【ねこまたぎ通信】

Σ(゜◇゜;)  たちぶく~~ Σ(゜◇゜;)

着々と進むロシアの原油輸出戦略

日中向けにパイプライン敷設計画

シベリア横断し、極東へ約4千キロ

サウジ抜いて世界一の輸出国目指す

11/04/2003

 世界の関心が米国軍などが仕掛けたイラク戦争に集まると同時に、中東地域の原油生産・輸出に不安が高まっている中、ロシアがその間隙を縫って今、原油輸入大国の日本と中国に狙いを定めた原油・ガス輸出の実現に向け、計画を着々と進めている。バイカル湖西岸地域に産する豊かな原油を、シベリアを横断する数千キロにも及ぶパイプラインを敷いて、日本と中国に輸出する計画だ。原油輸出大国を目指すロシアの戦略と思惑を探った。
 【モスクワIPS(セルゲイ・ブラゴフ記者)】ロシア政府は国連安全保障理事会の決議なしに、米軍などがイラク攻撃を開始することに強く反対したが、実際には、原油輸出拡大を狙うロシアにとり、このイラク戦争はその野望を目立たなくさせる「隠れ蓑」的役割を果たしている。ロシアは今、イラク戦争をはじめとする情勢不安定な中東地域に代わり、アジアへの安定した原油輸出国としての地位確保を虎視眈々と狙っているからだ。

 標的になっているのが、米国に次いで世界第2の原油輸入国・日本と、原油の消費国としては世界第3位の中国だ。ロシアはここ数カ月の間で、イラク戦争など中東情勢を注視しながら、極東地域への原油輸出計画を注意深く練り上げてきた。

▽第3のルートを提示

 ロシアの原油関係者は「極東へのパイプライン敷設計画がイラク戦争でどのような影響を受けるかは、まだ分からない」と慎重な姿勢を崩していない。その中、ロシア外務省のビクトル・カリュジヌイ次官はこのほど、報道陣に対し、「世界の原油需要はイラク戦争により拡大する可能性がある」との見解を示した。ロシアのロスネフチ石油公社は、極東地域へのパイプライン敷設は経済的にみても実行可能だとの自信を変えていない。

 ロシアが検討しているパイプライン敷設計画には次の2ルートがある。

 ひとつは、既存のパイプラインを延長し、バイカル湖の南端にあるイルクーツクと中国・大慶の間2400キロを結ぶもの。総工費は25億ドル(約3000億円)に上り、ロシア最大の石油会社ユコスと中国が推している。

 もうひとつは、シベリアを横断する形で全長3800キロに及び、中国を迂回し、最後は日本海に面した極東のナホトカに至るもの。総工費は52億ドル(約6240億円)で、これはロスネフチと日本が後ろ盾になっている。

 今年3月初旬段階では、中国を参加させる計画のほうが優位にあった。しかし、ロシア・エネルギー省が最終的に提案したのは上記のいずれでもなく、両計画を合体させた「第3の計画」だった。つまり、パイプラインを大慶まで敷き、それをさらにナホトカに延ばす内容だった。

▽日中両国の立場に配慮

 ロシア政府は日中両国のいずれかも落胆させることなく、また、ギクシャクした関係を生まないためにも、両計画を「足して2で割る」という苦肉の策を編み出したのだ。

 同計画によると、このパイプラインは産油地のバイカル湖地区からモンゴル北部を通り、日本海のナホトカに至り、1日当たり160万バレルの原油を送るという。パイプラインは当初、ロシアとの国境から約300キロにある中国の油田地帯・大慶まで敷設する。

 そこから枝分かれ状態となるパイプラインはナホトカまでの間、ロシア領内だけを通ることになる。この壮大な計画が実現すれば、ロシアの原油輸出能力は飛躍的に高まると同時に、同国はアジア太平洋地域にとり貴重な原油供給国ともなれる。

 日本と中国の双方は、原油輸入先を中東地域だけに依存するのではなく、多元化を図る意味もあるため、同計画に資金参加する意向を既に表明している。

▽背後に石油会社同士の暗闘も

 ユコスの社長で、中国側に立つミハイル・ホドルコフスキー氏は、現状では日中両国へ同時に供給できるほどの産出量はなく、また、極東にまでパイプラインを延ばすには巨額の工費が掛かり、それを捻出する余裕もない、と述べ、政府の新計画には消極的な姿勢を見せている。

 ユコスが計画しているのは、産油地アンガルスクからシベリアの東西を通り、大慶に至るパイプライン。完成予定は2005年で、油送量は1日当たり60万バレルという。ホドルコフスキー社長によると、このパイプラインを同年までに敷設しないと、年間で少なくとも30億ドルの収入がふいになると警告している。

 これに対しロスネフチ側は、中国への原油売却価格が必ずしも市場価格によっては決まらないとし、ユコスの計画に反対している。国営のパイプライン敷設会社トランスネフチも中国向け計画に反対している。同社は、すべては政府の決定次第としながらも、極東向けの敷設のほうが安全性は高く、融通もきくと指摘している。

▽日本と協力計画で合意

 また、政府エネルギー省の当局者たちの間からは、パイプラインを極東に延ばしたとしても、原油・ガスの埋蔵量に不安が残るとの声も出ている。同省によると、アンガルスク―ナホトカ間にまで延ばすには、東部シベリア地区での原油開発に向けて120億ドルの新規投資が不可欠で、また、生産量も2020年までに年間1億トンに拡大する必要があるとしている。現在、西シベリア地域にある主要油田からの生産量は7500万―8000万トン(日量)で、東西シベリア地域での原油埋蔵量は約10億トンと推定されている。

 この推定埋蔵量に不安は残るが、エネルギー省は日本との関係強化のほうに意欲を示している。同省は先月28日、日ロ両国は今後10年間にわたるエネルギー協力計画に合意した、と発表した。同計画によると、両国は原油・ガスパイプラインを共同で建設し、炭化水素資源の共同開発なども行うという。

 原油事情に詳しいバレリ・ネステロフ氏は「中国と日本を含む極東諸国に原油を供給するには、輸出用のパイプライン敷設が不可欠。ロシアが現在パイプラインで輸出している原油量は年間約1億8000万トンで、これ以上の量を送り出す余裕はない」と指摘する。

 ネステロフ氏はこのため、パイプラインが極東にまで延びれば、年間輸出量は1億トンも増え、同時に産油量も2010年には現行の3億8000万トンから5億トンにまで拡大するとの見方を明らかにしている。

 中国を含む極東にまで達する大規模パイプラインを敷くことにより、ロシアがサウジアラビアを抜いて、世界最大の原油輸出国になる夢を果たるかどうかは、今後の情勢いかんにかかっている。