【ねこまたぎ通信】

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 えひめ丸事故 隠れた“深層”

えひめ丸事故 隠れた“深層”

http://www.tokyo-np.co.jp/00/tokuho/20060211/mng_____tokuho__000.shtml


ハワイ沖合で実習船「えひめ丸」が米原潜「グリーンビル」と衝突し沈没してから十日で五年。衝突を“事件”としてとらえた『えひめ丸事件』(新日本出版社)が出版された。著者は真相解明に携わってきた米国人弁護士ピーター・アーリンダーさん(57)とジャーナリストの妻、薄井雅子さん(51)。「まだ謎が数多く残されている」と訴える両氏に、これまで表に出てこなかった事故の“深層”を聞いた。 (浅井正智)

解明されなかった点は何か。
「第一は、事故を起こした原潜に民間招待客十六人が体験乗船していた問題だ。浮上用のレバーも民間人に操作させていた。招待客ツアーは予算獲得のために海軍が政治家や産業界の有力者の歓心を買う手段になっており、事故はその中で起こった。安全上必要なルールも決めず、民間人を乗艦させていた実態に触れられなかったことで海軍上層部の責任が明らかにならなかった」
昨年十月、米運輸安全委員会(NTSB)が事故の最終報告書を出した。
アーリンダーさんらは「とっくに分かっている事実をなぞっただけだ」と酷評する。
「海軍上層部に責任が及ばないようにすることは、ファーゴ太平洋艦隊司令官(当時)らトップが書いたシナリオだった」とアーリンダーさんらは指摘する。
事故の翌月に査問委員会は開かれた。当時、アーリンダーさんは来日中だったが、多くの日本人が「査問委員会=裁判」という認識をもっていたことに違和感を抱いたという。
「査問委員会は海軍内部の調査委員会であり、ファーゴ司令官の裁量下にあった。海軍上層部に不利益な証拠など出てくるはずがなかった。実際、民間人招待客は一人も召還されず、上層部が火の粉をかぶりかねない危険は封殺された」
査問委員会終了後、軍の裁判に当たる軍法会議は開かれないことが決定された。グリーンビルのワドル艦長は「名誉除隊」で退役し上層部の責任は不問に付された。
「査問委員会はワドル艦長に責任を押し付け、トカゲのシッポ切りをするための見せ物だった。徹底的に事実を解明するのではなく、一刻も早く幕引きを図りたいという意思の産物だ」
ファーゴ司令官は当初、ワドル艦長を謝罪のため訪日させることを約束していたが、査問委員会が終わると一転して抵抗し始める。アーリンダーさんらはここにも海軍の策略をみる。「査問委員会で上官を追及する姿勢を示していたワドル氏の日本での発言を恐れただけではない。訪日が実現しなければ、被害者・家族や日本人の怒りがワドル氏個人に向けられ、海軍にとっても都合がよかった」
NTSB報告書にはもうひとつ解明されなかったポイントがある、とアーリンダーさんらは言う。えひめ丸の船体構造について何ら言及されていないことだ。
事故後、えひめ丸の食堂が船底にあったため、万一のときには避難が難しかったのではないか−など、漁船としての構造が実習船としてふさわしいものだったかどうかの問題も取りざたされた。しかし報告書は「えひめ丸は急激な浸水と沈没が犠牲者を生んだ原因」としか答えていない。
えひめ丸の船体を調べようとしなかったのは米国側だけでなく、日本側も同じだった。事故の八カ月後、被害者や遺族が強く希望したえひめ丸の海底から浅瀬への引き上げが実現した。しかし「破損した船体は衝突時の状況を示す唯一の客観的資料であるにもかかわらず、日本側は自衛隊が不明者の最終確認として船内捜索を行っただけにとどまり、独自調査を実施しようとしなかった」。
当時の森喜朗首相は「日米同盟の維持強化という観点を踏まえ適切に対処する」と何度も発言した。アーリンダーさんらはここに日本側の意図的な不作為を読み解くカギがあるとみる。
「日本政府は失われた生命より日米の軍事的結びつきを壊さないことの方に関心をもっていた。愛媛県もその方針に追随したことで被害者・家族の『真相解明を』という切実な願いが脇に追いやられていった」

■「県を相手取り訴訟の場合も」

アーリンダーさんがえひめ丸問題にかかわるようになったのは、事故の二カ月後、被害者や遺族に米国の法制度を説明してほしいと日本の弁護士から依頼を受け、宇和島を訪れたのがきっかけだった。
このとき愛媛県が委任した弁護士が、同時に被害者や遺族の弁護も兼ねていることに重大な法律上の問題を感じたという。なぜか。
「県はえひめ丸の所有者であり、県弁護団はえひめ丸の船体の補償など県の利益を第一に考えることが仕事になる。しかしえひめ丸の船体構造が惨事を大きくした可能性を考えれば、被害者や遺族にとって、船主である県を訴訟相手にすることもあり得るからだ」
これは「利益相反(そうはん)」といい、「弁護士倫理に触れる」と憤る。「県は弁護士の“相乗り”を被害者や遺族に勧め、訴訟ではなく示談での解決を持ちかけていた。県とは独立した『民衆の弁護士』(ピープルズ・ロイヤー)に多くが委任していたら、真相解明や補償交渉は全く違った展開になったはずだ」と強調する。
アーリンダーさんらがそれにこだわる理由について「被害者や遺族は事故の悲劇だけでなく、弁護士の相乗りによって二重の悲劇を被った。それを見過ごしにはできない」と明かす。
著書『えひめ丸事件』のタイトルには「単なる事故ではなく、真相と責任の所在を隠ぺいしようとした米海軍、日米関係を損ないたくない日本政府の思惑が絡んだ惨劇」という意味が込められている。
「五年かけて作成されたNTSB報告書でも、真相解明は進まなかった」。アーリンダーさんと薄井さんはこう悔しさをにじませる一方で、事故が残した教訓を無駄にしてはならないと訴える。
「普通の市民が、軍や行政などの巨大組織によって引き起こされた事故や問題に直面したとき、公正に解決するのは市民の団結した行動と力以外にはない。えひめ丸の事故はそれをわれわれに教えてくれている」


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