【ねこまたぎ通信】

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 反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/3

反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/3

 ◇「ドリーム」体現の地−−自由に引かれ、退廃に疲れ

 ヘラルド・ロペスさん(35)はこの町で初めて自由を感じた。「一切のしがらみから解かれた気がした」。友人を訪ね2、3泊のつもりで来たが、「自分が求めていた楽園だ」と永住を決めた。共に自然食品店を営んでいた西部グアダラハラの母に電話すると「帰ってきなさい」としかられたが、そのまま居つき6年が過ぎた。

 欧米や日本の旅行者が訪れるリゾート地、カンクン。絵の具の群青を溶いたようなカリブ海を背に、半裸の米国人が行き交う。笑顔をふりまき、欧州人や日本人の何倍ものチップを差し出す。チップだけで一晩で400ドル稼ぐウエーターもいる。

 「ここでは学位もコネもいらない。やる気があればいくらでも上っていける」。メキシコは互いを学士、技師、建築士と称号で呼び合う、中南米一の学歴社会だ。就職も家柄やコネ、裏金が物をいう。何一つないロペスさんにとって、米系の観光業が集まるカンクンはアメリカン・ドリームの世界だ。

 ウエーターをしながら学校に通いマッサージ師になった。月収は最低でも1500ドル。米国で一日12時間オレンジ摘みをしても月収800ドルほどにしかならない。「英語さえ覚えれば、米国以上の収入が得られる」

 ロペスさんがカンクンに引かれるもう一つの理由は同性愛者に寛大なことだ。グアダラハラでは同性愛を嫌うカトリックの強さに息が詰まる思いをした。カンクンのホテル街にはあらゆる快楽が用意されている。だが、年少者の売春もひどく、アナウワック大講師、ヘイディ・フアレスさん(30)は「米国の学生が押し寄せる春が特にひどい。ディスコでの性行為が当たり前になっている」と嘆く。

 カンクンは30年で人口が200倍の60万人に膨れた。開発はホテル街が優先され、道路一本隔てたメキシコ人の住宅街は電力も水も乏しい。それでも、人々は「米国人は気前がいいから好きだね。彼らのおかげで暮らせる」と語る。

 ただ、ここに来る人たちの半数は1年で町を去る。ホエルさん(28)は大学の観光学科を出て妻子を連れ、2年前にホテルに就職した。だが、「ここにはモラルがない。人々はセックスのことしか考えていない」と失望し、高収入を捨てグアダラハラへ帰っていった。【カンクン藤原章生】=つづく

毎日新聞 2005年6月16日 東京朝刊