【ねこまたぎ通信】

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機密文書「地位協定の考え方」その1

琉球新報がスクープして掲載した外務省の機密文書、「地位協定の考え方」全文を5回にわたってお送りします。琉球新聞はこの機密文書を04年7月末から8月にかけて、9回にわたって掲載しています。TUPの読者の皆さんに配布していいかどうかを琉球新報にリクエストしたところ、快諾を得ることができました。外務省では「この文書の存在を知らない」といっているので、著作権は誰にもないことになりますから、読者の皆さんはこの問題を真剣に取り上げてくださる人に転送されても、法律に問われる心配はありません。むしろ、問われなければならないのは、この文書を書いた人々でしょう。

TUP(平和をめざす翻訳者たち)配信係

機密文書「地位協定の考え方」その1
本紙が入手した外務省機密文書「地位協定の考え方」を特集で全文公開する。長く県民を苦しめる政府の基地行政の実態と地位協定の本質を知る資料として広く活用され、改定に向けた論議の一助となることを期待したい。同文書は表紙に「秘 無期限」の指定印がある。沖縄が本土復帰した翌年の一九七三年四月に作成され、以後、基地行政に携わる外務官僚らの「虎の巻」「バイブル」として、策定後三十年を経てなお活用されている。
外務省が存在すら否定する資料の中に、基地を抱える沖縄住民の苦悩の源流を随所に読み込むことができる。政府や外務官僚らの苦悩ぶり、地位協定の条文規定を超える米国優位の基地運用、そのための条文の拡大解釈運用の“妙技”も読める。「沖縄」もふんだんに登場し、在沖米軍基地の運用実態も垣間見ることもできる。

残念ながら一部ページの欠落、判読不明個所もあり、完全な形ではない。また機密文書の存在も同文書は示しているが、本紙もすべては入手できていない。だが、沖縄県も外務省に開示を要請しており、基地問題の抜本解決に向け、いっそうの情報開示が進むことを期待したい。

琉球新報 地位協定取材班)

【本文の見方】

(1)目次に続く数字は原文ページ

(2)網かけ部分は「注」を示す

(3)原文の強調ルビ「。。。。」は、編集の都合上、紙面ではサイドライン

  「―」で示した。

(4)四七、四八ページと目次の「第二十六条(発効・予算上及び立法上の措置)

   一三三ページ」「第二十七条(改正)一三四ページ」「第二十八条(終了)

   一三五ページ」は欠落。

(5)明らかな誤植以外は、旧字体も含め原文のままとした。

[秘 無期限] 昭和四八年四月

日米地位協定の考え方 

外務省条約局 

   アメリカ局


【はしがき】

現行安保条約とともに締結された地位協定については、その締結当時作成された擬問擬答集、地位協定逐条説明等があるが、その後十余年が経過し、この間国会等において種々の問題が提起され、そのつど、多くの答弁資料・参考資料等が作成されて来ている。本稿は、執務に資するため、国会議事録及びこれら資料等を能う限り参照しつつ、地位協定の法律的側面についての現時点における政府としての考え方を綜合的にとりまとめたものである。なお、本稿は、条約課担当事務官の執筆になるものである。

昭和四八年四月

条約課長

安全保障課長

【目次】

〔一般国際法地位協定〕…一(ページ)

日米地位協定の一般的問題〕…二

〔第一条〕(米軍人等の定義)…五

一 米軍構成員の定義…五

二 軍属の定義…六

三 家族の定義…七

〔第二条〕(施設区域の提供、返還、共同使用)…一〇

一 施設・区域の提供…一〇

二 施設・区域に関する協定の再検討、返還…一七

三 II―4―(a)共同使用(三条使用を含む。)…一七

四 II―4―(b)共同使用…二一

〔第三条〕(施設・区域内外の管理)…二七

一 施設・区域の管理権(施設・区域の法的性格)…二七

二 施設・区域の近傍における措置…三二

三 電気・通信関係に関する措置…三四

〔第四条〕(返還施設・区域の原状回復・補償)…三六

〔第五条〕(船舶・航空機等の出入・移動)…三八

一 施設・区域外の港・飛行場からの出入国…三八

二 施設・区域たる港・飛行場からの出入国(原潜寄港問題を含む。)…四二

三 日本国内における移動の自由…四四

〔第六条〕(航空交通)…四六

一 航空交通管理・通信体系の協調・整合…四六

二 領空侵犯排除措置関係…五〇

〔第七条〕(公益事業の利用)…五二

〔第八条〕(気象業務の提供)…五四

第九条〕(米軍人等の出入国)…五五

一 出入国及び在留…五五

二 強制退去…五六

〔第十条〕(運転免許証及び車両)…五八

〔第十一条〕(関税・税関検査)…六〇

一 関税免除…六〇

二 税関検査…六二

三 特権乱用防止のための協力…六二

〔第十二条〕(調達・労務)…六四

一 調達に関する一般的問題…六四

二 調達物資の免税…六五

三 労務問題…六六

〔第十三条〕(課税)…七一

〔第十四条〕(特殊契約者)…七三

〔第十五条〕(才出外資金諸機関)…七五

〔第十六条〕(日本法令の尊重)…七八

一 米軍に対する日本法令の適用(一般論)…七八

二 第十六条の意味…八一

〔第十七条〕(刑事裁判権)…八二

一 米軍当局の裁判権…八二

二 日本側の裁判権…八四

三 専属的裁判権…八五

四 競合裁判権の分配…八六

五 逮捕・身柄引渡し等の相互協力…八九

六 被告人の保護…九一

七 警察権(施設・区域内とその近傍)…九三

八 警察権(施設・区域外)…九六

九 その他…九七

〔第十八条〕(民事請求権)…九八

一 防衛隊の財産に対する損害…九八

二 国有財産に対する損害…一〇〇

三 軍人の公務中の死傷…一〇二

四 米軍の公務中の行為による私人の損害…一〇三

五 海事損害…一〇八

六 軍人等の公務外の行為による損害…一一二

七 民事裁判管轄権・調停…一一三

八 その他…一一四

〔第十九条〕(外国為替管理)…一一六

〔第二十条〕(軍票・軍用銀行施設)…一一七

〔第二十一条〕(軍事郵便局)…一二〇

〔第二十二条〕(在日米人の軍事訓練)…一二一

〔第二十三条〕(軍及び財産の安全措置)…一二二

〔第二十四条〕(経費の分担)…一二三

一 日本側が負担すべき経費…一二三

二 米側が負担すべき経費…一二八

三 共同使用施設・区域の経費分担…一三〇

〔第二十五条〕(合同委員会)…一三一

〔第二十六条〕(発効・予算上及び立法上の措置)…一三三

〔第二十七条〕(改正)…一三四

〔第二十八条〕(終了)…一三五



【一般国際法地位協定

地位協定(外国に駐留する軍隊の当該外国における地位につき当該軍隊の派遣国と接受国との間で締結される協定)は、主として第二次大戦後に関係国間に締結されたものであり、その典型的なものとしては、ナト当事国間のナト地位協定(一九五一・六・十九署名)がある。日米地位協定も基本的にはナト協定を踏襲したものである。地位協定が第二次大戦後の一般的現象となった理由としては、次のことが考えられる。

即ち、第二次大戦以前には、特定の例外的場合を除き、平時において一国の軍隊が他国に長期間駐留するということが一般的にはなかったということである。いわゆる戦時占領的な駐留は、歴史的に多々存在したが、この場合には、一方が勝者であり他方(被占領国)が敗者であるという関係から、被占領国における占領軍の地位は、そもそも問題になり難い面があったろうし、又、戦時占領に関連する特定の問題については多数国間の一般的条約で一定の準則が設けられた(一九〇七年の陸戦ノ法規慣例ニ関スル条約)。

ところが、第二次大戦後には友好国の軍隊が平時において外国に駐留することが一般的になり、かかる軍隊の外国における地位を規律する必要が生じたことである。この場合、従来、外国に寄港中の軍艦の地位については一般国際法上一定の原則が確立していたとみられる(例えば当該軍艦内における刑事事件については旗国が第一次裁判権を有する等)が、これも必ずしも網羅的なものではなく、又、陸上に平時において駐留する外国軍隊の地位については歴史的な実績がないため一般国際法といえる如き原則は存在しなかった(従来、歴史的に問題になりえたのは、たかだか他国の領域を通過中の外国軍隊の地位であり、この場合についても何が一般国際法上の原則であるかについては必ずしも確立したものは存在しなかった。)ので、一般に第二次大戦後の右で述べた如き外国軍隊の地位を明確に規律するために地位協定が必要とされたものである。

日米地位協定の一般的問題】

安保条約第六条第二文は、「……施設及び区域の使用並びに日本国における合衆国軍隊の地位は、……行政協定に代わる別個の協定……により規律される」旨定めており、地位協定は、右の「別個の協定」として締結されたものであるが、安保条約第六条及び地位協定に共通する問題として次の諸点がある。(なお、安保条約第六条の一般的考え方については昭和四八年二月五日付け条・条ペーパー参照)

1 安保条約第六条第二文及び地位協定の標題にある「日本国にある合衆国軍隊」との関連で、「在日米軍」とは何かということが問題とされる。「在日米軍」については、安保条約及び地位協定上何ら定義がなく、「日本国にある合衆国軍隊」と同義に使用される場合には、(イ)(事前協議に関する交換公文にいう)日本国に配置された軍隊、(ロ)寄港、一時的飛来等によりわが国の施設・区域を一時定に使用している軍隊、及び(ハ)領空・領海を通過する等わが国の領域内にある軍隊が含まれることとなる(注1)。

(注1)「装備における重要な変更」に関する事前協議が前記(ロ)及び(ハ)の軍隊にも適用があることにつき政府の考え方は一貫している。(ロ)の軍隊につき地位協定の適用は明らかであるが、(ハ)の軍隊についても、例えば、領空通過中の米軍機がわが国において墜落して民家に損害を与えた場合等の補償問題が地位協定第十八条により解決されることからも明らかである。以上から明らかなとおり、第三国を本拠として駐留する軍隊であっても、前記(ロ)又は(ハ)に該当することとなる限り「日本国における合衆国軍隊」として安保条約及び地位協定の適用を受ける。これらの軍隊が日本の領域内において在日米軍司令官の「指揮下」に入るか否かは本質的には米軍内部の問題であって安保条約及び地位協定の問うところではないと考えるべきである(注2)。

(注2)この点については、日本に配備された軍隊と一時的に日本にある軍隊とに分け、前者については在日米軍の指揮下に入るであろう、後者についてはその区署を受けることとなろうとの説明が行なわれることがある(例:衆・安保特五月四日及び十八日議事録、山内一夫「施設及び区域」時の法令昭和三五年第三六一号)が、本質的にはこれらの点に拘わる必要はないと考える。また、在韓国連軍たる米軍がわが国にある際は「在日米軍」であるか「国連軍」であるかという議論は、これら米軍の日本国における地位が安保条約・地位協定により規律されることとなっている(吉田・アチソン交換公文等に関する交換公文第三項)ので実益がない。(注3)

(注3)この点については、「このような軍隊はある場合において国連軍たる性格と在日米軍たる性格と二重に持っている」との趣旨の岸総理答弁がある(衆・安保特四月十三日議事録)

2 安保条約第六条は、施設・区域の使用を許される主体として「(アメリカ合衆国の)陸軍、空軍及び海軍」を挙げているが、ここにいう「陸海空軍」とは、米軍隊を綜合的に表現したもの、即ち、米国の軍隊に属するもの全部の意と解すべきであって、施設・区域を使用する特定の部隊が米軍隊であると観念される限り、当該部隊の名称が陸海空軍のいずれにも当らなくても問題はないと考えるべきである。ちなみに、英文も「land, air and naval forces」とあって例えば「army,air force and navy」となっていないのは、通常の陸軍、空軍、海軍を意図した規定でないことの証左である。この点については具体的には海兵隊及び沿岸警備隊(後者は、ロランC―施設・区域―の運営維推に当っている)が問題とされるが、一九五六年の Armed Forces Act の第一〇一条は、「軍隊とは陸軍、海軍、空軍、海兵隊及び沿岸警備隊をいう」旨規定している。特に問題とされる沿岸警備隊は、平時は運輸省に所属する(戦時は海軍の一部として行動)が、いずれにしても常時米軍隊の一部である旨規定されている。(The Department of Transportation ACt of October15,1966)。(注4)

(注4)ちなみに、「日本における沿岸警備隊の活動は、米国防省の任務を支持するものであり、沿岸警備隊の指命と同時に在日米軍司令官の指令下にある」旨の在日沿岸警備隊指揮官の昭和三四年六月十六日付米保長宛書簡がある(本件書簡が国会等で引用されたことはない模様)。

3 次に、安保条約第六条に基づく施設・区域の提供は、米軍隊に対してなされるものであり、従って、米軍がこれら施設・区域を利用して第三国軍人を訓練することは認められない。この点は、昭和四六年六月十七日の沖縄返還協定署名に際してのマイヤー駐日米大使の声明においても「地位協定沖縄返還と同時に沖縄に適用され、同協定には日本における第三国人の軍事訓練を許可するいかなる規定もないことにかんがみ、米国政府は、米陸軍太平洋情報学校を沖縄から撤去します。」旨述べられている。

なお、第三国人が視察、連絡等のため施設・区域を訪問したりすることがあるが、かかることは、米軍が同意する限り、わが国民による場合を含め、当然認められてしかるべきである。なお、右の第三国人は、地位協定非該当者であり、従って、出入国に当って通常の手続を踏むべきことは当然である。

4 最後に、施設・区域の使用は、米軍隊に対して認められるものであるから、軍の機関ではない通常の米政府機関が施設・区域を使用することは認められない。従って、沖縄返還前に沖縄で通常の政府機関として活動していたFBIS(外国放送情報局)は、そのままでは復帰後施設・区域の使用を認めえなかったので交渉の結果、米側は、これを在沖縄米陸軍の一部に編入するとの内部手続をとった。(注5)

(注5)FBISの任務は、外国(主として共産国)の通常のラジオ放送を傍受し、これをとりまとめたもの等を米政府機関に配付することであり、CIAの管轄下にある(政府としてはCIAということはできる限り避けている。)。FBISの機関は、在京米大使館の一部としてその人員を有しており、財政その他管理面で同大使館の援助を受けている。なお、千歳の米通信基地(施設・区域)の中にもFBISがあり、これも、沖縄の場合と同様、米陸軍に編入されている。復帰前後を通じて沖縄のキャンプ桑江(復帰後施設・区域)で活動していた米国務省の一機関たるAID(後進国援助を任務とする。)は、復帰後その実体が明らかとなり、昭和四八年三月AID事務所は、施設・区域外に移転された。(注6)

(注6)沖縄のAIDの主たる任務は、米軍の廃品を譲り受けこれを援助に振り向けるための軍隊との調整・連絡等であったので、米側としてはAIDのかかる活動は、軍隊としての側からみれば必要(廃品の処理)な活動であるので地位協定上問題なしと判断していたものとみられる(米軍は、安保条約・地位協定違反をしないとの建前からすれば、日本政府としては少くともこのように説明せざるをえない。)が、いずれにしろ米政府の通常の機関が施設・区域内に事務所を構えて活動することは地位協定上説明が困難なので、交渉の結果、米側としても当該事務所を施設・区域外へ移転させることとしたものである。


〔第一条〕

地位協定第一条は、この協定の適用上、米軍構成員及び軍属並びにそれらの家族を定義する。

一 米軍構成員の定義

1 米軍構成員は、「日本国の領域にある間におけるアメリカ合衆国の陸軍、海軍又は空軍に属する人員で現に服役中のものをいう」(第一条(a))のであるから、米軍の現役軍人であれば、その者が日本国の領域にある間は、協定上の米軍構成員に該当する(このような者がわが国に入国する際には、通常の場合は、当然第九条の規定する旅行命令書を携行する。)。

2 「日本国の領域にある間における」は、「人員」にかかるものであって、「アメリカ合衆国の陸軍、海軍又は空軍」にかかるものではない。従って、構成員の所属部隊がわが国に駐留しているか否かは、問題とならない。わが国に来日する米軍構成員が在日米軍司令官の指令下に入るか否かも本質的な問題ではない。

3 第九条3項にいう旅行命令書には休暇命令書(leave order)も含まれると解されているので、第三国に駐留する米軍人がかかる命令書を携行してわが国での休暇のため来日する際も協定上の米軍構成員である。この点ナト地位協定では、締約国の陸海空軍に属する人員で「その公務に関連して」北大西洋条約区域内の他の締約国の領域にある者をいう云々と定義されている(第一条1項(a))ので、第三国に駐留する軍人が休暇で入国する場合は当該国においてはナト地位協定上の軍人には該当しないと解されている。しかし、実際には、別途二国間協定で右の如き休暇中の軍人も地位協定上の軍人とする旨の合意が行なわれたり(例えば一九五二年四月の米加間の交換公文、一九五九年八月の米西独間の休暇軍人の地位協定)、また、実際上そのように扱う国(例えば仏)があったりして、全体として日米地位協定と大差ない運用が行なわれているものとみられる。

4 地位協定上米軍構成員には国籍上の要件はないので、日本人であっても米軍の現役軍人であれば地位協定上の米軍構成員に該当することとなる。この点でかって問題となったのは、米国滞在中に米軍人となった日本人が米軍構成員として来日後わが国において脱走した場合、かかる脱走兵の逮捕につきわが国は協定第十七条5項に規定する米軍への協力義務があるかという点であるが、条約解釈としては積極に解さざるを得ない。他方、かかる日本人が日本以外の地で脱走した後にわが国に入国した場合には、かかる脱走兵の入国は、米国の公けの意思に基づくものではないから、当然協定第九条3項に定める旅行命令書を所持して入国できるとは考えられず、従って、地位協定上の米軍構成員には該当しないと解すべきである(この点は、第三国で脱走して来日する米国人たる脱走兵についても同様に解すべきである。)。(注7)

(注7)この点については、米側がかかる脱走兵を在日米軍部隊に配置換えする等の方法により、当該脱走兵の入国が本人の自由意思にかかわらないことが確認された場合には地位協定上の米軍構成員に該当することとなるとの考え方があるが、かかる考え方は、協定の素直な解釈として無理がある。

5 在京米大使館には、現在十名の海兵隊員が警備員として勤務しているがこれらの者は、在日米軍の任務からは分離されており(この点を確認した米側の書簡が昭和二七年当時わが方に発出されている。)、その身分は、大使館職員(役務職員)として外務省に通報登録された上、身分証明書の発給を受けており、大使の指揮監督に服するものである。従って、これらの者は、米大使館付武官の場合と同様、軍人ではあっても、「現に服役中のもの」には該当しないものと解され、従って、地位協定の適用はない(この点の議論については、昭和四八年四月四日、衆・外議事録参照)。

二 軍属の定義

1 「軍属」とは、米国国籍を有する文民で「日本国にある合衆国軍隊」に「雇用され」、又はこれに「勤務し」、若しくはこれに「随伴する」ものをいうと定義されている。ただし、通常日本国に居住する者及び第十四条1の特殊契約者は除外され、また、日米両国の国籍を有する者で米軍が入れたものは、米国国民とみなすことになっている(第一条(b))。

2 以上から明らかなとおり、日本以外の地に駐留する米軍隊の軍属が来日する場合には、たとえ公務である場合にも地位協定上の軍属には該当しない。また、米国籍を有しない第三国人は、地位協定上の軍属ではない。行政協定の合意議事録には、米軍が雇用する第三国人高級技術者を軍属に含める問題を合同委員会で検討すべき旨の規定があったが、地位協定の合意議事録ではかかる規定は削除されている。米軍の雇用する第三国人は、地位協定上何らの特権等を有さず、出入国を含めすべてわが国の法令が規律するところによる。

3 軍属と米軍との関係は、雇用契約に基づくものが大部分であり、「勤務」ないし「随伴」という関係のものはむしろ例外的なものである。「雇用」された者とは、「日本国にある合衆国軍隊」によって雇用されているもの一般で、在日米軍才出外機関の被用者、在日米軍が運営する船舶、航空機の乗組員を含む。「勤務」する者としては、米国赤十字職員とか在日米軍と契約関係にある特殊技術者がある。「随伴」する者としては、軍用銀行の被用者等米軍の活動に欠くべからざるものと認められる諸団体の被用者を含む。

4 「通常日本国に居住する者」であるか否かの判断につき日米間で一致した具体的基準はないのでケース・バイ・ケースに合理的に判断されることとなる。

5 ナト地位協定では、軍属は、締約国の軍隊に随伴する文民であってかつその締約国の軍隊に雇用されているものでなければならない旨規定されている(第一条1項(b))ので、日米地位協定の場合より相当狭くなっている(尤も、国籍要件は日米地位協定の方がより厳しい。)ナト地位協定交渉中、米側は、例えば米国赤十字職員等はナト地位協定第一条1項(b)の軍属に該当しない旨明らかにしているが、日米地位協定上は「勤務」する者として含まれることとなろう。いずれにしろ、いかなるものが日米地位協定上の軍属に該当するかにつきあらかじめ一般的基準を設けることは困難である(特に「勤務」、「随伴」の判定が難しい)ので具体的ケースに当って合理的に判断して行くほかない。

三 家族の定義

1 「家族」とは、軍構成員又は軍属の家族であって、1配偶者及び二一才未満の子をいうが、2これに該当しない父、母及び二一才以上の子であってもその生計費の半額以上を軍構成員又は軍属に依存するものも「家族」に含まれる(第一条(c))。この定義から明らかなとおり、地位協定上の家族には国籍要件はなく、従って、いわゆる日本人妻も当然これに該当すると解される。(注8)

(注8)わが国の民法上の定義によれば継子及び義父母は家族として認められないが、本項の適用上は右の条件に該当する限り家族に含まれると解されている。又、養子は子に含まれると解されている。

2 専ら第三国に駐留している米軍構成員の家族が当該構成員と離れて単独でわが国にいる場合には、協定上の家族とは認められない。(第三国に駐留する米軍隊の軍属については、当該軍属自身が協定上の軍属ではないから、その家族はいかなる場合でも協定上の家族でないことは疑いがない。)これに関連して、韓国等の日本国外に駐留する米軍構成員等がその家族を日本に在留せしめることは、昭和三三年九月の米軍内部通達により原則として禁止されている由である(安保国会当時の協定遂条解説参照)。

3 右2の点との関連で、第七艦隊に配属されている艦船で、その乗組員の家族がわが国に居住することとなっているという意味でわが国の港がいわゆる「母港」となっている艦船の乗組員の家族は、当該乗組員が海上勤務をしている間も地位協定上の家族に該当すると考えてよいかという問題がある。このような艦船は、通常定期的にわが国に寄港するものであるが、協定を厳格に形式的に解釈すればかかる家族は関係乗組員のわが国の出入に応じてその都度協定上の家族の地位の得喪を繰り返す結果となり、協定の実施上極めて不自然な事態を招くこととなるので、協定の合理的な運用としては、右の如き家族は、関係乗組員の海上勤務期間中も実際上協定上の家族として取り扱うことが妥当であり、従来の運用もそのように行なって来ている。(注9)

(注9)協定の厳格な解釈としては乗組員の留守中は家族に該当しないかも知れないが、実際上協定上の家族として取り扱うことが合理的であるとの趣旨の答弁が昭和四三年三月十二日衆・予二分科で行なわれている。右の如き考え方に対しては、右の乗組員は、近い将来再びわが国に入ることが確実視される状況の下において海上勤務に従事するのであるから、かかる乗組員の所在は、法的には海上勤務中も潜在的にわが国にあるものと解され、従って、その家族は引続き協定上の家族と解されるとの考え方がある。かかる考え方は、本件を法的に説明し切るという点に利点があろうが、他方、この考え方を押し進めれば、かかる艦船はわが国に配置されたことになるのではないかとの問題を惹起しかねず、「配置」に関する事前協議問題との関係で微妙な点があることを考える必要があろう。

以上の点については、第三国に駐留する陸軍等の家族の場合と同列に論ずる必要はなく、海軍活動の特性という点に着目して合理的な取扱いを行なうという説明で十分対処しうるものと考える。なお、右と関連した問題として米軍飛行士や軍務により日本国外に出張する米軍人の家族の地位の問題があるが、かかる留守家族についても右と同様に考えてしかるべきであって、「かかる米軍人は、一時的にわが国に居なくても法的には日本国の領域にある米軍人と解する」との趣旨の考え方を敢えてする必要はないものと考える。

4 なお、右2及び3に関連する点であるが、米・西独間地位協定(いわゆるボン協定)には、軍隊の構成員又は軍属が死亡又は転勤した後も九十日間はその家族を地位協定上の家族とみなす旨の規定がある(第二条2項(b))。日米地位協定にはかかる明文の規定はないが、このような場合(その他例えばわが国に配属される米軍人の家族がたまたま当該軍人よりも先に来日した場合、第三国に駐留する米軍人が家族とともに休暇来日中、たまたま急用で家族よりも先に出国した場合等)には、わが地位協定上も自ずと合理的な処理が行なわれてしかるべきであり、十分説明もしうるところと考える。

〔第二条〕

第二条は、施設・区域の提供、返還及び共同使用につき定める。

一 施設・区域の提供

1 第二条1項(a)は、米側は、安保条約第六条に基づき日本国内の施設・区域の使用を許されること及び個々の施設・区域に関する協定は、合同委員会を通じて日米両政府が締結しなければならないことを定めている(第一文及び第二文)が、このことは、次の二つのことを意味している。第一に、米側は、わが国の施政下にある領域内であればどこにでも施設・区域の提供を求める権利が認められていることである。第二に、施設・区域の提供は、一件ごとにわが国の同意によることとされており、従って、わが国は施設・区域の提供に関する米側の個々の要求のすべてに応ずる義務を有してはいないことである。地位協定が個々の施設・区域の提供をわが国の個別の同意によらしめていることは、安保条約第六条の施設・区域の提供目的に合致した米側の提供要求をわが国が合理的な理由なしに拒否しうることを意味するものではない。特定の施設・区域の要否は、本来は、安保条約の目的、その時の国際情勢及び当該施設・区域の機能を綜合して判断されるべきものであろうが、かかる判断を個々の施設・区域について行なうことは実際問題として困難である。むしろ、安保条約は、かかる判断については、日米間に基本的な意見の一致があることを前提として成り立っていると理解すべきである。(注10)

(注10)かかる判断について、常に日米間に意見の不一致がありうるとすれば、単に施設・区域の円滑な提供は不可能であるばかりでなく、わが国が自国の安全保障を米国に依存することの妥当性自体が否定されることとなろう。以上にも拘らず個々の施設・区域の提供につき米側がわが国の同意を必要とするのは、場合によっては、関係地域の地方的特殊事情等(例えば、適当な土地の欠除、環境保全のための特別な要請の存在、その他施設・区域の提供が当該地域に与える社会・経済的影響、日本側の財政負担との関係等)により、現実に提供が困難なことがありうるからであって、かかる事情が存在しない場合にもわが国が米側の提供要求に同意しないことは安保条約において予想されていないと考えるべきである。(注11)

(注11)このような考え方からすれば、例えば北方領土の返還の条件として「返還後の北方領土には施設・区域を設けない」との法的義務をあらかじめ一般的に日本側が負うようなことをソ連側と約することは、安保条約・地位協定上問題があるということになる。

2 「施設及び区域」そのものに関する定義は、安保条約にも地位協定にも存在しないが、「日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、」(条約第六条)合衆国軍隊が地位協定の規定に従い日本国政府によって使用を許される建物、工作物等の構築物及び土地、公有水面を中心とし、これらの運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む観念であるといえよう。このような施設・区域に対しては、米側は、その管理等につき一定の権能を有し(協定第三条1項に規定するいわゆる「管理権」)、又わが国内法上一定の法的地位が与えられる(第三条の項参照)。

3 協定第二条1項(a)は、施設・区域には、当該施設・区域の運営に必要な現存の設備、備品及び定着物を含む旨規定している(第三文)ところ、この「設備、備品及び定着物」とは、その個々の用語につき、これを区別して例示することは困難であるが、一般的には、提供しようとされている施設・区域内に現に存在し、当該施設・区域の運営に必要な動産と解されており、典型的なものを挙げれば給配水設備等の機械や家具等がある。このような設備等が提供時において施設・区域内に存在し、これが当該施設・区域の運営に必要と認めらる限り、右の設備等は、当該施設・区域に含まれる訳である。又、右の「現存の」とは、既に明らかなとおり、施設・区域の提供時に現に当該施設・区域内に存在するという意味であるが、この関連で、例えば建物を構築して施設・区域として提供する場合、その建物の設備等をあわせて提供することができるか(即ち、「現存の」とは、例えば既存の建物を提供する場合にその建物にたまたま備え付けられている設備等を指すのであって、建物を構築して提供する際にそこに設備等を備え付けることまで意味してはいないのではないか)という問題がある。この点については、「現存の」とは、右の如き構築提供の場合に設備等まで建物に備え付けることを意味しておらず、従って、わが方としてはかかる備え付けを行なう協定上の義務はないものとかいされるが、他方において、わが方が何らかの合理的な理由によりかかる備え付けを行なうことを協定が禁じているものとも解されない。従って、リロケーションの場合等新たに建物を建てる際にどの程度の設備等を備え付けるかは個々の事案ごとに定められるべきものであると考えられる。なお、既に施設・区域として提供されている土地、建物等のうちの「設備、備品及び定着物」の改良、これらのものの新たな附加は、第二条1項(a)の施設・区域の提供とは観念されず、従って、米側が自らの責任において措置すべき事柄である(協定第三条合意議事録及び第二十四条参照)。

4 安保条約及び地位協定においては、「施設及び区域」は、常にセットで一つの協定上の用語として使用されているので「施設」と「区域」がそれぞれ何を指すかを論ずることに実益はないが、しいて言えば、「施設」とは、建物(又はその一部)、工作物等の固定施設が提供された場合の観念であり、「区域」とは、土地又は公有水面が単独で提供された場合の観念であるといえよう。(注12)

(注12)以上の如き施設・区域の意味については、昭和四八年三月の衆・予における地位協定第二十四条に関する議論(第二十四条の項参照)との関係で政府の統一見解が大出俊議員(社)より求められ、同議員に対し次の内容の文書が提出されている。

「施設及び区域」の意味について

昭和四八年三月十二日

外   務   省

1 安保条約、地位協定「施設及び区域」そのものに関する定義は存在しないが、その内容は「建物、工作物等の構築物及び土地、公有水面」をいうものと解され、「施設及び区域」の扱いに関する運用は、昭和二七年以来一貫して右のような解釈に即して行なわれている。

2 地位協定第二条第1項(a)第三文の規定は、「施設及び区域」の概念は、当該「施設及び区域」の提供時に現存する設備、備品及び定着物であって、その運営に必要なものが含まれるとの趣旨を述べたものであるが、右の「設備、備品及び定着物」とは、建物、工作物、土地等に備え付けられ、又は附着する物を言うものであって、建物、工作物等が「施設及び区域」そのものであることは、前述のとおりである。

5 個々の施設・区域については、個別の協定が締結されるが、この協定は、通常の政府間協定(行政取極)と観念される。協定には、日本側はアメリカ局長が署名するが、この署名には、合同委員会の日本側代表としての署名の性格と政府間協定の締結のための日本政府代表(このため発令されている。)としての署名の性格がある。(注13)

(注13)右の協定締結は、通例は、合同委員会の合意(日米間で署名)→閣議決定→施設区域に関する日米共通の「附表」(施設・区域の台帳の如きもの)の改正(日米間で署名)という順序で行なわれて来ているが、この場合地位協定第二条1項(a)でいう「協定」の締結には、右のうちの第一段の合同委員会の合意自体が該当するものと考えられているし、実際の処理振りもこの考えに合致している(例えば、右の合意のみを以て米側が使用を開始することがある等)。右については、閣議決定の前にかかる行政取極の締結が行なわれることは問題である。現に、右の如き合同委員会の合意が閣議段階で否認された例が過去に少なくとも一件ある(二条4項(a)の共同使用に関する協定であったので日米間で必ずしも協定の効力は問題にされずに済んだ。)。右の如き合意がわが方の閣議決定を条件として行なわれていると米側が認識しているとの確証もない。かって、わが方は、前記順序のうちの「附表」の改正を以って「協定の締結」と考えるべき旨米側に申し入れたところ、米側はかかる考え方を拒否した(施設庁等は、今日でもこの考え方をとっている模様)。

従来の慣行は以上の如くであるので、政治的に問題となりうベき協定を締結する際には、合同委員会における合意(署名)の前に閣議決定を得ておくことが安全である(例えば、沖縄返還の際の施設・区域の提供の場合には事前に閣議決定を得た。)。

個々の施設・区域の協定は、通常、施設番号、施設名、所在地、参照されるべき合同委員会合意覚書番号、主たる使用目的、提供期間、使用条件等を規定する。このほか個々の施設・区域につき「財産受渡書」(通称「実施取極」)が締結され、これには施設番号、所在地、財産の明細、引渡期日、受領期間等が規定されている。(注14)

(注14)個々の施設・区域に関する協定及び実施取極は、合同委員会関係文書であり、合同委員会関係文書は、原則として非公表扱いとすることが日米間で合意されているので、公表されないことになっている。なお、閣議決定及び告示の対象となるのは右協定の主要点を別途文書にしたものである。なお、地位協定の各条についての合同委員会の合意の要旨は、安保国会以来度々国会に資料として提出されており、このペーパーでは原則としてこの要旨を引用する。

6 合同委員会の合意の中には「施設・区域の一覧表及び法律上の記述はできるかぎり日本国の官報及び合衆国軍隊の公刊物に公表する。」との趣旨の規定があり、施設・区域の軍事的性格によっては公表しない施設・区域のありうることを予想しているが、現在はかかる不公表の施設・区域は存在しない(行政協定時代には若干の通信施設につき公表されないものが存在した。)。施設・区域の協定の概要は、施設庁告示として官報に掲載される。(例えば、沖縄返還の際の施設・区域の提供については、施設番号、施設名、所在地、土地所有関係、面積、使用目的等が告示されている。)

7 施設・区域の使用目的について、施設・区域の協定は、通常主たる使用目的を規定するが、このような場合には、米側がその使用目的を基本的に変更する場合(演習場として提供したものを専ら住宅用に使用する如き)には、米側は当該協定の改変を日本側に求めるべきである。また、使用条件が定められている場合には、これに反する使用が認められないことも当然である。(ここでいう使用目的、使用条件がいずれにしろ安保条約第六条の施設・区域の提供目的の枠内のものでなければならないことは論をまたない。)

8 第二条1項(b)は、行政協定の終了の時に米側が使用している施設・区域は、両政府が同項(a)に従って合意した施設・区域とみなす旨規定しているが、ここでいう行政協定の終了の時に米側が使用している施設・区域とは、具体的には、(イ)行政協定の第二条1項に定める手続又は(ロ)岡崎ラスク交換公文(注15)に従って米側の使用に供された施設・区域を指すものであり、第二条1項(b)は、このように行政協定の下ですでに米側の使用に供した施設・区域については、地位協定の下で改めて第二条1項(a)による提供手続を踏まなくともあたかもその手続を踏んで提供したものとみなすという趣旨に過ぎない。

(注15)昭和二七年二月二八日のいわゆる岡崎・ラスク交換公文は、占領中米軍が使用していた施設につき、平和条約発効(即ち、行政協定発効)後九十日以内に行政協定の手続きにより施設・区域とするか否かにつき日米間の合意の成立しないものについての暫定使用を米側に認めたものである。この交換公文により暫定使用が認められたのは五十箇所であったが、地位協定発効までには十九箇所を除き返還されていた。この十九箇所は行政協定期問中に通常の手続による施設・区域となっており、他の通常の施設・区域とともに第二条1項(b)により地位協定下における施設・区域とみなされた。なお、岡崎・ラスク交換公文は、形式的にも実質的にも既に失効しているものと考えられる。

9 日本側が提供する施設・区域には領海内の水域が含まれうることにつき問題はないが、米軍の海上演習場のうち公海にかかる水域は、日本側が施設・区域として米側に提供したものではない。わが国が公海水域を施設・区域として米側に提供できないことは国際法上明らかであり、地位協定もかかることを予想していない(「日本国内の施設・区域の使用」云々。第二条1項(a))。米軍の使用する海上演習場のうちの公海にかかる水域については、合同委員会で協議の上一定水域を指定して政府はこれを官報で告示している(注16)が、これは、わが国が当該公海水域に対して近接国として有している利益(「……公海の自由は……他国に与える利益に合理的な考慮を払って、行使されなければならない。」公海条約第二条(4))にも拘らず、わが国が安保条約の目的に鑑み当該水域における米軍の演習を容認することを意味するものであることとともに、かかる演習の行なわれる区域を画定することによって一般航行の安全をはかっているのである。

(注16) 沖縄返還に伴う施設・区域の提供に関する施設庁の官報告示(昭和四七年六月十五日官報号外)は、「地位協定第二条の規定により米国が使用を許されている施設・区域について新規提供及び共同使用等が昭和四七年五月十五日次のとおり決定された」として、新規指定として陸上施設を掲げ、新規指定として公海上の訓練水域を緯度経度により示している。この告示の仕方は、公海水域があたかも協定第二条により提供されたものであるかの如き印象を与える余地を残しているので近く訂正されることになっている。

海上演習場のうちの公海にかかる水域は、右のとおり協定第二条1項(a)によって施設・区域として提供されたものではなく、同規定の精神に従って、米軍がその部分を演習のために使用することを容認したものにすぎないと観念され、従ってこのような意味で米軍に使用を認めたからといって当該水域の公海たる性格はいささかも変更されるものではない。(注17)

(注17) わが国は、ソ連がわが国近海に設定した軍事訓練用の立入禁止区域(公海)につき抗議したことがあるが、これに対しソ連は、わが国も米軍のために公海上に演習水域を設定しているではないかとの趣旨で応酬越したことがある。しかし、以上から明らかなとおり、ソ連の主張は誤りであり、本件演習場に関し第三国との関係上責任を負うのは米国であって、わが国がその国際法上の妥当性等に関しこれを第三国に対し弁護しなければならない法的義務はない。本件演習場の設定との関連で第三国に請求権が生じる場合にもそれは米国と当該第三国との問題である。なお、本件演習場に関する水路通報は海上保安庁が行なっているが、米軍も行なっている。

海上演習場の設定が漁民に与える損害を補償するため「日本国とアメリカ合衆国との間の相互協力及び安全保障条約に基づき日本国にあるアメリカ合衆国の軍隊の水面の使用に伴う漁船の操業制限等に関する法律」(以下「漁業制限法」と略称)が制定されている。本件法律は、領海及び公海の双方における損害を補償するが、領海部分については、施設・区域の提供にかかる補償であり当然日本側が負担すべきものである(協定第二十四条2項)。公海部分にかかる損害の補償は、協定第二十四条2項とは何ら関係なく、政府が国内的にかかる補償を行ないながら対米請求を行なっていないのは米国としては国際法上要求される「合理的な考慮」を払っているとわが国が認定しているからに他ならない(かかる認定に際しては、安保条約に基づきわが国に駐留している米軍が行なう演習のために設定されたものという考慮要因があることについては既に述べたとおり。)(注18)

(注18)右法律にいう損害とは、演習場の使用により漁業が制限されたことから生じる損害であって、演習中の米軍の行為から生じた損害は当然別途解決されることとなる。(立ち入り禁止水域外を航行中の漁船が米軍の射撃により破損した場合、領海内であれば協定第十八条第5項、公海であれば一般国際法)なお、以上の問題については、昭和三五年五月四日、衆・安保特・議事録参照なお、公空上の空域設定も公海上の演習場と考え方は同様であり、安保条約の目的に照らして米軍の訓練を許容すると同時に、一般航空交通の安全のために一定の空域を画定し、米軍の訓練を右空域に限定しているものである。

10 施設・区域の提供に当たっては、政府が当該施設区域たるべき土地・建物等につき適当な権原を有していなければならないことは当然である。(注19)

(注19)従来の慣行としては、大部分の場合政府はあらかじめ権原を取得している。なお、この点につき、権原がない場合にも日米間の施設・区域の提供合意は国際約束として有効と考えられるから、その後権原を取得しないことを以て右合意の無効性を政府は米側に対して有効に主張することはできないと解される。国有財産の提供については、「地位協定の実施に伴う国有財産の管理に関する法律」がその手続を定める。

一般の民公有地については、任意の契約による場合と強制的に権原を取得する場合とがある。後者については、「地位協定の実施に伴う土地等の使用等に関する特別措置法」があり、土地収用法とほぼ同様の手続を定めている。同法は、「駐留軍の用に供するため土地等を必要とする場合において、その土地等を駐留軍の用に供することが適正かつ合理的であるときは、この法律の定めるところにより、これを使用し、又は収用することができる」旨定める(第三条)。(以上の諸点については、山内一夫前掲論文に詳しいので参照ありたい。)

施設・区域の提供と地主との関係に関連する問題として、米軍が安保条約・地位協定に違反して施設・区域を使用した場合(例えば、日本政府の承諾なくして核兵器を持ち込んだ場合)、当該施設・区域の関係地主は、施設・区域の提供の違法性を根拠にあけ渡しを主張できるのではないかとの問題が提起される。かかる問題は、日米両政府間の問題と私人たる地主の権利の問題とを混同するところから生じていることは明らかであって、右の如き違反(純粋に理論的な問題としてしか考えられないが)は、国際約束違反として日米両政府間の問題として処理されるものであり、当該関係地主がかかる違反を理由に提供の違法性を主張できるか否かとは面の異なる問題である。

二 施設・区域に関する協定の再検討、返還

1 第二条第2項は、日米両政府は「いずれか一方の要請があるときは、前記の取極(注:第二条1項(a)にいう個々の施設・区域に関する協定を指す。)を再検討しなければならず、また、前記の施設及び区域を日本国に返還すべきこと又は新たに施設及び区域を提供することを合意することができる。」旨定めているが、これは、当然の規定であって特に問題がない。

2 「合衆国軍隊が使用する施設及び区域は、この協定の目的のため必要でなくなったときは、いつでも、日本国に返還しなけれはならない。」(第二条3項第一文)こともまた当然のことである。米国は、この返還を目的として施殻・区域の必要性をたえず検討しなければならない(同項第二文)。

三 II―4―(a)共同使用(三条使用を含む。)

1 米軍が施設・区域を「一時的に」使用していない時は、日本政府は、「臨時に」そのような施設・区域を自ら使用し、又は日本国民に使用させることができる。ただし、この使用が、米軍による当該施設・区域の正規の使用の目的にとって有害でないことが合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る(第二条4項(a))。この第二条4項(a)の規定に基づく共同使用は、通常II―4―(a)使用と称される。II―4―(a)使用については、行政協定にも同様の規定があった(第二条4項(a))が、行政協定では、第一に、「施設・区域を一時的に使用していない」云々の部分が「射撃場及び演習場のような施設・区域を一時的に使用していない」云々と規定されていたので、地位協定のII―4―(a)使用の対象は、単に射撃場及び演習場のような施設・区域に限ることなく、あらゆる種類の施設・区域について可能となった。第二に、行政協定では、「日本国の当局及び国民は、それを臨時に使用することができる」となっていたが、地位協定では、「日本政府が……自ら使用し、又は日本国民に使用させることができる。」とし、日本国民の使用の場合は、日本政府の許可を通じて行なわれることが明確にされた。第三に、II―4―(a)使用に際しては、米軍による当該施設・区域の正規の使用目的にとって有害でないことを合意すべきことになっているが、行政協定においては、合意の主体及びその手続が明確でなかったので、これを「合同委員会を通じて両政府間に合意された場合に限る。」旨に改め、手続を明確にした。

2 II―4―(a)使用につき先ず問題となるのは、同項でいう「一時的に」及び「臨時に」の意味であるが、この点については、昭和四八年二月、衆・内等の委員会で問題にされ(例えば二月二一日、衆・内議事録七頁)、政府が用意した統一見解がある。(注20)

(注20)本件統一見解は、三月十三日、大出俊議員(社)に文書で提出されて

いるが、その全文は、次のとおりである。

地位協定第二条第4項(a)の意味について」

昭和四八年三月十二日

外   務   省

1 地位協定第二条第4項(a)は、米軍に提供されている施設・区域を日本側が臨時に使用することが出来る旨を規定したものであるところ、その趣旨は次のとおりである。

2 日本政府又は日本国民が施設・区域の一部又は全部を使用する必要がある場合、米側としては当該施設・区域を全体として保持する必要があり、したがって部分的にせよこれを返還することは困難であるが、一定の条件のもとでこれを日本側に使用させることが当該施設・区域の正規の使用目的を害しない場合において、かかる日本側の使用を許容せんとするものである。

3 地位協定第二条第4項(a)の趣旨は右のとおりであり、日本側の使用のあり方も個々の事案ごとに異なるので、同項にいう「一時的に使用していない」又は「臨時に使用する」期間も個々の事案ごとに合理的な限度内で定められるべきものであって、それが一般的にどの程度の期間を指すかを具体的に示すことは困難である。かかる見解は、すでに昭和四四年一月十二日の岩間正男参議院議員あて答弁書においても示したところである。

4 なお、個々の事案によっては、結果としては、日本側の使用期限が長期に及んでいるものがあるが、建前としては、米側としてこれを自ら使用しうるとの立場は留保されており、かかる意味で日本側の使用があくまでも限定的であることは、前述の如き地位協定第二条第4項(a)の趣旨からいって当然である。」II―4―(a)使用が、米側が関係施設・区域を「全体として保持する必要があり、従って、部分的にせよこれを返還することが困難」である状況において行なうことからすれば明らかである。又II―4―(a)使用地に日本側が恒久的施設を構築することがあっても、これは、II―4―(a)による限定的な使用の枠内で行なわれるものであり、直ちにII―4―(a)使用の本質に反するということもできない。(かかる場合の問題は、むしろ、米側として当該日本側使用部分を自ら使用する必要が再び生じた場合の取扱いであるが、このような場合は、運用の問題として日米間で調整を図り、双方にとって受け入れうる解決の方途が求められることとなろう。)更に、II―4―(a)使用の条件として「施設・区域の返還まで」又は「無期限」という期間の定め方があったとしても、日本側使用には、統一見解にある如く基本的な限定性がある以上、右の如き定め方が直ちにII―4―(a)の本質に反するということにもならない。

4 II―4―(a)使用の対象となる施設・区域は、全体としてはあくまでも施設・区域であるので、米軍が全く使用しない施設・区域は、そもそも米軍が現実には必要としない施設・区域であって第二条3項によって返還されるべきものであるとの考え方からすれば、米軍が全く使用しない施設・区域をII―4―(a)使用するということは、本来ありえない筈である。(注21)

(注21)右において「米軍が全く使用しない」とは、たまたま一時的に使用しなくなる(例えば他地域に紛争が発生したため特定の施設・区域から一時的に移動する)ことを指すものではなく、「使用しないこと」がむしろ原則となる如き場合である。従って、米軍がいわゆる有事再使用を行なうことを目的として、II―4―(a)により特定の施設・区域につき日本側使用者(この場合、自衛隊)を留守番としておいておくといった考えは排除される。なお、II―4―(a)使用を認める場合「米軍が合理的な程度に実体的に当該施設・区域を使用している必要がある(さもなくば施設・区域の返還となる。)。」とのわが方の考え方は、昭和四五年夏当時米側に明確にしてある(この点未公表)。なお、又、米軍が全く使用しなくなったにも拘らず、当該施設・区域全体を一定期間II―4―(a)にした例が過去に全くない訳ではない(昭和四五年の山田弾薬庫等)が、これらは、あくまでも特殊な理由(例えば地主との契約更改に要する期間のII―4―(a))に基づく例外と考えられるべきものである。

5 II―4―(a)使用については、日米政府が自ら使用するか又は日本国民に使用させることができるが、日本政府が自ら使用する権利をとった上で、その使用権に基づいて第三国人に使用させることもできる。板付飛行場における第三国民間会社によるII―4―(a)使用は、右の場合に該当する(昭和四二年五月十九日、衆・内議事録十一頁)。

6 II―4―(a)使用の場合、施設・区域のいわゆる管理権は、日米双方のいずれにあるかが問題となるが、日本側がII―4―(a)により施設・区域を使用する場合にも、米側は、施設・区域の当該部分に対しいわゆる管理権を行使しうるものと解される。ただし、かかる共同使用に関する日米間の取極に従い日本側が必要な措置をとる場合には、米側の管理権の行使は、その限度で実際上排除される。(岩間質問書に対する政府答弁書)。

7 II―4―(a)使用の合意が行なわれる際、合同委員会において通例共同使用者(日本国民)がその使用中に米軍の行為により受けた損害に対し、米側は一切責任を負わない旨合意されるが、この場合、日本政府としては日本国民に一時使用させるに当って右合意に相当する請求権放棄につき当該国民と明確に約定しておく必要がある(実際にもそうしている模様。この場合には、私契約上民事請求権があらかじめ放棄されることとなる。)。

8 国有財産の管理に関する法律は、施設・区域として提供した財産がII―4―(a)使用される場合につき、国は、米軍に使用を許した国有の財産について、協定第二条4項(a)の規定に基づき、その用途又は目的を妨げない限度において他の者にその使用又は収益を許すことができる旨規定している。

9 最後に、いわゆる三条使用の問題がある。三条使用とは、施設・区域について米軍が有するいわゆる管理権に基づいて米軍がその裁量により直接自衛隊とか日本国民に施設・区域の一部の使用を認めることである。かかる使用形態は、行政協定時代から存在していたが、地位協定第二条4項(a)の規定は、行政協定に比し、(イ)一時使用の対象となる施設・区域の範囲に制限を設けなかったこと、(ロ)直接国民が米軍の許可を受けてII―4―(a)使用を行なうことを廃したこと、(ハ)使用条件を合同委員会で明確にすることにより未然にトラブルを防止しようとしていること等を考慮すれば、地位協定では三条使用なるものをできるだけII―4―(a)使用に切り換えようとしていたことは明白であったと思われる。(注22)

(注22)既に行政協定時代にも三条使用については、(イ)米軍が提供施設を協定上の根拠なしに米軍以外のものに使用せしめることは管理権の範囲を逸脱するものではないか、(ロ)土地等の使用等に関する特別措置法第三条により米軍に提供された民有地についてはかかる三条使用は、国内法上適法であるか等の問題が指摘されていた。尤も、右にも拘らず、地位協定の下においても三条使用は依然として存在しており、従って、国会等においても政府としては三条使用は地位協定上問題はないと答弁しつつ今日に至っている。この点は、岩間質問書に対する政府答弁書においても「自衛隊が施設・区域を使用するのは、地位協定第二条4項(a)による場合に限定されてはおらず、地位協定第三条1項によっても使用することができる」旨述べられている。

四 IIー4―(b)共同使用

1 米軍が「一定の期間を限って」使用すべき施設・区域に関しては、合同委員会は、「当該施設・区域に関する協定」中に、「適用があるこの協定の規定」の範囲を明記しなければならない(第二条4項(b))。この第二条4項(b)の規定に基づく共同使用は、通常II―4―(b)使用と称される。行政協定にも同様の規定があった(第二条4頁(b)が、行政協定においては、II―4―(a)の場合と同様、「射撃場及び演習場のような」施設・区域のみがかかる共同使用の対象とされていた。II―4(b)の規定中「当該施設・区域に関する協定」の「協定」とは、第二条1項でいう施設・区域に関して合同委員会を通じて両政府が締結する協定を指し、「適用があるこの協定の規定」の「協定」とは、地位協定自体を指していることは明らかである。

2 II―4―(b)使用はII―4―(a)使用とは逆に、通常の日本側の施設(現実には自衛隊が管理・使用する施設が多いが、通常の民間施設の場合―例えば神戸市所有の神戸港湾ビル、運輸省の施設たる板付飛行場滑走路等の例がある。―も排除されない。)を一定の条件で米軍が使用するものであるが、右条件のうちII―4―(b)の規定中にある「一定の期間を限って」の意味が従来最も問題とされて来た。この点については、昭和四六年二月二七日、衆・予において政府の統一見解が表明されている。(注23)

(注23)一定の期間の意味についての従来の審議については、昭和四五年二月二三日、衆・予、同三月十八日、衆・予二分科、同五月十三日、参・内、昭和四六年二月二十日、衆・予二分科、昭和四七年五月二十五日、衆・内等参照。なお、右の政府統一見解は、中曾根防衛庁長官の答弁の形で表明されたが、その全文は、次の通り。

「第二条4項(b)に該当しますのは、要するにわが方が管理権を持ちまして、わが方の責任において管理する、しかし一定期間を限って臨時に米軍に使用を認める、わが方が主であって、臨時に認められる米軍の方は従でありあるいは客である。こういう関係で使用を認めるという態様であります。そこで、いままで行ないましたケース等を全部検討いたしまして、大体第二条4項(b)の解釈は次のようなものであろう、こういうことでございます。地位協定第二条4項(b)でいう「一定の期間を限って使用すべき施設・区域」とは、米軍の恒常的な使用が認められる通常の施設・区域(二条1項(a))及び日本側が臨時にしようできる施設・区域(二条4項(a)とは異なり、日本側のものではあるが、米軍の使用が認められ、その使用する期間がなんらかの形で限定されているものをいうが、かかる施設・区域としては、実情に即して考えるに、一応次のごときものがあげられる。

(1)年間何日以内というように日数を限定して使用を認めるもの。

(2)日本側と調整の上、そのつど期間を区切って使用を認めるもの。

(3)米軍の専用する施設・区域への出入のつど使用を認めるもの。

(4)その他、右に準じて何らかの形で使用期間が限定されるもの。

右のごとく、使用期間を限定する方法については、当該施設・区域の態様、使用のあり方、日本側の事情等々により必ずしも一定せず、個々の施設・区域ごとに、具体的に定めるしかないが、いずれにせよわがほうの施設を米軍に臨時に使用させるというII―4―(b)施設・区域の本質のワク内で合理的に定めていく考えであります。」

(1)「年間何日以内というように日数を限定して使用を認めるもの。」

この例としては、神奈川県所在の長坂小銃射撃場(自衛隊施設)の如く米軍が年間一六〇日以内の使用を認められているものが挙げられる。この場合、年間の使用の仕方が連続して一六〇日間であっても、又は断続的に使用されその使用日数の合計が年間を通じて一六〇日であっても、地位協定上は問題ない(自衛隊側の使用との調整という実際上の問題があるのみ)。この点については、「使用の態様によっても違うが一応時間的にいえば一年のうち半数以上米軍が使用するというのでは主客転倒となる(この場合には、むしろ通常の施設・区域にして日本側がII―4―(a)使用するのが筋である。)。」との趣旨の中曾根大臣答弁が行われている(昭和四六年二月二七日、衆・予議事録二六頁)ので注意を要する(この点次の(2)で再述)。

(2)「日本側と調整の上、その(使用の)つど期間を区切って使用を認めるもの」

この例としては、富士演習場(通称東富士演習場自衛隊施設)があるが、これは、米軍の衣装に際して、自衛隊の使用と調整されるので、その調整を通じて使用機関が限定されるという意味である。この場合、調整を通じて限定された使用期間が結果として半年を越える場合は、日数に関する限り右の中曾根長官答弁に抵触するものと考えられる。尤も、右の統一見解及び答弁において述べられているように、施設・区域の態様、使用の態様によっては、必ずしも時間的要素のみによっては、問題を論じえないことは明らかである。現実に、東富士の場合、日数のみでみる限り米軍のII―4―(b)使用日数は半年をはるかに越えるが、他方、米軍の使用は面積的には東富士の極一部(全体の一割程度)に限って行なわれており、東富士施設の日米双方の全体の使用態様から見る限り、当該施設の主体は日本側であるという意味では主客転倒という議論はあたらないような実態である。

(3)「米軍の専用する施設・区域への出入りのつど使用を認めるもの。」本項については、右の統一見解表明の際、楢崎議員(社)より「専用区域に出入りするために使うというのは、それを利用してその出入権を利用してそのほかの使用をするということは厳に禁ぜられると考えてよいか」との趣旨の質問があり、これに対し、中曾根長官より「施設に行くために滑走路を使用する、そういう意味でその主たる目的に従ってその限定された使用が認められなければならない」

との答弁が行なわれていることに留意する必要がある。本項の如きII―4―(b)使用の例としては、飛行場についてみれば、硫黄島飛行場、南鳥島飛行場、板付飛行場及び厚木飛行場(運輸省施設たる板付を除き自衛隊施設)の滑走路等があるが、前二者の場合は、飛行場近接の米軍施設・区域たる通信所へのアクセスが「主たる目的」であり、本来通信所は滑走路の存在抜きで機能しうる施設である。

板付飛行場についても「主たる目的」は、板付周辺の米軍への補給基地たる専用地域(施設・区域)への(物資輸送のための)アクセスということで説明されるものである。厚木飛行場についてもグアムに駐留する哨戒機が厚木飛行場にある修理施設に出入すること及び輸送機の隣接基地への物資輸送・連絡のための出入のためとして説明されることになっている。(「主たる目的」は、修理施設、隣接基地への補給・連絡である。)他方、沖縄返還後現在のところ暫定的に那覇飛行場を使用しているP―3対潜哨戒部隊の場合(この点の問題については、次の(4)のところで触れる。)には、部隊の本拠は、那覇飛行場そのものであり、滑走路の存在なくしてはP―3の存在そのものが考えられない(「主たる目的」は、哨戒のため滑走路を使用することである。)という関係にあり、そもそもアクセスとしての滑走路の使用ということにはなじまない。(このような場合にも、例えば施設・区域たる駐機場へのアクセスのためという理由で滑走路のII―4―(b)使用を認めれば、すべての滑走路は、II―4―(b)使用の対象となりうることとなってしまう。)

なお、本項によるII―4―(b)使用には、滑走路のほかにも、前述の神戸港湾ビル(船舶の出入のつど)等がある。

(4)「その他、右に準じてて何らかの形で使用期間が限定されるもの。」この例としては、現在のところ那覇飛行場の滑走路等がある。(注24)

(注24)那覇空港は、沖縄返還交渉を通じ、復帰の際には完全に民間空港となり、P―3等も他へ移転している筈であったが、諸般の事情からこれが実現せず、他方、同飛行場を施設・区域とすることは、わが国内政治情勢上も不可能であったので、とりあえずこれを運輸省所管の空港とし、滑走路、誘導路等をII―4―(b)使用とし、その他に若干の専用区域を設け、これを通常の施設・区域として提供した。

那覇飛行場の滑走路については、既に述べたとおり、(3)による期間限定によることができなかったので、(4)によることとし、具体的には「P―3移転のための代替施設完成までの間」とした。それでは、代替施設完成までの間は滑走路は常に施設・区域かというとそうではなく、具体的な使用態様は、当然のことながら民間機(自衛機を含む。)による使用と調整して使用される訳であり、強いていえば、特定の米軍機が現に滑走している時のみが滑走路は施設・区域になるといえよう。この意味で、この場合のII―4―(b)使用は現実には、(2)に準じたものと考えられる。

4 第二条4項(b)は、II―4―(b)使用につき、施設・区域に関する政府間協定の中に地位協定の規定のうち当該II―4―(b)使用に適用のあるものを明記すべき旨規定しているが、現在までのところ、右政府間協定では「地位協定の必要な(又は関係ある)全条項が適用される。」という如き規定しかなく、適用されるべき個々の地位協定の条文(逆に、適用を排除すべき条文)を具体的に列記するといった規定振りはされていない。

右については、従来国会で再三問題にされ(昭和四三年十月十七日、参・内議事録十六頁、昭和四五年九月二九日、参・内議事録四二頁等)ており、その後、具体的な規定振りにつき検討したことはあるが、今日まで結論は出ていない。しかしながら、実際上の問題として、II―4―(b)使用についての協定(合同委員会の合意及びこれに基づく現地取極を含む。)において米側の使用の日的、態様等が定められており、その限りで適用条項が自ずと制限されること等のことから、現在の如き定め方をもってしても、いわゆる管理権その他の地位協定上の権利義務関係が不明確なまま残されて実際上問題を生じるようなことはないと考えられる。

5 II―4―(b)使用施設は、米軍による現実の使用が行なわれている際は、協定上の施設・区域と観念されるが、この場合のいわゆる管理権の所在については、II―4―(b)施設の態様、使用の態様により又当該II―4―(b)使用に関する協定の定め方により定まるものと考えられ、一概に米側に管理権があるとはいえない。例えば、出入のつど滑走路が使用される場合、米軍機が滑走している際の滑走路は、(強いていえば)施設・区域であるが、その際当該滑走路に米軍が管理権を有しているとは考えられない。(注25)

(注25)同様に、右の如き施設・区域に刑事特別法第二条(施設・区域を侵す罪)が適用されるかとの点につき、政府は、右の如き場合に同法の右規定が適用されるような事態はそもそも考えられないが、万一米軍機が滑走路上にある時に事件が起る場合には理論的には適用が問題になるとの趣旨の答弁を行なっている(昭和四七年五月十日、衆・外議事録十一頁)が、右の如き滑走路は、通常は施設・区域としての立入禁止標示もないから刑事特別法第二条は、理論的にも適用はないものと解される。尤も、滑走中の米軍機に危害を加える如き行為を行なうものに対しては、別途同法第五条(軍用物を損壊する等の罪)が適用されることとなる。

以上については、一般論としてII―4―(b)使用中の管理権の所在はそのつど決めるとの政府答弁もある(昭和四五年三月十八日、衆・予二分科議事録九頁)が、これは、右で述べたことと同趣旨であると解される。

6 最後に、いわゆる有事再使用的なII―4―(b)使用(即ち、II―4―(b)使用権は設定されても、有事でない限り現実には使用されず、従って、現実には有事の際に期間を限って使用するという予約の如きものになる。)は、現行地位協定下で可能かという問題がある。即ち、現行安保条約下で有事駐留に移行した場合(現行安保条約は、かかる事態を予想してはいないにしても、他方、条約論的にみて排除されているとも考えられない)、現行地位協定にも手を触れずに、II―4―(b)によって米軍の有事の際の使用権を確保しうるかという問題である。この場合、米軍は、とりあえずII―4―(b)使用を行ない、その使用期間の間にII―4―(b)施設を通常の施設・区域に切り換えるという手続がとられることとなる。しかし、右の場合、米軍による施設の使用を常に可能にしておくためには、米軍撤退後の施設は、実際上自衛隊によって管理されなければならないことを先ず留意すべきである。このためには、米軍撤退後の施設について、地主との関係では米軍の使用に供するためという内容の契約を自衛隊の使用に供するという内容の契約に切り換え(II―4―(b)使用の場合、通常は、契約中に米軍の用にも供しうるとの趣旨の規定も含まれる。)ることが必要となるが、現在の政治情勢ではかかる契約更改には多大の困難を伴うことが予想される。

更に、II―4―(b)の規定の解釈としても、期間限定の統一見解の(2)項(日本側との調整による。)及び(3)項(出入のつど)は、適用しえないと考えられ、他方、(1)項については、「年間何日以内」の意味は、この場合、必要な場合には年間何日以内となるが、かかる考え方が、協定上の解釈としてどこまで認められるか相当慎重に検討する要があると考えられる。(注26)

(注26)以上の点に関しては、過去において、「(II―4―(b)弾力的運用)有事駐留の構想とは基本的に異なる。」(佐藤総理、昭和四五年二月十七日、衆・本議事録五六頁)「(II―4―(b)の弾力的運用と有事使用との関係は)なおよく検討したい。」(愛知外務大臣、同三月六日、衆・外議事録九頁)「(弾力的運用による有事使用的なものを)地位協定の枠内でできるだけ実現させて行く考えである。」(中曾根長官、同九月二十九日参・内議事録二九〜三十頁)等の趣旨の政府答弁が行なわれている。

(その2に続く)