【ねこまたぎ通信】

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米、よぎる『ベトナム』 ゲリラ活発化 泥沼のイラク

 イラク北部で十五日、米軍の武装ヘリコプター・ブラックホークが再びロケット弾で撃墜された。自爆テロに加え、米軍のヘリを狙ったゲリラ攻撃が活発化。旧式の携帯ロケット砲で、米軍の誇るハイテクヘリがいとも容易に墜落するという現実に、ソ連侵攻によるアフガニスタン戦争や、ソマリア紛争、そしてベトナム戦争でのゲリラ戦が再現されているようだ。 (ワシントン・沢木範久)

 「泥沼」「消耗戦」。イラク情勢の悪化は、米国人の脳裏に、ベトナム戦争の記憶を呼び起こしている。あの道を、米国は再びたどるのか、と。

 例えば、戦争の大義。

 ベトナム戦争時の国防長官、マクナマラ氏は、一九九五年に出版された回想録で告白した。

 「米国は南ベトナムが敗れれば、アジアの共産化がドミノ倒しで進むと考えた。だが、ベトナム人にとってあの戦争は、民族解放闘争、ナショナリズムの戦いだった」

 ベトナムのジャングルで戦ったパウエル現国務長官は、自伝に書いた。

 「大義のあいまいな戦争に、上級将校たちがつじつまを合わせていた。私が命令する番になったときは、同じ過ちを繰り返さないと誓っている」

 米国は六四年、米駆逐艦魚雷艇に攻撃されたという「トンキン湾事件」を機に、ベトナムに介入を本格化した。

 だが、五万八千人の死者を出して、七三年に撤退。七五年、南ベトナムは崩壊して、南北統一が実現した。

 共産化のドミノは起こらず、トンキン湾事件も、事実無根の疑いが強まっている。

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 ブッシュ政権は、旧フセイン政権の大量破壊兵器の脅威を理由に、イラクに攻め込んだ。今に至るまで、大量破壊兵器は見つかっていない。

 フセイン政権崩壊の後に残ったのはゲリラという“見えない敵”だ。「危険な地域は中部だけ」(占領当局)だったはずが、南部ナシリヤでイタリア部隊がテロの標的となり北部モスルで米軍ヘリが撃墜された。

 三月二十日のイラク戦争開始以来、米兵の死者(事故など非戦闘中を含む)は四百人を超え、ベトナム戦争の最初三年間の死者を上回っている。とりわけ、五月一日の「大規模戦闘の終結宣言」以降、死者数はうなぎ上りだ。

 こうした緊急事態を目の当たりにし、米国はこれまでの方針を転換。イラク人への権限移譲の前倒しを決定した。来年六月までに暫定政権を樹立して、占領当局は解散することになった。

 ブッシュ政権は「その後も米軍は治安維持にあたる」と説明するが、イラク人治安部隊の育成と並行して、兵力を漸減する方針は認めている。

 泥沼から撤退へ。米国は今度も同じ道をたどるのか。

 「いや、イラクベトナムではない」と、ワシントン・ポスト紙のコラムニスト、リチャード・コーエン氏は言う。

 「国民の大多数は武装勢力を支持しておらず、ゲリラ活動はナショナリズムの体現でもない」

 「ベトナムは米軍撤退で共産化されたが、今やだれも気にかけない。だが、イラクは石油資源の豊富な中東の中心に位置する重要な国だ。イラク復興の失敗は、地域全体にドミノで伝染する」

 だから、途中での撤退は許されない、と。

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 ブッシュ大統領自身「イラク民主化に失敗すれば、米国は再びテロに襲われる」と力説する。

 ゲリラ攻撃は、フセイン政権の残党と、アルカイダなど国際テロ組織の連携作戦だ。撃破せねば、アフガニスタンより何倍も強大な国が、テロリストの基地になる。そして、イラクの重要性を考えれば、米国がもたらした破壊と混乱であっても、国際社会も収拾に協力せざるを得ない。

 かつてベトナムから撤退した米国も、イラクの泥沼から抜け出すのは、容易でないかもしれない。

●これも東京新聞