【ねこまたぎ通信】

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イラク派遣 揺らぐ『有志連合』

 イラク邦人人質事件で、自衛隊撤退を否定した小泉首相を、米政府は即座に評価した。背景には、武装勢力との戦闘激化で、占領軍に派遣している各国に出ている、撤退や縮小など見直しの動きがある。自衛隊が撤退することになれば、米国のもとに集まっている「有志連合」の結束に一気に亀裂が走りかねない。連合軍は大きく揺らいでいる。
 ◇スペイン 「対テロ戦の戦略は見直しが必要となった」。列車同時爆破テロ直後の総選挙で勝利し、次期首相のサパテロ社会労働党書記長は、犠牲者追悼のために先月二十四日、来訪したブレア英首相に対し明言した。大量破壊兵器をめぐる米英政権の情報操作などへの不信感が国内にわだかまり、列車テロで国内過激派の犯行と言い続けた首相に代わって国民の支持を得た。国連イラク復興を主導しなければ、六月末までに撤兵させる意向だ。
 ◇ポーランド 「弱小国なのにイラクに大量派遣している」。今月に入り、国際テロ組織アルカイダと関連があるとみられるアラビア語インターネットで、テロの警告を受けていることが分かったポーランドイラク政策も揺らいでいる。二十二カ国の部隊の指揮を執るなど軍事的貢献を続けてきた。ミレル首相は、スペイン総選挙後も部隊撤退を「テロに屈する」と否定したが、クワシニエフスキ大統領は先月、世論に配慮し、米英の対応に「わが国はだまされてきた」と批判、撤退時期の半年前倒しに言及した。
 ◇韓国 「現在イラクは、第二のベトナム戦争の様相」。牧師一行がイラク武装勢力に一時拘束されたことを受け、野党からは約三千人の追加派兵に反対する声が強まっている。国会が追加した派兵同意案は派兵目的を平和再建としており、派遣予定地域の治安悪化で、今月末に予定された派遣は延期された。今月十五日投開票の総選挙で追加派兵が争点として浮上する可能性も出ている。
 ◇オランダ 六月末の派遣期限延長をめぐり、野党が攻勢を強めている。労働党党首は「米軍が率いる小さな連合軍に長く参加すべきではない」と、政府の姿勢に反対する構えだ。日本人人質事件を受け、オランダ放送協会が八日夜行った緊急世論調査では、59%が軍を撤退させるべきだと回答、世論は傾きつつある。

■野党が「任務を超える」と反対

 ◇イタリア 「イタリア軍の撤退は考えていない」。六日、イラク南部ナシリヤイスラム教シーア派武装勢力との交戦により駐留軍兵士十二人が負傷した後、マルティノ国防相はこう表明していた。最大野党・左翼民主党のダレーマ委員長は「政府が説明している復興・平和維持の任務を超えている」と政府を批判している。
 ◇豪州 「豪州には自国防衛という優先事項がある」。今年後半にも総選挙が予想される同国でも、与党保守連合と、野党の間でつばぜり合いが続き、最大野党・労働党のレーサム党首は早期撤退を主張する。ハワード首相は、撤退の考えのないことを強調するが、ヒル国防相は、イラクが主権を回復した後、新政権側から求められれば撤退もありうることを明らかにしている。
 ◇ニュージーランド 派遣期限の九月で撤退を表明している。クラーク首相は今月二日、豪州最大野党のレーサム党首との会談後、「われわれはそれは九月に終わることを示してきた」と語っている。ただ、「再び同じことをするかもしれない」とも述べ、再派遣の可能性も示唆している。
 ◇ブルガリア 約六十人の兵士が今年一月までに派遣を拒否した。昨年十二月、自爆攻撃で兵士五人が死亡したことがきっかけ。今月にはイラクナシリヤで、ブルガリアの輸送会社のトラック六台が攻撃を受け民間人一人が死亡、中部カルバラでは待ち伏せ攻撃で兵士三人が負傷するなど士気にかかわる事件が続いている。

■「米国の国益のために死傷者」

 ◇ウクライナ イラク・クートで武装勢力の攻撃を受け、兵士一人が死亡し、軍は守備していた行政府などを放棄、部隊は郊外に撤退した。事件を受け、議会では「祖国ではなく米国の国益のために死傷者が出た」(野党)と撤退を求める声が上がっている。
 ◇シンガポール 五日、派遣されていた兵士三十一人と輸送機一機が帰国。ペルシャ湾に派遣していた揚陸艦も既に帰国、同国軍はイラクでの任務を終えた。
 カザフスタンや中米のホンジュラスなども治安悪化などを理由に、派遣期限の夏で撤退を決定。タイも撤退予定時期の繰り上げを表明している。
 占領の旗を振る米国の事情はどうか。国際政治学者の浜田和幸氏は「当初から三十万人の部隊がないとイラクの占領は全うできないと言われていた」と、そもそも現兵力では治安維持にも支障があると説明する。
 その穴埋めを担わされている「有志連合」も「治安維持や復興支援で来ているが、もはやその状況ではない。米英軍以外は日本と同じで戦闘経験がない」と指摘、米軍は「現状維持」が精いっぱいという。
 これも理由となり「米国ですらイラク撤退を求める声がかなり強くなっている」と指摘する。
 米調査機関が五日発表した世論調査によると、ファルージャで元特殊部隊員ら米民間人四人が惨殺された事件後、ブッシュ大統領イラク政策の不支持率が53%と、半数を超えた。同大統領支持率も43%で、同調査機関の調査では最低となった。
 民間人の殺害事件については、米メディアの中には残虐な映像の報道を自粛する動きも出た。シカゴ・トリビューン紙の外報担当デスク、ゲリー・バーグ氏は「国民は民間人への攻撃やイラク情勢の悪化にとてもショックを受けていて、理解しようとしている最中だ」と動揺ぶりを説明する。
 世論が動揺する別の理由として浜田氏は「米政府は兵士を増員できない分、民間の元特殊部隊員らの雇用で補おうとしている。今回の事件で傭兵(ようへい)に日当約二十万円を支払っていることが周知となった。傭兵は二万人弱とも言われるが、米国のためにと薄給で命をかけている正規兵やその家族の間では不満は高まっている」と話す。
 有志連合のたがが緩むなかで、来日したチェイニー米副大統領は、小泉首相に結束強化を要請する。人質事件解決は重要だが、それとは別に浜田氏は「万一、自衛隊撤退となれば、ブッシュ政権にとっては大打撃だ。連合軍内では頼りがいがある同志だけに、日本が抜けると動揺している他国への影響は大きい」と指摘し、こう続ける。
 「このまま泥沼化が進むと、日本も引きずられる。自衛隊はもっと、イラクのために働いているところを見せてイラク人との信頼を築き、現状の混乱を改善するよう努力すべきだ。宿営地に閉じこもるしかできないのだったら、行っている意味がない」