【ねこまたぎ通信】

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ブッシュ批判の映画公開相次ぐ

米大統領選、大衆文化が結果に影響する前例のないユニークな選挙に
 今年の米大統領選挙は、映画などの大衆文化が選挙結果に影響を与えるという点で、前例のないユニークな選挙になりつつある。また大衆文化がどの程度選挙結果に影響するのか、それが公正な選挙にとって好ましいことなのかという議論も、かつてなく高まっている。
(ワシントン・横山裕史)

ホワイトハウス、映画「華氏911」にはノーコメント

 この論議は、六月二十五日に全米五百以上の劇場で一斉に公開されたマイケル・ムーア監督のドキュメンタリー映画「華氏911」が焦点になっている。この映画は、公開から最初の五日間で六百万人以上が見ており、七月四日を挟む独立記念日の週末には、全米千七百カ所の劇場で上映され、その波紋が広がっている。ドキュメンタリー映画としては、史上初めて興行収入が一億ドルを突破することは確実。
 カンヌ国際映画祭で最高賞バルムドールを獲得したこの映画は、二〇〇一年九月十一日同時多発テロ前後のブッシュ大統領の対応やイラク戦争を痛烈に批判する極めて政治性の強い内容になっている。大統領選挙の四カ月前に公開されたタイミング、その露骨な党派性、大勢の大衆にアピールする影響力という点では、これまで前例がない。ムーア氏自身、「大統領落選に寄与した最初の映画」にしたいと野心を語っている。

 一九四八年に大接戦になった民主党ハリー・トルーマン対共和党のトーマス・デューイの大統領選でも、ハリウッドの支持者がデューイを応援する映画を製作して上映し、トルーマンが平等な宣伝時間を要求して独自の映画で対抗したが、今年の選挙ではブッシュ大統領ホワイトハウスは「華氏911」には基本的にノーコメントの態度を取っている。

 「華氏911」だけではない。クリントン前大統領の友人が製作した「大統領狩り」をはじめ全部で七本の反ブッシュの映画がすでに公開あるいは選挙までの期間に公開される予定だ。「コントロール・ルーム」「WMD―大量破壊兵器」「発見―イラク戦争についての真実の全貌(ぜんぼう)」「シルバーシティー」などだが、いずれも程度の差こそあれ、ブッシュ大統領を批判する内容だ。このほか、出版界においても、リチャード・クラーク元テロ対策担当、オニール前財務長官などの元政府当局者によるブッシュ政権内部告発の本が出版されたほか、ワシントンポストボブ・ウッドワード編集局次長の「攻撃計画」など、ブッシュ大統領の対テロ戦、イラク戦争での政策を批判する本が相次いだ。

 さらに六月二十二日にはクリントン前大統領の回想録「マイライフ(私の人生)」が全米で一斉に発売され、わずか一週間で百万部が売れ、破格のベストセラーになっている。「華氏911」とクリントン回想録は、ブッシュ対ケリーの大統領選キャンペーン報道をしのぐマスコミの関心を引き付けている。クリントン氏の回想録も、二〇〇〇年大統領選で当選したブッシュ大統領と就任前に面談したときに、安全保障上の最大の脅威はビンラディンアルカイダだと話したが、ブッシュ氏はほとんど反応しなかったなど、ブッシュ大統領のテロへの対応を批判する内容を含んでいる。

 「華氏911」に対しては、ブッシュ大統領を支持する「ムーブ・アメリカ・フォワード(アメリカを前進させよう)」や「シティズンズ・ユナイテド(市民連合)」などの保守系団体が、映画館に手紙を書いて上映しないよう働き掛けたり、ムーア氏を批判するビデオを作って配布したりの対抗行動に出ている。これに対して、昨年イラク戦争反対運動を世界的に盛り上げたリベラル系のムーブ・オン・ドット・オルグが会員に対して、家族や友人を「華氏911」を見に連れて行こうという動員作戦をかけて対抗している。

 大衆文化を活用した反ブッシュ・キャンペーンが、民主党のケリー上院議員をどの程度利するか注目されるところだが、ケリー氏自身はやりすぎると逆効果と見て、「華氏911」など一連の映画などとは距離を置いている。