【ねこまたぎ通信】

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 反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/5止

反米・従米・親米・嫌米:第15部 メキシコ「あまりに近く」/5止

 ◇薄れゆく自国意識−−主流入り目指し「白人化」

 「いまメキシコ人はおかしくなっている」。アステカ文化の工芸品を売り歩く露天商、フロレスさん(29)は10年前と比べ若者に批判精神がなくなったという。「入れ墨、ピアスと何でもロサンゼルスのギャングのまねをすればいいと思っている。10年前のメキシカンロックには米国を批判する言葉がちりばめられていたが、今はラップに合わせて『ガソリンが好き』といった無意味な言葉を並べるだけ」

 流行の速さは相当なものだ。「エイズ患者救済」など慈善を呼びかけるプラスチックの腕輪が米国で売れると、模造品と知りながら老若男女がすぐにつけ始める。米ギャップ社のリュックは子供の間で瞬く間に広がり、貧しい家ほど、子供にブルース、ジェシカなど米国的な名をつける。

 詩人、オクタビオ・パスの「孤独の迷宮」(50年)をはじめ、メキシコ人は自国論を好んだが、いまアイデンティティー探しは、はやらない。「95年の法改正で二重国籍が認められ、在米メキシコ人は国籍の選択を迫られることがなくなった。国籍を失ったメキシコ人は号泣したものだが、そんな葛藤(かっとう)はもうない」。グアダラハラ大のバンダ教授はそう語る。

 米国のメキシコ系住民にも変化が起きている。米国の国勢調査ではこれまで人種を申告する際、「その他」を選んだ。白人、黒人、アジア系、先住民の選択肢しかないためだ。ところが00年の調査以降「白人」を選ぶ人が急増したとメキシコ自治大のヌニェス研究員は言う。「米国の主流に入るため、メキシコ性を脱ぎ捨てようという証しだ」という。裕福なメキシコ系が新参の移民を嫌う傾向も強まっている。

 その半面、やぼったいと嫌われたマリアッチ(伝統音楽)やテキーラ(特産酒)が受ける伝統回帰もある。米国との国境近くで育った学生、ヘリナ・レサさん(18)は「私たちの世代はみな米国人になりたがり、スペイン語を恥ずかしいと思うこともある。でも、絶対に譲れないのは家族との関係。何事も母親が中心の私たちは、米国人のようにドライになれない」と話す。

 映画脚本家のギジェルモ・アリアガさん(47)は言う。「家族愛などメキシコ文化の根は深い。グローバル化に疲れた層を中心にメキシコ性が見直される時代がまもなく来る」【メキシコ市・藤原章生】=おわり

毎日新聞 2005年6月18日 東京朝刊