【ねこまたぎ通信】

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斬首された米国人ニック・バーグ氏の父による平和へのメッセージ

斬首された米国人ニック・バーグ氏の父による平和へのメッセージ

 斬首された米国人ニック・バーグ氏の父が、ロンドンで5月に行われた反戦行動に向けて正体未詳の者たちによって送ったメッセージが、英紙ザ・ガーディアンに掲載され、世界各国の新聞やウェブサイトを通じて、多くの人たちに読まれているので、ご紹介します。このメッセージをしたためるお父さんの気持は想像を絶しますが、親と子が互いを誇りに思うと人前で照れずに言える文化を、ここに感じないではいられません。旗や歌を強制する政府が、イラクの人質に対するバッシングの先頭に立ち、さらには北朝鮮に拉致された被害者のご家族が中傷を受ける日本に生きる私たちにとって、示唆にとむ一文だと思います。
                     (萩谷 良  /TUP)


ジョージ・ブッシュはニックの目を見たことがない

息子の命を奪った殺人者たちにもまして、私は、大勢の人を死なせる政策の遂行者を断罪する

マイケル・バーグ
2004年5月21日
掲載紙:ザ・ガーディアン

Michael Berg
Friday May 21, 2004
The Guardian

 私の息子、ニックは、私の師であり、私の英雄でした。私の知る、いちばん心優しく、親切な人間(man)、いや、私がこれまで知ったかぎりで、いちばん心優しく、親切な人間(human being)でした。彼はアメリカ・ボーイスカウトを辞めましたが、それはピストルの撃ち方を教えられそうになったからでした。ニックはまた、私が世界に向かって彼のことを語るために必要とした力、今もなお必要とする力を、私に注ぎ込む存在でもありました。
 なぜ、息子の悲劇的な無残な死についての責めを、ブッシュ政権にのみ向けるのか、と尋ねられます。人々は「彼を殺した5人の男を責めないのか」と聞きます。これまで私は、彼らを非難することは、ブッシュ政権を非難するのに、劣らず、また優りもしないと答えてきました。でも、これはまちがいです。私の息子を知っている人は、彼とのつきあいの間に、彼がいかに並外れた人間であるかを知ったはずです。彼を殺した者たちが、あの恐るべきことを行ったとき、期待したほど、悪意をこめられなかったということに、私は慰めを感じます。きっと彼らは彼を賛えることになったはずです。

 ニックにナイフを揮った者は、その手に彼の呼吸を感じ、そこにいるのが現実の人間であることを知ったのです。ほかの者たちも、きっと息子の目を見たことでしょう。そして、世界の他の人々が見るものを少なくとも微かには見たのです。ですから、この殺人者たちは、ほんの一瞬は、自分たちのしていることが厭になったはずだと、私は思います。

 ジョージ・ブッシュは、一度も私の息子の目を見たことがありません。ジョージ・ブッシュは、私の息子を知りません。それが、彼をことさらに冷酷にしているのです。ジョージ・ブッシュは、彼自身人の親でありながら、私の苦しみや私の家族の苦しみを感じることはできず、ニックのために嘆く世界の苦しみを感じることができません。たんなる政策立案者であって、自分の行為の結果を担わなくてもよいからです。ジョージ・ブッシュは、ニックの心も、アメリカ民衆の心も、見ることはできず、まして、彼の政策が日夜死なせているイラクの人々の心など、見えはしないのです。

 ドナルド・ラムズフェルドは、イラクの捕虜に対する性的虐待の責任は取ると言いました。しかし、行為の結果が自分の身に返ってこないのに、どうして責任がとれるというのでしょうか。ニックが、その結果を引き受けたのです。

 息子の命を奪った殺人者たちにもまして私にとって耐えがたいのは、多くの人の命を絶ち、なお生き続ける人たちの生活を破壊する政策を、安閑と坐って立てている者たちです。

 ニックは軍隊には入りませんでしたが、軍人の規律と献身を持っていました。ニック・バーグが人々を援助するためにイラクに行ったのは、個人的な利得を一切期待しない行為でした。彼は一人の人間に過ぎませんが、その死を通じて、多くの人間となりました。自分自身の心のなかで正しいと知っていることをするために、自分のすべてを与えるという、ほんとうに無私の精神は、たといそれが危険かもしれないとわかっているときでも、正しいのです。この精神が、ニックを知る人々のあいだに広まり、そして、そのグループが今も世界中に広まりつつあるのです。

 では、私たちは、9月11日というあの不名誉な日にアメリカの私たちが攻撃を受けたとき、どうすべきだったのでしょうか。それまで一度もしたことのないことを、あのときすべきだったのだと、私は言いましょう。私たちが敵というレッテルを貼った人たちに向かって物を言うのはやめて、彼らの言うことに耳を傾ける、ということです。この小さな惑星のうえでの我々の平和共存について条件をつけるのをやめ、すべての人間の、自由に自律的に生きたいという要求を尊敬し尊重し、どんな国家の主権も真に尊重するということを始めるのです。他の人々が従うべき規則を作っておきながら、我々のためには別の規則をつくるということを、やめるのです。

 ジョージ・ブッシュの役に立たない指導性は、ひとつの大量破壊兵器であり、それがいくつもの出来事の連鎖反応を可能にした結果、私の息子は不法に拘束され、エスカレートする暴力の世界に沈められてしまったのです。もし拘束されていなければ、私はニックを再び腕に抱いていたでしょう。その拘束のせいで、彼は、ファルージャ包囲攻撃に至った多数の残虐行為が発生するまで、そればかりかさらには、イラクのあちこちの牢獄での残虐行為が明るみに出るまで、イラクに引きとめられ、そのために、素晴らしい生涯に終止符を打たれたのです。

[訳注 ニック・バーグ氏は、3月24日にユダヤ系のためスパイと疑われてイラク警察に捉えられて米軍に引き渡され、外部との連絡を絶たれた。尋問にあたったFBIが身元確認をして、両親に事情が知れ、両親は釈放を求めて4月5日に米軍を相手に提訴。翌日にニック・バーグ氏は釈放されたものの、10日から行方不明となり、5月8日にバグダッドで遺体が発見され、その後「処刑」のビデオが公表された]

 私の息子の働きはいまなお続いています。以前は一人の平和の作り手がいたところに、今は何千人のも平和の作り手を見ることができ、彼らからの便りが届きます。ニックは自己の信念にもとづいて行動した人間でした。私たち、世界の民衆は、いま、自分たちの信念にもとづいて行動する必要があります。私たちは、大西洋の両側にいる悪人たちに、もう戦争はご免だということを知らせる必要があります。私たちは、罪もない人たちを殺し、爆撃し、一生の障害を負わせることは、もうご免なのです。嘘も、もうご免です。そうです、私たちは、自爆攻撃も、イスラエル人とパレスチナ人が殺し合いをやめる道を見いださないことももうご免なのです。双方が平和という成果を排除するような諸条件を予め設定して始めるような交渉と和平会議もご免です。私たちは、いまただちに世界に平和を、と、望んでいます。

 おおぜいの方が、ニックと私たち家族のために祈ろうとご提案くださいました。ありがたいことだと思います。ただ私は、その祈りのなかに、平和への祈りを含めていただきたいと、その方たちにお願いしています。また、祈る以上のことをしてくださるよう、お願いしています。いまただちに平和をと要求してくださることを、お願いします。

(マイケル・バーグ氏は、アルカイダとされる集団により、斬首され、その様子をビデオに撮影された米国の民間請負企業社員、ニック・バーグ氏の父。

 この記事は、5月22日にロンドンで行われた「戦争停止連合」のデモ「拷問をやめろ 軍隊はいますぐ帰国を」のための支援のメッセージの抜粋として、デモ前日の英紙ザ・ガーディアンに掲載されたものの全訳です)

                (翻訳 萩谷 良/TUP)
原文URL:
http://www.guardian.co.uk/Iraq/Story/0,2763,1221644,00.html


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