【ねこまたぎ通信】

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ウルグアイに初の左派政権誕生

バスケス総裁 「変革」求める有権者の声拾う 欧米・地元メディア 「地域の米国離れ進む」

 先月三十一日、中南米ではウルグアイやブラジルなど四カ国で大統領選挙や地方統一選挙が実施された。ブラジルでは左派系ルラ政権の労働党(PT)が南米最大の都市で大票田のサンパウロ市を落としたが、ウルグアイでは左派系候補が大統領選挙に勝利、ベネズエラ・チリ両国の統一地方選挙でも左派系候補が大幅に躍進した。欧米や地元の各メディアは「中南米左傾化が進んだ」「地域の米国離れが進む」と報道、米国が多大な影響力を及ぼしてきた地域に明らかな変化が見えている。
サンパウロ・綾村 悟)

 近年、ブラジルやアルゼンチンなどに相次いで左派系政権が誕生する中で、ウルグアイは現ホルヘ・バジェ政権(コロラド党)がキューバとの国交を断絶するなど親米的な外交政策で知られていた。それだけに、元モンテビデオ県知事で左派系野党の進歩会議・拡大戦線党(EP・FA)のタバレ・バスケス総裁(64)の当選は、「中南米左傾化に拍車」と受け止められた。
 今回のウルグアイ大統領選挙では、一九九四年以来三度目の挑戦となるバスケス氏が当初から順調に支持率を伸ばしていた。投票結果は、バスケス氏が50%以上の得票率を獲得して十一月の決選投票を待たずに勝利を確定、一八二五年の独立以来、ウルグアイに初めての左派系政権が来年三月に誕生することとなった。同国は一九一七年に南米で初めての議会制民主主義を確立、その後は軍政時代(七三−八四年)を除いて国民党とコロラド党による二大政党制が長く続いてきた歴史を持つ。

 人口約三百四十万のウルグアイは「南米のスイス」と呼ばれるほど、中南米随一の社会保障制度と高い生活水準で知られていた。

 しかし、アルゼンチンの経済危機に端を発した二〇〇二年のウルグアイ金融危機では同国通貨の価値が一気に七割も減少、主要銀行が閉鎖されて財政・金融破綻(はたん)の危機が迫る中で国際通貨基金IMF)からの百五十億ドル近い援助を受ける必要に迫られた。財政支出は切り詰められて国民総生産はこの年だけで11%も下落。現在も金融危機の影響は色濃く、国民の三人に一人が貧困層に属し、失業率は15%を超えている。

 バスケス次期大統領の本来の支持基盤は、これまでは貧困層や労働者、学生で占められていた。しかし、今回の選挙では既存の二大政党に不満・不信感を抱いた中・上流階級層からの票も幅広く集めた。同氏は、経済成長と失業率の改善を望みながらも、候補者の政策に耳を傾けてその中に既存の政治とは違った「変革」を求める有権者の声を拾ったといえよう。

 バスケス氏は、内政に関しては選挙戦中も穏健な政策を掲げており、基本的に現政権の路線を継承するものとみられる。ただし、外交政策ではアルゼンチンやブラジルなど南米諸国との関係を重視した外交姿勢を表明しており、キューバとの関係改善も視野に入れている。

 中南米では近年、ベネズエラ、チリ、ブラジル、アルゼンチン、そして今回のウルグアイと左派系政権が相次いで誕生、地域の左傾化が進んでいる。もともと中南米は“米国の裏庭”として多大な影響を受けてきた。七〇年代から八〇年代にかけての軍政時代も多くは米政権によって何らかの支援を受けたものだった。その後も九〇年代は米国式の自由選挙制民主主義と自由貿易・市場資本経済が導入されてきた。

 しかし、経済がグローバル化し市場資本経済が導入される中で貧富の差も拡大した。現在では自由貿易経済と既存政治に対する幻滅感は南米全体に非常に強く「何かが間違っている」と中南米の多くの「(経済発展に)取り残された」有権者が実感しているという現実がある。ベネズエラチャベス大統領、ブラジルのルラ大統領などもそうした声をすくい上げた形で支持を集めた。また、中南米内にくすぶる「米国と距離を置きたい」という一種の嫌米感にも近い感情が地域の左傾化に拍車を掛けている可能性も否定はできない。

 ブラジルに代表される近年の中南米左派系政権は、「貧困層の救済と社会変革」を強く訴えながらも、海外からの投資や経済政策に関しては非常に保守的な手段を取る現実派だ。過去の軍政でも米国から輸入された民主主義でもなく、また既存の理想を追い求める社会主義でもない。「地に足を下ろした理想主義」(バスケス次期ウルグアイ大統領)の行方が注目される。

新大統領となるバスケス氏 医師出身、調整能力に定評

 首都モンテビデオの労働者階級地区に生まれ、苦学して共和国大医学部を卒業。がん・放射線治療専門医として国内外に知られる。モンテビデオ県知事として大胆な公務員改革を断行し、大統領選は三回目の挑戦。前回は第一回投票で首位に立ちながら、決選投票で涙をのんだ。 際立ったカリスマ性はないものの、調整能力に優れ、周囲から絶大な信頼を得ている。大統領官邸には住まず、医療活動も続けると宣言している。趣味はキャンプと釣り。妻と養子を含め息子四人、孫が十人。六十四歳。(サンパウロ時事)