【ねこまたぎ通信】

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暴走するイスラム過激派−パキスタン 政府の親米路線に反発

 パキスタン南部のカラチで十四日、当地の米国領事館爆破を狙った爆弾テロ事件犯に対する裁判が行われた。この裁判では首謀者二人が死刑宣告、犯罪に加担したテロリスト二人が終身刑の判決を下された。この事件に見られるように、この一年間、パキスタンではテロ組織の活動が活性化している。頻繁に起こるテロ行為の背後には何があるのかを追った。
ニューデリー支局)
越境テロ、後を絶たず
 今回の裁判は昨年六月、カラチ市内にある米国領事館前で爆弾を満載したピックアップトラックが吹き飛び、近くにいた通行人などパキスタン人十二人が命を失い、二十人が重軽傷を負ったことに対して。捜査当局は事件後間もなく、非合法組織「ハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミ」の指導者モハメド・イムラン・バイ容疑者ら五人を逮捕した。
 これら五人の事件容疑者に対し、テロ犯罪特別法廷は二カ月にも満たないスピード審理で、バイ容疑者など組織指導者二人をこのテロを計画したとして、殺人、殺人未遂および教唆などで絞首刑を宣告した。残る三人のうち、一人は無罪釈放されたが、二人も計画に関与したとして無期懲役が言い渡された。

 バイ容疑者らが属するハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミはカラチを拠点にテロ活動を行っており、米国領事館を狙った爆弾テロ以外にも昨年七月にはシェラトンホテルに宿泊していたフランス人技術者十三人と現地人二人を爆弾で殺害。同四月には同国のムシャラフ大統領暗殺を狙った自爆テロを計画したが、発火装置が作動せず、未遂に終わっている。

 一方、同事件にはハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミと同じスンニ派武装勢力に属する「ラシュカリジャンビ」も関与していたとされる。この団体もカラチに拠点を置く非合法組織で、二月二十三日に発生したシーア派モスク(イスラム祈祷所)襲撃を計画・実行した疑いも持たれている。また、米紙ウォール・ストリート・ジャーナルのダニエル・パール記者が誘拐、殺害された事件にも、ラシュカリジャンビが関与しているともいわれる。

 この二組織に共通して言えるのは、アフガニスタンの旧タリバン政権と関係が深いことだ。ハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミは、パキスタン政府が同組織の母体「ハルカトゥル・ムジャヒディン」を非合法化。組織の一部が当時のタリバン政権の庇護(ひご)の下、アフガニスタンで新組織ハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミを再結成した。ラシュカリジャンビの場合は、その創設者が一九九六年から九七年にかけ、アフガニスタンで軍事訓練を受けている。

 もともと、パキスタン軍政、とりわけ軍統合情報部(ISI)は、タリバン政権を援助していたこともあり、パキスタン民兵組織はタリバンの狂信的なイスラム根本主義に強く影響されている。特に、アフガニスタンに近いパキスタン南部や北西部には、急進的な民兵組織「シパヘサハバ」や「タンゼーメニファズ」(いずれも二〇〇二年一月に非合法化)などの拠点が点在。このため、両者の精神的つながりは断ち切れないものがあると予想できる。

 米軍のアフガン進攻以来、ハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミやラシュカリジャンビなどの各テロ組織が欧米施設などへの攻撃ばかりか、自国の大統領を暗殺しようとした背景には、イスラムの同胞を裏切り、親米姿勢を明らかにした現政権に対する怒りが存在する。

 インド政府は、パキスタンに多数のテロ組織が潜伏していることを指摘し、絶えずインド領カシミールなどに越境して破壊活動に従事していることから、パキスタン人テロ組織がISIの指導の下で活動しているとみている。

 しかし、パキスタン国民を狙ったテロやインド・パキスタン間の緊張をさらにあおるような大規模な越境テロなど、最近のイスラム過激派組織の行動はパキスタン国益を図るというよりも、世俗国家であるパキスタンの屋台骨を揺さぶり、社会不安を増幅させようとする意図が見て取れる。一例を挙げると、シパヘサハバなどは、その行動目的をパキスタンをスンニ派イスラム国家とすることを公然と掲げている。

 加えて、ハルカトゥル・ムジャヒディン・アラーミのバイ容疑者は死刑判決を受け、「米国の奴隷であるパキスタン政府によって、死刑判決を受けた…。同じような刑罰がこの政府に下されることを望む」と語った。この言葉は、イスラム根本主義民兵組織は、二〇〇二年から相次いで非合法化されたことで、現政権や軍部とのつながりが断ち切れつつあることを端的に物語っている。

 さらに、パキスタン政界では軍政解散後、これまで抑えられてきたイスラム保守派の台頭が著しい。特に、北西辺境州やバルチスタン州などでは、タリバンに同情的なイスラム政党連合が州政権を握り、過激派組織の勢力配置と奇妙な一致を見せている。イラク戦争に対し、国内最大となった二十万人規模の反戦・反米英デモが発生したのも、バルチスタン州の州都ペシャワルだった。このことからも、イスラム保守派市民と過激派組織の共鳴作用が起こる可能性もある。今後のパキスタン政局が注目される。