【ねこまたぎ通信】

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 社会運動に対する取り締まり

社会運動に対する取り締まり

Crackdown
New Internationalist No.376
March 2005 p16-17
 

公正な社会を築くための取り組みを弾圧する9.11後の脅威について、アジズ・チョウドリーがリポートする。


反対勢力に対する弾圧がいかにして市場経済資本主義と一致協力しているのか議論することと、郊外にある自分の家に諜報部員が侵入することでそれが現実のものとなることは全く別次元のことである。
それは1996年7月、クライストチャーチで開かれたアジア太平洋地域諸国通商担当大臣会合に反対する、フォーラムと抗議集会の主催者を務めていた時に私の身に実際に起こったことだ。恐らく、ニュージーランドアオテアロアの歴史上、最もばつが悪く見苦しい「公安調査」活動であったろう。びくついていたNZSIS(地元の州の公安局のチンピラ)は、偶然見つかってぶざまに逃げ出さなければならなかった。その5日後、今度は警察が「爆弾製造器具」を探す名目で再び家宅捜査を行った。何も見つかるはずはない。結局、政府の不正工作の疑惑だけが強く残った。
茶番劇とも言える公的「捜査」の後、私は政府を訴えた。そしてニュージーランド控訴裁判所は、この件は不法侵入にあたるとの判決を下した。裁判官の1人は、裁判所は「国家安全保障という言葉の持つ圧力にひるむことはない」と語った。1996年に議会を通過した新しい公安調査法により「国家安全保障」の定義はすでに拡大され、それにはニュージーランド経済と世界の安定が含まれ、国家体制の正統性に向けられる批判の監視に無条件のお墨付きを与えていた。その後すぐに、政府はNZSISの調査権限を拡大させるために法を改正した。9.11を契機に、ニュージーランドの治安体制は更に強化されることになった。
「自分が普通だと考えているやつともめると大変なことになるんだ」とブルース・コバーンは歌う。テロとの戦いは、政府の人権政策に対する批判を封じ込めたり、さまざまな反対派の意欲を減退させることによって、政府を守る新しい手段として利用されている。特に「自由貿易主義者」にとって、9.11のテロは絶好のタイミングで起こった。国際通貨基金IMF)、世界銀行、世界貿易機関(WTO)といった新自由主義の機関は、破壊的な開発モデルを支持していることや民主的運営が欠落していることに関して、世界中の社会運動から激しい批判の標的にされていた。2001年9月24日、米通商代表部のロバート・ゼーリック代表はスピーチの中で、捜査・摘発の対象を、世界中で活動する公正な社会を目指す活動家にまで拡大するという基本姿勢を示した。「テロリストは、アメリカが世界のために戦ってきたという考え方を嫌っている。国際金融やグローバル化、そして米国を攻撃するために暴力に訴えるようになった者たちと知識的な結び付きがある場合、一般の人々は当然これを不審に思うだろう」


弾圧のする側の論理

何かと言って、警察、公安、諜報機関の権限を拡大するのは常套手段だ。FBIは9.11のかなり前から、FBIの基準に合あわせた電気通信の監視を行うよう各国に対して圧力をかけていた。また、主要な国際サミットの開催前に活動家を国境で食い止めるため、政府間で活動家の機密情報データベースを共有していた。しかし9.11を口実として、ワシントンから南アフリカプレトリアに至るまで、元来政府が支持を公言してきた民主主義の権利や価値をはなはだしく軽視して、監視、拘留、逮捕の権限拡大が行われた。そこで使用される「テロリスト」の定義の中には範囲が非常に広いものがあり、ストライキから土地の占拠までもが含まれる可能性がある。
2002年、フィリピンのグロリア・マカパガル・アロヨ大統領は「テロとの戦いでは、普通のテロリストと政治的イデオロギーの信奉者を区別しない」と宣言した。彼女は「仕事を与える工場を脅かす存在」という言葉を使い、労働組合を明確に威嚇したのだ。さらに大統領は、フィリピンの革新派の運動を「人権擁護を装うか、一見まともに思えるような政治主張で真の姿を包み隠したテロリストや犯罪者だ」と中傷した。急進派労働団体「5月1日運動」(KMU)の労働組合センター事務局長エルマー・ラボッグはこれに対して「アロヨ大統領は厳戒令の亡霊を蘇らせようとしている」と述べた。
過ぎ去った冷戦時代の共産主義の脅威、無政府主義者、反グローバル主義者、すべてのイスラム教徒は潜在的なテロリストだという発想……、以前とは「敵」は変わっても、やっていることは同じで、その激しさはさらに増すだけだ。異議を唱える人物や「よそ者」と見なされたコミュニティーに対する監視や抑圧は、常に国家主義を補強してきた。時には、国土というシンボルも担ぎ出される。警察や一般大衆の思考様式は、現行の国家体制への挑戦を犯罪行為とみなすのだ。9.11後の世界では、武力を伴った抗議と「殺傷力のより小さい」化学物質やスタンガンなどの武器が取り上げられるようになった。
カルフォルニアのオークランドで行われた非暴力の反戦抗議活動に警察が容赦なく襲いかかった後、州から支援を受けているカルフォルニア反テロリスト情報センター(California Anti-Terrorist Information Center)のマイク・ヴァン・ウィンクルは高らかに次のように述べた。「国際テロリズムに立ち向かう戦争に対して反対するグループがいて……そのような戦争に抗議することは、テロ行為だと言えなくもない」。2003年11月のマイアミのFTAA(米州自由貿易地域)サミット、2004年のジョージア州でのG8サミットの取り締まり強化のために何百万ドルも費やされたが、こうした資金が米国議会のイラク戦争予算(Iraq appropriation bill)から支出されていることは、ここにはっきりと述べておく。
一方チリ政府は、残忍なピノチェト政権時代に作られた1984年の古い反テロリスト法を改正し、マプーチェ民族の活動家の弾圧に利用している。マプーチェ民族は、先祖代々利用してきた土地が林業会社に占領されることに反対し、さらに林業会社が導入を求める松とユーカリの木材輸出のためのプランテーションにも反対している。この「改正」法の下では、誰からでも告発される可能性があり、告発されれば裁判なしで何カ月も拘束されたり、匿名の目撃者や極秘の証拠が裁判で採用される恐れもある。テロ活動に対する刑期は最低で10年である。マプーチェ民族の活動家は、プランテーションの森、木材運搬用トラックや機材に放火した容疑で逮捕され、テロ活動の罪で起訴された。生命や自由、自然に対してではなく、所有物に対する放火がテロ犯罪と定義されるのだ。活動家のなかには、すでに投獄され刑に服している者もいる。最近社会の注目を浴びた事件は退けられたものの、すでに国は上訴した。


弾圧の対象とその現実

ニュージーランドアオテアロアでは、以前から先住民活動家に対する不法侵入、盗聴、監視を行ってきた。数年前、マオリ族の弁護士で活動家のアネット・サイクスは、自宅の電話が盗聴され、車に位置情報探知機が仕掛けられていることに気付いた。2004年11月には、マオリ族のさまざまな団体や個人をスパイしたNZSISの「オペレーション・リーフ」に関する主張がトップ記事となり、現在調査が進んでいる。
カナダ公安情報局(CSIS)の2003年の報告書には次のように記されている。「カナダは、先住民の権利、白人至上主義者、国家主権、動物の権利、環境、反グローバル化に関する国内テロリズム問題に直面している」。先住民の土地の占領、森林や漁業の権利を巡る争いに対しても、大規模な警察や軍隊の出動が繰り返されている。ガスタフセン湖(Gustafsen Lake)、カネヘサタケ(Kanehsatake)、バーント・チャーチ(Burnt Church)、2002年9月にバンクーバー島で起きた国家安全保障取締統合チーム(INSET:Integrated National Security Enforcement Team)による先住民活動家に対する強制捜査など、挙げれば切りがない。
裁判なしに続く拘束。一斉検挙。行方不明。安全の証明。無知と疑念が基になった不安感のまん延。私たちは、ピノチェト時代のチリやマルコスがいた頃のマニラに逆戻りしようとしているのか? それとも現代のアメリカやカナダへ行こうとしているのか? 移民の拘留、移民に対する制限、強制送還、多数の有色人種コミュニティーに対する小規模な戦い、すべての反イスラム感情。そのどれをとっても、根元はすべて2001年9月11日よりずっと前から存在していた。「市民の自由」が損なわれていくのを防ぐため、効果的にキャンペーン活動を繰り広げるには、多くのコミュニティーにとってさまざまな権利は、弱々しくあいまいなものであること認識しなければならない。ニューヨークに本拠地を置く「家族を自由に」(Families for Freedom)の主催者サバッシュ・カティールはこう指摘する。「現在私たちが目撃していることは、市民を合法な市民と不法な非市民として区別するような移民政策を通じたアパルトヘイトの発展がその根底に流れている。私たちがそれをしっかり理解することが必要だ」
2003年、根拠のないテロ容疑により、パキスタン人学生を中心とした24名がトロントで逮捕、勾留され、強制送還された。はたして彼らは、民主主義や自由という言葉に何を思うだろうか。また、他のイスラム教徒男性と同じように、CSISの主張する極秘の証拠で投獄されたモントリオールのアディル・チャルカオイはどうだろうか。米国に立ち寄った際に拘束され、カナダではなくシリアに強制送還されて1年間投獄され拷問を受けたシリア生まれのカナダ人マハー・アラルはどう感じるだろうか。
公正な世界を目指して北の国で運動をしている人々の多くは、新しい反テロ法と異議を唱えることを犯罪と見なす現状に憤慨している。また、9.11の影響を受けて委縮する世界に懸念を抱いている人もいる。そこには、直接的な行動や「批判しすぎる」ことに対する恐怖がある。しかし、今までほとんど注目されていなかった移民への不公正な対応や、先住民の抵抗を犯罪とすることがようやく今注目され始めた。そして、人種差別に基づく移民政策や公安政策に反対するキャンペーンが、新自由主義軍国主義に反対する人々と結び付く新しい機会が訪れようとしているのだ。
それがたとえ国から弾圧されやすくとも、正義を求める闘いの最前線で長い間がんばってきたいろいろなコミュニティーと協力関係を築くためにも、私たちは立ち上がらなければならない。


Aziz Choudry
ニュージーランドアオテアロア出身の活動家でライターでもある。現在はカナダのモントリオールで活動している。
 

訳:松並敦子