【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

相手に関係なく,とにかく先制攻撃,「衝撃と畏怖」に戦く米兵たち

米兵発砲で女性、子供7人死亡 報道と食い違いも

 イラク中部の町ナジャフ北方で31日、検問に当たっていた米兵が、女性と子供らで満員状態のワゴン車を機関砲で銃撃し7人が死亡した事件で、米中東軍は同日、「兵士は自衛のために交戦規定に従って対応した」との声明を発表した。事件現場は29日に米兵4人が自爆攻撃で死亡した検問所から約32キロしか離れておらず、「停止命令」をきかなかったとされるワゴン車に米兵が過剰反応した可能性が強まっている。
 米中東軍の発表では、ワゴン車には13人が乗っており、7人が死亡、2人が負傷した。しかし現場からの報道ではワゴン車には15人が乗っており、10人が死亡したとされ、中東軍の発表と食い違っている。

 中東軍は事件を調査中だとしながら「イラク体制による最近のテロ攻撃に照らし、兵士は不必要な人命の損失を避けるよう相当程度、自制した」と主張している。

 イラク軍が自爆攻撃を強化する方針を明らかにしており、今後もこうした事件が続発する可能性が強い。事件の経緯を検証した。

 事件が起きたのは31日午後4時半。検問所を固める陸軍第三歩兵師団の「ブラボー歩兵中隊」の前に、トヨタ製の青いワゴン車がゆっくりとやってきた。ロイター通信などによると、この時、複数の兵が手の平を下に向け停まるよう合図したが、車は向かってきたと米軍側は説明している。

 現場はナジャフから北に伸びる国道9号線と、ユーフラテス川の対岸の町ヒラからの街道の交差点にあり、前の日に検問を始めたばかりだった。 事件を直接目にした記者はいない。ただ米ワシントンポスト紙の記者が現場近くにおり、ブラボー中隊から話を聞いている。同紙によると、まず交差点にいた指揮官のジョンソン大尉が車のそばにいた中隊に無線で命令を下した。

 「警告射撃しろ」。しかし部下は発砲せず、車はそのまま交差点へ向かった。ジョンソン大尉は、7・62ミリ口径のマシンガンでラジエーターを撃てと命じ、中隊はこれに従ったが、車はそれでも停まらなかった。

 大尉は怒鳴り続けた。「彼(運転手)を停めろ、停めろ!」。これを聞いた中隊は今度は25ミリ口径の機関砲を一斉に発砲した。何発放たれたか不明だが、同紙の記者は6発ほどの銃撃音を聞いている。

 銃撃を止めさせ、双眼鏡で車をのぞいたジョンソン大尉はこう叫んだという。「お前たち、家族を殺しているじゃないか。すぐに十分に警告射撃をしなかったからだ」

 犠牲となったイラクの女性たちは、停まれの合図を理解できたのか。ラジエーターへの発砲をどう受け止めたのか。米兵はなぜ機関砲という殺傷力の高い武器を使わねばならなかったのか。

 ワシントンポスト紙によると、車には15人が満載され、5歳以下とみられる子供5人と女性5人の計10人が死亡。機関砲の弾が何人もの体を貫通し、残る5人のうち男性1人が瀕死の状態だった。負傷した女性はずたずたになった子供の遺体を抱え、米兵が近づいても外に出ようとしなかったという。

 「あんなひどい光景は見たことがない。もう2度と見たくない」。中隊のマリオ・マンサーノ軍医(26)は同紙にこう証言している。車には爆発物も銃も、不審なものは何もなかった。米軍は無傷の生存者に遺体を収容するバッグを10袋と、賠償金としていくらかの現金を渡そうとしたという。

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 米国防総省は31日夜、「車両は口頭での命令や警告射撃を無視したため銃撃された。この銃撃について現在、調査を進めている」と声明を発表した。同省高官からは「彼らは正しいことをした」との声も聞かれる。

 2日前の自爆攻撃では、米兵4人がタクシー運転手を装うイラク兵と言葉を交わしトランクを調べたところ、体を吹き飛ばされた。戦闘に参加せず、検問や市民のボディチェックが任務の兵にとり、4人の死が生々しい現実の脅威となったのは疑いない。

 30日以降、米兵は家族連れや子供まで手荷物や衣類をチェックし、彼らの動きを神経質なほど細かく上官に報告しているという。マイヤーズ米統合参謀本部議長は30日、自爆攻撃について「作戦や手順を調整しなければならないが、対処できる」と語っている。ただ議長は「実際に戦死者が出ており、兵士の衝撃は大きい」とも漏らしていた。

【ワシントン藤原章生、アッサイリヤ基地(カタール)福島良典】

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 事件は、イラク軍部隊による自爆攻撃を極度に警戒する米軍の姿勢が「非戦闘員の人命保護」よりも「自衛」を優先、民間人を殺害する結果を招いた。民間人の犠牲増大が国際社会の反戦機運に与える影響は大きく、イラク戦争を「占領ではなく解放」と主張する米軍は戦術の軌道修正を迫られそうだ。

 自爆攻撃について米中東軍のフランクス司令官は3月30日の記者会見で「テロリストと戦術、テクニック、手法において類似性がある」と指摘。ゲリラ戦法を取るイラク側を非難して、「対テロ戦争」の側面を強調した。司令官は米英軍が「イラクの非戦闘員を守るために全力を尽くすことは変わらない」としながらも、「今後、民間車両にただちに近づかず、先に車から降りてきてもらうかもしれない」と述べ、住民との接触に注意を払う方針を示唆したばかりだった。

 これに対してイラクのアジズ副首相は30日、欧米テレビのインタビューで「彼ら(自爆者)は侵略者、植民地主義者、帝国主義者に立ち向かう英雄だ」と反論した。イラクは自爆攻撃に対する報償を約束、アラブ諸国から「殉教志願者」約4000人がバグダッド入りしていると明らかにした。【アッサイリヤ基地(カタール)福島良典】
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野木恵一氏(軍事ジャーナリスト)の話 各国の軍隊は発砲の条件などを定めた「交戦規程(ROE)」を持っている。内容は国ごとに異なる。当事国はその時々の戦争の性格などに応じて規程を定め、状況に応じて見直しを行う。例えば、敵側から銃撃を受けた時、即時反撃を認める場合もあるし、相手を確認し上官の許可を得ることを求める場合もある。他国から逆手に取られる可能性があるため、各国のROEの内容は秘密にされている。

 イラク南部での今回の銃事件が米軍のROEに則ったものかどうかは、調査結果を待たねば正確なことは分からない。通常、調査対象となる兵士は任務を外れ、戦線の後方で事情聴取されるなど、犯罪捜査に準じた方法で調査される。違反が判明すれば軍法会議にかけられることになる。

 ナジャフ近郊で自爆攻撃を受けた米軍は、ゲリラ的な攻撃に神経質になっている。末端の兵士がパニックに陥り、民間人とゲリラの区別がつき難くなっているのなら、イラク側の策略にはまっていると言える。【聞き手・樋口直樹】

毎日新聞4月1日]