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機密文書「地位協定の考え方」その2

琉球新報がスクープして掲載した外務省の機密文書、「地位協定の考え方」全文の「その2」をお送りします。

〔第三条〕は米軍の管理権について定めているものですが、この機密文書では、「国内法の適用は、米軍の管理権を侵害しない形で行うこととされている」など日本の主権を放棄する解説がなされています。また、施設の返還に当たっては「国は、当該財産の返還に当り、米国に対し、その原状回復又はこれに代わる補償の請求を行なわないものとする旨定めている」などの解説もしています。

TUP(平和をめざす翻訳者たち)配信係

機密文書「地位協定の考え方」その2


〔第三条〕

第三条は、施設・区域に対するいわゆる米側の管理権、施設・区域の近傍でとられる措置等について定める。

一、施設・区域の「管理権」(施設・区域の法的性格)

1 米側は、「施設及び区域内において、それらの設定、運営、警護及び管理のための必要なすべての措置を執ることができる。」(第三条1項第一文)これが通常施設・区域に対するいわゆる米側の「管理権」と称されるものであって、施設・区域について米側が排他的使用権を有していることを意味する。「排他的使用権とは、」米側がその意思に反して行なわれる米側以外の者の施設・区域への立入り(注27)及びその使用を禁止しうる権能並びに施設・区域の使用に必要なすべての措置をとりうる権能を意味するが、これは地位協定上の施設・区域の本質的な要素であると考えられる。

(注27)土地等の使用賃借契約における借主もその権原に基づいて他人の立入りを禁止することができるが、それは、私人に対するものであるのに反し、施設・区域に関する米側の立入り禁止権は、協定及び合同委員会合意上特に定める場合を除き、日本側公権力にも対抗しうる点に特色がある。なお施設・区域への立入り問題については別途触れる。

2 行政協定においては、「……管理のため必要な又は適当な権利、権力及び権能を有する。」と規定されていたが、かかる表現は、施設・区域があたかも治外法権的な性格を有しているかの如き印象を与え兼ねないので単に「必要なすべての措置を執ることができる」としたものであるが、「管理権」の実体的内容については新旧協約上差異はない。

「設定、運営、警護及び管理」は、「管理権」の要素を観念的に例示したものに過ぎず、これらの用語の一つ一つの意味を独立にとり上けて議論することは余り意味がなく、又、これら用語に必ずしも該当しない措置は米側としてとることができないと解することも適当ではない。米側が施設・区域でとりうる措置については、第三条に関する合意議事録に具体的事項が列挙されている(列挙事項には施設・区域外にかかるものもあるがこの点は別途論ずる。)が、これも例示的なものであることは、同議事録の頭書きから明らかであって、米側のとりうる措置はこれら事項に限られる訳ではない。(注28)

(注28)なお、右議事録第1項には米側のとりうるは措置として「……施設及び区域を構築(浚渫及び埋立てを含む。)し、」との表現があるが、これは、「施設及び区域を整備し、」位の意味と解すべきである。けだし、地位協定は、米側がたとえ自ら費用を負担しても、米側の措置として施設・区域を新たに設けたり、既存の施設・区域な拡張したりすることは全然予想していないと考えられるからである。

ちなみに、右の浚渫及び埋立ては、施設・区域たる水域における措置であって(このような埋立てに日本側は、協力する旨合同委員会で合意されている。)、このような措置がかかる水域外でとられることは予想されていない。

3 米軍に提供される施設・区域に右の如き法的地位が与えらるのは、第一に、米軍の使用に供される施設・区域内に右の如き法的、地位が与えられない限り米軍の有効な機能の発揮が妨げられるということによるが、第二に、他方において、米軍の活動には、後述の如く、原則としてわが国の法令の適用がなく、従って、米軍の軍隊としての活動が施設・区域外で行なわれればわが国の社会秩序に大きな影響が与えられることが予想されるので、米軍の軍隊としての活動は右の如き特別の法的地位を有する施設・区域内に限られるべきであるとの考え方を前提にしたものと解される。従って、米軍は、協定第五条で規定されるが如き国内での移動等の場合を別とすれば、通常の軍隊としての活動(例えば演習)を施設・区域外で行なうことは、協定の予想しないところであると考えられる。(注29)

(注29)一定の活動が軍隊としての活動に該当するか否かは明確でない場合もありうるが、個々の実体により判断せざるをえない。例えば、米軍人がグループで北海道の施設・区域外の雪山でスキー訓練をする例があり、これにつき政府は、説明の便宜上レクリエーションとして説明したことがあるが、米軍としてはかかる訓練を軍人としての公の訓練の一環と考えていることは明らかであり、協定上の妥当性には疑問がある。

又、例えば、米軍の軍人等に対する公の医療行為には、医師法その他麻薬取締法等の適用はないと解されるが、他方、かかる行為が米軍の行為として施設・区域外で恒常的・組織的に行なわれることは認めらないと解される(かかる場合そのような行為が行なわれる場所は、必要があれば施設・区域にされるべきものである。)。

4 以上のとおり、米側は、施設・区域につき管理権を有するが、施設・区域は、租借地とは異なる。すなわち、租借地は租借国の領土と実質的に同じ法的性格を持ち、租貸国の施政は全面的に排除されるが、施設・区域には属地的にはわが国の法令が全面的に適用される。したがって、施設・区域内でたとえば日本人が犯罪を犯した場合にはわが国の法令が適用され、わが国により司法権が行使される。又、例えば米軍人が施設・区域内で犯罪を犯した場合でも、それが公務外に行なわれた時には、一定の場合を除きわが国が第一次的に裁判権を行使する(協定第十七条3項)。右の如き場合にわが国の公権力の行使の態様に一定の制約(例えば一定の場合を除き日本側官憲は、施設・区域内での逮捕権を行使しない。協定第十七条合意議事録)があるのは、軍隊という特殊な法的性格を有する外国々家機関の駐留を認めたことに起因するものであって、これを以て施設・区域にはわが国の施政が及ばないと考えるのは適当ではない。安保国会当時の「施設・区域には日本の施政権が及ばず、従って、施設・区域は、安保条約第五条にいう日本国の施政の下にある領域ではないから、施設・区域に対する武力攻撃に対してわが国が自衛権を行使するのは集団的自衛権の行使であり、安保条約は、相互防衛条約ではないか」との趣旨の議論が施設・区域に対する誤った認識によるものであることは明らかである。(注30)(注31)

(注30)参・安保特議事録三月二二日、衆・安保特議事録四月六日等参照。なお、施設・区域であれ、わが国の領海内の米軍艦船であれ、これらのものに対する武力攻撃は、とりもなおさずわが国に対する武力攻撃であり、これに対するわが国の自衛権の発動は、個別的自衛権の発動以外の何ものでもない。

(注31)なお、安保国会当時、施設・区域と基地との相違点が度々問題とされた(参・安保特議事録、三月二一日、衆・同三月二五日等参照)が、基地が租借地と同様のものを指しているのであれば、租借地について述べたと同じことが言える。ちなみに、事前協議に関する交換公文でいう「戦斗作戦行動…のための基地…としての…施設・区域の使用の」の基地とは、戦斗作戦行動をする際の本拠地としての使用の態様を述べたものであって、通常軍事基地という場合の基地とは自ずとその意味を異にすることは明らかである。

5 施設・区域に対してわが国の法令が属地的に適用があっても、法令の執行のために施設・区域内の米軍の活動が結果的に諸種の規制を受けることとなったのでは、軍隊としての機能を維持できず、任務を有効に遂行しえないこととなるので、その限りにおいては協定上明文の規定がある場合を除きわが国の法令の適用は、排除されることとなると考えられる。従って、例えば、施設・区域内における軍隊としての活動には騒音規制法の適用はなく、又、米軍の行なう弾薬庫の設置、建築、埋立て等にはそれぞれ火薬類取締法、建築基準法、公有水面埋立て法等の適用はないものと解せられている。

右は施設・区域内における米軍の活動が全く自由であるということでは決してなく、わが国の公共の安全等に関連ある限り米軍がわが国の法令を尊重することは一般国際法上米側の義務であると考えられる(この点については、第十六条の項参照)。協定第三条3項は、「合衆国軍隊が使用している施設及び区域における作業は、公共の安全に妥当な考慮を払って行なわれなければならない。」旨規定するが、これは、右のことを述べたものと解せられる。ここにいう「作業」(Operations)とは、広く米軍の活動すべてを含むものと解せられており(昭和三六年四月二四日、衆・内議事録三頁)、米軍の活動によりわが国の公共の安全と関連する問題が具体的に生じた場合(又はその可能性が予見される場合)には、米軍の当該活動の必要性とわが国の公共の安全との均衡の問題として合同委員会等において日米双方がしかるべき調整を行うこととなろう。

6 施設・区域内での工事その他であっても、日本側がこれを行う場合には、わが国の法令が適用されると解せられている。従って、例えば、国が米側の要請により施設・区域内で建築、埋立て等の工事を行う場合には関係法令は、全面的に適用され、II―4―(a)共同使用の飛行場に民間航空会社が給油用施設を建設する場合は、消防法が全面的に適用され、又、米軍との請負で施設・区域内において、自動車分解作業を含む日本人事業者に対しては、道路運送車両法の適用がある。また、以上の如き場合、法令の執行のための日本側公務員の立入りについては、米側としては原則としてこれを拒むべきではないと考えられる(実際の例としてもかかる場合には容易に立入りを認めている。)。

7 施設・区域について日本政府(又は国会議員団、地方公共団体等)の立入り権(又は立入り調査権)が認められるかという問題が頻繁に提起されるが、外国の軍隊の駐留を認めている場合に、受入れ国としては、派遣国又は当該軍隊の同意がある場合は別として、かかる軍隊の施設に立ち入って調査することができないのは一般国際法上の原則である。(これは、一般国際法に、そのような具体的な規則が存在するということではなく、軍隊が第一義的には派遣国の主権の下にあることの当然の帰結であるという意味である。前述のいわゆる「管理権」も右のことを明文化したものに過ぎない。)施設・区域についても既に述べたとおりであって、地位協定及び合同委員会の合意に明文の規定がある場合(注32)を除き、米側の個別の同意を必要とする。地方公共団体等から施設・区域への立入りの要請がある際には、政府としては、右要請に合理的な理由がある限り、この要請を米側に伝達し、必要がある時はできる限り便宜をはかるとの態度をとってきている。(注33)(注34)

(注32)日本側が(公権力の行使との関係で又は国民が何らかの目的で)施設・区域への立入りを認められる場合としては、次のものがある。
(1) 演習場への立入り
米軍訓練に支障のない限り住民の生計目的のため一定の条件で演習場への立入りが許される。(合同委合意…演習場の立入りに関する事項)
(2) 港湾施設への立入り
米軍及び日本政府双方において承認及び同意を得た証明書を所有する日本側公務員は公務を遂行するために必要な場合は、提供施設に立ち入ることができる。(合同委合意…港湾施設使用の項)

(3) 施設・区域内での検証
日本国の民事裁判所は、施設・区域内で検証することができる。関係施設・区域の司令官は、裁判所の要求があるときは、これを許可し、かつ、護衛兵を付するものとする。(合同委合意…民事裁判管轄権に関する事項)(司令官は、この場合、一般的には許可しなければならないと考えられるが、安保条約・地位協定に基づく又は一般国際法上認められる軍隊の属性、機密保護という観点からある種の制限をつけることは排除されていないものと考えられ、この点は、この(1)から(6)までの事項に多かれ少なかれ全て妥当するという云うことができよう)

(4)現行犯人等の逮捕
日本側は、米軍当局の同意ある場合又は重大な罪を犯した現行犯人を追跡している場合には施設・区域内で犯人を逮捕することができる。(地位協定第十七条10項(a)bに関する合意議事録。なお、本件については「地位協定の実施に伴う刑事特別法」第十条参照)

(5)施設・区域内での捜索等
日本側当局は、通常、施設・区域内のすべての者若しくは財産について捜索、差押又は検証を行う権利を行使しない。ただし、米側当局が日本側当局によるこれらの捜索、差押又は検証に同意した場合は、この限りでない。(地位協定第十七条10項(a)bに関する合意議事録。なお、本件については、刑事特別法第十三条参照)なお、以上の他、刑事裁判権に関する合同委合意には、日本側の裁判権のみに服する者に係る刑事事件につき捜索、差押又は検証を米側が施設・区域内で行なう場合、日本側官憲からする立合いの要請に対し、米側当局は相当の考慮を払う旨の規定がある。

(6)税関職員の立入り検査
軍当局の管理する施設・区域内から入国する場合には、税関職員はその入国場所での検査権を有する。(合同委合意…税関検査に関する項。なお、税関事務所は、施設・区域の外にある場合―例えば横田―と内にある場合―例えば岩国―とがある。)

(注33)なお、施設・区域の立入りについては、ボン協定の方が接受国(この場合は西独)に有利になっているのではないかとの議論がある。この点については、ボン協定第五十三条に関する議定書(第六項)は「施設への立入りを含む援助が派遣国軍隊からドイツ当局に与えられる」とあるが、同項は更に「但し、いかなる場合にも軍事上の安全を考慮することを条件とする。」と規定されている他、個個の立入りは、わが国の場合と同様米軍の同意を必要とするしくみとなっているので日米地位協定の場合と特に異なるところはないと考えられる。

(注34)刑事特別法第二条は、「正当な理由がないのに、合衆国軍隊が使用する施設又は区域(協定第二条1項の施設又は区域をいう。)であって入ることを禁じた場所に入り、又は要求を受けてその場所から退去しない者は、一年以下の懲役又は二千円以下の罰金若しくは科料に処する」旨規定する。又、この点に関し、施設・区域で許可なき立入りが禁止されている地域の境界は、日英両国語でその旨記載された標識で明確にされるべき旨の合同委員会合委が存在する。


二 施設・区域の近傍における措置

1 第三条1項の第二文及び第三文は、施設・区域の近傍において日本側又は米側によってとられる措置について定める。すなわち、日本政府は、施設・区域への出入の便を図るため、米側の要請があった時は、合同委員会を通ずる両政府の協議の上で、当該施設・区域に隣接する又は近傍の土地、領水及び空間において、関係法令の範囲内で必要な措置をとる(第二文)。米側も、合同委員会を通ずる両政府間の協議の上で前記の目的のため必要な措置を取ることができる(第三文)この点について行政協定は、日本側が措置をとることについては何ら触れず、単に米側が「出入の便を図るのに必要な権利、権限及び権能を有する」として、あたかも米側が日本領域内どこでも一方的に万能の権利を行使しうるかの如き規定をしており、規定振りとして適当でなかったこと、実際上も必要な措置は日本側がとっていたこと(行政協定は、日本側が措置をとることを排除していたものでなく、むしろ当然のこととして明文の規定をおかなかっただけのことと解される)等から、地位協定作成の際、第一義的には日本側が(イ)米軍の要請があった時、(ロ)合同委員会における協議の上で、(ハ)関係法令の範囲内で、必要な措置をとる(米側も協議の上措置をとりうる)と改めたものである。(なお、「出入」―access―とは、物理的な出入行為より広い概念で使用されている。)

2 第二文の「関係法令」とは、その際、日本側がとる必要な措置は当然のことながら、日本の「関係法令の範囲内で」とられるという意味であるが、現在のところ、この規定(第二文)の実施のみを直接目的とした総合的な特別立法はない。それでは、具体的にいかなる適用法規もないかといえば、そうではないのであって、「出入の便を図るため」施設・区域の近傍の私有地の用益権が必要であれば、当該土地に対する賃借権、地役権等を取得すれば足り、この場合には民法の相当規定が「関係法令」ということになり、国有地の使用が必要とされる場合には国有財産の管理に関する法律が「関係法令」となる。また、私有地の使用権を強制的に取得する必要がある場合には「地位協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」が「関係法令」となる。更に、施設・区域たる港湾近隣の水面において「一定の区域及び期間を定めて漁船の操業を制限し、又は禁止する」(漁業制限法第一条)ことが必要であって、かかる措置をとるのであれば漁業制限法が「関係法令」となる(かかる水域は、実際には施設・区域として提供されるのが普通。)。

3 右の如き措置は、原則として日本側によってとられるべきであるが、合同委員会の協議において日本側が同意する限り、米側によってもとられうる。米側によってとられうるこのような措置は、第三条に関する合意議事録に例示的に列挙されている(施設・区域外の措置にかかる事項)。米側が措置をとる点について、第三条1項第三文は、「関係法令の範囲内で」という限定を付していないが、この場合も「関係法令」によるべきことは当然であって、かかる「関係法令」がない場合又はそれにより得ない場合には、日本側は、合同委員会における協議で米側がかかる措置をとることを拒否すべきものと考えられる。なお、米側がかつてとった措置の例としては、協定第六条1項に基づく「航空交通管制に関する合同委員会の合意」によって米軍が行なっている進入管制業が挙げられている(岩間議員の質問主意書に対する政府答弁書、昭和四三年十二月二十一日官報号外)。この場合には、協定第六条1項そのものが右の「関係法令」に該当するものと観念される。

4 協定第三条1項の措置と第二十四条2項の「路線権」との関係如何が頻繁に問題とされる。「路線権」とは、この場合、第三条1項第二文によって日本側が措置をとった結果として米軍が享有する利益の実体を経費の観点からとらえて観念したものであって、特に「路線権」なる特定概念による国内法上の権利の設定を予想したものではない。(注35)

(注35)地位協定の運用に関連する日米間の費用の分担問題一般については、協定第二十四条の項で改めて詳述する。第三条1項の措置は、第二文により日本側がとる場合は、日本側がその費用を負担し、第三文により米側がとる場合は米側が負担することが当然であると解されている。他方、協定第二十四条2項は、施設・区域及び路線権の提供にかかる費用は日本側が負担すべき旨定めているので、米側が負担すべき米側の措置は第二文による日本側措置とたまたま同じものであっても、協定上は「路線権」には該当しないと考えざるをえない。この点、昭和四五年十二月七日、衆・内における政府答弁(議事録十頁)は、米側措置も路線権と観念される余地を残しているので今後は修正の要がある。なお、岩間質問書に対する政府答弁書には、「路線権は、他人の土地を通過し若しくは通行することを内容とする地役権の一種であると解される。」とあるが、右の意味は、前述の利益の実体を米側に供与する手段としては、地役権的なものがその典型的なものの一つであろう、ということである。

第三条1項第二文の施設・区域の出入の便のためにとられる措置としては、単に地役権的な権利を米側に与えることの外、当該既存の施設・区域の近傍に追加的に施設・区域を追加提供することも含まれる。これを路線権の提供と称するか単に施設・区域の提供と称するかは、言葉の問題であって、議論の実益はない。


三 電気通信関係に関する措置

1 米側は第三条1項の措置を、わが国に関する航海、航空、通信又は陸上交通を不必要に妨げるような方法によってはとってはならない(第三条2項第一文)。ここでいう措置は、施設・区域外でとる米側措置を主として念頭においていることは明らかである(けだし、施設・区域外で米側が措置をとる場合には、いずれにしろ日本側の同意が必要であるからである。)。

2 米軍の使用する周波数、電力等に関する事項は、両政府の当局間の取極による(2項第二文)。この取極に該当するものとしては、電気・通信関係の合同委員会合意があり、周波数、電波障害、電気通信の利用、航行援助通信等に関し技術的事項が詳細に定められている。なお、特別法としては「地位協定の実施に伴う公衆電気通信法等の特例に関する法律」及び「地位協定の実施に伴う電波法の特例に関する法律」が制定されている。

3 日本側は、米軍の電気通信に対する妨害を防止又は除去するためすべての合理的な措置を関係法令の範囲内でとるべきものとされている(2項第三文)。ここでの問題は、米側から電波障害除去のため、米軍通信施設周辺の私人の建築制限を求められた場合日本側としていかなる措置がとれるかという点であるが、電波法は、米軍の使用する通信施設については全面的に排除されている(特例法参照)ため、電波法に定める電波障害除去措置はとりえないことである。現在のところ、この措置のための特別立法はないので、民法により個々の関係私人に当り問題を解決(高層建築をしないという不作為義務の設定、買収等)するより方法はない。このために要する費用は、すべて日本側により負担されているが、これは、第二十四条の経費負担との関係では、前述の意味での路線権として観念されることとなろう(尤も、これは、「路線権の問題では必ずしもない」との答弁がある。昭和三六年二月二二日、衆・予議事録八頁)。


〔第四条〕

第四条は施設・区域の返還に際しての原状回復、補償問題について定める。

1 第四条1項、米側が施設・区域の返還に際してこれを提供された時の状態に回復し、又はその回復の代わりに日本に補償する義務を負わないという趣旨であるが、この規定は、同条2項において日本側が施設・区域に加えられている改良、残される建物その他の工作物に対しいかなる補償の義務も負わないという規定と対応するものであり、彼我の権利義務の均衡を図っている。ちなみに、諸外国のこの種協定においては、例えば、米蘭協定の如く、「この協定に基づくすべての運用の終了に当たり、オランダ政府はこの協定に基づく合衆国の費用で設立された設備について残存価値があるときは、合衆国に対しその残存価値に対する補償を行なうものとする。」旨規定しており(第三条)、この方式によれば、米側が施設・区域に加えた改良、残された建物その他工作物について日本側は補償を行なわなければならなくなる訳である。なお、米蘭協定と同種の規定はボン協定(第五十二条)等にもみられる。

2 沖縄返還に際しては、沖縄復帰前に米軍が使用していたもので復帰後も引き続き施設・区域として米軍に使用されるものの復帰前の形質変更に対する原状回復義務及び復帰前の改良等に対する補償問題の解決には地位協定第四条が適用されることにつき返還協定において念の為の規定が設けられた(返還協定第三条2項)。

3 第四条2項は、施設・区域に「残される建物若しくは工作物」と規定しているところ、この規定は、施設・区域の返還に際し米側がかかる建物、工作物(これらは米側の建築したものであって、通常「ドル資産」と称される。)を残して行くことを一般的には予想していると考えられるが、他方、米側が何らかの必要によりこれら工作物を撤去することを排除するものであるとは解されていない(この点については、第二十四条の項で触れる。)。

4 施設・区域返還後の個々の地主との原状回復問題は、専ら政府(施設庁)と当該地主との問題であることは明らかである(注36)。

施設庁は、個々の地主との賃貸借契約において関係物件の原状回復義務を詳細に規定している(沖縄の場合には、「原状」とは復帰以前に米軍が実際に使用を開始したときの原状であることを明らかにしている。)。

(注36)第四条1項については、米軍の故意又は重大な過失による形質変更にはこの規定が適用されないのではないかとの議論がある(ボン協定にはこの旨の規定がある。第四十一条3項(a)合意議事録)が、この問題も日米両政府間の問題であって、地主との関係は専ら日本政府が処理する問題である。

5 第四条1項及び2項の規定は、日米間の特別な取極に基づいて行なう建設には適用されないこととなっている(同条3項)が、かかる特別取極が行なわれた例はない。

6 なお、米側は、施設・区域として提供された国有財産に対しても自由に原状変更処分をでき、わが国はこれに対しても補償要求等はできないので、国有財産の管理に関する法律は、これを受けて、米国に使用を許した国有財産については、国は、当該財産の返還に当り、米国に対し、その原状回復又はこれに代わる補償の請求を行なわないものとする旨定めている(第三条)。


〔第五条〕

一 施設・区域外の港・飛行場からの出入国

1 第五条は、米軍の軍用船舶・航空機のわが国への出入につき、施設・区域外の港・飛行場からの出入の場合と施設・区域たる港・飛行場からの出入の場合とを分けて規定している(前者については、1項及び3項、後者については、2項)。施設・区域外の港・飛行場については「合衆国及び合衆国以外の国の船舶及び航空機で、合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航されるもの」(以下「米軍の軍用船舶・航空機」と称する。)は、入港料又は着陸料を課されないでこれらの港・飛行場に出入することができる。

2 米軍の軍用船舶については、第五条に関する合意議事録1項は、「合衆国公有船舶及び合衆国被用船舶(裸用船、航海用船及び期間用船契約によるもの)をいう。」旨規定している。(注37)

(注37)米軍の軍用船舶に対するわが国の管轄権問題に対する一般的考え方については、条約局法規課調書集第七巻二五二頁以下参照。なお、これら船舶の海上事故にかかる損害補償問題の解決については、第十八条の項で触れる。第五条1項が、外国の船舶・航空機についてまでわが国の港・飛行場への出入の権利を与えているのは、これらのものが「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に公の目的で運航される」ものである限り、米国の公有船舶に準ずるものとして取り扱うことが妥当であると考えられたからである。これらの船舶・航空機には、日本の船舶・航空機も含まれる。英文の「foreign」を「外国の」とせず「合衆国以外の」としたのは、この点を配慮したものである。

3 「合衆国によって、合衆国のために又は合衆国の管理の下に」とは、要するにこれら船舶・航空機の運航の目的が米国の責任にあることを右の表現で一般的に規定したものと解すべきである。従って右表現のいちいちにつき厳密な解釈を詰めるということは必ずしも適当ではない。この点との関連で、「合衆国のために」とは、米国の同盟国たる第三国が当該条約関係に基づき運航する当該第三国の船舶・航空機まで含める趣旨ではないかとの議論があるが、この点の考え方は、以上のとおりであり、又、安保条約・地位協定が米国以外の国に特権的地位を与えることまで規定する筈のないことからしても右議論が誤っていることは、明らかである。(注38)

(注38)昭和三六年十月十八日、衆・外議事録七頁参照。なお、かつて問題となったいわゆる「黒いジェット機」については、当該ジェット機が米国航空宇宙局に所属するものであっても、日本における飛行活動(気象情報収集活動に従事していたと説明されている。)が米軍の管理下にあったことは明らかであるから、第五条の観点からは、問題がない。

4 第五条1項にいう「公の目的」とは、合衆国政府の目的をいい、その認定は、日米両政府が行なう(岩間質問主意書に対する政府答弁書)。施設・区域たる港・飛行場における出入についても、2項の規定振りからして「公の目的」という制約があることは、明らかである(安保条約第六条の目的が先ず大前提であることは、いうまでもないが。)。(注39)

(注39)「公の目的」が米政府の目的ということであれば、軍務とは全く関係なく来日する米政府高官の専用機は、自由に施設・区域たる飛行場(横田が通例)から出入しうることとなるが、国会等においては、このように説明しながら、実際には、外務省として、かかる態様の出入につき米側に抗議して来ている。この点については、提供施設・区域の使用が基本的には安保条約第六条の目的に合致している限り、又、軍事的事項に拘わらず広く日米両政府が協議・協力すること自体が安保条約の目的に包含されていること(条約前文)を考えれば、右の如き態様の出入は地位協定上問題とする必要はないとも考えられる。ちなみに、地位協定は、「合衆国軍隊」「合衆国政府」「合衆国」についてそれぞれ相当の注意を以て使い分けているとみられるところ、第五条が「合衆国の船舶及び航空機」(1項)、「合衆国政府所有の車両」(2項)としているのは、第五条に関する限り「軍隊」よりは広いものによる使用を念頭においていることを示しているとも考えられる。

5 第五条1項にいう「日本国の港」については、同条に関する合意議事録2項により、通常「開港」をいうこととなっており、従って、不開港への出入が全く排除されるということではない。この点、合同委員会の合意には、「緊急の場合に米軍用船舶が開港以外の避難港に入港したときは、」すみやかに日本側当局に通告すべき旨の規定があるが、不開港への入港は、必ずしも「緊急の場合」のみに限られる訳ではないと解され、実際にも不開港たる別府、熱海に入港したことがある(実体はレクリエーションのための入港)。この点については、このような不開港への入港を日本側が拒否できるかとの問題があるが、米側の要請(米側は、不開港への入港については通常はあらかじめ日本側に協議越すべきものと考えられている。)に合理的な理由が認められる限り拒否できないと解するのが妥当であろう。(注40)

(注40)不開港の入港手続につき、林法制局長官は、米軍用船舶の場合も安保条約・地位協定とは関係なく、他の国の軍艦の場合と同様、一般国際慣例による旨答弁している(昭和三九年一月三十日、衆・予議事録十五、六頁)が、この答弁は、若干問題があると考えられる。実際の例としても、米軍用船舶の入港は、開港・不開港を問わず、第五条3項によって処理されている。

「飛行場」については、港の場合の開港・不開港に相当する制約はないが、これは、通常の航空機はいずれにしろ通常の「飛行場」からしか発着できないことを考慮すれば、あえて港の場合の如き制約をつける必要が実体として考えられなかったことによるものと解される。尤も、この点については、ヘリコプターの如く「飛行場」以外のところから自由に発着できるものが問題となる(この場合もヘリコプターで来日することは考えられないので国内での移動の場合)が、かかる場合に「飛行場」以外の場所の使用が排除されているとは考えられない。ちなみに、「地位協定の実施に伴う航空法の特例に関する法律」は、米軍につき航空法第七十九条の規定(飛行場以外における離着陸の禁止)の適用を除外している。

港湾施設の使用に関する合同委員会の合意の中には「米軍が優先使用施設・区域の使用を希望する際は、使用に先立ってすみやかに日本側管理機関に通告する。」旨の規定があるが(港の優先使用施設としては現在は、小樽、室蘭港がその対象として合意されている。)、一般的に言って、第五条1項に基づく港・飛行場の使用(通常「五条使用」と称される。)が、施設・区域的な使用の態様(例えば、一切の民間の使用を長期間排除しなければ米軍の目的が達成してないが如き使用態様)になる場合には、むしろかかる施設は、施設・区域として提供されるべきものといえよう(逆に言えば、五条使用である限り、右の如き使用態様は、排除されると解される。)。(注41)(注42)

(注41)昭和四一年二月十八日、衆・予議事録二十頁。

(注42)なお、成田新空港については、施設・区域として提供することはないのは勿論、五条使用の場合も十分に慎重にし、いやしくも民間飛行場としての機能に支障を来すということはさせないという趣旨の答弁がある。昭和四四年四月二五日、衆・内、同年七月一日、参・内等の議事録参照。

6 第五条1項の「出入することができる。」とは、出入の権利を定めたものであって、「出入の許可をするか否かは日本政府の裁量であり、許可する場合には入港料等は課さない。」という意味ではない。例えば、航空機について言えば、航空法第一二六条2項に定める外国航空機の出入についての運輸大臣の許可規定は、協定第五条1項により排除される(実際にも航空法特例法第2項は、航空法の右規定の適用を排除している。)。更に、協定上明文の規定はないが、右航空機は、単なる領空通過についても当然権利として認められていると解され、従って、航空法の運輸大臣の許可規定(第一二六条2項)は、この場合にも排除される(実際にも特例法により同様に排除されている。)。(注43)

(注43)なお、核搭載機の領空通過は、事前協議問題であり、戦斗作戦行動に従事する航空機の通過は、事前協議とは別に、別途わが国の同意を必要とすること等については、昭和四七年四月二八日付けの事前協議制度の考え方についての条・条ペーパー参照。

7 免除されるべき「入港料又は着陸料」については、合同委員会の合意に詳細な規定がある(特に「入港料」が問題)。これらのもののうち、地方公共団体の収入となるもの(例えば通常入港料―ポート・エントランス・フィー)については、国が補償している。羽田等の民間飛行場については、国有財産の管理に関する法律第二条の無償使用の規定に基づき着陸料を免除されている。

8 米軍の軍用船舶が施設・区域外の港に入る場合は、開港・不開港を問わず、「通常の状態においては」、「日本国の当局に」、「適当な通告」をしなければならない(第五条3項第一文)。「通常の状態においては」の点については、第五条に関する合意議事録3項は、適当な通告をする義務を免除されるのは、米軍隊の安全のため又は類似の理由のため必要とされる例外的な場合に限られる旨規定している。航空機については、何ら通告の義務が課されていないが、これは、船舶についての通告の内容自体技術的なものであるところ、航空機については、航空管制機関に対する右の如き技術的な通告なしに着陸することは、本来技術上考えられないので態々規定することをしなかったまでのことであると解される。「日本国の当局」とは、具体的には、港湾管理者又は港長であり(合同委員会合意)、「適当な通告」の内容は、船舶の名称、トン数、長さ、吃水及び出入港の日時である(岩間質問主意書に対する政府答弁書)。

9 米軍の軍用船舶は、「強制水先を免除される。もっとも、水先人を使用したときは、応当する料率で水先料を支払わなければならない。」(第五条3項第二文)強制水先の行なわれている港は、水先法第十三条に関する政令で定められているもので、現在は、横浜、横須賀、神戸、関門、佐世保及び那覇であるが、軍艦等の特殊な目的に鑑み強制水先を免除したものである。

10 五条使用を認められる施設・区域外の港・飛行場からの米軍の戦斗作戦行動は認められるかという問題が国会において頻繁に提起されるところ、戦斗作戦行動にかかる事前協議制度は、施設・区域を基地として使用する戦斗作戦行動以外のものを予想しておらず、従って、安保条約・地位協定は、五条使用地からの右の如き行動を当然排除しているものと考えられる。(けだし、施設・区域から行なわれる戦斗作戦行動についてはわが国の同意にかからしめておきながら、他方で通常の民間施設からの米軍のかかる行動を全く自由にするということは全く考えられないからである。)

11 米軍の軍用船舶・航空機が「この協定による免除を与えられない貨物又は旅客」を運送するときは、米側は、「日本国の当局」にその旨の通告を与える義務があり、これらのものの出入国は、わが国の法令に従って行なわれる必要がある(第五条1項第2文)。「この協定による免除を与えられない貨物又は旅客」とは、貨物については、第十一条に掲げられていない通常の商業貨物であり、旅客については、第九条2項に定める免除(免除の対象は、軍人・軍属・家族)の対象とならない私人たる旅客である。米軍の軍用船舶・航空機がかかる非免除貨物又は旅客をわが国に運送することは例外的であるべきであり、第五条に関する合意議事録1項の「商業貨物及び私人たる旅客がこれらの船舶に積載されるのは、例外的な場合のみに限る。」との規定は、当然の規定であって、航空機による運送についても同様に解される。

本項にいう「日本国の当局」とは、税関・入管等の当局である(合同委員会の合意)。合同委員会においては、非免除貨物又は旅客が運送される時は、原則として一定の港・飛行場から入国すべき旨合意され、当該港・飛行場が列挙されている(出入国に関する項)。

二 施設・区域たる港・飛行場からの出入国(原潜寄港問題を含む)

1 第五条1項の米軍の軍用船舶・航空機は、施設・区域(たる港・飛行場)から出入国することを当然認められており(同条2項第一文)、又、同条3項第一文の反対解釈として船舶の施設・区域への入域につき日本側当局への通告も必要でない。米軍の軍用船舶・航空機が施設・区域たる港・飛行場に協定による免除を与えられない貨物・旅客を運送することについて明文の規定はないが、協定がかかる運送を排除しているとは解されておらず、かかる場合には、第五条1項第二文により、処理されるべきものと考えられる。この点については、合同委員会の合意は、かかる場合には、米軍当局は、これらのものを最寄りの入管及び税関の出張所まで輸送し、そこで入国手続を行なうべき旨規定しているが、実際には、このような飛行場等にはわが国の入管関係の出張所が設けられており、米側よりの通告を得て当該飛行場等で出入国審査等が実施されている。

なお、わが国への入国に際しての検疫については、五条使用地からの入国に際しては、すべて日本側が実施し、施設・区域からの入国に際しては、原則としては実質的検疫は米側が実施し、最寄りの日本側検疫所長がこれを形式的に認証することにつき合同委員会の合意がある(昭和三六年八月の合意)。

2 米国の通常の原子力潜水艦(即ち、核装備をしていない原潜)のわが国への寄港は、施設・区域内外への寄港であるとを問わず、事前協議問題ではなく、協定第五条に従って行なわれて差支えないものであるが、米側は、昭和三八年八月十七日付け日本政府宛エード・メモワール及び同八月二四日付け米国政府声明(いずれも公表済み)を通じ次の如き寄港態様によるべき旨明らかにしている。(注44)

(注44)エード・メモワール及び政府声明に述べられている五条上の権利に対する制約は、日米両政府間の交渉の結果ではあるが、米側としては、エード・メモワールの前文にも述べられているとおり、かかる制約は日本の国民感情を考慮して自らの意思に基づいて課した制約であり、五条上の権利は最終的には留保している点に注意する必要がある。この点は、B―52型機のわが国への配備・一時的飛来の抑制の問題と同様であり、B―52の台風避難のための一時的飛来の際にも米側はその都度日本政府の了承を求め越しているが、米側としては、最終的には五条上の権利を留保している。

(1) 原潜の寄港目的は、乗組員の休養・レクリエーション及び兵たんの補給及び維持であって、寄港地は、(施設・区域たる)横須賀及び佐世保である(エードメモワール)。(注45)

(注45)沖縄復帰後は、施設・区域たるホワイト・ビーチも原潜の寄港地とする旨のスナイダー公使発吉野米局長宛書簡がある。すなわち、協定第五条によれば、米軍用船舶は、わが国のあらゆる港(通常は「開港」)、施設・区域たる横須賀・佐世保に限定された。これら以外への港への寄港が必要となる場合には、協定上の権利義務でものごとを律するのではなく、右二港への入港について日本政府の了解が求められたと同様な手続が繰り返されるのが本筋である。(注46)

(注46)昭和三九年九月十七日、衆・外政府答弁

(2)米海軍は、「通常、」日本側当局に対し、少なくとも二四時間前に、原潜の到着予定時間・停泊位置を通報する(米政府声明)。すなわち、米軍用船舶は、施設・区域たる港への入港に際しては、日本側当局への通告を免除されるが、原潜の場合には一定の条件で通告がなされることとなっている。「通常」でない場合とは、予見しえざる場合であって、ほとんどありえないような場合であり、常識的にいえば通報は、常に必ずあると了解される。(注47)

(注47)昭和三九年九月十七日、衆・外政府答弁

三 日本国内における移動の自由

1 第五条1項に掲げる米軍の軍用船舶・航空機及び米政府所有の車両(機甲車両を含む。)並びに米軍構成員、軍属及び家族は、施設・区域間を移動し、及び施設・区域と日本の港・飛行場との間を移動することが認められる(同条2項第一文)。第五条に関する合意議事録4項は、「この条に特に定めのある場合を除くほか、日本国の法令が適用される。」旨定めているので、米軍の右の如き移動には、「日本国の法令」が適用されることとなるが、米軍のわが国内の通行は、直接わが国の交通秩序に関わるものであり、かかる場合にわが国の法令が遵守されるべきは当然のことと考えられ、この意味で、米軍によるわが国内の通行に関する限り合意議事録の右規定は当然のことと解される。

右にいう「日本国の法令」とは、第五条2項との関連においては、同項の趣旨に鑑み、船舶・航空機の運行、車両、人員の通行行為自体を規制する法令と解され、具体的には、道路法道路交通法の関係規定、自動車の保管場所の確保等に関する法律(第五条2項の長時間の路上駐車の禁止)、航空法(第九六条―航空交通の指示、第九七条―飛行計画及びその承認、第九八条―到着の通知は特例法によっても米軍への適用は排除されていない。)、港則法・海上衝突予防法・河川法の関係規定、消防法(第二六条の消防車の優先通行)、水防法(第十一条の水防のため出動する車馬の優先通行)等が該当すると考えられる。(注48)

(注48)例えば火薬取締法には、火薬の運搬の際に遵守されるべき諸規定があるが、これは、通行行為自体の規制とは面を異にすると考えられ、従って、合意議事録にいう「日本国の法令」には該当しない。火薬の取扱いは、いわば軍隊の属性であり、軍隊による火薬の取扱いには、同法は、施設・区域内外を問わず、適用ないものと解せられている。尤も、施設・区域外における火薬の取扱いは、わが国の公共の安全に関与するところが大きいので、その運搬等の際に遵守されるべき基準が合同委員会で合意されている(米軍の火薬類運搬上の処置」)。ちなみに、ボン協定中日米協定第五条に相当する第五十七条は、外国軍隊の独領内の移動の権利を認めつつ(1項)、同条3項において「この協定に別段の定めがある場合を除き、ドイツの交通規則は、軍隊、軍隊の構成員、軍属及び家族に適用する。」と規定し、また、4項において「軍隊は、軍事上の緊急の場合に限り、ドイツの道路交通取締規則の適用を受けない。ただし、公共の安全及び秩序を尊重しなければならない。」旨規定している。このようにボン協定においても直接の適用は、道路交通取締法規について考えられている。

2 米国の「軍用車両」の施設・区域への出入及びこれらのものの移動には、「道路使用料その他の課徴金」を課さない(第五条2項第二文)。「軍用車両」とは、この規定の趣旨に鑑み、米軍の軍務(公務)のため使用される車両と解され、従って、軍構成員の私用車であっても、公務に使用されている際は、右の「軍用車両」に該当する。この点、公務であれば、タクシーまでこれに該当するかとの議論があるが、協定は、実際問題としてタクシーが軍務に使用されることまで予想しているとは考えられず、かかる場合は、右「軍用車両」には該当しないと解される。本項の手続は、米軍当局が「軍用車両」の使用者に公用使用証明書を発給し、使用者がゲートでこれを渡し、道路使用料を免除されるという手続によっている。私有有料道路の使用料については、政府(施設庁)が当該道路所有者に対し米軍の免除分を補償している。国有道路については、国有財産の管理に関する法律第二条により、米軍の無償使用を認めている。


〔第六条〕

第六条は、航空交通管理・通信体系に関する日米間の協調・整合につき定める。

一 航空交通管理・通信体系の協調・整合

1 すべての非軍用及び軍用の航空交通管理及び通信の体系は、緊密に協調して発達を図るものとし、かつ、集団安全保障の利益を達成するため必要な程度に整合するものとする(第六条1項第一文)。このための必要な手続は、両政府の当局間の取極によって定められる(同第二文)。

およそ航空交通管制及びこれに伴う電気通信体系というものは、高度に技術的なものであって、航空機の安全かつ能率的な運航を確保するためには、軍用・民間用の管制を統一的に運営することが極めて必要であるところ、第六条1項は、特に安保条約の目的の達成上必要な限度まで、軍用・非軍用の航空交通管制及び通信の体系を整合することが必要であることを確認し、このための手続が両政府の当局間で取り極められることを定めたものである。この取極としては、合同委員会の合意(「航空交通管制に関する合意」)がある。

2 米軍は、昭和三四年六月までわが国における航空交通管制(航空路管制)を一元的に実施し(復帰後約二年間は、沖縄でも実施することになっている)、また、施設・区域たる飛行場及びその周辺における飛行場管制、進入管制は現在も原則として米軍が実施している(沖縄も同様)。このような管制業務を米軍に行なわせているわが国内法上の根拠が問題となるが、この点は、協定第六条1項第一文及び同第二文(行政協定時代もほぼ同文)を受けた合同委員会の合意のみしかなく(注49)、航空法上積極的な根拠規定はない。

(注49)昭和三四年までの航空路管制について、合同委員会の合意は、「日本側による実施が可能となるまでの間米軍が軍の施設で行なう管制業務を利用して民間航空の安全を確保する」旨規定し、又、復帰後二年間の沖縄については、「二年間は暫定的に米国政府がICAO基準に準拠した方式により、航空交通管制業務を実施する」旨規定している。施設・区域たる飛行場関係の飛行場管制・進入管制が米軍によって行なわれる点についても同様の合意がある。

(欠落=原文47〜48ページ)

その他基本的事項)、ロ第一附属書(同日付、航空機事故調査関係)、ハ第二附属書(同日付、捜索救難関係)、ニ第三附属書(昭和三四年六月四日、わが方が一般的な航空管制をテーク・オーヴァーした際の関連事項)、ホ沖縄復帰の際の合意(昭和四七年五月十五日、沖縄の航空管制事項)となっている。

(3) 以上のうち、最も問題とされる第三附属書につき主として要旨に従って問題点を述べれば、次のとおり。

(イ)「防空任務に従事する軍用機に対しては、交通管制上、最優先権を与える」旨合意されている(三六年六月の合意要旨第二項)が、米軍は、現在防空任務(スクランブル)に従事しておらず、従って、実際上の問題はない。

(ロ)「防空上緊急の必要があるときは、防空担当機関が保安管制を行なう」旨合意されている(同第四項)。「保安管制」とは、軍事的必要時に、軍のために民間機の航行を制限し、同時に民間機の安全を確保する機能を果す管制である。「防空担当機関」とは、米側については、第五空軍司令官、日本側については、防衛庁長官を指す。現在、米軍も自衛隊もかかる保安管制を予想した管制取極を運輸省とは締結していない。

(ハ)「国外から飛来する航空機が管制本部に対して位置通報を行なうべき地点の決定に際しては、日本政府は、防空担当機関と協議する。」(同第五項)。いわゆる「防空識別圏」(ADIZ)であるが、これは、現在、防衛庁長官自衛隊に対する訓令という形で設定されている。

(ニ)以上のほか、第三附属書本文には、「米軍の要求に基づき民間・軍を問わずすべての航空機に優先する空域制限(高度制限)を管制本部に行なわせるべき」旨の合意がある(第三附属書第三部J)。これは、米軍の飛行のために特定の飛行空域を予定し一定時間その経路及び高度を他の航空機が飛行しないように隔離する管制上の措置によって設ける制限であり、米軍からこの要求があった場合には、一般の航空交通に混乱を生ぜしめないよう経路を調整し或いは時間及び高度を最小限にしぼって許可を与えている(岩間質問主意書に対する政府答弁書)(注54)。

(注54)第三附属書の内容は、必ずしも現実の運用に合致せず、種々論議の対象となる点を含んでいるので近く改定すべく目下米側と協議中である。二 領空侵犯排除措置関係 領空侵犯排除に関連する措置は、岡崎・マーフィー往復書簡及び「これを受けた」細目と説明されている「松前・バーンズ取極」の問題であって、協定第六条とは、直接の関連はないが、少なくとも国会等では同条との関連において本件が論じられることが多い。

1 昭和二八年一月十三日岡外務大臣がマーフィー米大使に書簡をもってわが国の領空に対する侵犯を排除することを米政府に要請したところ、同十六日、米大使館は、外務省宛口上書をもって、米政府は、わが国の領空侵犯排除のため安保条約の下において必要かつ適当とされる一切の可能な措置を日本政府の援助の下にとるよう極東軍総司令官に命令した旨回答越した。これが岡崎・マーフィー往復書簡と通称されるものである。本件書簡は、旧安保条約当時のものであるが、新安保条約下における有効性については、昭和三五年一月六日の藤山・マッカーサー会談において口答でで了解されている旨の説明が国会で行なわれている。(注55)。

(注55)昭和三六年三月十四日、参・予議事録三頁。

2 本件書簡と安保条約との関係については、米軍がこのような措置をとる権能は、わが国の旧安保条約一条及び新安保条約第六条で米軍隊のわが国駐留(施設・区域の使用)を許したこと(並びに新安保条約第五条により米国がわが国の防衛義務を負っていること)の結果として当然に米軍に認められた権能に本来含まれているものと考えられる。もっとも、領空侵犯排除措置は、本来わが国の主権の発動にほかならないから、米軍は、わが国の意思とかかわりなく右の権能を行使しうるものではないので、米軍によってかかる措置がとられることがとりもなおさずわが国の意思に沿うものであることを明示的に確認したのが本件書簡であるといえよう。(往復書簡が行政府限りで処理し得たのも書簡の右の如き本質による。)

3 書簡が交換されたのは、右のとおり昭和二八年当時であり、その後わが国航空自衛隊の能力が著しく向上したのに伴い、米軍による領空侵犯排除措置は、現在では全面的に自衛隊に肩代わりされているが、なお、不測の事態において米側の協力を必要とすることも排除されないのでその意味で書簡は、今日でも有効であると説明されている。また、岡崎書簡が「北海道上空において、外国軍用機による領空の侵犯がしばしば行なわれ」た状況を直接の動機として行なわれたことは事実であるが、「北海道上空」云々は単なる例示と考えられ、例えば沖縄において米軍が本件書簡による措置をとることが排除されるものではない。事実、沖縄復帰の際、暫定的に米軍が領空侵犯排除の任務に従事したが、これは右書簡に基づくものである旨説明された。

4 松前・バーンズ取極とは、昭和三四年九月二日に第五空軍司令官航空自衛隊司令官との間に締結されたもの(形式的には「秘」扱いされているが国会審議を通じ全貌が知られている)で、岡崎・マーフィー書簡の細目であると説明されている。その主たる内容は、日米双方が領空侵犯排除措置を行なう際の協力態様に関する細目事項、隣接極東地域との関連情報の交換は第五空軍司令官の責任とする等である。本件取極は、岡崎・マーフィー書簡と同様現在も有効とされている。

5 領空侵犯排除措置は、警察行動と観念されるものであって、戦斗作戦行動ではない。日本の直接防衛のために米軍が戦斗作戦行動に従事するのは、わが国に武力攻撃が加えられた場合であって(単なる領空侵犯は、これに該当しない)、かかる事態でないにも拘らず米軍が戦斗作戦行動に従事するのは、国連憲章違反(従って、安保条約違反、同条約第一条及び七条)となるので考えられない。領空侵犯排除措置との関連で米軍がその内部でいかなる準則によることになっているかは、もっぱら米軍内部の問題であって、日米間の関係は、国連憲章及び安保条約上明確である。(岡崎書簡に対する米大使館の口上書で米側が「安保条約の下において必要かつ適当とする」措置をとるとしているのは、右との関連で意味がある。)

6 日米間で韓国の如き他地域における航空機移動情報の交換が行なわれているのは、領空侵犯排除のための識別の必要性との関係において、松前・バーンズ取極に基づき、日米防空当局間でそれぞれの領空侵犯排除措置上必要な限りで行なわれているものであって、地位協定第六条とは関係がない。協定第六条1項にいう「集団安全保障の利益を達成するため必要な」とは、日米安保条約の目的達成に必要なという意味であり、米国と他の諸国との防衛条約に言及したものではない。例えば米韓の防衛関係に基づく航空機移動情報が松前・バーンズ取極に基づき米軍を通じて事実上わが国自衛隊に伝達されることがあっても、これは、地位協定第六条の立法趣旨とは関係なく、右をもって協定第六条1項の「集団安全保障の利益」云々が日米韓集団安全保障を定めたものと解するのは当らない。(注56)

(注56)この点に関する議論については、昭和四四年二月十九日、衆・予・議事録参照。


(その3に続く)

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