【ねこまたぎ通信】

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イラク自衛隊 シーア派デモの恐怖

 イスラム教シーア派デモ隊と連合軍との衝突で始まったイラクの混乱は、拡大の一途だ。「テロとの戦い」のはずが、デモ隊への発砲で、米軍の占領統治に不満を持つ市民を一挙に敵に回しかねない情勢だ。住民の大半がシーア派サマワへの飛び火が懸念されるが、デモとの対峙(たいじ)は、テロよりやっかいだ。自衛隊は銃口を向けることになるのか。
 「大変憂慮している」

 イラクで拡大するイスラム教シーア派指導者、ムクタダ・サドル師の支持者らと連合軍との衝突に、福田康夫官房長官は六日、これまでにない強い懸念を示した。

 その理由には、もちろん自衛隊の存在がある。自衛隊は治安活動はせず、「非戦闘地域での復興支援活動」が目的だ。自ら治安維持に動くわけではないが、逆に移動中やサマワの宿営地でデモ隊に遭遇した場合の安全対策をどうするかが問題となる。しかも相手はテロリストではない。武装した民兵もいるが、イラクの一般市民たちだ。

 デモ隊と衝突したら「自衛隊はお手上げだ」と断言するのは、軍事評論家の神浦元彰氏だ。「派遣前にさまざまな脅威を想定しているが、自衛隊はデモとの遭遇を全く想定していない」と指摘しながら続けた。

 「自衛隊はもともと治安活動をしないので、サマワでデモがあった場合にはオランダ軍が鎮圧に動く。だが、宿営地にデモ隊が結集したり、部隊の移動中にデモに遭遇することも十分ありうる。例えば、群衆の中の数人が武器を持っていた場合にどうするか。米軍は、武器を持っていない人を射殺することも許されている。だが、日本は全くその想定をしていない」

■発砲した場合に国内議論は必至

 イラク派遣に先だって、武器使用の手順を示した部隊行動基準が定められてはいる。

 元空自情報将校で軍事評論家の鍛冶俊樹氏は「車両が囲まれた場合、ひたすら引きこもって、脱出の機会を探るしかない。部隊行動基準では、正当防衛による射撃もできることになっているが、装甲車などの場合は発砲されても耐えるしかない。デモ隊がロケット弾でも持っていたら別だが。それでも自衛隊が発砲した場合には日本国内での議論は必至だ」と説明、最善の方法は「宿営地に引きこもるしかない」と断じる。

 実際、サマワの派遣部隊は「シーア派の祭りアルバインが復活し、人々が移動している時期で、余計なトラブルを招くような活動を避けるため」と、五日は三月下旬から続けている学校の補修や道路作業などを一時中止し、宿営地からの外出を避けた。

 サマワで取材中の本紙の上田千秋記者は「実際、カルバラでの祭りで市民は出払っていて、サマワに人はいない」と今のところ平穏の様子だ。だが、イラク情勢に詳しいある専門家は「祭りの後に、先鋭的な都会の空気を吸って、興奮した状態の市民が一斉に戻ってくる。そのときも平穏だと言えるのか」と危ぐする。

■スンニ派に対抗 妥協の共同歩調

 イラク人口の約六割を占めるといわれるシーア派の各党派は、同国に四人いる大アヤトラ(最高権威)の一人で国民的人気の高いシスタニ師を担ぎ、クルド、スンニ派に対抗するため、共同歩調をとってきた。

 しかし、これは妥協の産物だった。どの党派も単独でシーア派全体をまとめる力量はなく、特に昨年八月に最大党派のイラクイスラム革命最高評議会(SCIRI)議長のムハンマド・バキル・ハキム師が爆殺されて以来、傑出した指導者もいなかった。

 シスタニ師はイランの故ホメイニ師とは対照的で、政治の宗教的な逸脱を監視しても、直接介入は避ける立場だ。その「無害」さがまとめ役にふさわしく、各党派の支持者も日常生活にまつわる宗教判断ではシスタニ師を尊びつつも、政治的には各党派の立場を保つ人が少なくなかった。

 しかし、ここにきて米国や他の集団に対抗するため「シスタニ師支持」を掲げたシーア派の団結が崩れ始めたようだ。先月初旬のイラク基本法(暫定憲法)採択と、カルバラなどでの同派最大の盛典「アシュラ」で発生した連続爆破テロ(百四十人以上死亡)がきっかけになった。

 基本法では連邦制や将来の法制定でイスラム法をどの程度重視するかという重要な点で、シーア派は事実上、米国に大幅に譲歩させられた。「アシュラ」事件では、治安のため必要悪とみてきた「米軍統治」の根拠が揺らいでいた。

 サドル家は、フセイン政権下に外国に亡命し、現在は米国の統制下にある統治評議会にいるSCIRIなどと違い、亡命せず国内で闘い続けた家柄。同評議会の枠外にあり、米国と貸し借りもない立場だ。

 今回の騒乱は、サドル師系新聞の発行禁止に端を発した。だが、一向に改善されない戦後生活への不満を土台にしたシーア派反米感情が、貧困層に人気のあるサドル一派を通じて噴き出した側面がある。団結の亀裂はここに走った。

 イラク問題の第一人者、アジア経済研究所の酒井啓子主任研究員は、サドル師支持者への米軍の強硬策について「一番手をつけてはいけない所を触ってしまった」と批判する。
 「サドル一派に対する米国の対応が他のシーア派指導者たちへの踏み絵になりかねない。穏健派であるシスタニ師の立場が危うくなることも否定できない。サドル一派への対応がシーア派内の内ゲバ、さらには内戦の導火線になるのか、逆に各党派が反米に引っ張られるのか、予断を許さない情勢に入った」

 一方、六日付の英紙「ガーディアン」は、米軍がスンニ派による反米活動の拠点ファルージャへの攻撃を同時並行で始めた点に注目し、「米国が意図的にイラクを混沌(こんとん)に陥れようとしている可能性」を指摘、こう続けた。

 「既に米政府は六月の主権移譲をあきらめ、その理由づくりのために混沌をつくり出そうとしているのではないか。占領が続くことはブッシュ(大統領)の選挙キャンペーンにとって悪いニュースではある。だが、今の状態で主権移譲し、次第に基本法や米国が指名した統治評議会が骨抜きになるよりはましだろう」

■日本の要人発言 危機招く可能性

 カタールのハマド外相は六日、「われわれはイラクがアフガンやかつてのレバノンのように内戦に直面することを恐れている」と懸念した。だが、情勢はこの方向に進んでいる。酒井氏は日本の対応について「サマワには確かにサドル師支持者は少ないが、同派の事務所はある。それに隣接するナシリアはサドル派の牙城。彼らが流れ込んでくるのはわけない話」と語り、こう懸念する。

 「心配なのは日本政府要人たちの発言だ。小泉首相が不用意に『米軍を支持する』などと言おうものなら、自衛隊への危険は一気に高まる。撤退も視野に入れて対応すべきだ」

●って釘を刺しても無駄なんだろうなぁ.