【ねこまたぎ通信】

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無料ソフトの使用で「もう一つの世界」実現を

3 February 2004

インドでこのほど開催された「世界社会フォーラム」が、無料で提供されるコンピューター用ソフトの普及を目指す実験場となった。同ソフトはこれまで、マイクロソフト社など大企業が独占的に扱うものが主体とされてきたが、「反グローバリズム」を唱えるフォーラムのメディアセンターにはこれに対抗し、使用時の拘束がなく、しかも無料で提供されるソフトを入れたコンピューターが置かれた。フォーラム取材に当たった各国記者たちが無料ソフトをどうのように使い、どんな印象を持ったかなどを報告する。
 【ムンバイIPS(ジョナサン・ソン記者)】「もう一つの世界は可能」をスローガンに掲げる「世界社会フォーラム」の第4回大会が、1月16日から21日まで、インド西部の大都市ムンバイ(旧ボンベイ)で開かれた。140カ国を上回る国々から8万人を超える人たちが参加した今大会を報道するため、日本や欧米、さらに途上諸国から大勢の記者たちが集まった。

 こうした記者たちが活動する現場にも、「反グローバリズム」の立場を打ち出す同フォーラムにふさわしい光景が見られた。仕事場となるメディアセンターなどに備え付けられた卓上型コンピューターに入っているソフトは、世界市場を席巻しているマイクロソフト社の「Windows(ウィンドウズ)」ではなく、「GNU/Linux」と呼ばれる無料ソフトだった。

▽記者たちは自前のPCを使用

 記者の1人から手助けを頼まれたスペイン人のコンピューター技師カルロスさんは、記者の使っているソフトを見て「あーあ、ウィンドウズか」と一言。「ヒパティア」という無料ソフト・グループで働く同技師は続けて「ウィンドウズを使うと、まるで自由を奪われた気分となる」とため息をついた。

 今大会にはカルロスさんを含め、コンピューター技師2人が、ウィンドウズに対抗するソフトの普及に努め、まさに大会の標語「もう一つの世界は可能」をもじり、「GNU/Linuxは可能」を実践しようとした。

 しかし、記者たちは常日ごろからウィンドウズを使い慣れており、メディアセンターでの記事執筆作業はしにくいのが実情だった。このため記者たちの多くは同センター備え付けのコンピューターを使用せず、自ら持ち込んだラップトップ型コンピューターを使うことになった。

 無料ソフトの使用を推進しているのは、「ヒパティア」「ourproject.org」そして米国に本拠を置く「フリーソフトウエア基金」の3グループで、技師たちは「世界社会フォーラムフリーソフトを試し、奨励するにはもってこいの機会を提供してくれた」と話した。

▽「マイクロソフトがすべてではない」

 このような考え方は、ペプシやコカコーラなど多国籍企業の製品を忌避し、反グローバルの立場を主張する同フォーラム主催者たちの共感を獲得した。

 6日間に及んだフォーラム期間中、メディアセンターに備えられた卓上型コンピューターを使った記者たちが利用したインターネットは、使い慣れていた「エクスプローラー」ではなく、「モジラー・ファイアーバード」だった。

 GNU/Linuxとフリーソフトウエア基金の創設者リチャード・ストールマンさんは、記者たちを含め多くの人たちがフォーラム期間中に得た経験から、「マイクロソフトがすべてではない」ことを知ってほしいと期待している。

 IPSの取材に応じたストールマンさんは、無料あるいはだれにでも開放されているソフトを含め、製品を選ぶ自由が確保されるべきだ、と強調したが、実際にはマイクロソフト社のシステムが世界的に幅を利かせている。

 ストールマンさんはまた、マイクロソフト、マッキントッシュその他のものであれ、利益を優先させ、市場を独占しようと狙うソフトに疑問を持っている人たちは、思い切ってOSを変更すべきだと勧め、「市場を独占しているOSに首根っこを押さえられてはいけない」とも話した。ストールマンさんが、米国の名門マサチューセッツ工科大学で数年間学んだ後、GNU計画を立ち上げたのは1984年のことだった。

▽無料ソフト使用の自治体も登場

 「だれもがソフトウエアに大変な額のカネを注ぎ込み、それが当たり前と思っている」と話すのは、フォーラムの会場で技術支援を買って出ているジテンドラ・シャー教授だ。

 ストールマンさんらにとって、無料で自由に使えるソフトウエアとはコストゼロのソフトを意味するだけでなく、値が張り、しかも自由な使用に制限が加えられている大手企業のソフトからの“解放”にもつながっている。

 無料ソフトへ転換する動きが既に進行しているという。4600万にも上るインターネットサイトに普及しているネットクラフトによると、Linuxを使っているアパッチ・ウェッブは今年1月現在で、国際サーバー市場の67.38%を占め、マイクロソフト社の21%をはるかにしのいでいるという。

 ドイツ・ミュンヘン市当局は現在、制約なしに使えるソフトウエアを採用している。さらに、英国政府も昨年、同ソフトウエアを試験的に使うことを決めたほか、米IBM社もこのソフトウエアを推奨しているほどだ。

 こうした状況について、作家のチャーリー・デメルジャンさんは昨年12月、技術情報ネットに寄せた記事の中で、「変化は1年前から始まった。Linuxは今もマイクロソフト社の牙城を崩そうと懸命で、自由に使えるLinuxに注目する企業が出始めている。この結果、Linuxを使う顧客が確実に増えた」と指摘した。

 一方、オーストラリアを拠点とする技術情報企業サイバーソース社が3年間にわたりLinuxとウィンドウズを比較したところ、ハードウエアとその周辺機器を新規にした上でLinuxを使用した場合、コストはマイクロソフトのシステムより24.69%も節減できたという。現在使用中のハードウエアなどでは、節減幅は34.26%に拡大したという。

▽互換性に問題も

 話をもう一度、世界社会フォーラムに戻してみると、取材記者たちはGNU/Linuxを試せたことを歓迎しながらも、「ムンバイでそのような状況には出会いたくなかった」と本音を漏らしていた。

 その理由はほとんどの記者たちにとり、GNU/Linuxは“初物”であり、使いこなすまでには時間が掛かったからだ。ウィンドウズを搭載したコンピューターに電子メールを送るには、解読に必要な手順がいるなど手間も掛かった。

 「無料ソフトは有難い。だが、締め切り時間を無視してまで、そのソフトに慣れるための時間はさけない。どうしても使い慣れたウインドウズを入れたノートパソコンに頼ってしまった」と話したのはインドネシア・コンパス紙のアグネス・アリスティアリニ記者だ。

 ソフト面だけでなく、ハードウエアの互換性も完全とはいえない。レイアウトをデザインするスブラマニアムさんによると、ソフトウエアはマイクロソフトであろうが、マッキントッシュであろうが、各自が最も使いやすいものを選ぶべきだという。マイクロソフト社の市場独占状態に批判はあるが、それにより世界のどこでもパソコンが使えるのも否定できない事実なのだ。

 しかし、ストールマンさんの意見は違っており、コンピューター使用者は無料ソフトをもっと頻繁に活用すべきだとしている。大手企業の独占的なソフトウエアがもたらす収益に無関心であることは、低賃金で働かされる衣料工場で生産されるシャツを何気なく着てしまうのと“同罪”だと主張している。

▽勇気をもってソフト切り替えを

 無料ソフト使用促進運動を精力的に進めるブルース・ペレンスさんは英BBC放送の取材に対し、「Linuxのソフトウエアは世界の80%に相当する人たちの需要を満たすことができる」と豪語する。しかも、制約された独占的なソフトウエアと異なり、GNU/Linuxはすべての人に開放されているため、使用台数が増えれば、それに伴いシステムが一層充実するという。

 無料ソフト使用に慣れた世界社会フォーラム広報担当者は「自宅で使っている個人所有のコンピューターも無料ソフトに切り替えた。危険なウイルスの汚染もなく、順調に動いている」と同ソフトの使い勝手のよさを強調する。

 ソフトの入れ替えが難しいとの指摘に関し、無料ソフト信奉者のひとりは、「初めて訪れた国でも、数日滞在すれば、土地勘ができるように、ソフトを入れ替えてもしばらくすれば、使い方が身に着いてしまう」と話し、過度な心配は無用と言い切った。

 最後にストールマンさんは「大手企業のソフトウエアによる“呪縛”を勇気を出して振り払えさえすればいいのだ」と付け加えた。