【ねこまたぎ通信】

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ブラジル:南南関係強化に向けインドと貿易協定調印

5 February 2004

 経済・貿易分野でグローバル化が進む中、途上国が様々な形で先進諸国への対抗措置を打ち出している。メキシコで昨年開かれた世界貿易機関WTO)閣僚会議では、貿易自由化を強引に迫る先進諸国に対し、20カ国を超える途上諸国が手を結び、自らの国益を守ろうとした。こうした途上諸国の連帯は、国際経済を主導してきた先進諸国に動揺をもたらした。そうした中、世界第5位の人口を持つ途上国ブラジルのルラ大統領はこのほど、同2位のインドを訪問、貿易分野などでの「南南関係強化」を取り決めた。途上国の自立を目指すルラ大統領の積極外交を報告する。
 【リオデジャネイロIPS(マリオ・オサバ記者)】ブラジルのルラ大統領は1月下旬、3日間にわたりインドを公式訪問した。最大の目的は、中国に次ぐ人口大国インドと経済・貿易分野などでの関係、いわゆる「南南関係」を強化することにあった。

 大統領は今回、これまでの国際政治の場では見られなかった南南関係強化を推進、さらに、実利主義に徹することにより、インドと経済・貿易の特定分野で相互利益拡大などを図ることを狙った。

▽先進国への依存度減らす

 ルラ大統領はこの積極外交について「世界に新たな貿易地図を描くのが目的」と強調したが、その一方で、「これは先進諸国との関係の重要性を軽視するものではない」とも指摘した。それどころか、今回の南南関係強化は途上国の進むべき新たな道を示すと同時に、先進国への依存度を低減し、かつ、国際貿易交渉などの場で途上国側の結束強化を図る糸口になる、とその意義を表明した。

 ルラ大統領は今回の訪問中、インド政府とブラジルを含む南部共同市場(メルコスル、加盟国:アルゼンチン、ブラジル、パラグアイウルグアイ)とが相互に市場参入を図れる協定に調印した。アルゼンチン、パラグアイウルグアイの3カ国は今回、それぞれの代表メンバーを大統領訪問団とともにインドへ送り込んでいた。

 ブラジルとインド両国は今後4カ月以内に、㈰関税引き下げ対象品の選定㈪生産地・国に関する規則および紛争解決手段の決定—を行なうことになる。ルラ大統領は一連の動きを「南南協力に新時代をもたらすもの」と自画自賛した。

▽拡大するインドとの貿易関係

 ブラジルとインドの両国はこのほかにも、(1)人工衛星の共同打ち上げを含む宇宙探査(2)文化交流(3)観光促進などの分野で、5つの協定を結んだ。

 今回の訪印にはブラジル財界からも100人を超える実業家が同行し、インド側の財界人たちと貿易、投資、技術移転問題などについて意見交換した。

 両国間の昨年の貿易額は10億4000万ドルにとどまり、対インド貿易がブラジルで占める割合はわずか1%でしかない。しかし、両国間貿易は現在、急速に伸び始めており、貿易額は過去3年間で倍増した。

 ブラジルのフルラン開発・工業・貿易相は、同貿易額が今後の5年間で5倍に増え、年間の同額が50億ドルに達するのも夢ではない、と予測。その根拠として同相は、両国が世界でも有数の人口大国である点を強調した。ブラジルの人口は1億7400万人、インドのそれは11億人に達している。

▽燃料用アルコールの輸出も

 今回の両国経済関係では燃料用アルコールの取り扱いが注目される。同アルコールはガソリンと混合させ、代替燃料として使われ、インドでは混合燃料の需要が拡大している。ブラジルは燃料用アルコールの主要生産国であり、同アルコールおよび生産技術の対インド輸出を視野に入れている。

 ブラジルとインドはともに燃料用アルコールの原料となるサトウキビの主要生産国で、特にブラジルは過去30年間にわたり、ガソリンの代替となるエタノールの生産に力を入れている。

 そうした中、ブラジルの企業デディニは昨年、アルコール蒸留設備建設などをインドに技術移転した。これによりインドでは2年以内に、15カ所に上る燃料用アルコール生産工場が操業を開始する予定だ。

 インドは現在、ブラジルから原油、大豆、鉄鉱石を中心に輸入しているのに対し、ブラジルはこれらに加え、航空機、履物、家具、食料などを積極的に輸出したい考えだ。これに対しインドからの輸入品はディーゼル油、医薬品、資本財、化学製品など多岐にわたっている。

▽南南強化が政治分野にも拡大へ

 ルラ大統領が進める積極外交の柱になっているのが貿易部門であり、これにより国内経済の強化と対外関係の緊密化を図るのが狙いだ。その上で同大統領が最優先事項としているのがブラジル、インド、南アフリカで構成する「3カ国グループ(G3)」の連携強化だ。同大統領は今年5月には中国も訪問することにしている。

 ブラジルの貿易は現在、米国と欧州連合を中心に進み、両地域との貿易はブラジルの全貿易高の半分を占めている。これに次ぐのがアルゼンチンと中国で、ブラジルは一段の市場開拓に努めている。

 ブラジルはこれまで貿易相手国の多様化を進め、その結果、南部共同市場が誕生した。ルラ大統領はこうした経験を生かし、貿易の緊密化を他の大陸の諸国にも及ぼそうとしている。

 ブラジルが今年6月、サンパウロ国連貿易開発会議(UNCTAD)の会議を開催するのにあわせ、ルラ大統領は、長年にわたりたなざらし状態にされてきた「途上国間関税優遇措置」の実施を再提唱したいとしている。

  途上諸国内での貿易関係強化にはさまざまな“副産物”が伴う。その一つが国際政治の場の民主化だ。ブラジル、インド、それに南アフリカは今、国連安全保障理事会の常任理事国数拡大を要求している。ブラジルなど3カ国は常任理事国を米国、英国、フランス、中国、ロシアの5カ国に限定するのは国際政治の現状にそぐわないとし、同理事国数を拡大するよう求めている。End/Copyright IPS