【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

ナゾの肺炎拡大におびえるシンガポール国民

他人のくしゃみ、咳にも疑心暗鬼に

感染予防用マスクは売り切れ状態

保育園含め全面閉鎖の教育機関

02/04/2003

 ナゾの肺炎「重症急性呼吸器症候群」(SARS)の恐怖がシンガポールを襲っている。清潔さや規律の正しさで知られる人口約4百万人のこの都市国家では今、同肺炎への感染拡大を防ぐため、学校が全面閉鎖となったほか、国民たちは外出先でひとつのくしゃみ、咳におびえながらの生活を送っている。SARSが及ぼす影響と予防対策に必死で取り組むシンガポールの現状を報告する。
 【シンガポールIPS(A・D マッケンジー記者)】中国南部が“震源地”と見られるナゾの肺炎SARSが、面積660平方キロの都市国家シンガポールを震え上がらせている。感染拡大を憂慮する政府、国民は今、可能な限りの予防対策を必死で講じているが、それにもかかわらず、3月末現在で、同肺炎での死者は2人、感染者は89人にも上っている。

 シンガポールは貿易・観光立国であることから、SARSで死者を出している中国、香港、ベトナムと頻繁に交流する国民も多く、それだけSARSへの感染拡大が懸念されている。

 予防対策のひとつが3月26日の全面的な学校閉鎖だ。この措置は一応、今月6日までとされるが、感染が広がれば、さらに延長される可能性があり、約60万人に上る全生徒・学生たちはそれぞれの家庭で不安な毎日を送っている。

▽タクシー利用客激減

 家に引きこもっているのは生徒たちばかりでなく、大人たちも同様だ。これまでの週末であれば、繁華街のレストランやクラブなどは多くの人出でにぎわっていたが、SARS問題が表面化して以来、外出を控え、家にとどまる者が急増している。やむを得ない用事がある場合には、他人のくしゃみや咳からSARSに感染するのを恐れ、感染予防用マスクを着けて外出する者が多い。

 このため予防マスクが今、飛ぶように売れており、繁華街のショッピングセンター内にある薬局には「マスク売り切れ」の看板が掛けられるほどだ。対照的に、同センター前には客待ちをするタクシーの長い列が出来ている。「SARS感染を心配して、ほとんどの人が外出を控えている」と肩を落すのはタクシー運転手のリム・テク・フアさん。「商売は上がったりで、水揚げはがた落ち」と嘆く。

 リムさんは続けて、「やっと乗ってくれた利用客が車内で咳を始めたら、運転手たちは急いで窓を開けるようにしている」とも話し、SARSに神経質過敏状態になっていることをうかがわせる。

 利用客が減ったのにはもうひとつ別の理由がある。政府保健省が、「先月26日にSARS感染者を乗せ、病院まで運んだタクシー運転手は名乗り出るように」との呼び掛けを行ったからだ。同30日に名乗り出たタクシー運転手は今、隔離され、感染の有無を検査されている。

▽教会の儀式にも影響

 ナゾの肺炎に対する国民たちの恐怖感は様々な場面に現れている。日系の大規模書店内での出来事だ。本棚の前に立っていた一人の女性客は、横にいた別の客が鼻をかみ始めると同時に、小走りで立ち去っていった。国民のだれもが疑心暗鬼に陥っている状態を、地元紙トゥデーは「唾(つば)の恐怖」と呼び、この国では今や「SARS」が最も知られる略語になっていると書いた。

 恐怖心は教会にも拡大している。カトリック教会は司祭たちが信者に与えるパンを、直接口に入れるのではなく、手のひらに置くよう指示し、また、英国国教会も信者たちに、ぶどう酒を同じグラスで飲み回さないよう呼び掛けている。

▽発端は3人の女性感染者

 シンガポールでのSARS感染は、3月末までに死者15人、感染者610人という大きな被害を出している香港を訪れた3人の女性が帰国した時から始まった。この3人から家族や友人たちに感染が広がった。

 香港と北京を回って、同月26日に帰国したデザイナーの例はさらに深刻だ。保健省などの調査によると、このデザイナーは帰国後、肺炎症状が出て入院したが、それまでに接触した関係者の人数は約60人にも上っていたからだ。その中で所在が判明し、隔離されたのは一部の人だけで、残りの者たちの所在は分かっていない。

▽感染者家族には禁足令

 一方、休校措置が取られた中には2−6歳の幼児を預かる保育園も含まれ、独自の教育方式を採用している保育園の関係者は「子供たちにとってはよい措置。今後は感染の拡大状況をしっかり見守り、再開時期を決めたい」と話している。

 このような措置と同時に、感染者の家族や接触を持った者たち約1500人に対しては“禁足令”が出され、感染の有無が検査されている。こうした人たちは伝染病予防法に基づき、食料を買うための外出も認められておらず、これに違反すると、重い罰金が科せられる。

 シンガポールの空の玄関口チャンギ国際空港では、世界保健機関(WHO)の勧告に従い、幾つかの航空会社は搭乗前の客にSARSウイルスに感染するような機会があったかどうか、あるいは肺炎症状の有無などを尋ねているが、搭乗客に与える不快感を考慮し、中には勧告を無視している会社もある。

▽搭乗客はマスクで自衛

 そうした中、搭乗客や到着客の多くがマスクを着用するなどの自衛策を講じ、特にSARS流行が伝えられる東アジア方面に出発する搭乗客はほとんどがマスクを着け、感染防止に神経を使っている。

 SARSの恐怖はショービジネス界にも及び、人気芸能人やグループがシンガポールや東アジア地域での公演を中止している。その中には英国の有名ロックバンド、ローリング・ストーンズも含まれ、シンガポール公演は予定通り行われたが、今月初めの上海、北京での公演は取り止めとなった。

 これに加え、米国、オーストラリア、フィンランドアイルランドの4カ国は新たな渡航勧告を出し、各国民に対しSARSの流行している国・地域への渡航を自粛するよう求めている。

【メモ】重症急性呼吸器症候群(SARS) 東京都感染症情報センターによると、3月29日現在、発症原因は確定されていないが、ウイルス感染の疑いが濃厚。WHOの同月27日レポートは主要な原因を、コロナウイルス科のウイルス感染の可能性が高いとしている。感染経路は患者の飛まつや鼻汁などの分泌液と想定。潜伏期間は通常3―5日。症状の特徴は高熱(38度以上)、咳、呼吸困難などの呼吸器症状。診断にはこれらにSARS感染者との発症前10日以内の密接な接触、SARS発生地域への同10日以内の旅行歴が加わる。