【ねこまたぎ通信】

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象牙問題 ワシントン条約会議開催中

環境:インド象に新たな密猟の危機 象牙取引に規制緩和の動きで

南部アフリカ5カ国が提案 チリで野生動物保護国際会議

インド象が新たな密猟の危機に直面している。南米チリで開かれている野生動物保護国際会議が、南アフリカなど南部アフリカ5カ国での象牙の国際取引を緩和する可能性が高まっているからだ。緩和が決まれば、象牙への需要が再び高まり、その流れがインド象の密猟を加速させると懸念されている。野生動物保護に全力を挙げるインドの環境・動物保護団体は緩和禁止を求めるとともに、インド政府などに野生象の密猟防止を強く訴えている。
ニューデリーIPS(ランジット・デブラジ記者)】南米チリの首都サンティアゴで今月3―15日、野生動物保護に関する国際会議が開かれている。同会議で注目されているのが、「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約」(ワシントン条約)で厳しく規制されている象牙の国際取引を一部緩和する問題だ。
緩和要求を出しているのは南部アフリカの5カ国(南アフリカナミビアボツワナザンビアジンバブエ)。ワシントン条約は現在、アフリカ象象牙に関して「管理取引」制を採用、取引に一定の枠をはめている。これに対し同5カ国は野生象の繁殖増加などを理由に、取引規制の緩和を求めており、会議がこれを認める方向に進んでいる。
これに対しインド象は同条約で「商業取引全面禁止」対象にされているが、インドの環境、野生動物保護団体などは、アフリカ象規制緩和インド象にも影響を及ぼすのは避けられないと懸念を強めている。

象牙細工の本場・ケララ

象牙の取引は歴史が古く、旧約聖書にはイスラエルの王ソロモン(在位、紀元前910―931年)がインド南部マラバル(現ケララ州)から象牙を運んでいたことが記されている。象牙はその当時から細工の貴重な材料として珍重されていたのだ。
インドではケララ州が象牙の“産地”で密猟が横行したため、インド象の牙は1990年にワシントン条約で売買を全面禁止された。この結果、人形、装飾品、小箱、チェスの駒などに使われる象牙細工の供給が同州都トリバンドラムの街から減少し、これに伴い野生象の生息数が回復し始めた。
ところが最近、ケララ州だけではなく、隣接するカルタナカ州、東部オリッサ州、西部ラジャスタン州で象牙細工の密売が急増していることが分かり、「世界自然保護基金」インド支部などがインド象を含めアジア地域に生息する象の保護活動を進めている。地上に住む最大の哺乳類はアフリカ象で、インド象はこれに次ぐ大きさを誇っている。
同基金インド支部のタリク・アジズさんは「インドでの象牙取引が再び活発化している。最近の調査によると、外国人観光客が詰め掛ける有名観光地で、細工などで価値を加えた象牙が多数発見されている」と語り、密猟者たちが暗躍し始めていることに警戒を強めている。

▽インドは規制緩和に反対

保護団体などからの呼び掛けもあり、インドとケニヤ両政府は象牙取引の一部規制緩和に強く反対している。現状でも規制が守られていないのに、緩和措置を決めれば、象の生息国で密猟と不正取引が野放し状態に陥るのは目に見えている、というのが理由だ。
ケララ州政府は今年5月、インド野生動物保護協会の協力を得て象牙取り締まりを実施し、多数の象牙細工を押収した。中には重さ40キロ、長さ1.2メートルにも達する象牙細工があった。同協会の関係者は「これら押収品からインドでどれだけの象牙が秘密取引されているかが一目瞭然だ。極めて深刻な状況で、野生象は再び大きな危機に直面するだろう」と警告している。
押収された象牙にはヒンズー教の神々が彫られていた。皮肉なのは、ヒンズー教で「知恵の神」とされ、人間の体に象の頭を持つガネーシャが彫られていたことだ。これだけ多くの象牙細工を作るには少なくともオスのインド象3頭が殺されたとみられる。密猟現場は、6000―1万頭の野生象が生息する南部インド・ニルギリ森林と推測されている。インド象の死因のうち65%が象牙を狙った密猟による殺害といわれる。

▽狙われるオスのインド象

南アジアや東南アジアでは象は神聖な動物とされるだけでなく、宗教行事や王室関係の行事の主役としても珍重されている。それにもかかわらず、象牙を狙う密猟は後を絶たないのが実情だ。アフリカ象はオス、メスの両方が牙を持っているが、インド象は大きな牙を持っているのはオスだけ。このためインド象ではオスが密猟対象となり、その結果、オスとメスのバランスが崩れる深刻な状況が起きることになる。
野生動物保護団体は地方政府などと協力し、拠点地区を設け、密猟を取り締まるパトロール活動を続けている。
アジアに生息する象の牙がワシントン条約で全面取引禁止対象になったのは1970年代のことで、その際、アフリカ象のそれはより緩い監視取引対象とされた。このためアフリカ象の密猟が進み、1987年までにアフリカ象の生息数は半減し、89年に象牙取引に厳しい規制が適用された。

▽取引の国際網壊滅がカギ

国際的な象牙取引ネットワークが存在し、アフリカ象の牙がインド・ケララ州の象牙細工業者の手にも渡っている。保護団体の活動家は「こうしたネットワークを壊滅させる必要がある。野生象を保護する唯一の手段は、象牙取引を全面的に禁止し、同時に象牙の在庫を完全処分することだ」と主張する。
しかし、前途は不透明だ。チリでの野生動物保護国際会議がアフリカ象に適用されている監視取引の規制を緩和する可能性があるからだ。そうなれば、巨体をしながらもおとなしい性格を持つ象の生息が脅かされることになる。


【メモ】ワシントン条約 「絶滅の恐れのある野生動植物の種の国際取引に関する条約(CITES)」が正式名称。輸出国と輸入国が協力して国際取引を規制することにより、絶滅の恐れのある野生生物を保護するのが目的。1973年にワシントンで調印され、75年に発効。日本は1980年に批准。現在の加盟国数は160カ国。対象の動植物は約3万5000種。

IPS 11/15配信