【ねこまたぎ通信】

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華氏911:「反ブッシュ映画」賛否過熱

 大統領選まで5カ月を切った米国で、マイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「華氏911」への賛否両論が過熱している。カンヌ国際映画祭で最高賞を獲得したのに、ウォルト・ディズニー社が国内配給を拒否。アカデミー賞監督でもあるムーア氏が腕を振るった反ブッシュ映画は、公開前から爆弾扱いだ。【ロサンゼルス國枝すみれ】

■「政治色強すぎ」

 「華氏911」は目を背け、頭に血が上りそうな映像でいっぱいだ。

 イラクで血を流す米兵、息子を失った母親。一方で9・11同時多発テロ発生を知らされた後も、訪問先の小学校で童話の朗読を続けるブッシュ大統領。大統領の母親バーバラさんはテレビカメラの前で本音をこぼす。「テレビは見ない。何人がいつ戦死したかを、なぜ聞く必要があるの? だって、関係ないでしょ。なぜ平和な心をかき乱されなくてはいけないの」

 ウォルト・ディズニー社は「政治色が強すぎる」と配給を拒否。すったもんだの末、「問題作」を好んで配給する隣国カナダのライオン・ゲート・フィルムなど数社が米国内での配給を引き受けた。25日からの劇場公開が決まっている。

■広がる監督攻撃

 ムーア監督はこの映画の目的を「大統領選に影響を与えること」と公言してはばからないが、こうした態度に嫌悪感を抱く米国民も多い。

 保守系雑誌のウィークリー・スタンダードは「作品を宣伝するため、カンヌ映画祭直前にわざと騒ぎを起こした」と攻撃。「ムーア監視・コム」などのウェブサイトが「事実をゆがめる」「カネの亡者」などと監督批判を展開しており、ムーア監督が「ボウリング・フォー・コロンバイン」で03年に受賞したアカデミー賞の返還を求める署名運動も起きている。

 だが、「華氏911」のヒットは確実だ。映画の予告編が見られるサイトはアクセスが殺到して一時ダウン。予告編を見た学生、ライアン・マクドゥノーさん(20)は「映画を見た米国人は、大統領がテロを止めるどころか、イラク戦争で米国の敵を増やしていることに気づくだろう」と話す。ニューヨーク・タイムズ紙は「ムーア監督はダイナマイトに火をつけた」と報じた。

■「爆発力がある」

 作品タイトルはSF小説家、レイ・ブラッドベリ氏(83)が53年に著した「華氏451度」のもじりだ。思想統制が進んだ未来社会で本を焼くこと(焚書=ふんしょ)が仕事の消防士が、思想の自由に目覚めた途端、追っ手が迫るという内容。このタイトルだけでも、イラクで戦死した米兵の柩(ひつぎ)の写真公開や、戦死者名を読み上げるテレビ番組に批判が集中する、現在の米社会への痛烈な批判となっている。

 公開前から、なぜこんなに注目を集めるのか? ムーア監督はハリウッドの業界紙のインタビューで解説してみせた。「私の映画は爆発力がある。有権者の半分しか投票所に行かないこの国で、10%がこの映画を見て、11月の大統領選で投票する気になったらどうする? だから、みんな神経質になっているんだ」

 物議を醸すこの映画、日本では早ければ8月下旬から公開される予定。

毎日新聞 2004年6月15日 14時04分