【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

日本:依然深刻な人身売買の実態

人身売買を問う会議が東京で開催 外国人女性を借金で縛り奴隷状態に

法整備の必要性で参加者が一致

 人身売買は被害者への人権侵害であり、巧妙な国際ネットワークによる組織犯罪である。しかし外国人労働者の「受け入れ国」である日本では、超過滞在者を中心とした人身売買など人権侵害の被害実態が知られていない。それだけでなく、被害者の支援体制や取り締まりのための法整備も遅れている。こうした現状を変えるにはどうすればよいのか。被害女性の支援に関わる活動家や各方面の専門家が参加して、1月下旬に東京で行われた会議の模様を報告する。
 【東京IPS=スべンドリニ・カクチ記者】日本人男性のボスと手配師の口車に乗せられて日本に連れて来られた南米のコロンビア人女性パトリシアさん(23)は、ホステスをさせられながら受けた苦痛と貶められた生活を語りながら涙した。

▽コロンビア人女性が被害を証言

 パトリシアさんは1月22日、東京の国連大学で開催されたシンポジウム「世界に広がる人身売買と日本の責任」(アジア財団、国際労働機構の共催)で発言した。自分の受けた苦痛に満ちた体験を詳しくは語らなかったが、本国の家族に送金するために風俗街で働いていた間、いかに無防備な状態に置かれていたかを浮き彫りにする証言だった。
 「私は日本で二度売られました」というその声は震えていた。「借金が100万円あると告げられました。ボスにはたびたび殴られ、食事がないこともよくありました。四六時中監視されていました。その時にときに受けた心の傷はまだ癒えていません」と話す。
 自分が働いていた環境は「非人間的」だったというパトリシアさんは昨年、ようやく在日コロンビア大使館に駆け込むことができ、カウンセラーの保護を受けた。
 パトリシアさんは、奴隷同然の状態に置かれている女性たちを保護する法律の制定を日本政府に求め、短い証言を締めくくった。

▽日本は人身売買業者の”天国”

 この訴えは会議に参加した専門家やソーシャル・ワーカーの意見とも共通するものだった。
 コロンビア大使館のソーシャルワーカー、オマイラ・リベラさんは「法規制が緩るく、経済大国でもある日本は人身売買業者の絶好の活動の場になっている」と指摘する。
 日本にいる超過滞在者約22万人のうち女性は47%を占める。出身国別に見ると興行(エンターテイナー)資格でのビザ取得が可能な国が過半数で、内訳は韓国が25%、フィリピンが14%、中国が13%、タイが8%の順となる。
 講演者によれば、人身売買を支えているのは送出国と日本側のエージェントの巨大なネットワークで、その取引相手は莫大な利益を産んでいる日本の風俗産業を動かす暴力団だ。活動家筋は、風俗産業の規模は年間9兆960億円(830億ドル)に上ると見積もっている。
 70年代に問題の深刻さが初めて報道されたが、以来数十年間、人身売買は減少していない。
 また会議の席上、人身売買の被害女性の奴隷的な生活状況に関する広範な実態調査の結果が明らかにされた。送出国別ではタイが人数が最も多く、次いでフィリピン、中国、ビルマなどとなっている。

▽超過滞在化が問題を深刻に

 専門家によれば、女性の大半は日本に来る前から性産業で就労することに気づいてるが、日本入国後に巨額の債務返済を迫られることで、もともと危険な状態に置かれた女性たちは、一層深刻な事態に直面することになる。
 「女性の家HELP」のディレクター、大津恵子さんは「女性たちは結果的に、危険な労働環境を思い通りに課すことのできる男性の奴隷にさせられ、人間としての尊厳を踏みにじられる」と説明する。
 HELPでは人権侵害や暴力の被害に遭っている女性たちに、電話相談での援助とシェルター(避難所)を提供しており、これまでに4千人以上を保護してきた。受け入れた女性のほとんどはタイ人で、1998年の8人から2002年には18人に増加した。次に多いのはコロンビア人で01年には17人、02年には2人を保護した。
 滞日外国人の健康と権利に関して活動するNPO「CHARM」のソーシャルワーカー青木理恵子さんによれば、女性たちはパスポートをボスに没収され、給料を何カ月も払ってもらえず、実質的な奴隷状態に追いやられる。
 超過滞在の女性は健康保険が適用されないため、救急外来に運び込まれた女性たちの中には治療費を払いきれていない人もいる。
 青木さんによれば、たとえ入国時点では在留資格があっても、期限を過ぎて超過滞在になる移民労働者もいる。フィリピン人女性の大半は6カ月の興行ビザで入国するが、最終的には売春を強制されている。
 またビザの有効期間中は給料が支払われず、諸経費が天引された一時金を受け取るだけだったため、より多くの収入を得るためにビザの期限切れ後も働き続けることになった多くのフィリピン人女性を支援してきたという。

▽心身の健康が蝕まれる被害者

 専門家はまた、人身売買の対象とされることで、こうした女性たちは身体に外傷を受けたり、精神的な病を患うことになる場合が多いと付け加える。
 大津さんは深刻な虐待のケースを数例取り上げた。日本人男性のボスによって首に切りつけられたところを逃れてきたあるタイ人女性は、タイから来た別の女性数人と共に鍵付きの部屋に閉じ込められていた。
 この女性は毎日客を取ることを強要され、病気や生理のときにも休むことはできなかった。ボスに対して500万円の借金があるといわれ、返済のために働かされ続けたのだ。
 女性たちは妊娠した場合、必ず中絶を強いられ、性感染症(STD)にも高率で感染している。ピルの服用を毎日強制されながら客を取らされたとの訴えもあり、中にはそのせいで子どもが産めなくなった人もいる。
 苦役から逃れようと客と結婚する女性もいるが、うまく行かない場合がほとんどで、DV被害者の保護施設に逃げ込むケースもある。活動家によれば、性産業で働いたために妊娠した女性たちから生まれ、捨てられる子どもの数が増えているという。

▽問題の根は男性支配型社会に

 一連の問題は国会で何度か取り上げられてきた。だが大脇雅子参議院議員社民党)は、問題に正面から取り組むべき時期だと強調する。大脇議員は、人身売買に関する突っ込んだ議論のなかった国会でこの問題の推進役を務めている。
 大脇議員は問題の根は社会にあるとし、男性支配型の日本社会が性産業を容認する雰囲気を作り上げていると指摘する。日本では性労働者の権利は話題にすらなっていない。
 大脇議員は「やるべきことはたくさんある。まず、この問題が人権侵害であることを日本社会に自覚させ、次に人身売買が刑事犯罪であることを認識してもらわなければならない」と述べた。

【メモ】人身売買 「人のトラフィッキング」ともいう。女性や子どもの被害者が圧倒的で、低賃金単純労働者や性労働者として半奴隷的な労働を強いられる。国際犯罪組織の関与も強い。国連や人権NGO、各国が対策に動く世界的な人権問題の一つ。