墓地では英国兵をしのぶ、特別式典も行われた。
 エタップルにある第一次大戦時の病院跡に造られた同墓地には、フランス解放のために戦った約一万一千人の英国兵の遺骨が埋葬されている。また、ロンドンを三日に訪れたドバブレ仏国民議会副議長は「野蛮で非道で卑劣な行為」と非難、同副議長は「このような行為はフランス人の心から出たものではない」「必ず、犯罪者を突き止め、裁く」と述べた。
 捜査当局は、落書きの内容から、サダム・フセイン政権を支持している極右過激派団体の犯行とみて、捜査を進めている。その一方で反米、反英運動が、アラブ系移民と極右団体によって反イスラエル反ユダヤ主義に発展することも懸念されている。
 第一に、米国の強い支援を背景に成り立つイスラエル政府に対して、パレスチナ寄りのフランスの左派勢力やアラブ系移民たちが、この機会にユダヤ攻撃を先鋭化しようとしている。先月二十二日には、パリでの抗議デモの最中、デモに参加していたユダヤ人四人が、アラブ系の若者集団に襲われ、金属棒で殴られる事件が起こった。
 続いて二十七日には仏北東部ストラスブールでのデモ行進がエスカレートし、アラブ系の若者たちが通りに駐車中の車を破壊、警官と激しく衝突、デモ隊は「ブッシュ、シャロンヒトラー」というプラカードを掲げて暴れた。また同日、パリ北郊外のシナゴーグユダヤ教礼拝所)から出てきた女性が、投石に遭い負傷する事件も起こった。
 米英に次いで、第三の標的となっている在仏のユダヤ人の中には、イラク攻撃反対デモに参加している人々もいる。反戦という一点では共通項を見いだしているフランス人、アラブ系移民、ユダヤ系移民、極右勢力は、他の点では逆に深刻な対立を繰り返している実情もある。湾岸戦争の時は大きな対立のなかったアラブ移民とユダヤ人だが、今回は異なるともみられている。
 国立人権諮問委員会(CNCDH)は、二〇〇二年は前年に比べ、ユダヤ人住居や施設への攻撃が急増、記録された三百十三件の民族主義的暴力事件のうち、百九十八件が反ユダヤ主義に基づくものだったと報告している。そして、同諮問委員会は、多くの事件が移民間で起こっており、イラク攻撃とともに、ユダヤ人とアラブ人の衝突激化は深刻化する恐れがあると予想している。
 フランスでは九割の国民が、シラク仏大統領が打ち出した反戦路線を支持しているといわれるが、国内の事情は複雑だ。失業と差別に苦しむアラブ系移民の若者は今後、ユダヤ施設を襲撃したり、デモで暴徒化する可能性が出てきた。
 戦争を止められず、イラクの戦後復興へのフランスの深い関与も難しいといわれだした昨今、仏国内には国際社会に対する無力感も漂い始めている。仏マスコミは連日、ニュースのほとんどの時間をイラク報道に割き、特に一般市民の犠牲者報道に力を入れている。そのため、反米、反英、反イスラエル感情はさらに高められ、国内の混乱はさらに深刻化しそうだ。

 2001年、02年の仏国内で起きたユダヤ施設襲撃事件例
01年2月24日 ティフェレ・ユダヤ人学校内で、爆発
  5月8日 パリ20区のシナゴーグでガス爆発
  6月1日 ジュルジュ・レ・ゴネスのシナゴーグで投石
  7月28日 オート・ド・セーヌ県のシナゴーグ入り口の事務所で暴力事件
02年3月30日 リヨン郊外のシナゴーグに車2台が突っ込む
  3月31日 マルセイユシナゴーグが放火で全焼
  4月3日 パリ郊外のユダヤ人学校のスクールバスに放火・全焼
  4月4日 モンペリエシナゴーグに火炎瓶投げ込まれる