【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

 読書も時には辛いことだってあるさ

いやあ,まいりました.<(; ^ ー^)
デーヴ・グロスマンの『戦争における「人殺し」の心理学』
あちこちで評判になっていて,アマゾンでも★★★★★だったりするもんだから読みましたが,ひどい内容でした.っていうのは,著者の分析内容のことではなく,本としての体裁がまったくなっていない.著者の研究成果が別のところではきちんと書かれているのかもしれませんが,この本自体は何一つ論証できていません.

第一に「はじめに」を読んでいる時点でいやな予感がしたんです.引用はめんどくさいので割愛しますが,著者が科学者である以前に軍人であるということがありありとわかる内容でした.しかも米国に関する歴史認識の酷いことと云ったらない.本文でも端々にそんなにおいがする.米西戦争のきっかけになったことで知られるメーン号は爆沈された,なんて誤りが平気で出てくる.アラモ砦などの尊い犠牲が祖国に自由をもたらしたなんてのも出てくる.居候が家を乗っ取るのは米国の十八番じゃないですか.ワラ
洗脳されているのか,条件付けされているのか知らないけど,そのような人間の分析には多分に先入観や予断や恣意性が含まれているだろうと考えざるを得ない.ま,それでも,軍人自身に映る軍人の姿,戦闘を体験した人間の心理や証言については興味あるところなので読み進めることにしました.
しかし,読み進めれば進むほどイライラは募るばかりであった.

まず,著者の分析に関する基礎データや文献が全く提示されていない.引用はたくさんあるんだけど,これでは,読者が再検証できないではないか.酷いときには,「このような現象は,軍事史をひもとけばいたるところに見られる」なんて書かれている.困るのである.著者がどれだけ軍事史に精通しているのかは知らないが,せめて,いくつか参考文献を示すべきだ.この本が論文ではなく啓蒙書であってもだ.
これは,著者の怠慢なのか編集者の怠慢なのか判らないが,おそらくその両方であり,また,訳者もそのくらいのことはちゃんと確認を取ってもらいたい.

たとえば,フロイトがこういったとか,フロムがこういったなんて話も,たくさん出てくるんですが,ちゃんと論文や著書のどこに書かれているのかくらい提示して欲しい.フロイト全集全部持ってますけど,いちいち自分で一から目を通して探さなきゃならんのかね.それに誤用であったり著者の意図とずれる内容であったりしたら,どうするつもりなんだろう.
たとえば,この著書から頻繁に引用されている有名な発砲率の話.
兵士には発砲に対する抵抗感があり,第二次大戦では15〜20%の発砲率であったが,軍事教練が改良されたことで,朝鮮戦争では50%,ベトナム戦争では90〜95%に改善されたという話があります.その根拠が全く提示されていない.確かにそうなんだろうとは思いますが,これを引用するには「鵜呑み」するしかないんですね.
たとえば,ところどころでいろんな概念図が示されている.図番くらい入れて解説しろ.本文との関連を明示しないのなら図は必要ない.
たとえば,言葉,用語の定義.一般的なのか,新しい概念なのか,学術用語なのか,造語なのか,一緒くたでは困る.「機械的距離」って,敵対関係において機械が介在していることで生じる心理的距離のことなんだけど,酷すぎない?訳者があほなんですかね.
たとえば,同じ内容の繰り返し記述.怠慢にもほどがある.

いやいや,内容はいいんですよ,でも体裁からしてこの本の内容は,私はこう思う,ってことしか語ってないのね.
興味深い内容なのにこれではね.
続編といわれる『「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム』も買っちゃったので暗澹たる気持ちである.


戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

戦争における「人殺し」の心理学 (ちくま学芸文庫)

「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム

「戦争」の心理学 人間における戦闘のメカニズム

Happy Xmas

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