【ねこまたぎ通信】

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 未だに謎が残るモスクワ劇場占拠事件

チェチェン総合情報

今日、10月26日は、モスクワ劇場占拠事件の強行突入の日−199人もの人々がロシア特殊部隊が使用した毒ガスによって殺害された日から5年目です。この事件で初めてチェチェンの存在を知った方も多いのではないでしょうか。最近のモスクワタイムスに、ガスの種類が判明したという記事が載りました。しかしその報道と抱き合わせの結論は、「血の海にならなかったからよい」という、ちょっと信じられない展開でした。
あれだけの人々が死んでいるのに、まだロシア政府のやり方が擁護されるのは驚きというほかありません。ところで、あの突入が正しかったとするロシア政府の立場、あるいはその擁護論には、ある危うい前提が欠かせません。今回のチェチェンニュースでは、この点についての考察をお届けします。


INDEX

* ノルド・オスト−モスクワ劇場占拠事件から5年
* 『プーチニズム』ロシア語版がネットに登場
* 鳥賀陽弘道のU-NOTEでチェチェンを語る
* 旧ソ連反体制派作家一時帰国 『秘密警察の支配は死に絶えていない』
* イベント情報

▼公式発表が語らない事実

  • チェチェン人「テロリスト」の要求は、チェチェンからのロシア軍の撤退だった
  • 特殊部隊による突入作戦が行なわれたのは、アンナ・ポリトコフスカヤの仲介によって、ゲリラ側が人質の解放に合意した直後だった
  • 軍用ガスを使用した特殊部隊の「救出作戦」によって、多数の人質の命が犠牲になった
  • 実行犯グループの中にロシアの特務機関員が混ざっていた可能性がある
  • ロシア当局は事件の発生を予期していながら予防しようとしなかった

▼人質と被害者の数

  • 人質数:923人 [Caucasian Knot 10/23]

 http://eng.kavkaz.memo.ru/newstext/engnews/id/1200195.html

  • ゲリラの数:42人 [The Moscow Times 10/22]

 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20071023/1193103564

  • 死者数(人質):137人 [Chechnya-sl 10/23]

 http://groups.yahoo.com/group/chechnya-sl/message/53895

  • 死者数(ゲリラ):40人 [Caucasian Knot 10/23]

 http://eng.kavkaz.memo.ru/newstext/engnews/id/1200195.html

  • 行方不明者数(人質):67人 [Chechnya-sl 10/23]

 http://groups.yahoo.com/group/chechnya-sl/message/53895

  • 行方不明者数(ゲリラ):2人 [Prague Watchdog 10/23]

 http://d.hatena.ne.jp/ootomi/20071024/1193217594

▼ノルド・オストという実験

当局の発表によると、特殊部隊が使用したガスには即効性はなく、特殊部隊はゲリラに応戦され、やむをえず彼らを「殲滅」したのだという。だが、ゲリラを無力化させるためにガスを撒いたというのなら(これも当局の言い分だが)、なぜ即効性のあるガスを用いなかったのか。
ロシアでは、当局に恫喝された被害者が偽の証言をすることは、あまりにもありふれた現象として知られている。したがって、後に紹介する記事とは矛盾するのだけれど、私の考える答えはこうだ。
「特殊部隊が使用したガスに即効性がなかったという発表は嘘であり、ゲリラを無力化させるためにガスを撒いたという説明は正しくない」
産経新聞の記事の元になっているモスクワ・タイムズによると、ロシア保安当局が開発したカフェンタニルは、欧米の毒物狂(ドクター・ストレンジラブ?)あたりに言わせると、「極めて理想的な特性を備えた興味深い」物質であるらしい。


Unmasking Dubrovka's Mysterious Gas
http://www.themoscowtimes.com/stories/2007/10/23/002.html


どういうことかというと、カフェンタニルは極少量で効果を発揮し、即効性があり、かつ痕跡が残りにくいために、証拠の隠滅が容易なのである。つまり、ノルド・オストは、ロシア当局が開発した新化学兵器の実験場にされたのだ。そう言ってしまってよいのではないか。
単にゲリラを無力化させるためにガスを撒いたなら、彼らを殺害する必要はどこにもなかった。当局の目的は、最初から、ゲリラを殺害することで、裁判を通じた事件の解明を防ぐことにあったのではないか。そして、当局が「救出作戦」という大義を掲げてノルド・オストという実験を行なった、その証拠を隠滅することにも。そう考えてみると、すべて辻褄が合ってくる。
FSB将校のアナトリー・エルモリンが、ラジオ「モスクワのこだま」に出演して、「『ノルド・オスト』によって、このガスを使用できないことが明らかになった――我々が出さなければならない最初の結論は、そのことだと思う」と述べたことは、極めて示唆的だ。もしかすると、当局がベスランでガスを用いなかったのは、人体実験に使えそうな新種のガスが、たまたまなかったからではないのか。そんなふうにさえ思えてくる。