【ねこまたぎ通信】

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ビルマの人権侵害とチェイニー氏


掲載日:2000年10月13日

(10月4日)
ダニエル・ナイト著
【ワシントンIPS】

 ビルマの人権侵害問題を担当する弁護士たちは、米大統領選の共和党副大統領候補、チェイニー氏が強制労働などを用いたビルマでのプロジェクトに関わっている、と非難している。

 チェイニー氏は副大統領候補に指名されるまで、エネルギー関連企業「ハリバートン」社を経営していた。同社の子会社はビルマで油田パイプラインの敷設事業を進めており、この工事のために軍政当局は、住民を立ち退かせたり、強制的に住民を働かせたりしている。「アースライト」の人権担当弁護士、ケイティー・レッドフォードさんは「チェイニー氏がハリバートン社のCEO(最高経営責任者)に在任している間もその前も、ハリバートン社の関連会社はパイプライン敷設のためビルマで人道に対する罪を犯していたのです」と話す。

 ビルマの軍事政権は世界で最も強圧的な政権とみられている。軍政の人権侵害に抗議する意味で、米国と欧州連合(EU)はビルマ経済制裁を科している。軍政は現在、ノーベル平和賞受賞者で民主化運動指導者のアウンサンスーチーさんを自宅軟禁状態に置いている。スーチーさんが率いる国民民主連盟(NLD)は10年前の総選挙で80%以上の得票率で圧勝した。

 西側諸国が世界銀行など国際金融機関からの対ビルマ経済支援をストップさせているため、ビルマ軍政は外貨を獲得するために外国投資に頼っている。そうした投資プロジェクトとして、ヤダナとイエタガンのパイプライン建設がある。ヤダナパイプラインは総投資額12億ドルで、アンダマン海の天然ガス油田のガスをタイに供給するものだ。建設は1992年に始まり、昨年に完成した。

 「アースライト」の弁護士は、パイプライン敷設現場周辺の村人や、ビルマ軍の脱走兵ら100人以上からの証言を集め、パイプライン敷設事業の治安対策として軍が行った人権侵害の証拠を得た。

 活動家たちは、パイプライン事業に参加しているフランスの「トタール」社、米カリフォルニア州に本社のある「ユノカル」社、タイ国営企業に対して、事業から撤退するよう呼びかけている。

 ビルマ軍政による人権侵害の被害者を支援するレッドフォードさんたち弁護士は、「ユノカル」社が人権侵害によって利益を得ているとして訴訟を起こした。ロサンゼルス地裁は8月31日、訴えを棄却したため、レッドフォードさんらは控訴している。

 ロサンゼルス地裁の訴訟では、原告側は、「ユノカル」社はビルマ軍が犯した人権侵害に共同責任を負うべきだと主張していた。地裁のロナルド・ルー裁判官は「『ユノカル』社はパイプライン敷設事業に際して人権侵害が行われていたことを知っており、利益を得ていた」と認定したが、「ユノカル」社が人権侵害に加担していた証拠がないと判断した。

 この訴訟は今後、発展途上国における企業活動の行動規範を定めようとしている国連や国際機関に影響を与える可能性がある。

 弁護士たちは、「ハリバートン」社に照準を合わせて上級審を闘おうとしている。「ハリバートン」社の子会社でイタリアの企業との合弁企業が、1996年と97年にヤダナパイプライン事業の取り引きに関わっていたという証拠を得たためだ。

 この時期、チェイニー氏は「ハリバートン」社のCEOだった。同社の関連会社「ハリバートン・エネルギー・サービス」社は英国企業の支援で、ヤダナパイプラインに委託サービスを提供していた。

 人権活動家たちはまた、イエタガン油田のパイプラインについても、「ハリバートン」社を追及する構えだ。同社の傘下企業が1998年にパイプラインの原材料を製造した。

 「アースライト」によると、イエタガンパイプライン事業でもヤダナパイプラインと同様の人権侵害が行われているという。レッドフォードさんは「イエタガンパイプライン事業に関わる企業は、事業の一部として行われている人権侵害を受け入れている」と批判する。これに対して、「ハリバートン」社の広報担当、ウェンディ・ホールさんは「わが社はビルマ事業をしていない」と主張している。

 「アースライト」はさらに、インドネシア、イラン、イラクリビア、ナイジェリアで「ハリバートン」社が行っている事業についても、いくつかの問題点を追及している。同社がインドネシアで獲得した事業契約がその後、インドネシア政府によって破棄された。インドネシア政府が、この契約について汚職の可能性があると判断した可能性がある。インドネシアの企業活動監視団体によれば、「ハリバートン」社のエンジニアリング部門専門会社が「スハルト元大統領のファミリー企業との間で、汚職の疑いが強い縁故主義的な商取引を行った」という。

 「アースライト」によれば、「ハリバートン」社は米国の外国貿易評議会(NFTC)などの産業団体に働きかけて、米政府の経済制裁に反対する活動を続けていたという。今年6月、最高裁は、ビルマで活動する企業との契約を禁じるマサチューセッツ州法が違憲だとの判決を下した。この訴訟ではNFTCが違憲だと主張していた。

 マサチューセッツ州法をめぐる訴訟では、ビルマ民主化運動団体や米国の人権団体は、1980年代に南アフリカアパルトヘイト政策に対する制裁として発動された法律に照らして合法だと主張していた。

 「アースライト」の報告書によれば、チェイニー氏もマサチューセッツ州法に反対する請願書に署名していたという。同氏は経済制裁は有効でなく、建設的関与政策が必要だと主張した。

 だが、レッドフォードさんは建設的関与政策という言葉は煙幕として使われ、「ハリバートン」社やNFTCの真の目的は、商業的利益にあると主張する。レッドフォードさんは言う。「彼らはビジネスを失いたくない。ただそれだけの理由です」

http://www.ipsnews.net/jp/10/13.html