衰えぬHIV/エイズの影響−南アフリカ 教師の死者数、昨年4000人超
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世界最大数のHIV/エイズ感染者を抱える南アフリカで、最近発表されたエイズをめぐる調査結果から、昨年一年間のHIV/エイズによる教師の死亡者数が四千人を超えていたことが分かった。そうした中、厚生相が、国際的に認められているエイズ治療法を否定するような発言を行い、国内エイズ団体や野党から猛反発を食らっている。
(ヨハネスブルク・長野康彦)
波紋呼ぶ厚生相の治療法否定発言
調査は民間の調査機関「人間科学研究会議」が全国千七百の学校を対象に、十八カ月に及ぶ戸別訪問という形で行われた。調査結果によると、昨年一年間にエイズ関連の病気で命を落とした教師の数は四千人以上であることが判明。現在、全国の教員総数のおよそ13%に当たる教師四万五千人がHIV陽性であることも分かった。死亡した教師の八割が四十五歳以下で、三割強が二十五歳から三十四歳の年齢層を占めた。
地域別に見ると、エイズ被害が最も深刻な同国南東部のクワズールナタール州で21%と最も多く、ムプマランガや東ケープなどの地方州がそれに続き、都市部よりも地方で被害が多いことが分かった。
調査は学校を戸別訪問し、教師らに任意でHIVテストを要請。83%が同意して血液検査に応じた。全国の教員が加盟する「南アフリカ全国現職教員組織」では、調査結果を受け「予想をはるかに上回っている」と驚きを表明。協力した教員数の多さから「結果は正確だろう」と事実を重く受け止め、教員のためにHIV/エイズ講習会などの教育プログラムを早急にスタートさせる必要があると述べた。
また、教師間におけるHIV感染の拡大により、欠勤や勤労意欲の低下などマイナスの影響が出てくることから、HIV陽性の教師に対しては今後、精神的支援や医療扶助などのサポート体制の確立が必要、との見解を示した。ヨハネスブルク南部の公立中学校で教鞭(きょうべん)を執る男性教員(40)は「エイズで死んでいるのは大半が黒人の教師。十年以内には教師の三分の一がいなくなると言われている」と語り、人種問題となることから公には出てこないエイズをめぐる裏事情を打ち明けた。
HIV/エイズの拡大が衰えを見せぬ中、政府厚生省では昨年、遅まきながら抗レトロウイルス(ARV)薬の全国配布を開始した。現在、投薬治療を受けているのは四万二千人ほどとされるが、これは国内HIV感染者総数五百三十万人のわずか0・8%程度にすぎない。
南ア政府はこれまで、ARVには強い副作用があるとして、世界各国ではすでに効果的なエイズ治療法として認知されているこの薬の導入をためらってきたが、国内エイズ団体や国際的な圧力に屈する形で導入を決めた経緯がある。
ようやく軌道に乗り始めたかに見えた南アのエイズ対策だが、今月、ムシマング厚生相が「ARVには強い副作用があり、副作用ゆえに死亡しているエイズ患者が多い」とARVを否定するような発言を行い、エイズ団体や野党から猛反発を食らっている。
同厚生相は「正しい食生活」がアフリカ的エイズ治療法だとした上で、HIV感染者、エイズ患者は生ニンニク、レモンの皮、オリーブ油、ビートルート(赤紫色の根菜)を食べることが重要、と強調。国内エイズ団体は同相の一連の発言に「エイズ患者への侮辱であり、危険な発言」と一斉に反発を表明、野党各党は「南ア政府がエイズについて話しだすと混乱が生じるだけ。話すのをやめて行動にフォーカスすべきだ」と政府を手厳しく批判した。
ムベキ大統領の「HIVはエイズの原因ではない」「エイズで死んだ人を私は知らない」などとする発言が物議を醸し、一時期、世界の注目を浴びた南アのエイズ事情。ムシマング厚生相の発言は相当な波紋を呼んでおり、エイズをめぐる政府と関連団体・野党の対立が再燃しそうな気配だ。