米が小型核研究再開 核兵器『使用』に現実味
北朝鮮やイランの核開発阻止を掲げるブッシュ米政権下で、二〇〇四会計年度の国防権限法(国防予算)とエネルギー省関連歳出法が相次いで成立した。小型核兵器の研究などを禁止した「ファース・スプラット条項」撤廃と研究予算が盛り込まれており、矛盾した核政策は核不拡散体制に深刻な影響を与えかねない。 (ワシントン・豊田洋一)
■歯止め
「われわれは米国を強くし、平和を守り、米国民を安全にすることなら、何でもやる」
ブッシュ大統領は先月二十四日、国防総省で行われた国防権限法署名式で、こう強調した。
廃止されたファース・スプラット条項は、民主党のファース元下院議員とスプラット下院議員がクリントン政権時代に提案、一九九四会計年度の国防権限法に盛り込まれた。広島型原子爆弾が持つ爆発力(約十五キロトン)の三分の一程度にあたる五キロトン以下の小型核兵器の研究・開発・製造を一切禁止する内容だ。
小型核並みの威力をもつ燃料気化爆弾「デージーカッター」が実際、アフガニスタン戦争などで使用されており、核兵器が通常兵器級となれば、使用にためらいがなくなる。それを回避するのが、同条項の狙いだった。
■波紋
今回の条項撤廃では、研究から開発に移行するには連邦議会の承認を必要とするなど、民主党議員らの抵抗で一応の歯止めがかけられた。しかし、研究再開に踏み切れば、米国の先制核攻撃を警戒する国の核開発を促進させ、新たな核軍拡競争や核拡散の引き金になる可能性は否定できない。
ロシアのバルエフスキー軍参謀第一次長は素早く反応し、「われわれの核戦略を見直すべきだと思う」と表明。一方、川口順子外相は米国に対し、「核軍縮、核不拡散に悪い影響を与える」との懸念を伝えた。
実際に核兵器が使用される事態になれば、地下爆発でも放射能汚染が地上にも広がり、第二の「ヒロシマ・ナガサキ」を生みかねない。
米国が北朝鮮やイランの核開発の脅威を国際社会に訴えながら、自ら新たな核兵器研究を進めることは、核不拡散政策の矛盾を露呈しており、米国の平和団体も「国防予算の中に大量破壊兵器が潜んでいる」(ピース・アクション)と厳しく批判している。
■地下標的
小型核の研究・開発を目指す動きは、二〇〇一年の米中枢同時テロ以降、急速に強まった。国際テロ組織アルカイダの指導者、ウサマ・ビンラディンが洞穴に深く潜伏し、通常兵器では殺害、拘束できない状況が続いたためだ。地下に多くの核施設があるとされる北朝鮮への対応も視野に入れていることは間違いない。
ラムズフェルド国防長官はこう説明する。
「生物・化学兵器を通常兵器で破壊すると汚染が広がるが、低威力の核兵器で破壊すれば、そうした問題を少なくすることができる」
放射線が病原菌を殺し、毒性の化学物質も破壊するとの理屈だ。
米国は冷戦当時、大規模報復が可能な核戦力を持つことで、敵の攻撃を抑止する相互確証破壊(MAD)戦略を維持。核は実際には使用できない兵器とされた。小型核の研究再開は、核を使える兵器にする狙いがある。ブッシュ政権になり、「核使用のハードル」は確実に低くなりだした。