【ねこまたぎ通信】

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“北”ラジオ放送から消えた『金日成』の名

 故金日成主席の名前が消えた−。といっても、朝鮮中央放送などラジオで放送開始時に流すスローガンの話だ。死してなお「国父」の名は連日、たたえられていた。それが、生誕九十一周年に当たる今月十五日からなくなったのだから、深読みもしたくなる。何を意味するのか−。

 「偉大な領袖金日成同志の革命思想、万歳」「栄えある朝鮮労働党、万歳」

 北朝鮮の報道をウオッチしているラヂオプレスによると、北朝鮮のラジオでは国内向け放送の朝鮮中央放送と、韓国や日本など海外向けの平壌放送は、朝の放送開始時に、これまで「愛国歌」に続けて、冒頭のスローガンをアナウンサーが読み上げていた。

 それが今月十五日の故金日成主席の生誕日を境に、こんな文言に変わった。

 「栄えあるわが祖国、朝鮮民主主義人民共和国、万歳」「朝鮮人民のすべての勝利の組織者であり嚮導(きょうどう)者である朝鮮労働党、万歳」

■機関紙の社説でも 96年22回→今5回

 スローガンの変化についてラヂオプレスの担当者は「普通に考えれば『脱金日成』ということだろう。『すべての勝利の組織者…』という部分は、イコール金正日総書記という意味ともとれる」と推測する。

 その傾向を表す一端として、この担当者は、ある数字を挙げる。故金日成主席が他界後の一九九五年以降、毎年元旦に掲載される党機関紙などの共同社説の中で、金日成主席の名が出てくる回数で、九五年が十五回、九六年が二十二回、金正日氏が総書記に就任した九七年がグンと減って六回。その後、少しずつ減り、二〇〇〇年以降は四、五回に減少している。

 同担当者は「放送に対して、金総書記は、おおまかな指示を出しているとみられるが、父親の名が外れたといっても、総書記自身は、自分の名を出さない方が良いという思いがあるのではないか。金正日総書記は『あくまで金日成主席の遺訓政治を行っているんだ』と。儒教的な考えがあるのでは」とも話した。

 重村智計拓殖大教授も「世代交代論」に同調する。「何年も前から党の元老たちの交代を進めようとしていたが、うまくいかなかった。『金日成と一緒に仕事をした俺(おれ)を外すのか』と。それでは、金正日体制が本格的に動かない。そこでまず主席の名を外したのでは。それと、既に配給制は軍と党の幹部を除いて止まったといわれており、いずれ『経済政策は失敗した』と言わなければいけない。金日成主席の経済政策は間違ったが、思想、政治は正しい、と分けて言うための布石」とみる。

■米との衝突に備え

 一方「もう少し深い意味があるのでは」と話すのはコリア・レポートの辺真一編集長だ。「スローガンが変わることは大きな意味がある。これまで『故金日成主席は人民の心の中にいる。永久不滅』と言ってきた。それが消えたのは、単に個人崇拝の意味合いを払しょくするものではない。個人崇拝を薄めたいなら、生誕九十一周年の時にこれでもかというくらいに親子二人のツーショットを出さないだろう」と話す。

 では、その真意とは何か。辺氏が分析する。

 「核問題をめぐる米国、中国との三国協議が決裂すれば、米国による攻撃もあり得ない話ではない。指導部は、米国との軍事衝突に備え、国民に対して戦争の準備を急がせたい。そこで、米国の侵略に対し、祖国、党を守るということを全面に出したい。故人を守るということではなく、国家、党を守るんだということを国民に強調したいのでは。金正日氏は『俺を守れ』とは言えないから」