【ねこまたぎ通信】

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 反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/2

反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/2

 ◇新自由主義の福音−−村人変えた、出稼ぎのドル

 メキシコはもともと反米色が強い。批評家や詩人の集まるメキシコ市の古いカフェでは、今も「北米自由貿易協定(NAFTA)を撤回すべきだ」といった議論が交わされる。ただ、集まるのは年配の男ばかり。その一人、評論家のカルロス・モンシバイスさんは「それにしても発表の場が減った」と渋い顔だ。

 「10年前、左派に耳を傾ける国民は5割いたが、今は1割だ。貧困を改めるには市場経済を追い、米国にしがみつくしかないと人々が気づいたからだ」。そう語る政治批評家、セルヒオ・サルミエントさんは90年代、NAFTA反対派と激論を交わし「右翼」と非難されたが、今ではテレビ、ラジオに引っ張りだこである。

 そんな首都のムードを、南部チアパス州で取材に応じたサパティスタ民族解放軍(EZLN)の男性に伝えると、「何も変わっていない。むしろ貧困は悪化した」との答えが返ってきた。

 米国のトマス・フリードマンは新著「The World Is Flat(世界は真っ平ら)」で、インドの情報産業のぼっこうを描き、貧困は市場経済を通してしか解決できないと説いた。南米では新自由主義に反対する大衆運動が政府を替えることが多いが、確かに、それで暮らしが良くなった話は聞かない。

 中部の貧しいゲレロ州の山村では90年代、先住民がニューヨークへ渡り始めた。北部の農場へ出稼ぎしていた農民が「こんな賃金なら、国境を越えた方がましだ」と移住を決めた。若者は減ったが、あばら家の代わりにカリフォルニア風の家が増え「明らかに豊かになった」と民族学者、サムエル・ビジェラさんは言う。

 ゲレロ州ではサパティスタに刺激された左翼ゲリラが一時、活発だった。ビジェラさんも社会運動が生活を底上げすると信じたが、「米国からドルを持ち帰った村人を目にし、私も変わった」と言う。

 一方、サパティスタもコーヒー豆の販売で欧米企業と直接取引し、今は94年の3倍の値で売れるようになった。自由市場のおかげと言えるが、サパティスタの男性は「そんなのは恩恵とは言えない」と反発した。30代の女性が付け加えた。「私たちは誇らしく生きたい。米国へ渡る移民は威厳をドルで売り払っているのです」【メキシコ市・藤原章生】=つづく

毎日新聞 2005年6月15日 東京朝刊