【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

シリアから無料バスでイラクへ アラブの義勇兵

 【ダマスカス竹之内満】イラク西隣シリアの首都ダマスカスが、アラブ諸国から集まる義勇兵イラクに向かう「中継基地」になっている。市中心部の国際見本市場の敷地内にある「イラク貿易センター」からは、バグダッド行きの無料バスが連日出発し、エジプト、レバノン、イエメンなどからの「志願兵」数十人を送り出している。

 「この日本人はムタタアウィフ(志願兵)か?」「いや、違うな。ここは立ち入り禁止だ」
 国際見本市場の入り口には警察車両が止まり、人の出入りをチェックしていた。門を入ろうとすると、4人の監視員にやんわりと制止された。

 イラク政府が運営するイラク貿易センターは2階建てで、倉庫のような細長い建物だ。午後5時を過ぎると、肩からバッグを提げ、堅い表情の若者3〜4人連れが続々と集まり始めた。

 ここから毎夜、イラク政府のあっせんとみられる大型バスがバグダッドに向け出発し、片道約9時間をかけて志願兵をイラクに送り込む。多い日には一度にバス3台が連なったという。

 数日中にバグダッドに向かうという志願兵の一人、ダマスカスに住むアーモンさん(21)はコンピューター技師。「イラク人、しかも子供や女性を殺す米英軍を世界の誰が認めるのか。この戦争は決して、イラク人の将来のためにならない」と動機を話した。

 昨年、兄を交通事故で亡くした。一人息子となったアーモンさんのイラク行きを知った両親は、ダマスカスのイラク大使館に入国許可を出さないよう通報したという。しかし、ロンドンに住む親類に頼み込み、許可証を入手した。アーモンさんは「徴兵経験が2年半ある。私はイラク人の役に立てる」と言い切った。

 開戦後もシリアはイラク国境を開放し続けている。しかも、アラブ諸国民なら査証(ビザ)なしでシリアに入国できるので、イラクへの「経由地」となりやすい。

 日がとっぷりと暮れた午後7時45分、イラク貿易センター裏の駐車場から、白い大型バスが1台滑り出した。窓ガラス越しに、大通りを走る車のヘッドライトに照らし出された、満員の男たちの横顔が見えた。

  ◇    ◇

 ダマスカス東端のイラク人街セイダジーナ。91年の湾岸戦争後に1万人以上と見られるイラク人出稼ぎ労働者とその家族が集まり、イラク人街に変容した。

 地区中心部には乗り合い用ランドクルーザーや、イラク国内のタクシーが客待ちで並ぶ。ランドクルーザーはどれも車窓にビニール・テープで「TV」と大書していた。途中、米英軍の攻撃を避けるための知恵だ。

 街の事情通は「開戦後、1日に250人前後のイラク人が母国で闘うため、帰国している」と話した。

 イラク北部モスル出身のマーゼン・ユーネスさん(28)は、職を求めて2カ月前、ダマスカスに来た。しかし、「今日、夕方の便で故郷に帰る」と明かした。料金は700シリアン・パウンド(約1400円)という。

 1週間前、母が友人に託した手紙が届いた。クリスマスカードに似た手紙を開くと「神のために戦え」とだけ大きく書かれていた。「私は自爆攻撃も辞さない。殉教者になれば、残された家族の面倒はアラー(神)が見てくれるからだ」。静かに笑顔を見せた。

毎日新聞4月6日]