機密文書「地位協定の考え方」その3
琉球新報がスクープして掲載した外務省の機密文書、「地位協定の考え方」全文の「その3」をお送りします。
〔第九条〕は米軍人および家族と軍属がビザなしで入国できるという規定ですが、法務省も外務省も、あいまいな規定のままで、運用している実態が読み取れます。また、〔第十二条〕は米軍が資材を自由に調達できるという規定ですが、外務省では米軍の自由調達を妨げてはいけないと解釈しています。つまり武器輸出を黙認しているのであり、さらに軍が関与すれば密輸でも何でもありの状態を許していることになります。
TUP速報 配信係
〔第七条〕
第七条は、米軍による公益事業の利用について定める。
1 米軍は「日本国政府の各省その他の機関に当該時に適用されている条件」よりも不利でない条件で、「日本国政府が有し、管理し、又は規制するすべての公益事業及び公共の役務」を利用することができ、並びにその利用における「優先権」を享有する(第七条)。
右の「日本国政府の各省その他の機関……に適用されている条件」とは、日本政府の官庁(すなわち、地方公共団体等の機関は除かれる。)に一般的に適用されている条件を意味するものであって、特別の理由があってある官庁が特に有利な条件を適用されている場合にすべて米軍がこれにも均霑できるという趣旨ではない。すなわち、例えば警察は、一般官庁よりも安い電話料金によっているが、これは、戦後警察電話が統合された際に施設が公社に譲渡されたことに基づく特別料金であって、米軍は、これに均霑するものではない。
2 「公共の事業及び公共の役務」とは、日本政府が法令上「有し、管理し、又は規制する」公共サーヴィスをいい、郵便の如く国が自ら行なっている事業、国鉄・電信電話の如く公社が行なっている業務、水道、電気、ガス、交通事業の如く特別の法令により国が規制しているものが含まれる。
3 「優先権」の享有とは、日本政府各省庁が優先権を享有する場合には、それより不利でない条件で米軍も優先権を享有できるという趣旨であるが、現在国内法上かかる優先権は、認められていないので米軍が第七条により享有する優先権はない。(注57)(注58)
(注57)第七条に関連する合同委員会の合意には、「米軍の電気通信施設使用」に関する事項がある。
(注58)米軍による主要公共サーヴィスの利用形態の概略次のとおり。
(1)国鉄
米軍の貨物、旅客の取扱い上特別な優遇措置は執られておらず(官公庁に対しても同様)、料金についても一般並みである(国有鉄道運賃法による。)国鉄サーヴィスにつき米軍と国鉄との間に契約が締結されている。なお、米軍の公用の軍人たる旅客の場合通行税は、免除されているが、これは、協定第十二条3項に基づくものである。(2)郵便
米軍関係郵便については、駐留軍という性格上一般郵便物と同一の取扱いはされておらず(協定第二十一条は、米軍独自の郵便局の設立及び運営を認めている。)また、日本の郵便局経由の日本国内間米軍関係郵便物について郵政省令により一般郵便物と別の取扱いがなされている。しかし、右取扱上、官公庁に比し有利な取扱いを受けているわけではなく、料金については日本国内の郵便物と同率である。なお、国外向け米軍関係郵便物については、米軍が自らその取扱いを行なっている。(3)電信、電話
米軍は、電電公社との契約に基づき一般官庁並みの一般専用料金を支払っている。(4)電気、ガス
電気、ガス会社と米軍との契約に基づき料金等が定められているが、官公庁同様米軍に対しても特別な取扱いはされていない。(なお、役務の調達については、協定十二条3項により、電気ガス税等の租税が免除されている。)(5)水道
水道は、施設・区域によっては米軍自身が自営水道設備を有している場合もあるが、地方公共団体より水の供給を受ける場合には、当該地方公共団体と米軍間の契約により、(原則として)通常の料金を支払っている。4 第七条に関する合意議事録は、行政協定時代以来の電話料金問題は引き続き検討されるべき旨定めている。この点については、米軍の使用している電話施設には、イ電々公社の一般施設、及びロ占領中終戦処理費により米軍のために作った施設と米軍リロケーションのため安保諸費で作った施設があるが、これら施設の使用料(電話料金)につき日米間で意見の不一致があったものである(日本側の当初の立場は、右のイ、ロとも一般の専用線と同率の料金、米側の当初の立場は、右イについては警察料金と同率、ロについては施設・区域の一部であるので無償)が、長年の交渉の結果、昭和四六年五月の合同委員会の合意により既に解決をみている。イについては一般の専用線と同率、ロについては日本側による右施設の保守・修理に要する実費相当額)。
〔第八条〕
第八条は、気象業務に関して、日本側が米軍に与える協力を定める。
1 第八条は、日本側が同条の(a)から(d)までに列挙される気象業務を米軍に提供すべき旨規定しているが、軍隊の活動にとって気象条件は、最も重要な情報の一つであることを考慮すれば、同条の定める日本側の協力業務は、いわば当然の規定であると考えられる。なお、第八条は、米軍が自ら行なう気象情報収集活動には触れていないが、かかる活動は、軍隊の当然の機能の一つであると考えられ、協定上当然認められるところであると解される。また、第八条は、日本側のみの協力義務を定めているので一見片務的ではあるが、実際には、台風情報、飛行機観測資料、北米大陸の気象資料、その他の気象資料が米軍からも日本側に提供されている。(注59)
(注59)第八条については、合同委員会において「気象業務」に関する事項が合意されており、米軍が気象庁に提供すべき気象業務についても規定している。
2 なお、第八条の(a)から(d)までに列挙されている業務について述べれば、次のとおり。
(a)「地上及び海上からの気象観測」については、観測の結果が気象庁に集められ、気象庁で内外の気象機関の用に供するためラジオテレタイプ放送(JMG)を行なっているが、これとほぼ同様の資料が府中にある米軍気象中枢へ専用線を通じて送られている。
(b)「気象資料」については、主として気象庁の刊行する気象月報等の定期刊行物等を提供している。その他刊行されない資料についても、要請により閲覧の便等を与えている。
(c)「航空機の安全かつ正確な運航のため必要な気象情報を報ずる電気通信業務」としては、気象庁が気象解析を行なうために、近隣諸国の気象放送を受信しているものを、専用線により分送しているものが大部分である。
(d)「地震観測の資料」としては、気象庁が気象業務法に基づいて発表する津波警報が米軍に伝達されるようになっている。
〔第九条〕
第九条は、米軍人・軍属及びその家族の出入国について定める。
一 出入国及び在留
1 第九条の規定に従うことを条件として、米国は、軍人・軍属及びその家族を日本に入国させることができる(1項)。本項は、安保条約・地位協定の趣旨からして当然の規定であるが、法的には、これらの者の入国を一般的に認めないとする趣旨の国内立法が本項により排除される点に意味があると考えられる。なお、日本政府は、入国者及び出国者の数及び種別につき定期的に米側より通報を受けることとなっている(第九条に関する合意議事録)。
2 米軍人は、「旅券及び査証に関する日本国の法令」の適用から免除される(2項第一文)。又、軍人・軍属及びその家族は、「外国人の登録及び管理に関する日本国の法令」の適用から免除される(同第二文)。以上から明らかなとおり、軍人については、出入国及び在留に関する日本国の法令の適用をすべて免除される。このことは、外国軍隊の駐留を認める限り当然のことであって、例えばナト地位協定にも同様の規定がある(第三条)。軍属・家族については、旅券及び査証に関する法令を除き出入国及び在留に関する法令の適用が免除される。旅券及び査証に関する法令の適用とは、旅券及び査証の所持義務のみならず、出入国管理令のうちの上陸拒否(第五条)、上陸審査(第六条)等の入国に直接関連する諸規定の適用を含むものと解される。しからざれば、わが国としては、出入国管理令第五条1項の各号に列挙されるもの(例えばらい病患者―一号、精神障害者―二号、麻薬不法所持者―六号等)に該当する場合でも、軍属・家族については自由に入国させることとなるが、地位協定がかかる義務までわが国に負わせたものとは解せられない。ちなみに、軍属・家族が出入国管理令中のこれらの規定を免除されるとする場合は、これらの規定が外国人の管理に関する法令に含まれると読まざるを得ないが、第九条は、旅券→査証→登録→管理という入国滞在の手続の順序に着目して規定していることは明らかであり、上陸審査、上陸拒否等の規定を入国後の管理を念頭においた規定に含めて考えることが困難であることは明らかである。(注60)
(注60)軍属・家族も上陸審査等を免除されるとの考え方は、法務省のものであるが、その背景には、従来、これらの者についてはその身分確認しか行なっていない(五条使用地からの上陸の場合。施設・区域からの上陸の場合には、米軍に身分確認を委せている。)との実体がある。しかし、かかる実体と協定の解釈とは別であって、かかる実体については、別途その手続の省略を説明すべきものと考える(例えば、従来の軍属・家族の入国実績からみて行政裁量の範囲内で一定の手続を省略しても差支ないと判断された等)。なお、入管令第五条の上陵拒否事由に該当する場合、人管令上非強制的退去命令
(第十条)と強制的退去命令(第二十四条)とがあるが、軍属についても前者の命令は発出しうると考えられる。強制退去については、第九条6項の問題となる。
以上のように解すれば、外国人の登録及び管理に関する法令とは、外国人登録法及び出入国管理令のうちの在留資格・在留期間等に関する規定がこれに該当すると考えられる。なお、第九条2項ただし書は、軍人・軍属及びその家族が在留資格・在留期間に関する規定の適用を免除されることからいって、日本における永久的な居所又は住所を要求する権利を取得したものとはみなさない旨規定しているが、これは、当然の規定である。
3 軍人は、日本への出入国に当って、身分証明書及び個別的又は集団的旅行命令書を携帯し、又、日本にある間は、身分証明書を携帯し要請がある時は日本側当局に提示しなければならない(第九条3項)。なお、旅行命令書には、休暇命令書も含まれる。
軍属・家族は、米当局の発給した「適当な文書」(第九条2項第一文の反対解釈として、これは旅券である。)を携帯し、出入国の際及び日本にある間その身分を日本側当局が確認することができるようにしなければならない(第九条4項)。なお、以上の点については、合同委員会に詳細な合意がある(「出入国」に関する事項)。
二 強制退去
1 米国が第九条1項により軍人・軍属又はその家族として日本に入れた者の身分に変更があって(例えば軍人の現地除隊、これに伴なう家族の身分変更等)入国資格がなくなった場合には、米当局は、日本側当局にその旨通告し、又(ロ)日本側当局がその者の国外退去を要求した時は、米国は、日本政府に負担をかけることなく相当の期間内に日本から送り出さなければならない(第九条5項)。そもそも米軍の軍人・軍属及びその家族は、その身分が変更されたことにより協定の特権・免除等を全く受けない一般外国人となるのであり、当然日本の出入国管理令等外国人に対する法令の全面的適用を受ける。従って、日本政府が必要と認める場合には、自ら出入国管理令第二十四条等に基づいて退去強制を執行することも当然できる訳である(6項参照)が、本項の規定により、日本政府が米当局に対しその者の日本からの退去を要求すれば米当局はその責任において日本から送り出すことを約した訳である。
2 第九条6項は、日本政府が軍人・軍属の日本からの送出を要請する場合及び(ロ)旧軍人・旧軍属及びその家族並びに軍人・軍属の家族に対して強制退去命令を出した場合には、米当局は、それらの者の自国領域内への受入れ、その他日本からの送出措置をとることにつき責任を負うことにつき規定している。この場合、旧軍人・旧軍属及びその家族につき出入国管理令上の強制退去をなしうることについては、1で述べたとおりである。(注61)
(注61)尤も、これらの者に対する強制退去は、5項後段の日本側当局の退去要求にも拘らず米当局が「相当の期間内に」送出することをしない場合に行なわれることが予想されるところ、6項がかかる米当局の義務不履行をあらかじめ前提としたものとすれば問題がある。6項は、もともと行政協定にはなく、地位協定においてナト協定にならって追加されたものであるところ、第九条全体における6項の位置は、理論的に不安定で釈解上問題がある。
軍人・軍属につき送出要請の制度をとっているのは、軍人・軍属が外国人の登録及び管理に関する法令(強制退去は、これに含まれると解される。)の適用免除により軍人軍属には、国内法上退去命令を出してないことによる。この点は、2項によるかぎりこれらの者の家族についても同様であるが、6項は、家族との関係では、強制退去につき右法令の適用免除の例外を設けたものと解される。(この点、軍属は、それが軍の公務の目的のため日本に在留しているものであるので6項との関係では軍人に準ずるものとして取り扱われている訳である。)なお、合同委員会の出入国に関する追加合意(昭和三六年三月の合意)には、軍人・軍属の送出要請原因となる事項が列挙されているが、実質的には出入国管理令第二十四条に列挙される強制退去事由と大差がない。
〔第十条〕
第十条は、米軍人等の運転免許の効力等につき定める。
1 日本側は、米国が軍人・軍属及びその家族に対して発給した運転免許証等を試験又は手数料を課さないで有効なものとして承認する(第十条1項)。この意味は、これらの運転免許証等を道路交通法に基づいて発給される免許証と同様の効力を有するものとし、その所有者に対し自動車の適法な運転を認める趣旨である。これらの者は、その車両の運転については、日本において道路交通取締法規を遵守する義務を有するものであり、その違反については、司法処分が行われているが、米国の発給する免許証等については、その場合にも、日本側当局は、免許の取消し、停止等の行政処分を行なうことができない。
本項の立法趣旨は、軍人等にとって車両の運転は、重要な軍活動の機能の一つであること及び軍隊は、随時各国を移動するものであることに着目して、軍隊の効率的な活動をわが国においても確保するという点にあるが、この趣旨の規定は、同様の理由からナト地位協定にもみられるところである(第四条)。(注62)
(注62)(尤も、右の立法趣旨からすれば家族の免許証の有効性まで承認することは、立法論としては問題があるといえよう。ちなみに、ナト協定では、軍人・軍属の免許証のみが承認の対象となっている。(仏は、国内法上家族にまで特権を及ぼしている模様である。)
2 米軍隊及び軍属用の「公用車両」は、それを容易に識別させる明確な番号標又は個別の記号を付けることとなっている(2項)。右の「公用車両」とは、米陸海空軍及び軍属部並びに第十五条機関の所有に属する車両である。これらの公用車両には、道路運送車両法、自動車損害賠償保障法等の法令は、適用されない。
3 米軍人・軍属及びその家族の私有車両は、日本国民に適用される条件と同一の条件で取得する日本の登録番号標を付けていなければなちない(3項)。これらの車両には、日本法令が全面的に適用される。
4 以上の点については、合同委員会において「軍人・軍属等の私有車両の登録」に関する事項が合意されている。又、国内法では第十条実施のため「地位協定の実施に伴う道路運送法等の特例に関する法律」が制定されている。
〔第十一条〕
第十一条は、関税・税関検査の免除、特権乱用防止のための当局間の協力等につき定める。
一 関税免除
1 米軍人・軍属及びその家族は、協定中に規定のある場合を除くほか、「日本国の税関当局が執行する法令」に服する(l項)。右の法令としては、関税法、関税定率法、酒税法、砂糖消費税法、物品税法、トランプ類税法、揮発油税法、とん税法、たばこ専売法、塩専売法等がある。なお、本条の実施に関連する特例法としては、「地位協定の実施に伴う関税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴うたばこ専売法等の臨時特例に関する法律」等がある。
2 第十一条の規定に基づき関税その他の課徴金の免除を受けて輸入できる物品は、大別して二種類ある。
(1)第一の種類は、第十一条2項に掲げる次のものである。
(イ)米軍叉はその公認調達機関(具体的には Army Procurement Agency等の軍機関)が米軍の公用に供するため輸入する物品(当該米軍又は機関が米軍の公用に供するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。)
(ロ)ピー・エックス等第十五条機関が軍人・軍属及びその家族(及び第十四条特殊契約者)の用に供するため輸入する物品(当該機関がこれらの者の用に供するため輸入するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。なお、これらの物品については、第十一条に関する合意議事録第1項は、合理的な量に限らるべき旨を規定しているが、これは、これら物品が大量に輸入され、不当に横流しされたりすることをあらかじめ防止しようとの趣旨に出るものである。
(ハ)米軍、その公認調達機関及び第十五条機関以外の者が、米軍の専用に供するため又は米軍の使用する施設、物品に合体するため輸入する物品(当該物品がこれらの目的のため輸入するものである旨の米軍の証明書を付する必要がある。
(2)第二の種類は、第十一条3項に掲げる次のものである。
(イ)軍人・軍属及びその家族(及び第十四条契約者)の引越荷物及び携帯品(3項(a))(これに関しては合意議事録第二項において、貨物の船積みが所有者の旅行と同時であるを要せず、また、積込み又は船積みが一回であることを用しない旨規定している。)
(ロ)軍人・軍属が自己又は家族の私用のため輸入する自動車及びその部品(3項(b))
(ハ)軍人・軍属及びその家族(及び第十四条契約者)の私用に供するため合衆国軍事郵便局を通じて郵送される通常かつ相当量の衣類及び家庭用品(3項(c))
(注63)(注64)(注63)2項及び3項にいう「関税その他課徴金」とは、輸入に直接関連して課されるもののみでなく、むしろ「関税等の間接税一般」と解するのが妥当である。そうでないとすれば第十二条3項に基づく米軍による国内調達(一定の間接税が免除される)の場合と第十一条2項との均衡がとれない。従って、例えば輸入自動車に対する自動車取得税(自動車登録の際に課税)の課税免除は、公用車については第十一条2項、私用車については同3項によって説明されうるものである。(ちなみに、国内で購入される自動車の取得税は、公用車については、第十二条3項により課税免除、私用車については同8項により課税される。)
(注64)なお、2項第一文は、米軍隊等が公用のため輸入する資材、需品等は、「日本国に入れることを許される。」旨規定するが、右の「許される」とは、これらのものが米軍隊等の公用物品であることが証明される限り、わが国の輸入に関する法令上の規則をすべて免除される(輸入貿易管理令等の法令のみならず、例えば、米軍が医療用に麻薬を輸入する場合の厚生大臣の輸入許可―麻薬取締法第十四条―等を含む。)ことを意味するものと解される。
3 2項及び3項で与えられる免除は、物の輸入の場合のみに適用するものとし、関税及び内国消費税がすでに徴収された物を購入する場合に、当該物の輸入の際税関当局が徴収したその関税及び内国消費税を払いもどすものと解してはならない(4項)。
関税の免除を受けて日本に輸入された物は、日米の当局が相互間で合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、関税の免除を受けて当該の物を輸入する権利を有しない者に対して日本国内で処分してはならない(6項)。なお、この処分については、合同委員会の詳細な合意がある(「米軍人等の免税品の処分」「米軍人等の私有自動車の処分」「米軍機関の物資処分」)。これらの物は、関税等の免除を受けて再輸出することもできる(7項)。
二 税関検査
税関検査の免除に関して5項は、免除を受けることのできるものの範囲を行政協定に比べ狭くしている。すなわち、3項(a)において、「合衆国軍隊の構成員」の字句を削除し、「命令により日本国に入国し、又は日本国から出国する合衆国軍隊」のみに限っている。したがって、軍人は、部隊として軍命令により集団的に出入国する場合のほか、税関検査を受けることになる。
3項(b)において、
「公用の封印がある公文書」に、「合衆国軍事郵便路線上にある公用郵便物」を加えている。これは従来cに「合衆国軍事郵便線上にある郵便物」の字句があり、公用のもののみならず私用のものも含んでいたが、これを公用郵便物に限定したものである。3項(c)において、
前記のとおり、「合衆国軍事郵便路線上にある郵便物」の字句を削除し、「合衆国政府の船荷証券により船積みされる軍事貨物」とされている。なお、cの「軍事貨物」に関しては、合意議事録第3項において、これは武器及び備品に限定されるものでなく、米国政府の船荷証券により米軍に向けて船積みされるすべての貨物をいうものとされ、さらに、この用語は、米軍に向けて船積みされる貨物を米政府の他の機関に向けて船積みされる貨物と区別するため用いられている旨規定している。三 特権乱用防止のための協力
米軍は、日本側当局と協力して第十一条によって与えられる特権の乱用を防止するため必要な措置をとらなければならないことになっており(8項)、又は(9項)は、関税関係法令の遵守を確保するための日米双方の協力に関する事項を定めている。合同委員会は、施設・区域から出入国が行われる際の日本側税関吏の施設・区域立入りにつき合意している(「税関検査に関する事項」)。なお、合意議事録第4項は、米軍は、その持込みが関税法規に違反するような物品が軍人・軍属及びその家族によって、又はそれらの者のために輸入されないよう実行可能(判読不明)。定している。ここにいうその持込みが関税法規に違反するような物品には、関税定率法第二十一条に規定されている公安、風俗を害するおそれ、ある物品、麻薬、阿片等が該当する。
更に、税関当局は、第十一条の規定に基づく米軍人等による物品の搬入に関連する濫用又は違反があると認められる場合には、米当局に対しその問題を提起することができることとなっている(合意議事録第5項)。
〔第十二条〕
第十二条は、米軍による調達、調達資材等の免税、労務問題等につき定める。
一調達に関する一般的問題
1 米国は、「この協定の目的のため」又は「この協定で認められるところにより、」需品又は工事のための供給者又は工事者の選択に関して制限を受けないで契約することができる(1項第一文)。この規定は、調達に関してのいわゆる契約自由の原則をうたったものである。米軍は、わが国内法上一般には自由に需品及び役務を調達しうるのであって、右の規定が直接その根拠であると考える必要はない。この意味で右の規定は、当然のことを述べたものといえるが、強いていえば、右規定は、米軍による調達の自由を認めないとする趣旨の立法を排除するという点で一定の法的意味を有している。米軍は、日米の当局間で合意される時は、日本政府を通じて調達することもできる(同第二文)が、現実には殆どすべて直接調達によっている(日本政府が物品調達をしているのは、現在は昭和四三年よりの南鳥島・硫黄島におけるコーストガードに対する燃料の供給の例があるだけである。なお、労務については4項参照)。
2 米軍がわが国で調達する物資は、第三国に駐留する米軍等に仕向けることができるかという点がいわゆるヴィエトナム特需との関連で問題となったことがある。この点については、第十二条は、調達物資の使用につき地域的限定を定めたものではないと解されている。又、「この協定の目的のため又はこの協定で認められるところにより…」とは、米軍の調達が公用のためであるべきことを意味するのであって物資等の仕向先が「協定の目的」の範囲内であるか否かの問題は、生じない。第十二条3項の免税規定も米軍の公用調達という点にのみ着目しており仕向地は問題でない。(注65)
(注65)以上の解釈は、昭和四一年当時の政府の考え方による。政府の答弁は、調達物資等の仕向地等につき米軍は、日本側に通報する義務はなく、わが方は、仕向地には関知しないとのラインで行われ、「協定の目的」とは、施設・区域の提供目的であり、従って「極東の範囲」に限定され(以下判読不能)頁、昭和四一年二月十二日、衆・予議事録十四頁、同七月二十日、衆・外議事録十四頁、昭和四二年五月三十日、参・内議事録八頁等)。
3 なお、「地位協定の実施に伴う外国為替管理令等の臨時特例に関する政令」によって、米軍は、輸出貿易管理令に規定する義務又は制限を免除されているが、これは、米軍が協定上、イ調達について自由に契約を締結できること(第十二条1項)、ロ税関検査を免除されていること(第十一条5項)、ハ物品税その他の課税を免除されていること(第十二条3項)等を考慮し、安保条約・地位協定によって米軍の駐留を認める以上貿管令の右義務を免除することは当然と考えられたからである。(米軍の調達物資が輸出される場合には、このように国内法上も規制できないこととなっている訳である。)
4 米軍の調達が日本の経済に不利な影響を及ぼすおそれがある場合は、日本政府と調整の下に、又、望ましい時は日本政府を通じて間接調達をしなければならない(2項)。この規定は、本来希少物資(例えば、アルミニューム地金、米麦等)の調達を対象としたものである。なお、米軍は、調達計画の主要変更について、可能な限り事前に日本政府に関係情報を提供することになっている(第十二条に関する合意議事録第1項)。
5 合同委員会その他なお、適当な者は、日米両国の経済関係の法令及び商慣習の相違から生ずる調達契約に関する紛議の満足すべき解決につき研究することとなっている(合意議事録第2項)。なお、合同委員会は、契約様式等技術的事項を定めている(要旨には未掲載)。
6 「公認調達機関」なる用語が協定第十一条2項及び第十二条3項において使用されているが、これは、米軍の各軍別の調達機関(例えば陸軍では「在日米陸軍調達部」)の総称である。米軍の調達機関がわが国において米国と第三国とのMSA協定による域外買付の業務を兼ねて行なっていることが国会で問題とされたことがあるが、米軍調達機関のかかる活動は、日米相互防衛援助条約第六条1項(b)によって説明されている。(注66)
(注66)昭和三五年三月二六日、参・予二分科、同五月二日、衆・安保特。
二 調達物資の免税
1 米軍又は米軍公認調達機関が公用で調達する資材、需品、備品及び役務は、(a)物品税、(b)通行税、(c)揮発油税及びd電気ガス税を免除される(3項第一文)。米軍又は米軍公認調達機関以外の者(これは、第十四条契約者のみならず通常の日本人業者も含まれると解される。)が右の物品等を調達する場合でも、それが最終的には米軍の使用に供されるものである場合には、右の(a)及び(c)の租税は、免除される(同項第二文)。この場合、最終的には米軍の使用に供されるとの点につき米軍の適当な証明が必要であり(同項第二文)、この点についての課税免除を確保する手続が合意議事録において規定されている(第3項)。
右に挙げられていない日本の現在の又は将来の租税で、右の如く調達される物品等の購入価格の重要なかつ容易に判別されうる部分を構成すると認められるものについては、第十二条の目的に合致する免税又は税の軽減を認めるための手続が合意されることになっている(3項第三文)。この規定は、行政協定以来同文であるところ、今日まで追加的に免税が認められているものとしては、地方道路税、軽油引取税及び石油ガス税がある。
2 以上の課税免除については、「地位協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴う地方税法の臨時特例に関する法律」が免除を規定している。なお、通行税につき右の所得税法等の臨時特例法は、軍人が軍隊の用務を遂行するため列車等を利用する場合の通行税免除を規定している(第七条)ところ、実際には国鉄は軍属・家族の乗車についても通行税を免除扱いしている模様であり、事実とすれば問題がある。
3 軍人・軍属及びその家族による物品及び役務の個人的購入には、租税は、免除されない(第十二条8項。なお、第十五条機関による商品及び需品の購入にも租税が免除されない。第十五条2項)。
4 3項の租税の免除を受けて調達された物は、日米の当局が相互に合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、免除の特権を有しない者に対して日本国内で処分してはならない(9項)。この点について合同委員会に詳細な合意があることは、既に述べたとおりである。
三 労務問題
1 日本における労務に対する米軍及び第十五条機関の需要は、日本側当局の援助を得て充足される(4項)。この規定は、いわゆる間接雇用を定めたものである。この規定により、米軍等の必要とする日本人労務者は、原則として日本政府が雇用し、米軍等に提供している。従って、労務者の雇用主は、日本政府(施設庁)であって、かかる労務者の労働条件等が日本の関係法令によって規律されることはいうまでもない。なお、かかる労務者は、政府に雇用されるものではあるが、国家公務員ではない(「地位協定の実施に伴い国家公務員法等の一部を改正する等の法律」第八条)。(注67)(注68)
(注67) 間接雇用の労務者の労働条件等には右の如く日本の関係法令が適用されるが、かかる労働条件等の遵守を具体的に確保するため日米間で合同委員会を通じて特定の合意が行なわれている。即ち、米軍に提供される労務については「基本労務契約」、第十五条機関については「諸機関労務協約」、及び船員として提供される労務については「船員契約」がそれぞれ日米間で締結され、右の労働条件等の確保のほか、日米両国間で処理されるべき問題(例えば、政府が労務者に支払う給与等の米側によりの政府への償還問題等。なお、第二十四条の項参照)につき細目を定めている。なお、右の基本労務契約等の内容がわが国憲法・労働関係法令の範囲内で実施しえない事項を含みえないことは当然のことである。
(注68) 行政協定時代は、第十五条機関の労務については、間接雇用の規定はなく、従って、直接米軍に雇用されていたが、解雇に関連する事案につき第十五条機関を当事者として裁判所・労働委員会の判決・命令が出された場合その実行につき複雑な問題があった(米側は、かかる事案につき裁判所等の管轄権を否定)ので、地位協定では、第十五条機関についても原則として間接雇用によることを定めたものである。なお第十二条6項の規定も行政協定には存在しなかったものである。
2 5項は所得税等の源泉徴収義務及び「相互間で別段の合意をする場合を除くほか」労働関係に関する労働者の権利は、日本の法令いよるべき旨定めるが、間接雇用の労務者については前述の如く日本政府が雇用主であるのでこの規定は、間接雇用については意味がなく従って、米軍が直接日本人労務者を雇用する場合のことを予想したものであると説明されている。(注69)
(注69) 昭和四十年四月二七日、参・外議事録八頁。尤も、5項の規定が間接雇用には当然のことで意味がないとする考え方については政府部内で意見が分かれる。即ち、安保国会当時の擬問擬答は、5項の「相互間で別段の合意をする場合」の例として6項の場合を挙げているが、6項の規定は、間接雇用にのみ適用される規定であるので、この解釈によれば、5項は、間接雇用をも念頭においていることになる。また、前述の基本労務契約等は、日本の法令の範囲内のものでなければならないが、米側としても、5項により、日本法令の範囲を越える基本労務契約等の締結をわが政府に要求できないこととなるのでその限りで5項は意味があるとする考え方がある。以上の点については、第十二条に関する合意議事録第5項が第十二条5項の「日本国の法令」とは、6項の規定に従うことを条件として裁判所・労働委員会の決定を含む旨規定していることからみても5項の規定は、間接雇用についても一定の積極的意味があると解するのが妥当であろう。なお、直接雇用の根拠については、右の考え方をとる場合には、「5項は主として直接雇用を念頭においたものである」との趣旨の説明で処理しうるものと考えられる。
3 米軍又は、「適当な場合」には、第十五条機関が労務者を解雇した場合で、雇用契約が終了していない旨の日本の裁判所・労働委員会の決定が最終的なものとなった際には、6項の(a)から(d)までに定める手続が適用される(6項頭書き)。この手続は、いわゆる保安解雇(施設・区域内の軍紀の維持の攪乱を含む安全上の理由による解雇)のケースについてのみ適用されることとなっている(合意議事録第6項)が、いかなる場合がこれに該当するかは、具体的な事例について判断されるものであるが軍隊の存立及びその目的達成上不可欠な紀律を乱すという積極的な行為を指すものであり、従って、通常の制裁解雇又は正常な組合活動による場合は含まれない(即ち、かかる場合は、合意議事録第5項にあるとおり、米側は、裁判所・労働委員会の決定に服する。)。
6項(a)…日本政府は、米軍又は第十五条機関に裁判所・労働委員会の決定を通報する。(注70)
(注70) 6項頭書きの「…適当な場合には、第十五条に定める機関」とは、地位協定による第十五条機関労務者が間接雇用に切り換えられるまでの時間を考慮した表現であり、従って「適当な場合」とは「間接雇用に切り換えられている場合」の意であり、現在は既に意味のない表現である。又、合意議事録第7項の「第十五条に定める諸機関は当局間の相互の合意に基づき第十二条6項の手続に従うことが了解される。」との規定も右の「適当な場合」を受けた規定であり、かかる当局間の合意としては「諸機関労務協約」がある。
6項(b)…米軍又は第十五条機関が当該労働者を就労させることを希望しない時は、米軍又は前記機関は、日本政府から6項aの通報を受けた後七日以内にその旨を日本政府に通告しなければならず、暫定的にその労働者を就労させないことができる。
6項(c)…前記の通告がある時は、日本政府と米軍又は前記の機関は、事件の実際的な解決方法を見出すため遅滞なく協議する。「実際的な解決」とは、米軍の保安上の理由から裁判所等の決定に従い労働者をもとの職場に戻すことができない場合には例えば他の職場への配置転換を行なうことも考えられるのでこのような解決を指すものである。
6項(d)…(c)の協議の開始から三十日の期間内に実際的な解決ができない時は、当該労働者は、就労することができない。このような場合には、米政府は、日本政府に対し、「両政府間で合意される期間」の当該労働者の雇用の費用に等しい額を支払う。右期間については、「…6項(b)に定める通告の後一年をこえないものとし、双方が同意しうる基準に基づいて6項(c)の協議の際決定されうる」趣旨を取り極めた交換公文が行なわれている(昭和三五年一月十九日)。右取極中の「基準」については、「基本労務契約」等に詳細が定められている。なお、6項(d)の規定によって労働者が現実に就労できなくなることと当該労働者と日本政府との間の雇用関係とは別の問題であり、6項(d)後段は、日本政府が労務者の雇用に要する費用につき米政府が償還する限度を定めたものであって、この限度(具体的には一年)以後も、労働者と日本政府との雇用関係は継続し、その終了は、専らこの両者の間で処理されることとなる。(注71)
(注71) 6項の規定は、軍隊の駐留を認める以上は軍の保安上の必要からする解雇(従って、裁判等においては米軍は軍機密の観点から証拠も出しえず、結果として敗訴になる場合がある)というものは認めざるをえず、又それが国際的にも当然であるとの立場にたちつつ、その場合の解決を軍の安全と労働者の保護の両者を考慮し、又通常諸外国でとられている措置(例えばボン協定)を参酌して定められたものである。
4 施設・区域内における通常の労働組合運動がどの程度まで認められるかという問題がある。この点については、協定第十二条5項にあるとおり、米軍に雇用される日本人労務者に対しても労働関係法令が適用されるものではあるが、一般に労働者が使用者の管理する施設内で組合活動を行なう場合には、当該施設内の秩序にしたがわなければならないものと考えられているところ、特に軍の使用する施設においては、その性質上、一般私企業等に比し、より厳重な規律が存在することから、組合活動についても、そのような制約を受けることは止むをえないものと考える。(従って、米軍が施設・区域内におけるハチマキ着用や集会を禁止しても直ちにこれが違法であると結論することはできない。)(注72)
(注72) 軍といえども施設・区域内の規律の維持及び業務の正常な運営に必要な限度を越えて不当労働行為となるような干渉をするようなことが認められないのは協定第十二条5項の規定から明らかである。
5 更に、米軍の海上輸送部隊にかかる日本人労務者は、かかる米軍とともに海外へ出かけて(具体的にはヴィエトナム水域)活動することが認められるか(労務者はあくまでも在日米軍の労務者であり、日本を離れるとともに在日米軍ではなくなるのではないか)との点が問題になったことがある。(注73)
(注73) 右の場合、米軍の軍事海上輸送司令部は、わが国を根拠として駐留し、これにかかる日本人労務者には、直接雇用になるLST乗組員(LSTは、Landing Support Transport)と間接雇用になるMC労務者(船員契約=Mariner's Contractに基づく労務者でMC労務者と通称)とがある。
右の点については、船舶にかかる労務者は、航海することがその本質的任務であり、その船舶が日本の根拠地、司令部のある米軍輸送司令部に所属するものであるので、かかる米軍船舶の活動目的が安保条約第六条の目的(「極東の範囲」云々が問題となる。)に合致するものである限り、地位協定上問題がないと説明されている。(注74)なお、通常の陸上勤務の労務者についてもその用務に関連する海外出張が認められることは協定上何ら問題なく、「基本労務契約」においてもかかる出張を予想した規定がある。(注75)
(注74)昭和四十年二月二七、衆・予二分科議事録一九頁。昭和四二年六月十三日、衆・社労議事録十頁等。
(注75) LST労務者に関しては、右の問題のほか、これら労務者は、12条5項の規定により米軍により所得税等を源泉徴収されているにも拘わらず、他方において、船員法(陸上の働者にとっての労働基準法に相当する)の適用を除外されているので通常の日本人労務者(MC労務者は船員法で保護されている。)と同様の保護がないのは不当であるとされる問題がある。この点については、米軍から見れば、日本の国内法にLST労務者の労働関係の保護に関する規定がないので遵守すべき「日本国の法令」 充分でないというだけのことであって、国内官庁としては、米軍の遵守すべき国内立法を行なうか又は実質的に同等な保護基準を合同委員会で合意する等の措置をするか、又は現状でも実際は十分に保護されているのであればその旨説明すべきものであって、あたかも地位協定の規定に欠陥があるかの如き説明をすべきものではない。なお、日本国民として所得税等の納付義務のある限り誰が源泉徴収するかは単なる技術的問題であって、船員法自体の適用問題とは本来次元の異なる問題である。(尤も、本稿印刷中、昭和四八年六月末を以てLST労務者は全員解雇されることとなったのでこの問題は今後はなくなる。)
6 なお、第十二条7項は、「軍属は、雇用の条件に関して日本国の法令に●●(二文字、判読不能)ない。」旨規定するが、●●●(三文字、判読不能)、軍属の雇用条件等は専ら米軍内部の問題との趣旨に出るものであり当然の規定である。
〔第十三条〕
第十三条は、米軍財産、米軍人の所得等に対する課税の免除につき定める。
1 米軍が日本において保有し、使用し又は移転する財産について「租税又は類似の公課」は、課されない(1項)。免除される租税とは、国税たる法人税、所得税、地方税たる不動産取得税、都市計画税、法定外普通税等である。ボン協定には同様の規定がある(第六十七条1項)。ナト協定にはないが、いずれにしろ外国軍隊の駐留を認める限り当然の規定と考えられる。
2 米軍人・軍属及びその家族は、これらの者が米軍に勤務し、又は米軍・第十五条機関に雇用された結果受ける所得について租税が免除される(2項第一文)。免除される租税とは、国税たる所得税、地方税たる都道府県民税、市町村民税等である。ちなみに、右の者が軍人・軍属及びその家族であるという理由のみによって日本にある期間は、租税の課税上日本に居所又は住所を有する期間とは認めないこととなっている(2項第三文)。
3 第十三条の規定は、軍人・軍属及びその家族の「日本国の源泉から生ずる所得」について日本の租税を免除するものではない(2項第二文前段)。「日本国の源泉から生ずる所得」とは、例えば日本の学校、商社、テレビ放送局等に勤務等をして得る所得であり、右規定の意味は、右の如き所得は当然日本の税法に従って課税されるということである。なお、米軍・第十五条機関による雇用等の結果として、又は米政府と米国において結んだ契約に基づいて日本で受ける所得は、日本の源泉から生ずる所得とは認められない旨合意されている(第十三条に関する合意議事録。ちなみに、これらの所得には米国内法上所得税が課せられている)
なお、更に、第十三条の2項第二文後段は、米国の所得税のために日本に居所を有することを申し立てる米国市民に対し所得についての日本の租税は免除されない旨規定するが、これは、軍人・軍属及びその家族が米軍・第十五条機関による雇用等以外の事由によって報酬を得た場合、米国内法上は一定期間以上海外に居住する者にはその所得について米国所得税を課されなくなるが、このような場合には当然日本の租税を課することになるという趣旨であって、2項第二文前段の意味を更に確認したものであると解されている。(注76)
(注76) 第十三条2項の規定(第二文)は、右で述べた如く、軍人・軍属及びその家族がわが国において米軍との雇用関係以外から所得を得ることがあることを予想しているが、いかなる範囲で通常の職業活動が認められるかとの点については協定は何ら定めていない。この点は、これらの者が在留資格等の条件を免除されている(第九条2項)のは、あくまでも軍人・軍属及びその家族としての身分に着目してのことであるので、その身分を逸脱する如き活動(通常の職業活動があたかも本業とみられる如き活動)は認められないと考えるべきである。
4 軍人・軍属及びその家族が一時的に日本にあることのみに基づいて日本に所在する有体又は「無体の動産」(米国の株券、債権等を指す。)の保有、使用、移転についても租税が免除される(3項第一文)。免除される租税とは、国税たる所得税、贈与税、相続税、地方税たる都道府県民税、市町村民税、法定外普通税等である。右の免除は、投資とか事業のため日本で保有される財産又は「日本国において登録された無体財産権」(特許、商標等の工業所有権を指す。)には適用されない(3項第二文)。
5 第十二条の規定は、私有車両による道路の使用について納付すべき租税の免除を与える義務を定めるものではない(3項第三文)。日本には、この規定でいうような道路の物理的使用の程度に応じて課する税がないので(例えば自動車税は、道路使用税的部分と偖侈品に対する租税的な部分とから成っており「道路の使用について納付すべき租税」そのものではない)、私用車を所有する米軍人等は、自動車税、自動車重量税のうち道路使用税的部分と観念される一定割合を日本政府に納付している。(注77)
(注77) 米側は、これらの租税は第十三条3項第一文の「これらの者が一時的に日本国にあることのみに基づいて日本国に所在する有体……動産の保有、使用……についての租税」であるとの立場から課税の全面的免除を主張したものであるが、交渉の結果右一定割合につき納付の義務が合意されたものである。非納付部分の免除理由については、協定上説明としては第十三条3項第一文によることとなる。
6 第十三条の規定を受けた国内法としては、「地位協定の実施に伴う所得税法等の臨時特例に関する法律」、「地位協定の実施に伴う地方税法の臨時特例に関する法律」がある。
〔第十四条〕
第十四条は、米軍のいわゆる特殊契約者の指定、特権免除等につき定める。
1 通常米国に居住する人(米国法人を含む。)及びその被用者で、米軍のための米国との契約の履行のみを目的として日本にあり、かつ、米政府が2項の規定に従って指定するもの(以下特殊契約者と略称)は、第十四条に規定のある場合を除くほか、日本の法令に服する(1項)。右の指定は、第一に日本政府と協議して行なうことを要する。第二に、競争入札を実施することができない場合(その理由としては、安全上の考慮、関係業者の技術上の適格要件、米国の標準に合致する資材・役務の欠如又は米国の法令上の制限が挙げられる)に限り行なわれる(2項前段)。米政府は、特殊契約者が(a)その指定にかかる契約の履行を終了した時、(b)日本において米軍関係以外の事業活動に従事していることが立証された時、又はc日本で違法とされる活動を行なっている時は、右の指定を取り消す(2項後段)。(注78)
(注78) 本条の趣旨は、米軍が日本で必要とする建設や役務は通常は日本において調達されるものであるが、どうしても日本で間に合わないような場合にのみ米国業者の使用を認め、これに協定の特定の条項の利益を享有させるというものであり、この趣旨の規定は、各国の地位協定にも見られる(例・ボン協定第七十二条)。
なお、右の競争入札によれない理由のうち、安全上の考慮とは、秘密保持のことを指し、米国の法令上の制限とは、例えば特許法の関係で外国人に技術や資料等を提供できない場合等のことを意味している。
2 特殊契約者は、その身分に関する米当局の証明があるときは、協定の次の利益が与えられる(3項)
(a) 第五条2項の出入及び移動の権利
(b) 第九条の規定による日本への入国「第九条の規定」とは、具体的に何を指すかは必ずしも明らかではないが、従来より同条1項を指すものと解釈されており(安保国会当時の擬問擬答)、従って、第五条1項第二文の「協定による免除を与えられない旅客」に該当する。(注79)
(注79) この点、法務省側は、第九条の適用上特殊契約者は、軍属・家族と同様であるとの考え方であり、実際にもそのような取扱いをしている模様。
(c) 軍人・軍属及びその家族についての第十一条3項の関税その他の課徴金の免除
(d) 米政府の認める場合は、第十五条機関の役務を利用する権利
(e) 第十九条2項の米ドルの日本外への移転の権利
(f) 米政府の認める場合は、第二十条の軍票を使用する権利
(g) 第二十一条の軍事郵便施設の利用
(h) 雇用の条件に関する日本法令の適用除外3 特殊契約者は、その身分であることが旅券に記載されていなければならず、その到着、出発、日本の居所は、米軍が日本側当局に随時通告する(4項)。
4 特殊契約者が前記の指定にかかる契約の履行のためにのみ保有し、使用し、又は移転する減価償却資産(家屋を除く。)については、米軍官憲の証明があるときは、日本の租税又は類似の公課を課されない(5項)このほか、6項及び7項は、特殊契約者につき、それぞれ第十三条3項及び同条2項と同様のことを規定している。
5 なお、日本側当局は、特殊契約者の日本における犯罪につき第一次裁判権を有しており、日本側がこれを行使しない場合にのみ米軍当局が裁判権を有する(8項)。
〔第十五条〕
第十五条は、米軍の才出外資金機関の取扱いにつき定める。
1 米軍当局が公認し、かつ、規制する海軍販売所、ピー・エックス、食堂、社交クラブ、劇場、新聞その他の才出外資資金による諸機関は、米軍人・軍属及びその家族の利用に供するため、米軍が使用している施設・区域内に設置することができる(1項(a)第一文)。これらの機関は、米政府の機関(「国防省の不可欠の部分」、米最高裁判決)であって、米軍人等の福祉、士気及び能率を維持することを目的として設立・運営されているものであるので、地位協定においてもこれら機関の活動を認め、協定上一定の利益を与えることとしているものである。(注80)
(注80) これら機関は、その機能の継続のために毎年の又はその他の予算配賦を受けず、かつ、その収入を国庫の才入に納付することを要求されていないので才出外資金機関といわれる。これら機関の存立の法的根拠は、各軍の軍規則にあり、それぞれの長官の権限・監督の下におかれている。これら機関の活動は、各国の地位協定においても認められているところである(米比協定第十八条、ボン協定第七十一条等)。
2 国会等においては、社交クラブ等の娯楽施設は、いかなる意味で日本・極東の安全(施設・区域の使用目的)と関係があるのかとの問題が提起されるが、軍隊の福利厚生施設は、軍人等の福祉、士気、能力等の維持に必要なものであり、従って、一般に第十五機関の活動は、軍隊の通常の活動の一環と考えられ、安保条約に基づいてわが国で施設・区域の使用が認められている米軍がかかる福利厚生施設の維持を認められることは当然のことである。昭和二九年、東京地裁は、東宝を原告とする行政訴訟(いわゆるアーニーパイル事件)において、土地等を米軍人の娯楽等のため提供する場合は、必ずしも土地等の使用等に関する特別措置法第三条にいう「適正かつ合理的」に該当しないと判決した(本件は政府が控訴中和解)が、これは、かかる娯楽施設の提供が同法で強制的にできるためにはそれだけの客観的必要性(米軍にとっての必要性と地主等の受ける不利益との均衡の問題)がなけらばならないとの考えを示したものであって、米軍の娯楽施設が施設・区域を使用すること(又は、現在では実際には考えられないが、一般の娯楽施設をそのまま施設・区域として提供すること―アーニーパイル事件はこれに該当)を一般的に排除したものであるとは解されていない。
3 1項(a)第一文は、第十五条機関は「合衆国軍隊が使用している施設及び区域内に設置することができる」としているところ、これら機関の関係施設だけのため一つの独立した施設・区域を提供しうるかとの問題がある。しかし、この規定の趣旨は、これら機関の活動の性格(例えばピー・エックスについて言えば輸入品を免税価格で販売する)に鑑み、わが国の社会・経済秩序に与える影響を最小限にするためかかる機関の施置は施設・区域内に限るということであって、たまたまこれら機関が場所的な必要性等から一つの施設・区域の全部を占める(即ち、これら機関のために独立の施設・区域が提供される)ことが右規定により排除されるということではない。
4 第十五条機関は、協定に別段の定めがある場合を除くほか、日本の「規制、免許、手数料」「租税」又は類似の管理に服さない(1項(a)第二文)。この「規制、免許、手数料」とは、食品衛生法上の知事の許可、薬事法上の登録、クリーニング業法上の許可等を指すものと考えられる。又、「租税」とは、法人税、酒税、印紙税等である。
5 第十五条機関の利用者は、軍人・軍属及びその家族(1項(a))のほか、第十四条の特殊契約者(同条3項c)であるが、第十五条に関する合意議事録は、通常海外で「同様の特権」を与えられている米政府のその他の官吏及び職員(主として外交官がこれに該当することとなろう。)は、第十五条機関を利用することができる旨定める。右の「同様の特権」とは、主として物品の輸入に関する関税・内国消費税の免除特権であるが、米外交官等はいずれにしろ右特権を享受しているのでこれらの者が右機関を利用してもわが国として何ら問題がないので特にこれを認めたものである。なお、右機関利用の特権は、米国の外交官等に認められたものであるので第三国の外交官等がこれを利用することは認められない。
6 米軍当局が公認し、かつ、規制する新聞が一般の公衆に販売されるときは、当該新聞は、その頒布に関する限り、日本の規制、免許、手数料、租税又は類似の管理に服する(1項(b))尤も、この規定に該当する新聞は、現在ない(米軍の新聞としては、「スターズ・アンド・ストライプ」があるが、一般の公衆には頒布されていない。)。
7 第十五条機関の販売する物品は、日米の当局が相互間で合意する条件に従って処分を認める場合を除くほか、右機関の利用を認められない者に対して日本国内で処分してはならない(3項)。この規定は、第十一条6項及び第十二条の項と同趣旨であり、合同委員会で処分取極が合意されている。なお、右機関は、日本の当局に対して、日本の税法が要求するところにより資料を提供することになっているところ(4項)、ここにいう資料とは、所得税法上の給与支払者の申告、給与支払調書、源泉徴収表等である。
〔第十六条〕
第十六条は、米軍人等の日本の法令の尊重義務につき定めるが、本項においては、まず米軍に対する我が国の法令の適用問題等につき一般論を述べ、その後第十六条の意味について触れることとする。
一 米軍に対する日本法令の適用
1 一般国際法上、外国軍隊には接受国の法令の適用がない。これは、軍隊が国家機関であり、接受国の主権の下に服さないことの当然の帰結である。従って、我が国に駐留する米軍(集合体としての軍隊及び公務遂行中の軍隊の個々の軍人等)に対しては、施設・区域の内外を問わず、原則としてわが国の法令の適用はない。右で原則としてというのは、地位協定上、特定の事項に関する法令の適用が日米間で合意されている場合があることを指している。例えば米軍車両側がわが国内を移動する際には我が国の法令―主として交通法令―が適用されることが協定第五条(合意議事録)で定められている。(注81)
(注81) 尤も、協定第五条の如き場合、日本法令の適用の対象は、軍隊(又は公務中の軍人等)であることから、通常の私人に対する適用とは自ずと異なる面があることは、当然である。従って、米軍による法令違反の責任を生ずるが、米軍(即ち米国)に対して、法令上の罰則(例えば罰金)が課せられるということはなく、また、かかる法令違反の行動に従事した米軍人等に対してもわが国が直ちに裁判権を行使するということにはならない(かかる場合協定第十七条により米軍が第一次裁判権を有する。)。もっとも、公務中の軍人等が軍隊の指揮命令とは無関係に、自らの故意・過失によって違法な行為を行なっていると判断される場合には、かかる行為を中止させるために公権力を行使することは当然認められてしかるべきである。
更に、右の如くわが国の法令が適用される場合、手続的にもあらゆる点がそのまま適用されると解する必要はなく、例えば一定の行動をとる際にあらかじめ市町村長への届出が義務付けられていても、相当の理由(軍機密の保持等)によりかかる届出の代わりに合同委員会とか外交ルートを通じてかかる届出を行なうことは排除されないと解される。なお、協定上、我が国の法令の適用が合意されている場合としては、右のほかの第十二条5項(労働関係に対する日本法令の適用)等がある。
2 以上のことは、協定上例外が定められている場合を除き、米軍が我が国の法令を無視して良いという意味では決してなく、外国軍隊が駐留先の国の国内法令を実体的に守って行動しなくてはならないことは軍隊を派遣している国の一般国際法上の義務と考えられる。(注82)
(注82) この点については、成文の規則が存在するわけではないが、陸戦の法規慣例に関する規則第四十三条は、「……占領者ハ絶対的ナ支障ナキ限占領地ノ現行法律ヲ尊重シテ成ルヘク公共ノ秩序及生活ヲ回復スル為施シ得ヘキ一切ノ手段ヲ尽スヘシ」と規定しており、戦時における占領軍の場合においても右の如く占領地の法令尊重の義務を課されているのであるから、平時において接受国の同意の下に駐留する外国軍隊が駐留地の公共の秩序と国民生活に悪影響を与えない為により厳格な法令尊重の義務を負うのは当然である。米軍による右の如き法令の「実体的遵守」の内容は、第一次的には米軍の判断によることとなるが、この内容を日米間で特に具体的にしておく必要のある場合には、合同委員会において米軍が遵守すべき具体的事項につき日米間で合意することがある(第五条に関する項の注48参照)。
以上の如く、米軍は、わが国の法令を実体的に遵守する義務があるので、相当の理由なくしてわが国の公共の秩序や国民生活に悪影響を及ぼすような法令違反の行為を行なった場合(即ち実態的遵守義務違反があるとみられる場合)には、国際法に反する行為としてわが国は米国の国家責任を追及しうる権利を有する(この点は、右の如き合同委員会の合意違反についても同様)。
3 以上のことは米軍(集合体としての米軍及び公務遂行中の軍人等―具体的には軍人及び軍属―の行為は軍に吸収されるという意味でこれら公務中の軍人等)について述べたものであるが、個人としての軍人・軍属及びその家族に対しては、協定上適用除外が定められる場合(例えば第九条の外国人の登録及び管理に関する法令の適用除外等)を除き、日本法令が全面的に適用される。これは、これらの者が施設・区域の管理のうちにあると外にあると問わない。これらの者が施設・区域の内にある場合には、法令の現実の執行が米軍のいわゆる施設・区域の管理権により制約されることがある(例えば執行のための施設・区域の立入りには原則として米軍の許可が必要)が施設・区域が属地的に法令の適用から排除されるということはない。(注83)
(注83) この点については、例えば性病予防法第十二条(都道府県知事は、……性病にかかっていると認めるに足る正当な理由のある者に対し、……健康診断を受くべきことを命じ、又は、当該吏員に健康診断をさせることができる。)が施設・区域内の軍人等に適用があるかとの点がかつて国会で論議されたが、これに対しては、「第十二条は、健康診断を受けるべきことを命ずる下命行為と当該吏員をして健康診断をさせるという事実行為との二つの要素を持っているが、前者については対人的な処分として施設・区域内外を問わず適用があるが、後者については施設・区域の中に立ち入ることは特別の規定に基づかなければできない。」との趣旨の政府答弁が行なわれている(昭和四一年三月二五日、参・予議事録四頁)ところ、これは、以上で述べたことと同じ考え方に立つ答弁である。なお、施設・区域内における日本法令の適用問題の考え方は、第三条に関する項で述べたところに尽きる。
なお、又、以上1から3までの考え方を最も端的に述べたものとしては、昭和三五年六月十二日、参・安保特の林法制局長官の答弁がある(議事録十八頁)。
4 次に、米軍の日本人労務者の公務遂行中の行為には、日本法令の適用があるかとの問題があるところ、この問題は一般論としては極めて困難な問題であるのでここでは省略せざるをえないが、少なくとも日本人労務者がガードとして銃砲を所持できるかという点が問題となったことがある。この点については、施設・区域のいわゆる管理権の趣旨に鑑み、施設・区域内において日本人ガードが公務上武器を所持することは、銃砲刀剣類等所持取締法の「法令に基づき職務のため所持する場合」(第三条1項一号)に該当し認められるとの政府答弁がある。(注84)
(注84) 昭和二七年十二月十七日、衆・外議事録九頁。なお、この点については、米軍隊の機関としての行動である限り違法性が阻却される(従って施設・区域の内外を問わない)との考え方がある(山内一夫前掲論文、三六二号十四頁)が、実際には、過去の合同委員会において日本側は、米側が施設・区域外において日本人ガードに武器を所持させることに反対した経緯がある。なお、ボン協定には、「軍隊に勤務する者」に一定の場合に武器の所持を認める旨の規定があり(第十二条1項)、これにはドイツ人雇用員も含まれると解されている。なお、ついでに述べると、ナト協定には、「軍人は命令によって認められることを条件として武器の所持が認められる」旨の規定がある(第六条)。日米地位協定にはかかる規定はないが武器の所持は、いわば軍人の属性であり当然のことと考えられる。なお、ナト協定の規定は「軍属」に触れていない(この点学者に批判されている。ボン協定第十二条1項は、軍属による所持も明文で認めている。)が、軍属が軍隊の機関として行動する限り武器の所持が認められることは、当然と解される。
二 第十六条の意味
第十六条は、日本において、日本の法令を尊重し、及びこの協定の精神に反する活動、特に政治的活動を慎むことは、軍人・軍属及びその家族の義務である旨定めるが、個人としての軍人・軍属及びその家族には、前述のとおり原則として日本法令が全面的に適用され、従って、これらの者は、日本法令を(尊重のみでなく)遵守しなければならない。この規定の意味は、むしろ、通常の政治活動が必ずしも直接接受国の法令に触れることとはならないことを念頭に置きつつ、これらの者の政治活動を慎ませることにあると解される。尤も、これらの者の在日理由(安保条約の目的)とその政治活動とは本質的になじまないものであり、この意味では、第十六条は、全体として当然のことといえよう。なお、ナト地位協定の中の同様の規定(第二条)及び国連軍地位協定第二条は、軍人等に加え「軍隊」そのものをも規定の対象としているが、日米地位協定では、「軍隊」は、本来政治活動をする筈がないとの前提から特に挙げなかっただけのことに過ぎない。(注85)
(注85)合同委員会の合意(「刑事裁判官轄権に関する事項」)の中には「合衆国軍隊の構成員、軍属又はそれらの家族に対しては、日本国の法令を遵守し、日本国の警察の指示等に従うべき旨を強調した(米軍の)指示が既に発せられており、今後もなお定期的に発せられる。」旨の記述がある。(その4に続く)
参考URL
機密文書その1 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/408
機密文書その2 http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/message/411
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
TUP速報
配信担当 菅原 秀 Schu Sugawara
電子メール: TUP-Bulletin-owner@yahoogroups.jp
TUP速報の申し込みは: http://groups.yahoo.co.jp/group/TUP-Bulletin/
*問い合わせが膨大な数になっています。ご返事が書けない場合がありますので、ご容赦ください。
■TUPアンソロジー『世界は変えられる』(七つ森書館) JCJ市民メディア賞受賞!!